とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第223話 付き人から見る伽須翼 その1

 俺の名前は灰瀬優二。

 日本一の俳優・両賀千三郎の息子の二世俳優だ。

 

 車を駐車場の隅に停める。

 

「……よし、行くか」

 

 鞄を肩にかけて、スタジオの入口へ向かう。

 入口をくぐると、廊下の先に翼君の後ろ姿が見えた。

 スタッフらしき人に囲まれているようだ。

 足を止め、離れたところから様子を窺う。

 

「おはようございます、伽須翼です。本日はよろしくお願いします」

「翼君、おはよう! 今日も頼むね」

「木戸さん! おはようございます。先日のプライベートAIの撮影ではお世話になりました。あの逆光の入れ方、すごく助かりました」

「えっ、覚えててくれたの?」

「もちろんです。おかげで、芝居が映えました」

 

 照明の兄ちゃんが、照れくさそうに頭を掻いている。

 翼君はそのまま、機材を運んでいたスタッフにも、スタイリストにも、ADにも、一人ずつ頭を下げて回っていた。

 必ず相手の名前を呼び、前に会った現場の話を軽く挟んでいる。

 

 売れっ子が、こんなに腰を低くしている。

 俺が知っているこの業界の売れっ子は、もっとふんぞり返っていた。

 親父だって現場の人間には気さくだが、それは〝大物の余裕〟だ。

 翼君のこれは、まるで違う。

 

「あっ、そうだ。せっかくなので、紹介させてください」

 

 翼が、こちらを振り返って目が合う。

 見られていたのがバレて、思わず背筋が伸びた。

 

「こちら、今日から付き人で入ってもらってる灰瀬優二さんです。うちの事務所の新戦力ですよ」

 

 一斉に、視線が集まる。

 

 大御所俳優である両賀千三郎のボンクラ息子。

 コネでしか役をもらえない芝居の下手な二世俳優。

 

 いつものやつだ。

 覚悟して、腹に力を入れた。

 

「……灰瀬優二です。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしくお願いします」

「翼君、忙しいから付き人大変ですよー?」

「あらヤダ、結構イケメン……」

 

 拍子抜けするほど、普通の反応だった。

 

「そうそう、優二さんね。運転めっちゃうまいんですよ!」

 

 空気は、一ミリも変わらない。

 翼君は、俺が一番言われたくない前置きを一切挟まなかった。

 一緒に働く仲間として、俺を紹介してくれた。

 

「乗り心地がめっちゃよかったんで、台本チェックもはかどっちゃいましたよ」

「へぇ、そりゃ頼もしい」

 

 この現場で、俺は何者でもない灰瀬優二として立っている。

 翼君は、こちらを見てニヤリと笑った。

 

 ゾクリと背筋に悪寒が走る。

 俺も原因のひとつだった劇場版セミブレードの炎上。

 舞台挨拶に現れた不審者を言葉で制し、空気を完全にエンタメへ塗り替えたの翼君だ。

 

 一体、どれだけ周りが見えているというのだろうか。

 俺も含め、みんな彼の掌の上なんじゃないだろうか。

 

 何が孫悟空だ、やってることお釈迦様じゃねぇか。なんて思ってしまった。

 

 というか……君、もしかして子役時代からこんなことしてたのか?

 

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