とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第89話 新学期のはじまり

 すっきりとした気持ちで迎えた新学期。

 夏休みは撮影と役作りで忙殺されたこともあり、夏休みの宿題の処理が中々に地獄だった。

 

「翼君! 久しぶり!」

「西遊記の悟空役ってすごいね!」

「棒術できるの!?」

 

 久しぶりに学校に行くと、クラスメイトたちに囲まれた。

 ドラマ西遊記の放送も始まり、ネットでも話題になっていた。

 キービジュアルでは、俺と朝香が並んでいる後ろで伊本さんが笑っている感じで三蔵法師一行の空気感を出している。

 そして、沙悟浄については記載がなく、キャストの一覧では〝謎の女:斎藤ルナ〟となっていた。

 一話の引きでルナが沙悟浄と名乗るところで視聴者を引き込みたいという意図があるのだろう。

 

 まあ、さすがに沙悟浄の表記がない時点で気づいている人もいるだろうが、ドラマ西遊記の歴史の中でも悟浄が女体化されたことはないため、一話のゲストキャラと思われるミスリードにもなっている。

 

 案の定、引っかかっている人も多かった。

 

「えっと……」

「みんな、おはよう」

 

 何から答えに詰まっていると、後ろから髪をかき上げながら朝香がやってきた。

 ただの登校してきただけなのに、絵になるのはさすがである。

 

「翼と一緒に西遊記に出てるから、みんな見てね」

「見てるよ!」

「三蔵法師役ってすごいね、朝香ちゃん!」

「他校の友達に自慢する!」

 

 その一言で教室に歓声が溢れる。

 サラッと視線を自分に集めて群がってきたクラスメイトの対応をしてくれた。

 朝香に視線を向けると、一瞬だけ俺を見てウィンクしてくる。

 あっぶな。惚れ直すところだったわ。

 

「バッサー! 西遊記だったんだね!」

 

 対応を任せて自分の席に着くと、梨夢が駆け寄ってきた。

 

「そうだろうなぁとは思ってたけど、本当に悟空役なんだね」

 

 隣の席の丸代も会話に加わってくる。

 特に丸代には役作りをする中で世話になった。

 その結果、制御不能な高品質悟空が生まれてしまったのだが。

 

「二人ともありがとな。おかげで孫悟空をちゃんと演じられるよ。あと、郁もな」

「へ? 私ですか?」

 

 さりげなく、俺たちの傍にやってきていた郁にも礼を述べる。

 

「撮影中、役に入り込みすぎたときも郁の言ってた〝パブリックイメージの猿らしさ〟のおかげで表現力を失わずに済んだ」

 

 俺の作った孫悟空はそこにいる存在としてリアルすぎた。

 ただそれでも、ドラマの画として成り立っていたのは、染みついたテクニカル・アクティングを無意識の内に混ぜ込むことに成功していたからだ。

 役作りの段階で、わかりやすい〝パブリックイメージの猿らしさ〟を練り込んだおかげだろう。

 

「なんだかプロにそう言われると照れますね」

 

 俺の言葉に郁は照れくさそうにはにかんだ。

 

「なるほど、そういうことだったのね」

「悪いな、朝香。クラスメイトの対応させちゃって」

「こういうのも仕事の内よ」

 

 なんでもないことのように告げると、朝香はさりげなく俺の目の前の位置にしゃがんで話し始めた。

 

「翼の役作りがやけに完璧だったから気になってたの。あなたたちのおかげだったわけね」

「はわわわっ、あ、朝香さん。本物です……!」

「四月からずっと同じクラスだったじゃない」

 

 スマホのバイブの如く震えだした郁に、朝香が苦笑する。

 

「や、朝香ちゃんずっと学校来なかったじゃん」

「来てたわよ。これでもちゃんと学業と両立してるんだけど」

「えっと、学校だと本名の田中さんって呼んだ方がいいかな?」

「別に好きなほうで呼べばいいじゃない」

 

 梨夢と丸代に対して、朝香はやけにドライな対応をする。

 

「なんか、朝香って郁のこと気に入ってるのか?」

 

 郁に対してだけは、雰囲気が柔らかくなっている気がした。

 

「そうね。一見、自分がないように見えて、しっかりと芯がある。あと、何より顔とスタイルがいいもの」

「芸能人的評価すぎるだろ……」

 

 朝香は昔からこういうところがある。

 なんというか、人を見ているというよりも、その人のパラメーターを好きになっているというか……。

 

「きょ、恐縮です……!」

「ねぇ、なんならうちの事務所のモデル部門にこない?」

「おいこら、さりげなくスカウトするな」

 

 そりゃ他の事務所に比べれば、ナイトプロは安心ではある。

 とはいえ、普通の友達をあまり芸能界に巻き込みたくないというのが正直なところだった。

 

「こんなダイヤの原石放っておくなんてもったいないじゃない」

「お前が磨くわけじゃないだろ」

「いいじゃない。ちょっと話をするくらいなら、ね?」

「ね、じゃねぇよ。あんなドロドロした世界に友達を連れて行けるか」

「あたしたちで守ればいいじゃない」

「どうやって俳優部門のタレントの俺たちが郁を守るんだよ」

 

 話している内に、お互いヒートアップしてくる。

 ここは、俺が防波堤にならなければいけない。

 何せ朝香の目は郁の才能を見て、ギラギラと光っていたからだ。

 

「なんか、二人って思ったより仲良い感じ?」

「……これが素の朝香さん……ネタになるかも」

「あ、あのぉ、そろそろホームルーム始まりますけど……」

 

 結局、俺と朝香の口論は先生が入ってくるまで続いた。

 

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