とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第35話 渋谷デート

 夕方前の渋谷は、昼とは違う熱を帯びている。

 人の流れが太くなり、雑音が層を成して押し寄せてくる。

 信号待ちの間、肩が何度も触れそうになる距離で並んで歩いた。

 

「まさか、翼とデートすることになるなんてね」

 

 朝香が前を見たまま感慨深そうに告げる。

 

「子役時代、さんざん誘ってもしてくれなかったのは、どこのどいつだろうな」

「あたしと一緒にいたかったら、俳優として有名になって共演することね」

 

 朝香は昔と同じことを言った。

 

「結局、共演したのも数回だったしなぁ」

「そうね。もっと演りたかったわ」

 

 目を伏せた朝香は、寂しそうに呟いた。

 しばらく歩いてから、朝香が立ち止まった。

 

「お腹空いた。シュークリーム食べない?」

 

 朝香が立ち止まった先には、シュークリーム専門店の看板が見える。

 

「懐かしいな。よく現場の差し入れで高いの食ってたわ」

「お菓子系の差し入れって、シュークリームや大福だったものね」

「俺たちがいたから配慮して甘い物用意してくれてたんだろうな」

 

 朝香は少し懐かしそうに笑った。

 店に入ると、ショーケースにはシュークリームが並んでいる。

 

「あたし、チョコチップ入りにする」

「俺は、ホイップオンリーで」

 

 注文を済ませて、店の外のベンチに座る。

 

「んー、濃厚な甘さが口の中で蕩けるなぁ……これ、いい牛乳使ってるっぽいわ」

「ハッ! いつまで、そんな三文芝居する気? 味覚障害がそんなことしても痛々しいだけよ」

 

 その指摘に喉がひゅっと鳴る。

 朝香には、知られたくなかったというのに。

 

「知って、たのか」

「当たり前じゃない。このあたしに演技で気づかれないとでも思った? 何年一緒にいたと思っているのよ」

 

 朝香は髪をファサっと払って、自信満々に胸を張る。

 

「ははっ、そりゃそうだ……やっぱり、演技で朝香に勝てるわけなかったか」

 

 自嘲気味に笑うと、朝香の表情が一瞬固まった。

 

「あっ、その、違くて。いや、違くないけど……!」

 

 慌てて言い直す朝香の様子が妙に新鮮で、つい笑ってしまった。

 

「なんの役作りだよ、それ」

「うっさいわね」

 

 朝香は頬を膨らませてシュークリームを頬張る。

 役作りとはいえ、その仕草はそこ辺のアイドルよりも可愛かった。

 

 しばらく、二人で黙ってシュークリームを食べる。

 街の喧騒が心地よく流れていく。

 

「……なんか、やけに混んでないか?」

 

 俺が呟くと、朝香は少し首を傾げた。

 

「ああ、今日イベントあるって言ってたわ」

「イベント?」

「渋谷カルチャーフェスだったか。若者向けのやつ」

 

 俺の言葉に重なるように、背後から張りのある声が届いた。

 

「こちら渋谷駅前です。ご覧の通り、多くの若者でかなり賑わっています」

 

 聞こえてきたレポーターの声に、朝香がはっと顔を上げた。

 

「……これ、生中継?」

 

 俺も振り向く。

 数メートル先に、カメラを担いだスタッフとレポーターが立っていた。

 朝香の顔が一瞬で青ざめる。

 変装しているとはいえ、カメラに抜かれたら映像として残ってしまう。

 

「朝香……っ」

 

 もう遅い。カメラが、こちらを向く。

 

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