それから一ヶ月が経った。鹿角のU-tubeアカウントは、少しずつ反応が増えていった。
最初は二十人だったフォロワーが、五十人、百人と増えていった。
【推しが尊いときのオタクの反応】
【アニメで原作の好きなシーンがカットされたときの絶望】
【推しの誕生日を祝うオタクの本気度】
ギャルがオタク心を全力で演じる動画は、じわじわと共感を呼んでいた。
コメント欄にも、ポツポツと好意的な言葉が並び始めている。
「バッサー、見て見て! コメントもらえるようになった!」
休み時間、鹿角は嬉しそうにスマホを見せてきた。
「わかるとか、これ俺じゃんとか、共感してくれる人がいるの!」
「良かったな」
「フォロワーも三桁いったんだよ! これ結構すごいって!」
「おお! やるじゃん」
「これもバッサーのおかげだよ! ありがとう!」
「俺は少しアドバイスしただけだ。頑張ったのは鹿角だろ」
「バッサーがいなかったら、ここまで来れなかったよ」
鹿角は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、俺も少しだけ嬉しくなった。
芸能界での経験が、こんな形で誰かの役に立つなんて思ってもみなかった。
演技指導。かつて厳しく指導されたことを、今度は俺が誰かに教えている。
不思議な気分だった。
とはいえ、この関係もこれまでだ。
俺は鹿角に演技を教えた。
鹿角は喜んでくれた。それでおしまい。
別に、友達になったわけじゃない。
鹿角は明るくて、誰とでも仲良くなれるタイプだ。
俺に話しかけてくれるのも、その延長線上にあるだけ。
特別な関係じゃない。
「あ、そうだ! バッサー!」
鹿角が何かを思い出したように手を叩く。
「今度、クラスのみんなでカラオケ行くんだけど、バッサーも来ない?」
「遠慮しておく」
考える前に即答していた。
「えー、なんで? せっかくだし、みんなで行こうよ!」
「俺、そういうの苦手だから」
鹿角は少し残念そうに眉を下げたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「そっか。無理強いはしないよ。でも、気が向いたら声かけてね!」
笑った拍子に、金髪の奥から青がはっきりと覗いた。
前より、その色がずっと近くに感じられた気がする。
鹿角は軽く手を振って、友達の輪の中に戻っていく。
俺は一人、窓際の席に残される。
鹿角は良い奴だと思う。
でも、それ以上踏み込むつもりはない。
それと同時に、胸の奥に小さな疑問が残る。
鹿角は俺が元子役だと知っても、それを言いふらして話題のタネにしようとはしなかった。
鹿角は大衆とは違う。
そんな期待を振り払うように、俺は頭を振った。
考えても意味がない。
どうせ、いつか裏切られる。期待するだけ無駄だ。
そう思いながら、俺は鹿角を眺めた。グループの中心で、鹿角たちが笑っている。
あの輪の中に入る気はない。
「……まあ、映画くらいはまた行ってもいいかもな」
小さく呟いて、俺は教科書を開いた。
友達はいらない。
でも、鹿角となら映画を見て、感想を語り合うくらいなら悪くないかもしれない。