とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います) 作:サニキ リオ
「えぇぇぇ!?」
幼少期の伽須翼と俺が結びついたのか、帆林は驚愕のあまり絶叫して周囲の客が何事かとこちらを向いた。
「騒がしくしてすみません……まあ、ただの一発屋だけどな」
立ち上がって周囲の客に頭を下げつつ俺は続ける。
「演技のテクニックは覚えてる。それを、帆林に教えてやれると思うんだが……どうだ、やってみないか?」
「……はい。お願い、します」
注目されたことで、顔を赤くして縮こまっていた帆林は小さく頷いた。
それから、俺は帆林にコミュニケーションの指導をすることになった。
「凪野君って、友達いないですよね」
「は?」
「ご、ごごご、ごめんなさい! そういう意味じゃなくて!」
帆林は慌てて手を振る。
「まあ、友達少ないのは合ってるけども」
「凪野君、コミュニケーション上手そうなのに……」
「俺は意図的に作ってないだけだ。芸能界で人間関係に疲れたからな」
「なるほど……でも、技術はあるんですよね?」
「まあな。子役時代、現場での立ち回り方はいろいろ学んだ」
帆林は真剣な顔で俺を見つめている。
「立ち回り方、というと?」
「スタッフさんにも、ちゃんと挨拶する。メイクさんにも、照明さんにも、音声さんにも。みんなに敬意を払って接するんだ」
「それって、当たり前のことなんじゃ……」
「当たり前のことを、ちゃんとやるのが大事なんだよ。現場の覚えが良ければ、別現場で一緒になったときにやりやすいし、その人たちが出世したら使ってもらえるからな」
帆林は真剣にメモを取っている。
「共演者とは、どんな感じで接してたんですか?」
「共演者か。それは相手によるな」
俺は少し考えた。
一応、コミュニケーション指導だし、印象に残る話のほうがいいよな。
「若い頃に賞をいくつも取ったベテラン俳優がいてな。スタッフに当たり散らすような典型的な増長したタイプの俳優だった」
「うっわ。やっぱり、そういうのあるんですか」
SNSでそういう目にしたことがあるのか、帆林は眉をひそめた。
「そういう人がいると、俺はやりやすかった」
「待って待って、待ってください! 話が繋がらないんですけど」
混乱したように帆林がペンを止めた。
「現場の好感度が稼ぎやすいんだよ。空気を悪くするベテラン俳優と現場の人間に敬意を払う可愛げのある子役。どっちが好きになるかは明白だ」
「凪野君も大概ですね!?」
帆林は驚いたように目を見開いた。
「使えるものは何でも使う。それが俺の信条だ」
そういうところが透けて見えてたのが、人気に陰りが出た理由なのだろう。
それでもやめるという選択肢はなかったけど。
「例えば、撮影が長引いて、みんなが疲れてるときがあった」
俺の話に、帆林は身を乗り出してきた。
どうやら、興味は引けたようだ。
「そういうときに、俺はわざと失敗するんだ」
「わざと失敗って……どうして?」
「台詞を噛んだり、現場にそこまで影響が出ない範囲で子供らしい失敗をする。そうすると、スタッフが〝仕方ないなぁもう〟って空気になる。ピリピリした雰囲気が和らぐんだ」
「あー、なんか想像できるかもしれません」
「それで、次のテイクでは完璧にこなす。そうすると、スタッフが〝さっきは可愛い失敗していたのに、もうできるようになった〟って感心してくれる」
「小学生のときで、そんな計算してたんですか!?」
「子役は可愛げがないと生き残れないからな。俺が〝ぼくんち冒険たい〟だけの一発屋って言われてるのがいい例だ」
「今の話には一つも可愛げがありませんけど……」
帆林は若干引いていた。
「そんなもんだ。子役の世界は、想像以上に厳しいぞ」
それから、俺は帆林に具体的なトレーニングを始めることにした。