とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第212話 少年少女の心へ大事なものを残す芝居

 真紅の翼を持つ究極形態。

 それこそが、伝承にある〝蒼空の紅剣〟としての姿だった。

 

「これが……シガラティの真の姿!?」

 

 その神々しさに驚愕の声を上げる。

 鳥肌が、背中を駆け上がる。

 それでも、感情のまま喉を詰まらせないよう、息の通り道だけは確保する。

 

 驚きと、歓喜。

 凪世弥の中に積み重なってきた感情を、一つの台詞に乗せる。

 

「綺麗だ……」

「み゛!」

 

 俺の心からの言葉に、朝香も嬉しそうに答える。

 

「民吾! ムラセミ! 行こう、僕らも戦う!」

「み゛ん!」

「おう! ぶちかますぞ、ムラセミィ!」

「ビッビビィ!」

 

 民吾とムラセミが、シガラティの両脇に並ぶ。

 真紅の翼が羽ばたきと重なって、空気を巻き上げていく。

 

「壊したくない……守りたい、のに!」

 

 株地さんの声が、悲鳴に近くなる。

 セミオートマタが、取り込みすぎた感情に飲まれながら、最後の力で抗っている。

 迫りくる光の刃に怯えながらも、どこか安堵しているように聞こえた。

 

「いくぞ、シガラティ!」

「み゛ぃぃぃんッ!」

 

 朝香の声が、凪世弥の叫びに応える。

 二人の絆が、一つの音になった瞬間だった。

 

「「〝蒼空紅剣・日輪月閃《ガラティーン・ソルナ》!!!〟」」

 

 民吾と俺の声が、同時に重なる。

 

「ビィィィ!」

「み゛ぃぃぃ!」

 

 俺たちの声がムラセミとシガラティの咆哮と一つに溶け合い、空が真っ二つに裂けた。

 

「あ……」

 

 身体を斬り裂かれたセミオートマタの声が、消え入りそうに揺れた。

 

「良かった……」

 

 張りつめていた糸が、ふっと緩むような響きだった。

 株地さんが、マイクの前で、静かに息を吸うのが聞こえた。

 

「……わたし、は」

 

 一拍、間が空く。

 その一拍に、スタジオ中の空気が止まった。

 

「最高のパートナーと、出会えた」

 

 声が、柔らかくほどけていく。

 それはシガラティの感情と同機した彼女の本心だった。

 

「ありがとう……凪世弥、わたしと最高の冒険を……」

 

 それはシガラティが意識が残した言葉だった。

 モニターの中で、セミオートマタの身体が、光の粒になって空へと昇っていく。

 

 しばらく、誰も動かなかった。

 赤いランプが、静かに消える。

 

『……はい、OKです』

 

 音響監督の声が、ヘッドホンに届く。

 その声は、わずかに震えていた。

 

「ふぅ……」

 

 全員が、ほとんど同時に息を吐いた。

 ブースの扉が開くと、そこにはスタッフ全員が立っていた。

 誰かが、静かに拍手を始める。

 それが、波のように広がっていった。

 

「皆さん、お疲れ様でした! 最高でした!」

 

 音響監督が、目を潤ませたまま頭を下げた。

 萌絵が、ヘッドホンを外した途端に、ずるずると床へ座り込んだ。

 

「ふ、へ、ふひひ……燃え尽きましたぞ……真っ白ですぞ……」

「いつもの調子が戻ってきたみたいだな」

「最高の芝居ができましたからな……メンタルリセットォー!」

 

 萌絵は格付けチェックで生まれたミームを叫んでガッツポーズをした。

 秋毫さんは、くすくすと笑ってその姿を見守っていた。

 

「……まったく、カロリーの高い現場だったわ」

 

 喉を酷使した後の乾いた声で朝香が息を吐く。

 

「……あたしは師匠に恥じない弟子でいられたかしら」

 

 朝香は、喉を押さえて独り言のように呟く。

 

「当たり前ですよ、朝香ちゃん」

 

 隣で株地さんが、ヘッドホンを外してこちらに頭を下げた。

 

「いやぁ、やっぱり子役からやってる人は恐ろしいですね。私も、最後の方は押し負けちゃってました」

 

 株地さんは、どこか憑き物が落ちた表情を浮かべていた。

 

「やっぱり、想いの力はてぇて……すごいですね」

「マカさん、今てぇてぇって言おうとしました?」

「ふふっ、マカちゃんは相変わらずよねぇ」

 

 笑い声が、ブースに広がっていく。

 ホビーアニメは子供向けでありながら、少年少女の心へ大事なものを残す。

 大人になったとき、あの作品を見てよかったと思えるような芝居を残せた。

 

 そう思えるように、この作品にかけられた泥を払わなければいけない。

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