とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います)   作:サニキ リオ

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第28話 相性優勝ヒロインズ

 休み時間、俺は郁を呼び出した。

 

「郁、ちょっといいか?」

「どうしたんですか、翼君?」

 

 以前よりもはっきりとした声で答えたあと、郁はこてんと首を傾げた。

 ヘアサロンに行ってから、郁の様子が少しずつ変わってきている。

 発声練習や姿勢矯正に意識して取り組んだ成果が出ているようだった。

 姿勢も良くなったし、声もよく通るようになった。

 何より、表情が明るくなった。

 

 そのせいか、最近じゃあんな可愛い子いたっけ、とクラスでも話題になっているくらいだ。

 

「次のステップに進むぞ。俺以外の友達を作る」

「ついに、ですね!」

 

 郁は小さく拳を握った。

 以前なら俯いていたはずなのに、今は目を見開いて俺を見つめている。

 

 さっきの首を傾げる仕草といい、若干オーバーリアクション気味ではあるが、表情以外の仕草の部分も身についているようだ。

 見た目と相まって、破壊力がもの凄いことになっている。

 

 ……これ、耐性のない男子たちに刺さりすぎて大変なことになったりしないだろうか?

 

「見た目を変えたのは自信を持つため、発声練習なんかは自分の言葉を相手に届けるため。ここまでできれば友達なんてあっという間だ」

「でもでも、前にも言いましたけど、私って趣味らしい趣味がないんですよ。ネット小説のランキング漁ったり、U-tubeショートダラダラみたりするだけですし! なんかもう、ド陰キャの暇つぶしって感じです」

 

 よくもまあ、ネガティブなことをそんなハキハキと話せるな。

 

「あのなぁ。ネット小説を読み漁ることと、ダラダラショート動画を見ること。それも立派な趣味だろうが」

「そんなそんなおこがましい! 趣味って言うのは、休日にカフェを巡ったり、家庭菜園をしたり、オシャな料理をしたり、そういうのじゃないですか!」

「お前が丁寧な暮らしに憧れているのはよくわかった」

 

 前から思ってたけど、こいつの陽キャに対する偏見は少々行き過ぎである。

 

「貴重な人生の時間を使っているコンテンツ。それが趣味じゃなくてなんだってんだ」

「えー、でもぉ」

「芸能人アンチスレで毒を吐くことも立派な趣味だぞ」

「それを趣味と呼ぶのは違う気がしますよ!?」

 

「まあ、俺もたまに見てたからな。伽須翼はカス、一発屋、死ねボケカス――まあ、いろいろ言われたもんだ」

「メンタル強いですね!? 本人がアンチスレなんて見たら心病みますよ!?」

「安心しろ、ライン超えの誹謗中傷はちゃんと開示請求するから」

「本当に強かですね、翼君」

 

 郁は呆れたように笑った。

 その笑顔が、いつもより自然だ。

 

「それで、郁の好きなネット小説って、どんなジャンル?」

「えっと、恋愛ものとか、学園ものとか」

 

「なるほど。じゃあ、紹介したい奴がいる」

「紹介?」

 

 郁は不安そうに俺を見上げた。

 

「大丈夫だ。お前と気が合いそうな奴だから」

 

 俺は郁を連れて、図書室に向かった。

 図書室には、いつものように池手が座っていた。

 窓際の席でノートパソコンに向かい、真剣な表情でキーボードを叩いている。

 

「執筆中すまん、池手。ちょっといいか?」

「あ、凪野君」

 

 池手は俺の姿を見つけると、嬉しそうに手を振った。

 視線が郁に移る。

 

「えっと……この子は?」

「同じクラスの帆林郁だ。紹介しようと思って」

「初めまして。帆林郁です」

 

 以前よりはっきりとした声だが、まだ少し震えている。

 緊張した様子で郁は挨拶する。

 

「えっ!? 帆林さん、めっちゃ可愛くなったね!」

 

 どうやら池手も郁のことは認識していたようだ。

 よかったな、郁。

 お前の思っているほど、お前は空気じゃないみたいだぞ。

 

