「どうやったら、うまく――」
「お待たせいたしました」
タイミングよく俺のパスタが運ばれてきた。
「あう……」
言葉を遮られて俯く帆林を他所に、店員がミートソースパスタを置いていく。
「とりあえず、食べながら説明するよ」
フォークを手に取って、パスタを巻き取った。
一口食べる。味はわからない。
味覚障害だから、何を食べても同じだ。
ただ、おいしそうに食べる演技はできる。
一瞬、目を見開いて口角を上げる。それから一度パスタを見て、帆林に視線を合わせながらまた目を見開く。食レポの神様、麻呂彦さん直伝のテクニック〝B級グルメは目を開く〟である。
「えっ、うま……えぇ!? うま!」
「そ、そんなにおいしいんですか、そのパスタ」
ごくり、と唾を呑み込む音が聞こえた。
「麺はモチモチで濃厚なホワイトソ―スとよく絡んでる……これ、めっちゃくちゃうまいぞ」
「さっきパスタ食べたのに……見てるだけで、お腹、空いちゃいます」
帆林は物欲しそうな顔で俺のパスタを見ている。ここまで食いしん坊とは思わなかったが、概ね狙い通りだ。
「帆林、食べてみるか?」
「……え?」
「俺のパスタ。一口、分けてやるよ」
「い、いいんですか」
「ああ。どうぞ」
帆林は少し考えてから、小さく頷いた。
「……じゃあ、お願い、します」
パスタの皿を帆林へと渡すと、帆林はフォークでパスタを巻き取って口に運ぶ。
「すっごく、おいしい、です……!」
頬に手を当てて、帆林は嬉しそうに笑った。
「凪野君が、おいしそうに食べてたから、余計においしく感じますね」
その表情が、さっきより少し明るい。
「……あ」
しばらく食事を続けていると、帆林が小さく呟いた。
「どうした?」
「か、かか、間接キス……!」
帆林は真っ赤になっている。
「間接キス?」
「だって、だって……! 私、凪野君のフォークで、パスタ、食べちゃったから!」
「そんなの気にするの、中学生までだぞ」
「で、でも」
「気にするな。ただの食事だ」
話題が変な方に転がる前に軌道修正する。
「そんなことよりも、パスタうまかったろ」
「はい。すごく」
俺はタイミングを見計らって告げる。
「実は俺、味覚障害で味なんてわからないんだ」
「……え? えぇ? 味、覚、障害?」
帆林は驚いたように目を見開いた。
「つまり、今のは全部演技ってわけだ」
「演技……って、今のが?」
「あれはおいしそうに見えるように、表情を作ってたってだけだ」
帆林は信じられないという顔をしている。
「……で、でも! すごく、おいしそうでしたよ?」
「それが、演技の力だ。こう見えて、元子役だからな」
「元子役って、あの羽田朝香みたいな?」
「あいつは現役だろ。俺のは昔の話。ほら、ぼくんち冒険たいなら知ってるだろ。あれ、歌ってんの俺だ」