とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第227話 付き人から見る小山内心芦 その1

 今日の現場は、心芦ちゃんが出演するドラマの撮影現場だった。

 

「優二さん、今日からよろしくお願いします!」

 

 ぺこりと頭を下げる姿に、車の鍵を握る手がゆるむ。

 翼君や朝香ちゃんのようなバケモノ未成年の後だと、癒やしにすら感じた。

 

「こちらこそ。乗り心地悪かったら遠慮なく言ってな」

「はーい! 優二さん、運転すっごく上手だって翼先輩が言ってたから楽しみです!」

 

 後部座席から、屈託のない声が返ってくる。

 台本を読む横顔も、足をぶらぶらさせる仕草も、無邪気な子供そのものだ。

 

 ……平穏だ。

 前二人がアレだったから、こんな時間が待っているとは思わなかった。

 

 現場は都内のスタジオだ。

 車を降りた瞬間、心芦ちゃんは花が咲いたように笑う。

 

「おはようございまーす! 小山内心芦です! 今日はよろしくお願いします!」

 

 スタッフたちが、揃って目尻を下げた。

 

「心芦ちゃん、おはよう! 今日も元気だねぇ」

「昨日、撮影に備えてちゃんと早く寝たので!」

「偉いねぇ」

 

 その天真爛漫さで、大人たちの懐にするりと入り込んでいく。

 そして、その流れでくるりと俺の方を振り向いた。

 

「この人は新しく来てくれた付き人の優二さん! 運転がね、すっごく上手なんですよ!」

「そっか。心芦ちゃん、ナイトプロに移籍したんだっけ。付き人も新しい人になるよね」

「そうなんです! なかなかイケメンでしょ!」

 

 無邪気な声で俺の名前が現場に落とされ、全員の視線が俺に集まった。

 一瞬だけ、心芦ちゃんがこちらに目配せをした気がした。

 そうだ。挨拶しろはしっかりしなければ。

 

「灰瀬優二です。よろしくお願いします」

 

 頭を下げると、監督やプロデューサーが気さくに名刺を出してくれる。

 図らずも、現場の人たちに顔を売ることができた。

 心芦ちゃんがもたらしてくれたチャンスに内心浮かれていると、声をかけられた。

 

「あれぇ? もしかして、千三郎さんの息子さんですか?」

 

 声をかけてきたのは、別事務所のマネージャーらしき男だった。

 スーツの襟を正しながら、人当たりのいい笑みを浮かべている。

 しかし、その目は笑っていなかった。

 

「いやぁ、まさかナイトプロで付き人をされているとは。大変ですねぇ、二世俳優さんも」

「ええ、まあ……」

「千三郎さんも、ご子息の将来が心配でしょうねぇ。コネって、使い方を間違えると毒ですから」

 

 わかりやすい嫌味だった。

 反論したところで、言い訳にしかならない。

 拳を握りかけたそのとき、足元から小さな声がした。

 

「あのぉ、ワンエイト・スリーの粕谷さんですよね?」

 

 心芦ちゃんが、いつのまにか男の袖を引っ張っていた。

 

「ああ、心炉ちゃん。今日はよろしくね」

 

 張り付けたような笑みを浮かべる粕谷という男に対し、心芦ちゃんは不機嫌さを前面に押し出した表情になった。

 

「優二さんを悪く言わないでください!」

 

 よく通る声だった。

 周囲のスタッフたちが一斉にこちらを見る。

 

「えっ、いやいや、そんなつもりは……」

「優二さんはお父さんが病気で大変で、急に事務所変わっちゃって、俳優なのに私の付き人やってくれるのに、文句も言わないで頑張ってるんです! だから、優二さんのことをバカにしないでください!」

 

 心炉ちゃんは潤んだ瞳で、まっすぐに粕谷を見上げる。

 それによって、粕谷に向けられる視線の温度がどんどん下がっていく。

 

「あ、はは……じょ、冗談だよ。ごめんね、心芦ちゃん」

「謝る相手が違うと思います!」

「うっ……灰瀬優二さん。失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした」

「えっ、あ、いえ……」

 

 粕谷は、そそくさと立ち去っていった。

 

「その、心炉ちゃん。ありがとな」

「いえいえー!」

 

 その天真爛漫な笑顔に、心が温かくなった。

 こんな小さな子が、俺のために真剣に怒ってくれたのだ。

 芸能界の大人なんて怖いだろうに、勇気を振り絞って泣きそうになりながら俺のために怒ってくれた。

 その姿に救われた気がした。

 

 撮影の合間、俺は心芦ちゃんを連れて控室へ戻った。

 

「お疲れさま。さっきのシーン、バッチリだったな」

「ありがとうございます!」

 

 扉を閉めるのと同時に、カチャリと鍵のかかる音がする。

 振り返ると、心芦ちゃんがすぐに鍵を閉めたようだった。

 それから無言でソファーへ腰を下ろし、両足を投げ出して天井を仰ぐ。

 

「あ゛ー、笑顔ふりまくの疲れた」

 

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