収録が終わったのは、夜の九時を回った頃だった。
出演者用の控室を出て、廊下を歩きながらスマホを確認する。
メッセージの通知が溜まっていた。
事務所からの連絡、スケジュールの確認、いくつかのSNSの通知。
その中に、ナイトプロのグループRINEの通知が混じっていた。
開くより先に、マネージャーの愛夏姉さんが隣に並んできた。
「朝香。少し話せる?」
声のトーンが、いつもと違った。
収録を終えた後の疲れた顔ではなく、何かを測っている顔だった。
「ええ。大丈夫よ」
「ルナちゃんのこと、聞いた?」
あたしは足を止めた。
「何かあったの?」
「SNSで騒ぎになってるわ。アンチらしき裏垢で、すっぴん写真が晒されたみたいなの」
愛夏姉さんは言葉を選んでから続けた。
「その、書き込みがかなりひどい内容で」
「……スターメイクは動いてるの」
「公式はまだ様子見ってところ」
ルナが人並み以上にすっぴんを見られることを嫌っているのは、よく知っている。
これでも、ベビーカーの頃からの付き合いだ。
あの子の素顔を知った誰かの嫉妬による嫌がらせだろう。
芸能人ならよくある話だ。
ルナの顔はすっぴんでも可愛い。
荒れているというのも、それを晒した人間への批判だろう。
お母さん譲りの三白眼とソバカスは、あたしに言わせてみればチャーミングポイントでしかない。
むしろ、メイクして隠すのがもったいないくらいである。
まあ、可愛すぎるのも考え物だし、正しい判断だったのかもしれない。
「ルナの様子は?」
「斎藤先輩に聞いたけど、家では普通にしてるみたい。ただ無理をしてるのはわかるって言ってた」
あたしの両親と同じで、愛夏姉さんもルナのお父さんとは同じ高校に通っていた。
こういうとき、家族ぐるみの幼馴染ネットワークは便利だ。
「朝香。今度会いに行ってあげて」
「えー……そんな大袈裟な」
実際のところ、あたしとルナは仲が良いわけじゃない。
幼馴染としてあたしの隣に立ち続けたルナは、いつだってあたしと比較をされてきた。
だから、飄々とした態度をとりながら、いつもあたしを睨んできていた。
あたしがやったことはすぐに真似して、あたしが持っているものは何でも欲しがった。
それは対抗心から来るものだったのだろう。
「そんなことないでしょ。あの子、昔から朝香のこと大好きだもの」
「はぁ……わかった。とりあえず、今度のオフにでも顔を出すわ」
愛夏姉さんにはそう告げて、スマホを開いて調べてみる。
どうせ、大したことじゃない。
そう思って開いたルナ関連の投稿を見て、あたしは絶句した。
[ぶっさ、ファンクラブ抜けるわ]
[所詮メイク落としたらアイドルなんてこんなもん]
[メイクしたところで大して可愛くはなかったろ]
[運営のお気に入りでごり押しされてたもんな]
[実力ないブスが出しゃばるなよ]
[これは枕やってなきゃ仕事取れないわ]
[こんなのに金注ぎ込むキモオタwwwww]
言葉の質が全部同じだった。
ただ叩きたいだけのファンですらない外野の人間。
碌な人生を送っていない暇人共が、ルナへ向かって言葉の暴力を振るっていた。
「み゛」