「帆林さん、本読むの好き?」

「え、はい。大好きです」

「良かった。実は、私、小説書いてるんだ」

「小説!?」

 

 郁は驚いたように目を見開いた。

 

「はい。カケヨムで」

「カケヨム!? 私、毎日読んでます!」

 

 思わず声を上げた郁に、周囲の学生が一斉にこちらを見る。慌てて口を押さえる郁の頬が赤くなった。

 

「本当!? 嬉しい!」

 

 池手も嬉しそうに目を輝かせた。

 

「どんなジャンルが好き?」

「恋愛ものとか、学園ものとか、ですね」

「私も! あと、ざまぁ系も好き」

「あぁー! ざまぁ系は私も好きです!」

 

 二人は、あっという間に意気投合していた。

 池手がスマホを取り出して、自分の小説を見せる。

 

「これ、私が書いた小説」

 

 郁は画面を見て、目を見開いた。

 

「え!? これ、池手さんが書いてるんですか!?」

「うん。知ってる?」

「知ってるも何も、めっちゃ読んでます!」

 

 郁は興奮した様子で続けた。

 

「私、毎日更新を楽しみにしてて!」

「本当!? 嬉しい!」

 

 池手は思わず席を立って、郁の手を握った。

 

「感想とか、書いてくれてる?」

「はい。毎回書いてます!」

 

 郁は嬉しそうに頷いた。

 

「うわー、嬉しい! いつも感想ありがとうございます!」

 

 池手は感激しているのか、眼鏡がズレて慌てて直す。

 

「いえ、こちらこそ、いつも楽しませてもらってます」

 

 郁も嬉しそうに笑った。その笑顔が、さっきよりずっと明るい。

 

「帆林さん、他にどんな小説読んでる?」

「えっと、恋愛ものだと」

 

 二人は、あっという間に小説談義に花を咲かせていた。

 俺は、その様子を見て安心した。

 郁は、池手と気が合いそうだ。

 

 しばらくして、俺は郁と池手を連れて、教室に戻った。教室では、鹿角が友達とスマホを見ている。

 

「鹿角」

「ん? あ、バッサー」

 

 鹿角は俺の姿を見つけると、嬉しそうに笑った。

 視線が郁に移る。

 

「あれ、どういう繋がり?」

「同じクラスの帆林郁だ。紹介しようと思って」

「初めまして。帆林郁です」

 

 郁は緊張した様子で挨拶する。

 

「いやいや、同じクラスの帆林さんっしょ? 知ってるって……あーしは梨夢。鹿角梨夢ね」

 

 笑顔で鹿角が挨拶する。それから、じっと郁の顔を見つめた。

 

「帆林さんって、めっちゃ可愛くなった?」

「え?」

 

 郁は驚いたように目を見開いた。

 

「髪型も可愛いし、メイクもナチュラルで良い感じ」

 

 鹿角は郁の周りをぐるぐる回っている。

 金髪の奥から、ターコイズブルーが覗いている。

 

「スタイルもいいし、顔も整ってんねー」

「あ、ありがとうございます」

 

 郁は少し照れたように笑った。頬が赤くなっている。

 

「帆林さんは、TickTackとか見る?」

「あー……U-Tubeショートなら毎日見てます」

「マジ!? 何見てる?」

「雑学系とか、小芝居系とか、アカペラ歌ってみた系とかですかね」

「あー、わかる! 私も見る! てか、やってる!」

 

 鹿角は嬉しそうに笑った。

 

「ねえ、帆林さん、動画出てみない?」

「えぇ!?」

 

 郁は驚いたように目を見開いた。

 

「だって帆林さん、めっちゃ可愛いじゃん。絶対、映えるよ」

「でも、私、喋るの苦手で」

「大丈夫大丈夫! 最初は喋らなくてもいいから」

 

 鹿角はぐいぐい来る。その勢いに、郁は少したじろいでいる。

 

「後からアフレコすればいいし!」

「それ、結局しゃべってますけど!?」

 

 郁のツッコミに鹿角は楽しそうに笑うのだった。

 

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