劇場版セミブレード公式チャンネル、対談企画の第二弾。
収録スタジオには、俺、朝香、萌絵の三人が座り、設置されたモニターには、Live2Dの姿の株地さんが映っていた。
最近リアルで会っていたから忘れていたが、彼女は本来Vtuberなのである。
「それでは、第二回の対談を始めます! 今回は、セミオートマタ役の株地由羽さんにお越しいただきました」
萌絵が、地上波向けの快活な口調で進行を始めた。
『ごきげんよう、皆様。セミオートマタ役の株地由羽ですわ。本日はよろしくお願いいたします』
モニターの中で、お嬢様キャラの株地さんが優雅に一礼する。
Vtuberの姿もそうだが、リアルの方でも結構清楚系美人である。
正直、株地さんのルックスなら顔面が求められる昨今の声優業界でやっていけそうなものだけど、時の運などもあったのだろう。
「いやぁ、先日公開されたセミブレード講座のショート。すごい反響でしたね」
『ええ、ありがたい限りですわ。コメント欄を見て、お目ん玉が飛び出るかと思いましたわ』
「ほげぇぇぇ、とか鳴いてませんでしたか?」
『はて、何のことでしょう?』
白々しくすっとぼけて見せる株地さんだったが、株地さんの表情をトラッキングしたアバターの表情がすごいことになっていた。
上の方に眼球が動いたせいで、いわゆるアヘ顔みたいになっていたのだ。
「ぶふっ……くくくっ」
朝香は吹き出していた。
「おーい、朝香? 何笑ってるんだ」
せっかく素の朝香が出てきたので、すかさず拾っていく。
「い、いや? 何、も゛っ……!」
『朝香様、人の顔を見て笑うのはよくありませんことよぉ?』
そういうと株地さんは、さらにフェイストラッキングを活用した変顔をし始める。
こういうのはVtuberならではだな。
「ぶっ! ……くくくっ、はははっ!」
完全にツボってしまった朝香は、堪えきれずに笑い出してしまった。
おそらく、朝香が落ち着くまでの間はカットされるので、萌絵が編集点を作ってくれるだろう。
それから朝香の笑いが収まってから、進行が再開された。
「続きまして、セミオートマタを演じる株地さんの印象! ということで、ね。共演者として語らせてください」
萌絵は、声のトーンを少しだけ落とした。
「いやぁ、圧巻の一言に尽きました。アフレコのときは度肝抜かれましたね」
『いやいやいや!』
モニターの中で、株地さんがメトロノームのように身体を振る。
Live2DならではのVtuberらしい動きだった。
「俺も同感です」
萌絵の評価に乗っかるように、俺も口を開いた。
「アフレコ現場では、息を呑みました。ゲスト声優だからと気負っていた自分が、恥ずかしくなるくらいでした」
「あたしも同じ役者として、悔しいと思いましたね。役者として、まだまだだなと思い知らされました」
『待って待って待って! 恐れ多い! 恐れ多いですから!』
朝香も頷きながらべた褒めする。
俺たちは心からの評価を口にしているが、世間的にはバケモノ扱いされている面々が口を揃えて誉めそやすとわざとらしく感じるかもしれない。
「マジでアフレコ映像は、早く皆さんに見てほしいです」
「あたしも同感です。近日公開される予定なので、すぐに見てほしいですね」
「あれを見れば、私たちの言っていることが誇張抜きってわかると思いますよ」
『いやぁぁぁ! ハードル上げないでぇぇぇ!』
ここでハードルを上げておいても、後日公開されるアフレコ映像を見れば本当だったと理解してもらえるだろう。
収録が終わり、俺たちは帰路についていた。
「これで、風向きはかなりよくなるはずだ」
「そうね。コメントも、こっちの味方が増えてるわ」
朝香がスマホを覗き込んで頷いた。
Vtuber起用の是非に関しては、これでほぼ決着がつくだろう。
実力で選ばれたという事実が、共演者の言葉と、アフレコ動画で裏づけられる。
千三郎さんの炎上理由の一つ、制作陣へ圧をかけて起用したという部分はこれで否定できるはずだ。
「あとは、千三郎さんだけ――」
俺の言葉を遮り、朝香のスマホから着信音が流れた。
「もしもし、どうしたんですか優二さん? 珍しいですね」
通話に出た朝香の表情が、すっと消える。
「……え?」
顔色がみるみる内に白くなっていく。
「いつ? どこの病院?」
押し殺した声が、控室に落ちた。
「朝香?」
通話を切った朝香が、ゆっくりとこちらを向いた。
「……師匠が、倒れた」
世界から、音が消えた気がした。
「み゛」
周囲から音が消えていく中、絶命寸前のセミのような声がポツリと響いた。