とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います)   作:サニキ リオ

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第33話 恩人の踏み台

 昼過ぎ、スマホが振動した。

 画面を見ると、RINEの通知のようだ。

 見てみれば、随分と懐かしい人からのメッセージだった。

 

 文野ダイ。同じ劇団にいた先輩だ。

 俺が芸能界を辞めた後も、細々と活動を続けていると聞いていた。

 ドラマの現場に出れず、我武者羅に稽古をしていた俺に付き合ってくれた恩人でもある。

 

[文野:翼、久しぶりだな! 元気にしてたか?]

[文野:なんか、お前の顔思い出してさ]

[文野:元気でやってんのかなぁって気になって連絡した]

[文野:今日、時間あるか? 久しぶりに遊ぼうと思ってさ]

 

 正直、気分は最悪だった。

 悪夢を見て、吐き気がして、学校も休んだ。

 

 とはいえ、このまま家にいても、また悪いことを考えてしまいそうだった。

 気分を紛らわせるには、ちょうどいいかもしれない。

 文野さんになら相談もできるかもしれないし。

 

[翼:ご無沙汰しております。今日なら大丈夫です]

[文野:マジ? じゃあ、十六時に渋谷駅で。詳細はまた連絡するわ]

 

 スマホを置いて俺はまた横になった。

 時間になるまで寝て体を休める。

 

 十六時。渋谷駅のハチ公前で文野さんと合流した。

 六月に入って暑くなり始めた空気が肌にまとわりつく。

 

「よう、翼。久しぶり」

 

 相変わらず、文野さんは軽い調子で笑っている。

 

「久しぶりです」

「元気そうで安心したわ。ちょっと歩こうぜ」

 

 文野さんに連れられて繁華街を歩く。

 しばらく歩くと、カラオケボックスの前で止まった。

 

「ここですか?」

「そうそう。ちょっと友達と集まっててさ」

 

 エレベーターで上の階に上がり、個室の扉を開ける。

 ソファには、見知らぬ女子が三人並んで座っていた。

 

「おー、来た来た」

 

 文野さんがいつもの調子で手を振り、そのまま中央に腰を下ろす。

 

「どうも、お邪魔しまーす」

 

 俺が軽く頭を下げると、三人の視線が一斉に集まる。

 探るというより、品定めに近い。

 

「えっ、ちょっと待って」

「もしかして……」

「……あれ、そうだよね」

 

 ひそひそ声が混じる。

 文野さんはニヤニヤ笑うだけで、それを止めてはくれない。

 

「初めまして。伽須翼です」

 

 本名を名乗る理由はなかった。

 この場では、それを期待されていることくらいわかる。

 

「あ、本当に普通に喋るんだ」

「そりゃ喋るでしょ」

 

 誰かが笑って、場の空気が少しだけ緩んだ。

 飲み物が回り、デンモクがテーブルに置かれる。

 

 最初から、俺の分の席は空いていた。

 カラオケの画面が切り替わり、雑談が始まる。

 その流れで、誰かがスマホを見ながら言った。

 

「最近さ。ぼくんち冒険たい、また流行ってるよね」

「あー、あれ懐かしい」

「TikTokでめっちゃ見るよね!」

 

 軽いノリの会話と共に視線が俺に向く。背中を冷たい汗が伝う。

 

「あれ歌ってたの、子役の子だったよね」

「名前なんだっけ」

「カス……なんとか」

 

 視線が、じわじわとこちらに寄ってくる。

 文野さんが、それを見逃すはずもない。

 

「その伽須翼、ここにいるんだよね」

 

 その言葉で、空気がはっきりと変わった。

 

「え?」

「マジで?」

「本人?」

 

 女子たちの距離が一気に詰まる。

 そのリアクションはあまりにもお粗末すぎる演技だった。

 

 ああ……最初からこのために、俺は呼ばれたのか。

 

 

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