とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います) 作:サニキ リオ
あたしの名前は羽田朝香。
つい先日、幼馴染に遠回しに振られた天才女優だ。
そう、あたしは翼に振られた。
『もう二度と、お前に付き合ってくれなんて言わないから安心してくれ』
別に告白をしたわけではないが、あれはもう振られたのと一緒だ。
精神的にはボロボロだったが、それを差し引いてもプラスと言っていい出来事もあった。
翼が演技の世界に戻ってきた。
その事実だけで、心に受けた致命傷もすぐに回復した。
また翼と演じることができる。
しかも、事務所まで同じだ。
これはもう、神様があたしと翼をくっつけに来ていると言っても過言じゃないだろう。
「お疲れ様でー……す」
ミセスドーナツのCMを取り終えて事務所に戻ると、学校の宿題に取りかかっている翼がいた。
「えー……っと」
しまった。なんて声をかけていいかわからない。
ここ最近、あたしもCM撮影で忙しかったし、翼もバラエティに引っ張りだこだった。
スケジュールが合わないため、こうしてばったり会えたチャンスを不意にはしたくない。ないのだが……。
「……飲み物買ってこよーっと」
結局、あたしは翼の宿題が終わるのを、紅茶を飲みながら待つことにした。
それから、他愛もない話をしている内にナイトプロの社長であり、あたしの叔父であるナイト兄さんがやってきた。
それからあたしたちは、応接室で話を聞くことになった。
「そろそろドラマの現場に出たいんじゃないかい?」
その言葉だけで理解した。
ついに、翼へドラマ出演のオファーが来たのだと。
「ドラマ〝西遊記〟。孫悟空役のオファーが来ている」
「なっ、孫悟空って主役じゃないですか!?」
ただその内容はあまりにも予想外のものだった。
「ナイト兄さ――社長。翼が悟空役って本当ですか!?」
だって、西遊記は元々あたしにも来ていた話だったのだ。
ナイト兄さんが翼にオファーの話をするのにあたしを呼んだのは、翼と共演することになるからだろう。
あたしへのオファーは、三蔵法師役。
孫悟空は誰になるのかと思っていたが、まさか同じ事務所の人間にオファーがいくとは思っていなかったのだ。
特に西遊記は日本国内のドラマの中でも大型の企画だ。
特定の事務所に偏ることなど、普通はないはずだった。
ナイト兄さん、かなり頑張って翼の仕事をもぎ取ってきたんだろうなぁ。
「今回は、原作からはかなりの改変が入っているらしくて、演じるのは難しいがやるかい?」
「もちろんです!」
もちろん、そんな事情を知らない翼は降って沸いたチャンスに飛びついた。
「三蔵法師はあたしだからね。しっかりしてよね、猿」
「猿って呼ぶのはどっちかというと信長だろ」
昔のような軽口を叩くと、気持ちが高揚する。
ああ、神様ありがとう。
翼とドラマのレギュラーで共演できるなんて夢みたいだ。
「そうだ、社長。原作からかなりの改変があるって、どんなのなんですか?」
「沙悟浄が女性になっていて、悟空との恋愛描写があるとは聞いてるよ」
「あっはっは! 脚本家さん大胆ですね!」
待って、待って待って。
沙悟浄が女キャラ? しかも、孫悟空との恋愛描写?
三蔵法師は女性が演じるのが恒例だが、作中で女性という設定なわけではない。
師であり、仲間。
強い信頼関係はあるが、恋愛とは結びつくことはない。
そして、翼の相方役となるのは女体化した沙悟浄。
こっちは設定で女性になっている上に、恋愛描写がある……。
「み゛」