とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第60話 顔合わせ

 本読みの会場は、制作会社のビルの会議室だった。

 エレベーターを降りると、廊下の奥にスタッフが数人固まっているのが見えた。ドアの前で資料を確認している人間、内線で話している人間。

 

 それぞれが別のことをしているのに、全体の動きがひとつの方向に向いている。

 そんな中、俺と朝香は早めに着いた。

 

「緊張してる?」

 

 隣を歩く朝香が小声で聞いてくる。

 

「いいや、わくわくしてる」

「でしょうね。珍しく顔に出てるわ」

 

 心底楽しそうに朝香が笑う。

 ハリウッドや大河ドラマを経験したとはいえ、朝香もわくわくしているのだろう。

 

 何せ、西遊記だ。

 大ヒットの可能性のある作品になるのは、これまでのシリーズからも明らかだ。

 プレッシャーも大きいが、それすらも心を高揚させる薪になっていた。

 

 会議室に入ると、長テーブルが中央に据えられ、両側に椅子が並んでいた。

 壁際に台本の束が積まれていて、ホワイトボードには撮影スケジュールの骨子が書き出されている。

 

「三蔵法師役を務めさせていただきます。ナイトプロ所属、羽田朝香です。よろしくお願いいたします」

「同じくナイトプロ所属、伽須翼です。孫悟空役を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」

「やあ、二人とも早いね!」

「南風原さん。プライベート・AIのときはお世話になりました」

「お世話になったのはこっちだよー! あのときは本当に助かったよ!」

 

 ドラマ西遊記のプロデューサーは南風原さんだった。

 プロデューサーはキャスティング権を握っている。

 俺が主演に抜擢されたのも、プライベート・AIでの演技を見てもらえたことが大きいのだろう。

 

「南風原さん。またよろしくお願いいたします」

「朝香ちゃんもスケジュール詰め詰めなのに受けてくれてありがとね!」

 

 そういえば、朝香はCM撮影や別現場の撮影が詰まっていた。

 西遊記のロケはスケジュール的に大丈夫なのだろうか。

 

 いや、大丈夫なのだろう。

 何せ、社長夫人でマネージャーの愛夏さんは敏腕だ。

 そもそもナイトプロだって、子役としての売り方をやめる朝香を次のステージに連れて行くために作られたようなものだからな。

 

「どうしても受けたかったので、マネージャーには無理を言って調整してもらいました」

「監督も脚本も凄腕だから後悔しないと誓うよ」

 

 朝香相手にここまで言えるとは相当な自信である。

 そして、その自信を裏付ける二人が席についていた。 

 

「その凄腕の二人。監督の五木透泉さん、脚本の高杉氷花さんだよ」

 

 そこには五十代の厳つい顔つきの男性と、柔らかい雰囲気を纏った女性がいた。

 監督の五木さんは〝週末妻は女子高生に戻る〟の監督を務め、脚本の高杉さんはプライベート・AIの脚本を担当していたはずだ。

 

「監督の五木だ。よろしく頼む」

「どうもぉ。脚本の高杉です。みんな、よろしくねぇ」

 

 どちらも世間的には大ヒットしているので、期待も大きいのは当然だ。

 五木さんは、昔ながらの厳しいタイプ。

 高杉さんは、緩めのフレンドリーなタイプ。

 

 癖は強いが、腕は確かな二人だ。

 

「やー、どうもどうも!」

 

 挨拶をしていると、がたいの良い中年男性がやってきた。

 こりゃまたとんでもない人が来たな……。

 

渡貫(わたぬき)興行所属、猪八戒役の伊本当(いもとあたる)。ただいま、参上いたしました!」

「おー! いもっちゃん!」

「南風原ちゃん、ご無沙汰だね!」

 

 伊本当。

 名司会と呼び声高いベテランお笑い芸人だ。

 元はコンビで活動していたが、今は司会業をメインに活動している。

 若い頃は体当たり企画に挑戦していて、現在もたまにバラエティで身体を張ることもある。

 この人なら、猪八戒としてのアクションにも期待はできるだろう。

 

「伊本さん、ご無沙汰しています」

「おー、翼君! 大きくなったねぇ!」

 

 そして、俺と伊本さんには面識がある。

 一回だけだが、ドラマの番宣で彼が司会を務める番組にゲスト出演したことがあったのだ。

 

「いやぁ、君と共演できる日が来るなんて感動だなぁ」

「こちらこそ、光栄です!」

 

 芸能界にいると、大物芸能人の悪い話はよく回ってくるが、この人に関しては現場のスタッフ、若手芸人みんなから尊敬されている話しか出てこない。

 マイナスの話といえば、過去に不祥事を起こした相方との不仲説が流れたくらいだろうか。

 

「伊本さん。先日はお世話になりました」

「朝香ちゃん、この前はどうもねー。こちらこそ、助かったよ! あと、娘へのサイン、ありがとね」

「いえいえ、そんな……光栄ですよ」

 

 そういえば、伊本さんの娘が朝香の大ファンだって、この前バラエティで話してたな。

 こういうファンサも欠かさない辺り、さすが朝香である。

 次々と関係者がやってくる中、残りの席がほぼ埋まったころにドアが開いた。

 

「お疲れ様ですー」

 

 空気が一気に華やかになった。

 入ってきたのは、身長百七十センチを超える長身の女子だった。

 明るい茶髪を揺らしながら、監督たちへ向かって軽く挨拶を終えると、今度はキャストへ向かって挨拶をした。

 

「沙悟浄役を務めさせていただきます。スターメイクプロダクション所属、斎藤ルナですー。よろしくおねがいしますー」

 

 人気アイドルグループ〝ECHO DOLPHIN(エコードルフィン)〟、通称エコドルのセンター、斎藤ルナ。

 俺の黒歴史である〝ぼくんち冒険〟を再ブレイクさせた元凶でもある。

 

 ルナは着席してから、改めてテーブルを見渡す。

 朝香に目が止まった瞬間、表情が変わった。

 

「朝ちゃん! この前のドラマぶりー!」

「声がデカい」

「あ、ごめーん」

 

 朝香が短く言うと、ルナは口元を押さえたが、目は笑ったままだ。

 朝香との距離感が、他のキャストとは明らかに違う。

 

「まさか西遊記で一緒になるとはねー」

「こっちも驚いたわ」

「三蔵法師と沙悟浄か。なんか変な感じ」

「あなたが沙悟浄なのは確かに想像しにくいわね」

「そりゃそうだよー。最近、女体化流行ってるから、その流れかねー」

 

 ルナは笑ってから、視線をこちらへ滑らせた。

 

「やー、翼君。今回はよろしくねー」

「はじめまして。孫悟空役の伽須翼です。よろしくお願いします」

「お?」

 

 何故か、俺の挨拶にルナはピシリと固まる。

 なんだ、何かミスったのか?

 

「どうかしましたか?」

「ううん。同い年なのに堅すぎてビックリしちゃっただけー」

「あー、すまん。初対面のときはつい癖でな」

「気にしないでいいよー」

 

 しかし、悟空からの矢印はないとはいえ、この顔面つよつよアイドルとの恋愛描写とは……ファンから燃やされたりしないだろうか。

 昨今、アイドルのガチ恋勢の暴れ方は凄まじいものがあるから少しだけ心配だ。

 

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