とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第39話 ネットのおもちゃ

 生中継からしばらく経った。

 あれからインターネット上では、俺の話題で持ち切りだった。

 

「そのとき黒歴史が動いた」

 

 渋谷の生中継で俺が放った一言が、予想外の形で拡散していた。

 最初は、ただの面白発言としてシェアされていた。

 

 それがいつの間にか、汎用性のあるネットミームとして独り歩きを始めていた。

 過去の痛い投稿を掘り起こされたときなど、内容が黒歴史に関する投稿がされると、必ずと言っていいほど〝そのとき黒歴史が動いた〟の画像がリプ欄に貼られた。

 中には、アニメキャラで手書きのパロディまで行われている始末だ。

 

 俺は、完全にネットのおもちゃと化していた。

 生中継に映った時点で、こうなることは予想していた。

 

 ただ、予想以上に拡散速度が速かった。

 昨今のSNSの力を改めて実感する。

 

「バッサー、見た見た!? またバズってるよ!」

 

 登校早々、梨夢が興奮した様子で駆け寄ってきた。

 

「ああ、見た。見たくなかったけど、見た」

「あーしの動画も、また再生数伸びてるの! フォロワー三万人超えちゃった!」

 

 梨夢のスマホには、例の〝ぼくんち冒険たい〟を踊っている動画が表示されている。

 再生数は、五十万回を超えていた。

 

「俺の黒歴史が、養分になったみたいで良かったよ」

「えへへ、ありがと! バッサーのおかげだよ、ホントに」

 

 梨夢は嬉しそうに笑った。

 その笑顔を見ると、文句を言う気も失せる。

 

「それよりバッサー、大丈夫? 結構ネットで話題になってるけど」

「慣れてる。子役時代も散々ネタにされたからな」

「ネットで話題っていえばさ、あれ見た? 鍬矢田ルイが逮捕されたってニュース」

 

 梨夢が声を潜めて続ける。

 

「不同意わいせつだって。被害者に対して複数回やったって報道されてて……」

「ああ、朝のニュースで見た」

 

 実際、今朝のニュースは衝撃的だった。

 

『人気アイドルグループ〝Glorious〟の鍬矢田ルイメンバーが不同意わいせつの容疑で書類送検されました』

 

 アナウンサーの淡々とした声が、事件の重大性をかえって際立たせていた。

 

「あれヤバいよね。レギュラーだったバラエティー番組とか、ドラマにも出てたのに、全部お蔵入りになるのかな」

「正直、現場のスタッフたちには同情するよ」

 

 たぶん、徹夜で編集させられたりするんだろうなぁ……南無。

 

「凪野君」

 

 後ろから声をかけられて振り返ると、丸代が心配そうな顔で立っていた。

 

「小説の感想欄、がさ」

 

 丸代がスマホの画面を見せてくる。

 感想欄には、俺に関するコメントが並んでいた。

 

[主人公のモデル、ガチで翼君じゃん]

[これもう実話ベースだろ]

[作者、実はカス君だったりしない?]

 

「身バレしてるみたいで……ごめん、凪野君」

 

 丸代は申し訳なさそうに俯いた。

 

「気にするな。どうせもうネットのおもちゃだからな。誰かの夢の踏み台になれるなら本望だ」

「ならいいんだけど……」

「鍬矢田ルイの事件と比べたら、俺のは全然マシだ」

 

 丸代が小さく呟く。

 

「あのニュース見て、なんか怖くなっちゃって。芸能界って、そういうこともあるんだなって」

「まあ、闇は深いよ。俺が知ってる範囲でも、表に出てないだけでいろいろあるからな」

 

 俺の言葉に、丸代は少しだけ安心したように頷いた。

 

「あの、翼君」

 

 今度は郁が、遠慮がちに声をかけてきた。

 

「ネットで名前が出てるの、見ました。大丈夫ですか」

「大丈夫だ。慣れてるから」

「……ぼくんち冒険たいのこと、いろいろ書かれてますよね」

 

 郁の声が、少しだけ低くなった。

 

「翼君にとって、あの曲がどういうものか知ってるので……なんか、心配で」

「気にしてくれてるのか」

「当たり前じゃないですか」

 

 郁はまっすぐ俺を見ていた。

 遠慮がちな声とは裏腹に、視線だけが真剣だった。

 

「翼君が平気なふりをしてるのは、わかってるつもりです。でも、本当につらかったら言ってください」

 

 三人とも、俺のことを心配してくれている。

 それが、妙に嬉しかった。

 

 芸能界にいた頃は、こんな風に心配してくれる人間なんていなかった。

 利用価値があるから近づいてくる。

 それが当たり前だった。

 

 でも、今は違う。

 梨夢も、丸代も、郁も、本当に俺のことを心配してくれている。

 

「ありがとな。三人とも」

 

 俺がそう言うと、三人は嬉しそうに笑った。

 

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