ついに映画が公開された。
俺の撒いた火種から始まった炎上は、望む形では燃え広がらず、作品に注目を集めるだけになってしまった。
公開初日の夜、俺は評判を叩くつもりでSNSを開いたらタイムラインが、おかしかった。
[劇場版セミブレード、マジで泣いた]
[株地由羽、ガチだった。疑ってごめん]
[ラストシーン、ずっと鳥肌立ってた]
[子供連れて行ったけど、自分が泣いた]
[千三郎さんのゼアミがヴィランとして完璧すぎる]
どこまでスクロールしても、称賛しか出てこない。
「は……?」
トレンドを開くと、〝セミブレード〟〝シガラティ〟〝株地由羽〟〝セミオートマタ〟が並んでいた。
その中に〝両賀千三郎〟が混じっている。
ただし、悪口ではなかった。
[点滴姿で舞台挨拶してたの、今思うとすごい]
[圧力とか言ってた奴、息してる?]
[あの哄笑聞いて、まだ疑える奴おらんだろ]
[なお、息子の二世俳優は無事I〇MU KINGの刑に処された模様]
[お前コネ使いスギィ(灰瀬優二! 灰瀬優二!)]
[息子も被害者側だろうがwww]
[ひでぇや……]
[こうしてAIで躍らせてみると、意外と長身のイケメンなんだな]
息ができなくなった。
炎上の火種を探した。
あれだけ燃えていた、てぇてカラスの晒し投稿は、軒並み削除されていた。
炎上系U-tuberの動画も、〝この動画は削除されました〟の文字だけが残っている。
あれだけ偉そうに語っていた投稿者は、更新が止まっていた。
俺の書き込みをパクって稼いでいた連中も、軒並み沈黙している。
叩き続けているアカウントも、探せばいるにはいた。
[結局、権力でねじ込んだ映画だろ]
そう書き込んだ人間はいたが、いいねは一つもつかない。
絶賛の熱狂に呑まれて、誰の目にも留まらないまま流れていった。
試しに、俺も新しいアカウントで書き込んでみた。
[作品の出来と、制作の経緯は別問題だろ #劇場版セミブレード]
反応は、なかった。
数分後には、感想ポストの山の底に沈んでいた。
[百億の女セミオートマタ]
[百億のセミ羽田朝香]
[VSナークライ]
[またしても何も知らないナークライ]
[ナチュラルにセミ扱いされる天才女優]
「ふざけんな……ふざけんな!」
スマホを握りしめたまま、壁に拳を叩きつけた。
叩かれるより、よほど屈辱だった。
俺が必死に火をつけた炎は、誰にも見られないまま消えていた。
世界は、俺なんかいなくても回っていたのだ。
それから二週間後、一通のメールが届いた。
件名は〝【重要】発信者情報開示請求に係る意見照会について〟。
差出人は、俺が契約しているプロバイダだった。
本文を読み進めるうちに、指先が冷たくなっていく。
〝好き嫌い@コム〟への投稿について、名誉毀損を理由とした開示請求を受けた、という内容だった。
「なんで、あんなサイトが……!」
SNSは開示に時間がかかると踏んで、ログが残る前に投稿削除するタイミングにも気を遣っていたはずだ。
調べてみて、愕然とした。
〝好き嫌い@コム〟は、開示請求への対応が異様に早いサイトだったらしい。
運営は請求を受けると、すぐにIPアドレスを開示する。
そこからプロバイダが割り出され、契約者情報までは一直線だ。
もう一通、封書が届いた。
差出人は、千三郎の所属事務所の代理人弁護士だ。
名誉毀損、業務妨害、そして試写会での威力業務妨害の教唆。
助けを求めて芸能関係の知り合いに連絡を入れたが、着信拒否になっていた。
俺が開示請求されたことも、ニュースにはならなかった。
ワイドショーでは、映画の大ヒットを連日報じている。
キャスト陣の評価は上がり続け、羽田朝香や伽須翼、株地由羽は声優としての評価まで得ていた。両賀千三郎については言うまでもない。
俺が引きずり降ろそうとした連中は、全員が上へ登っていった。
「……どうして、こんなことに」
誰にも届かない問いが、狭い部屋に落ちた。
答えてくれる者は、どこにもいなかった。
キャラクターの名前、由来コーナー
宝田メメ:だからダメ