真紅の翼を持つ究極形態。
それこそが、伝承にある〝蒼空の紅剣〟としての姿だった。
「これが……シガラティの真の姿!?」
その神々しさに驚愕の声を上げる。
鳥肌が、背中を駆け上がる。
それでも、感情のまま喉を詰まらせないよう、息の通り道だけは確保する。
驚きと、歓喜。
凪世弥の中に積み重なってきた感情を、一つの台詞に乗せる。
「綺麗だ……」
「み゛!」
俺の心からの言葉に、朝香も嬉しそうに答える。
「民吾! ムラセミ! 行こう、僕らも戦う!」
「み゛ん!」
「おう! ぶちかますぞ、ムラセミィ!」
「ビッビビィ!」
民吾とムラセミが、シガラティの両脇に並ぶ。
真紅の翼が羽ばたきと重なって、空気を巻き上げていく。
「壊したくない……守りたい、のに!」
株地さんの声が、悲鳴に近くなる。
セミオートマタが、取り込みすぎた感情に飲まれながら、最後の力で抗っている。
迫りくる光の刃に怯えながらも、どこか安堵しているように聞こえた。
「いくぞ、シガラティ!」
「み゛ぃぃぃんッ!」
朝香の声が、凪世弥の叫びに応える。
二人の絆が、一つの音になった瞬間だった。
「「〝蒼空紅剣・日輪月閃《ガラティーン・ソルナ》!!!〟」」
民吾と俺の声が、同時に重なる。
「ビィィィ!」
「み゛ぃぃぃ!」
俺たちの声がムラセミとシガラティの咆哮と一つに溶け合い、空が真っ二つに裂けた。
「あ……」
身体を斬り裂かれたセミオートマタの声が、消え入りそうに揺れた。
「良かった……」
張りつめていた糸が、ふっと緩むような響きだった。
株地さんが、マイクの前で、静かに息を吸うのが聞こえた。
「……わたし、は」
一拍、間が空く。
その一拍に、スタジオ中の空気が止まった。
「最高のパートナーと、出会えた」
声が、柔らかくほどけていく。
それはシガラティの感情と同機した彼女の本心だった。
「ありがとう……凪世弥、わたしと最高の冒険を……」
それはシガラティが意識が残した言葉だった。
モニターの中で、セミオートマタの身体が、光の粒になって空へと昇っていく。
しばらく、誰も動かなかった。
赤いランプが、静かに消える。
『……はい、OKです』
音響監督の声が、ヘッドホンに届く。
その声は、わずかに震えていた。
「ふぅ……」
全員が、ほとんど同時に息を吐いた。
ブースの扉が開くと、そこにはスタッフ全員が立っていた。
誰かが、静かに拍手を始める。
それが、波のように広がっていった。
「皆さん、お疲れ様でした! 最高でした!」
音響監督が、目を潤ませたまま頭を下げた。
萌絵が、ヘッドホンを外した途端に、ずるずると床へ座り込んだ。
「ふ、へ、ふひひ……燃え尽きましたぞ……真っ白ですぞ……」
「いつもの調子が戻ってきたみたいだな」
「最高の芝居ができましたからな……メンタルリセットォー!」
萌絵は格付けチェックで生まれたミームを叫んでガッツポーズをした。
秋毫さんは、くすくすと笑ってその姿を見守っていた。
「……まったく、カロリーの高い現場だったわ」
喉を酷使した後の乾いた声で朝香が息を吐く。
「……あたしは師匠に恥じない弟子でいられたかしら」
朝香は、喉を押さえて独り言のように呟く。
「当たり前ですよ、朝香ちゃん」
隣で株地さんが、ヘッドホンを外してこちらに頭を下げた。
「いやぁ、やっぱり子役からやってる人は恐ろしいですね。私も、最後の方は押し負けちゃってました」
株地さんは、どこか憑き物が落ちた表情を浮かべていた。
「やっぱり、想いの力はてぇて……すごいですね」
「マカさん、今てぇてぇって言おうとしました?」
「ふふっ、マカちゃんは相変わらずよねぇ」
笑い声が、ブースに広がっていく。
ホビーアニメは子供向けでありながら、少年少女の心へ大事なものを残す。
大人になったとき、あの作品を見てよかったと思えるような芝居を残せた。
そう思えるように、この作品にかけられた泥を払わなければいけない。