とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第31話 そのとき、黒歴史が動いた

 夏休みも迫った頃。

 俺、梨夢、丸代、郁。

 昼休みを四人で過ごす時間が、いつの間にか当たり前になっていた。

 

 そんな中、〝ぼくんち冒険たい〟がバズった。

 

 SNSを開いてトレンドに入っているのを見たとき、目の前が一瞬白くなった。

 もう十年以上前の曲だ。

 

 きっかけは人気アイドルの斎藤ルナがTickTackで踊ってみた動画を投稿したことらしい。

 

 それがバカみたいに再生されて、女子高生やインフルエンサーたちがこぞって真似し始めていた。

 画面の中で俺の黒歴史が縦横無尽に蠢いていた。

 

「俺が何したって言うんだ」

 

 朝から精神に致命的なダメージを受けつつ登校する。

 何がキツイって音源がちゃんと子役時代に俺が歌っていたやつなのだ。

 音程をちょっと外しつつ、リズムだけは癖になるからヤケに耳に残る。

 Mスタでも、紅白でも、どこでも歌わされた曲が現代に蘇ってしまっていた。

 

「あっ、バッサー! おはよー!」

 

 梨夢が元気よく挨拶をしてくる。

 その明るさに、少しだけ救われた気持ちになる。

 

「見て見て! ヤバい! ぼくんち冒険たい、あーしも流行りに乗って踊ってみた動画あげたらバズっちゃった!」

「お前もか」

 

 前言撤回。荒んだ心に止めを刺された気分だった。

 

「バッサーが〝使えるものは全部使え〟って言ったじゃん! だから流行りの波に乗ってみたの!」

「まあ、正しい動きではあるか……」

「そのおかげで効果あったよ! フォロワー一万人超えた!」

 

 スマホの画面を覗き込むと、梨夢が一人で踊っている動画が表示されていた。

 確かに可愛らしく映えている。

 

「いっちゃんも誘ったんだけど、断られちゃったー」

 

 梨夢は少し残念そうに唇を尖らせた。

 

「郁はそういうの苦手だろ」

 

 それに、郁は〝ぼくんち冒険たい〟に関連した俺の母親周りの話を知っている。

 おそらく、俺に気を遣って梨夢の誘いに乗らなかったのだろう。

 

「だよねー」

 

 梨夢は気を取り直したようにスマホを操作する。

 

「あとさ、コメント欄がすごいことになってるの」

 

 コメント欄を見ると、動画を褒める言葉が並んでいる。

 

[めっちゃ可愛い!]

[ぼくんち冒険たいじゃん! 懐かしい!]

[ルナちゃんから流行ったやつだ!]

 

「バッサー、大丈夫? 顔色悪いよ?」

「いや、ちょっと寝不足でな」

 

 誤魔化すように笑って視線を逸らす。

 梨夢は少しだけ首を傾げながら自分の席に戻っていった。

 昼休み、池手が俺のところにやってきた。

 

「凪野君、ちょっといい?」

「どうした」

「小説の感想欄、見た?」

 

 池手はスマホを見せてくる。

 感想欄には、いつもと違うコメントが並んでいる。

 

[おそらく主人公のモデルであろうあの人は、今何してるんだろ]

[あの子がこれで俳優として再起したらゲキアツ]

 

 池手は心配そうに俺を見つめている。

 

「凪野君のこと書かれてるけど、大丈夫? 感想消しておこうか?」

「気にするな。ネットなんてそんなもんだ」

「でも――」

「池手の小説が読まれてるってことだろ。それはいいことだ」

 

 俺の言葉に、池手は安心したように頷いた。

 

「そっか。ありがとう」

 

 放課後、郁と一緒にカフェに寄った。

 ガラス扉を押して中に入ると、店内BGMが流れてくる。

 

『ぼ~くぼく、ぼくんち冒険たい♪ い~つでも、アマゾン大冒険♪』

 

 思わず足が止まった。

 

「最近、いろんなお店で流れてますね……」

「なんか謎に流行ってるよな」

「翼君。大丈夫ですか?」

 

 俺は平静を装って席に座る。

 

「黒歴史が動いて追ってくるようなもんだけど、まあ、大丈夫だよ」

 

 帰りに近所のコンビニに寄ったときも同じ曲が聞こえてくる。

 

『ぼ~くぼく、ぼくんち冒険たい♪』

 

 動き出した黒歴史は、どこまでも俺を追ってくるのであった。

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