とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第64話 悟空と牛魔王

 ドラマ西遊記の撮影がついに始まった。

 主要キャストのスケジュールを一度に揃えるのは、最初から無理だとわかっていた。

 

 朝香は別ドラマの撮影が佳境で、週に三日は別現場に入っていて、それ以外はCM撮影がぎっちぎちに詰まっている。

 

 伊本さんはバラエティの収録とMC業が立て込んでいて、まとまった時間がなかなか取れない。

 

 ルナに至っては、ライブツアーと並行しての参加になっていた。

 

 だから、撮れるシーンから撮る。

 それがドラマ西遊記の撮影方針だった。

 

 最初にスタジオ入りしたのは、俺一人だった。

 設けられた撮影スペースは、天井が高く、広い。

 作りこまれたセットの中で、スタッフが照明の角度を細かく調整している。

 

「翼君、おはよう」

 

 南風原さんが手を振りながら近づいてきた。

 

「おはようございます。今日は一話のシーンですよね」

「うん。一話中盤、悟空と牛魔王の会話シーンさ。ここは1話の肝だからしっかり頼むよ」

 

 このドラマにおける牛魔王も原作とは多少設定に捻りが加えられている。

 国を焼き払い人々を苦しめている妖怪。

 国王からその正体が牛魔王と聞いたとき、悟空はその事実を受け入れることができず単独で牛魔王の根城である積雷山へ向かう。

 

 牛魔王はかつて悟空が兄のように慕っていた妖怪で、弱い妖怪を守るために共に戦った仲間だった。

 その男が今は人間を苦しめる悪の妖怪に堕ちている。

 悟空がその理由を問い詰める、一話の核になるシーンだ。

 

 牛魔王役は、井田寛さん。

 つくづくこの人とは縁がある。

 

 着替えを済ませて、スタジオの中央に立つ。

 如意棒を受け取って、重さを確かめる。

 特注で俺専用に作られたこともあって、手に吸い付くように馴染んだ。

 

「翼君、準備できたら声かけてくれ」

「はい!」

 

 五木監督が椅子に座って、モニターを見ている。

 その横で高杉さんがコーヒーを飲みながら台本を開いていた。

 

 しばらくして、重厚な足音が近づいてきた。

 

「よう、翼」

 

 振り返ると、井田さんが衣装をまとって立っていた。

 牛魔王の衣装は重厚で、体格のいい井田さんが身につけると圧が違う。

 

「井田さん、おはようございます」

「おはよう。今日はよろしく頼むな」

 

 プライベート・AIの現場以来だ。

 あのときは連行する刑事役だったが、今日は悟空が慕った兄貴役だ。

 俺にとって代表作である〝蛙の子は帰る〟では親子役をやった井田さんが兄貴分である牛魔王役をやるとは、なかなか感慨深いものがある。

 

「翼。プライベート・AIの演技は本当に良かった」

「ありがとうございます」

「今日もアレを期待していいよな?」

 

 井田さんは少しだけ目を細めた。

 

「もちろんです。俺も成長してますから!」

「ははっ、そいつは楽しみだ!」

 

 井田さんは心から楽しそうに笑った。

 

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