とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

9 / 54
第9話 どうせ、いつか裏切られる

 それから一ヶ月が経った。鹿角のU-tubeアカウントは、少しずつ反応が増えていった。

 最初は二十人だったフォロワーが、五十人、百人と増えていった。

 

【推しが尊いときのオタクの反応】

【アニメで原作の好きなシーンがカットされたときの絶望】

【推しの誕生日を祝うオタクの本気度】

 

 ギャルがオタク心を全力で演じる動画は、じわじわと共感を呼んでいた。

 コメント欄にも、ポツポツと好意的な言葉が並び始めている。

 

「バッサー、見て見て! コメントもらえるようになった!」

 

 休み時間、鹿角は嬉しそうにスマホを見せてきた。

 

「わかるとか、これ俺じゃんとか、共感してくれる人がいるの!」

「良かったな」

「フォロワーも三桁いったんだよ! これ結構すごいって!」

「おお! やるじゃん」

「これもバッサーのおかげだよ! ありがとう!」

「俺は少しアドバイスしただけだ。頑張ったのは鹿角だろ」

「バッサーがいなかったら、ここまで来れなかったよ」

 

 鹿角は嬉しそうに笑う。

 その笑顔を見て、俺も少しだけ嬉しくなった。

 芸能界での経験が、こんな形で誰かの役に立つなんて思ってもみなかった。

 演技指導。かつて厳しく指導されたことを、今度は俺が誰かに教えている。

 不思議な気分だった。

 

 とはいえ、この関係もこれまでだ。

 俺は鹿角に演技を教えた。

 鹿角は喜んでくれた。それでおしまい。

 

 別に、友達になったわけじゃない。

 鹿角は明るくて、誰とでも仲良くなれるタイプだ。

 俺に話しかけてくれるのも、その延長線上にあるだけ。

 特別な関係じゃない。

 

「あ、そうだ! バッサー!」

 

 鹿角が何かを思い出したように手を叩く。

 

「今度、クラスのみんなでカラオケ行くんだけど、バッサーも来ない?」

「遠慮しておく」

 

 考える前に即答していた。

 

「えー、なんで? せっかくだし、みんなで行こうよ!」

「俺、そういうの苦手だから」

 

 鹿角は少し残念そうに眉を下げたが、すぐに笑顔を取り戻した。

 

「そっか。無理強いはしないよ。でも、気が向いたら声かけてね!」

 

 笑った拍子に、金髪の奥から青がはっきりと覗いた。

 前より、その色がずっと近くに感じられた気がする。

 

 鹿角は軽く手を振って、友達の輪の中に戻っていく。

 俺は一人、窓際の席に残される。

 

 鹿角は良い奴だと思う。

 でも、それ以上踏み込むつもりはない。

 それと同時に、胸の奥に小さな疑問が残る。

 鹿角は俺が元子役だと知っても、それを言いふらして話題のタネにしようとはしなかった。

 

 鹿角は大衆とは違う。

 そんな期待を振り払うように、俺は頭を振った。

 考えても意味がない。

 

 どうせ、いつか裏切られる。期待するだけ無駄だ。

 

 そう思いながら、俺は鹿角を眺めた。グループの中心で、鹿角たちが笑っている。

 あの輪の中に入る気はない。

 

「……まあ、映画くらいはまた行ってもいいかもな」

 

 小さく呟いて、俺は教科書を開いた。

 友達はいらない。

 

 でも、鹿角となら映画を見て、感想を語り合うくらいなら悪くないかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。