とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第61話 本読み

 それからしばらくして、本読みが始まった。

 ドラマ西遊記。

 沙悟浄の女体化が一番目立つが、それ以外にも原作と違う点が多く存在する。

 

「なあ、八戒さん。なんで徒歩で天竺目指さなきゃいけねぇんだよ。俺の筋斗雲でひとっ飛びだろうが」

「お師匠さんが飛べないからねぇ。ま、一歩一歩道を大地を踏みしめるのも乙なものじゃないかい」

『三蔵法師。歩みを止めず、錫杖を強く握りしめる』

 

 それは孫悟空が一番弟子ではなく、猪八戒が一番弟子という設定だ。

 そして、何より違うのがここからだ。

 

「おい玄奘! 今から仙術修行して飛べるようになったほうが早ぇんじゃねぇのか?」

 

 孫悟空の三蔵法師に対する態度だ。

 玄奘は三蔵法師の戒名であって本名ではないが、このドラマでは本名という扱いになっている。

 師匠である三蔵法師をその名で呼ぶということは、悟空が三蔵法師に対して敬意をまったく持っていないということだ。

 

「悟空」

 

 ぞくりと背筋に悪寒が走る。

 ただ名前を呼んだだけだというのに、朝香が口を開いた瞬間、辺りの景色が舞台である砂漠に変わったように見えた。

 

「師に向かって、その態度はなんですか」

『振り向き錫杖を構える三蔵法師』

 

 本読みでも様子見はなしかよ……!

 

 朝香が口を開いてから、室内の空気が変わっていた。

 

 声を荒げたわけじゃない。

 怒鳴ったわけでもない。

 錫杖を構えた三蔵法師が、そこにいた。

 

 あたしと共演するなら、このくらいはやってみせろ。

 演技を通して、この場にいる全員にそう語りかけているようだった。

 気づいたら、俺は台本を丸めて如意棒のように肩へ担いでいた。

 

「……はっ」

 

 息を一つ吐いてから、悟空として朝香を見る。

 師への敬意も、従う気もない。

 

 それでも、目の前の人間を〝邪魔〟とは思っていない。

 その感情を乗せて含みのある言葉を吐く。 

 

「これはこれは、失礼いたしました……三蔵法師様?」

 

 台本通りのセリフでありがなら、声の重さは変えている。

 

『悟空、三蔵法師を一瞥してから足早に先へ進む』

「……っ」

 

 近くで待機していたルナが小さく息を飲む音がした。

 台本を持つ手が、わずかに止まっている。

 伊本さんが口元に手を当てて、テーブルの上に視線を落とした。

 

「よくわかりました」

 

 朝香がもう一度、口を開く。

 そこには諦めにも近い感情が乗っていた。

 

「行きましょう、八戒。あまり休憩していると、どこかの不敬猿に呆れられてしまいます」

「はっはっは、そうしましょうか。では、天竺を目指して出発!」

 

 緊張した空気を八戒役の伊本さんが良い感じに弛緩させる。

 

「はい、カット……そしたら、一旦休憩しましょうか」

 

 それからも休憩を挟みつつ、本読みは恙なく進行した。

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