俺の名前は宝田メメ。
人気アイドルグループ〝Glorious〟の元メンバーで、現在は俳優だ。
スカウトされてなったアイドルとしての活動をしていく中で、俺は芝居の世界に魅入られた。
何度もドラマに出演した当初はSNSでも俺の芝居は話題になった。
俺の天職はアイドルじゃなくて俳優だったのだ。
それから俳優としての道へ行きたいとずっとマネージャーに懇願していたのにも関わらず、やらされる仕事は相変わらず女共に媚びる仕事ばかり。
ここは俺の居場所じゃない。
だから、俺の才能も見抜けない事務所は辞めてやった。
案の定、同期で同じ〝Glorious〟のメンバーだった鍬矢田ルイは、最近不同意猥褻で書類送検されたらしい。
ファンの女と繋がっていて、手を出したら母親から訴えられたらしい。
バカな奴だ。
身体を許すなんて、自分を安売りしているようなものだ。
俺は違う。
この才能を持って、芸能界で成り上がるのだ。
そう思っていたのに、オーディションではことごとく落ちた。
それどころか、オーディションの回数すら以前よりも遥かに減っていた。
どうやら、この業界には無能がいっぱいいたらしい。
「よし、今度こそ……!」
久しぶりに回ってきたオーディションのチャンス。
ここで役を掴めれば、俺の芝居がまた世間に認知される。
それくらいビッグネームが連なる作品のオーディションだった。
だけど、俺はオーディションに落ちた。
「何でだよ! 俺より芝居のうまい奴なんていなかったってのに……!」
「あのぉ……言いづらいんですけど、ほら灰瀬優二さんっていたでしょ?」
「あのクソ大根役者がなんだってんだよ」
「彼、両賀千三郎さんの息子さんなんですよ」
「なっ……!」
両賀千三郎。
日本ではガキから老人まで、その名を知らない者はいない芸能界の大御所だ。
つまり、何か?
俺は親の七光りで俳優やってる二世俳優に負けたってことか?
「あり得ねぇ……芝居が全てじゃねぇのかよ」
「まあ、よくあることですよ。千三郎さんのお世話になった人が制作陣には大勢いましたし、恩返しのつもりで採用したいという気持ちもあるんじゃないかと」
「ざっけんな!」
こんなことがまかり通っていいわけがない。
何が日本一有名な俳優だ。
何が芸能界の大御所だ。
あんな老害がのさばっているから、俺みたいな才能ある若手が上に行けないんじゃないか。
俺をズルで蹴落とした七光りのクソバカ息子も、せっかくのチャンスをものにできず無駄にした。
俺が出ていれば結果は違っただろう。
元凶は老害、両賀千三郎だ。
絶対に許さない。
いつかきっと、隙だらけの息子を利用して引きずり降ろしてやる。
決意してからそう経たずにチャンスは巡ってきた。
チャンスは、あまりにも簡単に手に入った。
劇場版セミブレードのゲスト声優に両賀千三郎と彼の推しである株地由羽がいたのだ。
〝てぇてカラス〟という推し活アカウントの正体が両賀千三郎だということは特定していた。
これは両賀千三郎が推しと繋がるために制作陣に圧をかけたに違いない。
天が俺に味方している。
そう確信した。
新しくアカウントを作り、〝当時の現場にいた〟という体で、千三郎の悪行をそれっぽく書き込み、少し拡散されたらすぐに消す。
今の時代は金稼ぎ目的の奴らが勝手に伸びた投稿をパクって投稿してくれる。
ちょっと話題になれば、見る奴らは勝手に信じてくれる。
炎上系U-tuberの動画が出たときは、思わず声を出して笑ってしまった。
「見ろよ、これが俺の力だ」
ざまぁみろ、老害。
ずっとそうやって、権力でこの世界を牛耳ってきたんだろう。
その化けの皮が、ようやく剥がれる。
因果応報だ。
これで、あいつは終わりだ……そう思っていたのに。
ことあるごとに、俺の撒いた火種はある種の熱狂へと変わっていった。
話題が元天才子役コンビの羽田朝香と伽須翼、そして主演の川越萌絵の関係性に注目されてしまう。
素人同然だと思っていたVtuber株地由羽は、その卓越した演技力を見せつけてみせた。
公開前企画として投稿されたセミオートマタのセミブレード講座は、短い動画だったのにも関わらず、彼女の芝居がいかに上等であるかを誇示していた。
「クソが! だが、まだ両賀千三郎の悪行がある……!」
一番の巨悪である奴さえ倒せればそれでいい。
公衆の面前に引きずり出せば、老害の化けの皮は完全に剥がれる。
とはいえ、俺自身が会場に行くのは愚策だ。
顔が割れれば、全てが終わる。
だから、他人にやらせることにした。
狙ったのは、夢破れた俳優崩れだ。
俺と同じオーディションで、灰瀬優二に負けた男である。
酒場で隣に座り、愚痴を聞いてやるだけで、あいつは勝手に喋り出した。
「あいつさえいなければ、俺があの役だったんだ」
「わかるよ。あんたの芝居は、俺も見ていた」
もちろん、見てなどいない。
それでも、承認に飢えた男には、その一言で十分だった。
「元凶は両賀千三郎だ。千三郎が圧をかけて、息子に役を回しているんだ」
「やっぱり、そうだったのか……!」
「このまま黙っていていいのか? あんたが声を上げれば、それは正義の告発になる」
会うのは酒場だけで、渡したのはチケットだけ。
残るものは何もない。
舞台挨拶の終盤に立ち上がり、思いの丈を叫べ。
そう焚き付けるだけで、奴は勝手に燃えてくれた。
才能のある人間は、頭の使い方まで違うのだ。
完成披露試写会に、両賀千三郎は点滴を引きずって現れた。
配信されていた動画には、ひどい映像が映っていた。
客席の男が叫ぶが、伽須翼が涼しい顔で返し、場内が拍手に包まれる。
俳優崩れの男は警備員に引きずられていった。
最後に客席の冷たい視線を映したところで、動画は途切れていた。
「使えねぇ……」
舌打ちして、パソコンを閉じる。
それをきっかけにネット上での評価は逆転して、セミブレードのゲスト声優たちは絶賛されるようになってしまった。
そして、月日が流れ劇場版セミブレードが公開され、興行収入100億を達成することになった。