「――こんな私に実力があるなんて、思えない」
萌絵の声が、震えていた。
いつもの芝居がかったオタク口調も、地上波向けの快活な喋り方も、そこにはない。
素の川越萌絵が、テーブルの一点を見つめながら言葉を継いでいた。
「実力派声優? 主演女優賞? そんなもの、ただのまやかしだよ」
「…………」
朝香は何も言わず、じっと萌絵を見つめている。
その瞳に浮かんでいたのは、純粋な心配だった。
「歌もトークもイベントも、全部やった。器用に立ち回れば立ち回るほど、仕事は増えていった。でも、そんなものは声優の仕事じゃない……」
萌絵は膝の上で、両手をきつく握りしめていた。
「芝居……それも声優っていう裏方の世界なのに、どうして純粋な演技力で評価されない」
「純粋な実力、か」
「そうだよ。おかしいよ。どうしてキャラクターに魂を吹き込むことが本分なのに、歌って踊って顔やスタイルの良さが評価されるなんて、おかしいじゃん……」
それは声優という道で、結果が出るまで努力した萌絵だからこその絶望だった。
「話はそれだけ?」
底冷えするような朝香の声に、萌絵は弾かれたように顔を上げた。
「結果が出るまでやるのが努力よ。あなたは結果を出して、株地さんは結果を出せなかった。それだけの話じゃない」
テーブルの空気がしんと静まり返る。
「そして、株地さんはVtuberという新たな場所で結果を出した。誰もが思い描いた結果を掴めるわけじゃないのに、あなたは何を拗らせてるの」
「あんたが、それを言うな……!」
萌絵の声が怒りに震える。
「芝居以外の何にも媚びない。誰の顔色も伺わない。純粋な実力だけで、頂点に立ち続けてるじゃん! これが理想の結果じゃなくて、なんなの!」
「はぁ……あのねぇ。あたしが子役になったのは、お父さんの作品に出演したかったからなのよ」
「へ?」
冷水を浴びせられたように、爆発した萌絵の怒りが止まった。
「そういえば、朝香の父親ってラノベ作家だったっけ」
「ええ、だけど当時のあたしは声優って職業を知らなかったから俳優の道を進んだ。お父さんの作品って、実写化はあまりしないからアニメが多くてね」
ふむ、ライトノベルがアニメ化した場合、少年漫画と違って深夜枠の年齢層高めのものになりがちだ。
その上、実写化するのは大衆向けの作品になる。
朝香の父親の作品がどんな作品かわからないが、朝香の口ぶりからするに、実写化しやすい作品はそこまで多くないのかもしれない。
「だから、白状すると本当は声優になりたかったのよね、あたし」