とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います) 作:サニキ リオ
昼過ぎ、スマホが振動した。
画面を見ると、RINEの通知のようだ。
見てみれば、随分と懐かしい人からのメッセージだった。
文野ダイ。同じ劇団にいた先輩だ。
俺が芸能界を辞めた後も、細々と活動を続けていると聞いていた。
ドラマの現場に出れず、我武者羅に稽古をしていた俺に付き合ってくれた恩人でもある。
[文野:翼、久しぶりだな! 元気にしてたか?]
[文野:なんか、お前の顔思い出してさ]
[文野:元気でやってんのかなぁって気になって連絡した]
[文野:今日、時間あるか? 久しぶりに遊ぼうと思ってさ]
正直、気分は最悪だった。
悪夢を見て、吐き気がして、学校も休んだ。
とはいえ、このまま家にいても、また悪いことを考えてしまいそうだった。
気分を紛らわせるには、ちょうどいいかもしれない。
文野さんになら相談もできるかもしれないし。
[翼:ご無沙汰しております。今日なら大丈夫です]
[文野:マジ? じゃあ、十六時に渋谷駅で。詳細はまた連絡するわ]
スマホを置いて俺はまた横になった。
時間になるまで寝て体を休める。
十六時。渋谷駅のハチ公前で文野さんと合流した。
六月に入って暑くなり始めた空気が肌にまとわりつく。
「よう、翼。久しぶり」
相変わらず、文野さんは軽い調子で笑っている。
「久しぶりです」
「元気そうで安心したわ。ちょっと歩こうぜ」
文野さんに連れられて繁華街を歩く。
しばらく歩くと、カラオケボックスの前で止まった。
「ここですか?」
「そうそう。ちょっと友達と集まっててさ」
エレベーターで上の階に上がり、個室の扉を開ける。
ソファには、見知らぬ女子が三人並んで座っていた。
「おー、来た来た」
文野さんがいつもの調子で手を振り、そのまま中央に腰を下ろす。
「どうも、お邪魔しまーす」
俺が軽く頭を下げると、三人の視線が一斉に集まる。
探るというより、品定めに近い。
「えっ、ちょっと待って」
「もしかして……」
「……あれ、そうだよね」
ひそひそ声が混じる。
文野さんはニヤニヤ笑うだけで、それを止めてはくれない。
「初めまして。伽須翼です」
本名を名乗る理由はなかった。
この場では、それを期待されていることくらいわかる。
「あ、本当に普通に喋るんだ」
「そりゃ喋るでしょ」
誰かが笑って、場の空気が少しだけ緩んだ。
飲み物が回り、デンモクがテーブルに置かれる。
最初から、俺の分の席は空いていた。
カラオケの画面が切り替わり、雑談が始まる。
その流れで、誰かがスマホを見ながら言った。
「最近さ。ぼくんち冒険たい、また流行ってるよね」
「あー、あれ懐かしい」
「TikTokでめっちゃ見るよね!」
軽いノリの会話と共に視線が俺に向く。背中を冷たい汗が伝う。
「あれ歌ってたの、子役の子だったよね」
「名前なんだっけ」
「カス……なんとか」
視線が、じわじわとこちらに寄ってくる。
文野さんが、それを見逃すはずもない。
「その伽須翼、ここにいるんだよね」
その言葉で、空気がはっきりと変わった。
「え?」
「マジで?」
「本人?」
女子たちの距離が一気に詰まる。
そのリアクションはあまりにもお粗末すぎる演技だった。
ああ……最初からこのために、俺は呼ばれたのか。