とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

214 / 214
第214話 芝居が全て

 会場の空気が、一瞬で凍りつく。

 立ち上がっていたのは、パーカーのフードを深く被った男だった。

 

「大御所が権力で捻じ込んだ映画なんか、観る価値ねぇよ! ほら、否定してみろよ!」

 

 フードの男はスマホを構えている。

 録画しているのだろう。

 手荷物検査をしたところで、心の中までは覗けない。

 純粋にチケットを当ててきたか、転売されたものを買ったのか。

 どちらにせよ、彼が悪意を持ってこの場にいるのは明らかだった。

 警備員が二人、通路を駆け下りてくるのが見えた。

 

「ご心配はいりませんよ」

 

 俺の言葉に会場がざわついた。

 男に手を伸ばしかけていた警備員が、困惑したように足を止める。

 

「ご意見は、確かに受け取りました。ただ、今日は質疑応答の場ではありませんので、ゲスト声優を代表して僕から一つだけ、お返事をさせてください」

 

 そこで一拍置く。

 間の取り方は、子役時代から叩き込まれた俺の武器だ。

 

「この作品に、誰が、何故選ばれたのか。その答えは、これから始まる上映の中に全部入っています」

 

 客席が静まり返る。

 フードの男も虚を突かれたように口を開けた。

 

「あなたは残念ながら退場されてしまうようですし、是非ご意見は映画をご覧になってからお願いいたします」

 

 それだけ言って、俺は男に向かって深々と頭を下げた。

 男は何か言い返そうとしたが、言葉が出てこないようだった。

 周囲の客から、冷ややかな視線が突き刺さる。

 そこへモニターから声が降ってきた。

 

『わたくしも、同感ですわ』

 

 Live2Dの株地さんが、まっすぐにフードの男を見据えていた。

 

『キャスト陣に後ろ暗い理由で選ばれた方はおりません。我々の芝居が全てです』

 

 その声は凛としていた。

 控えめな拍手が、客席のあちこちから起きた。

 

 それは、すぐに会場全体へ広がった。

 会場に轟く拍手の中、フードの男は警備員に連行されていった。

 司会が、慌てて場を締めにかかる。

 

『そ、それでは、本日はご来場ありがとうございました! まもなく上映を開始いたします! キャストの皆様、ありがとうございました!』

 

 さっきよりもひときわ大きな拍手の中、俺たちはステージを降りた。

 袖に入った瞬間、朝香が肘で脇腹を突いてきた。

 

「カッコ良かったわよ」

「あのフードの男も利用させてもらっただけだよ」

「利用?」

「あの場には記者も大勢いた。どう考えても、こんなおいしいトラブル、記事にするだろ」

 

 こういうことも起きる可能性は事前に考慮しておいた。

 気まずい話題で舞台挨拶に水を差す隙は与えるつもりなどなかった。

 

「パフォーマンスとしては最高だったと思うぞ。キャストが毅然とした態度でアンチに対して芝居が全てと言える作品だってな」

「……そういう場外戦術、ホント得意よね」

「カァー、俺も無理した甲斐があったってもんだな」

 

 千三郎さんが笑顔で俺の背中を叩く。

 

「ありがとよ、翼」

「しっかり療養して、元気になってから芝居で返してください」

「だっはっは、ナマ言うじゃねぇか、小僧が!」

 

 体調の悪さなど少しも感じさせず、千三郎さんは呵呵大笑する。

 

「……若ぇのがこれだけふてぶてしいと安心だ」

 

 目を細めてそう告げると、千三郎さんは車椅子に腰かけ、奥さんに連れられて去っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き)(作者:池崎)(オリジナル:ファンタジー/戦記)

突如として前世の記憶を思い出し、自身が病弱貴族になってしまったことを悟った主人公は、とある出来事をきっかけに──「治癒魔法をかけ続けたら戦えるのでは??」と気づき、おっさん治癒術師を巻き込んで修練に励む。▼その結果──確率で血反吐を吐きながら拳で戦うHENTAIスタイルになってしまう。▼「だ、大丈夫! すごく痛いけどすぐ治るから!!」▼


総合評価:3514/評価:8.27/連載:14話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:39 小説情報

【2章完結】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる(作者:maki@)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼【 ――いいから黙って変身しろ! 俺の考えた最高のヒーローを見せてやる! ―― 】▼若い女性だけがその生命を燃やして戦う世界。▼『魔障対策局』の雑用係・神代蓮は、戦う力を持たない無力な男として、非日常を虚構に貶める日陰の仕事を淡々とこなしていた。▼だが、彼には誰にも言えない秘密があった。▼その脳内に人類の敵、【魔障】を飼っているということ。▼『戦う力』が欲…


総合評価:5319/評価:8.88/連載:25話/更新日時:2026年09月24日(木) 20:00 小説情報

曇りゆく勇者へ捧ぐ闇堕ちの美学(旧:勇者に勝ちたいだけなのに、魔王の剣が闇堕ちした宿敵ムーブを強要してくるせいで周りが曇り始めた。)(作者:黒雪ゆきは)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼ ──少年は、勇者に勝ちたいだけだった。▼ 女神の祝福が女性にしか宿らないエウリア聖王国で、男は守られる存在とされている。▼ 少年ユリス・アステルは、そんな世界で、幼馴染であり勇者候補でもある少女アリアに何度敗れても剣を握り続けていた。▼ 守られる側で終わりたくない。▼ 一人の戦士として、勇者の前に立ちたい。▼ その願いに応えたのは──眠っていた魔王の剣だ…


総合評価:6385/評価:8.59/連載:20話/更新日時:2026年09月19日(土) 22:00 小説情報

ヤンデレに監禁されるわけwww(作者:むにゃ枕)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

ヤンデレから逃げようと思ってる。▼ヤンデレのみんなには悪いけど抜け駆けで▼ヤンデレは逃走とかされたことないから、びっくりするかもしれないけど、もう逃げたい気持ちを我慢できないから▼


総合評価:3959/評価:8.09/連載:15話/更新日時:2026年09月28日(月) 21:16 小説情報

そいつの開発者、俺なんだが(作者:束田せんたっき)(オリジナル:SF/コメディ)

なんか学生時代の黒歴史が、未来でディストピアの管理AIをやってたんですけど。国家ぐるみのストーキングやめてね。▼《真面目なあらすじ》▼高城之男へ一致せよ。▼タカギニアでは、すべての人間が、三百年前に死んだ偉人・高城之男とどれだけ似ているかで評価される。似ている者には栄光を、似ていない者には屈辱を。▼管理番号11-F-283-D503、平野平人。彼は一致度0.…


総合評価:8358/評価:8.29/完結:51話/更新日時:2026年10月11日(日) 19:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>