ルナは一時的に立て直すことはできたが、問題が解決したわけではない。
西遊記に出演するという話題性によってルナへ集まった関心は、興味から悪意へと変わってルナを苦しめている。
「というわけで、作戦会議をしようと思う」
「さすがに、それは私の問題だと思うよー?」
「まったくね。自分の問題は自分でなんとかするべきよ」
撮影終了後に集まったカラオケボックスで、俺たちは顔を突き合わせて話をしていた。
「うまくいけば、作品のクオリティアップにも繋がって、共演者の炎上をそのままプラスの話題性へと転換できる」
「さすがは座長ね。やりましょうか」
「ちょ、ちょろー……」
即オチ二コマの如く、手のひら返しを決めた朝香にルナは引いていた。
「でもさー、朱代のバカが裏垢使ってアンチ行為してたーって証拠はないんだよー?」
「それに、その子を断罪できたとしてもエコドルの評判自体が下がってルナにもマイナスになるわ」
二人の意見は最もだ。
仮に開示請求をしたとしても、それが明かされることになるのはかなり先になる。
そして、犯人が明かされたところでルナも巻き添えをくらうことになってしまう。
「方法は一つだ。ルナの演技力を磨く」
「いやいや、私に演技力は求められてないんだけどー」
ドラマ西遊記にルナがキャスティングされたのは、沙悟浄の役割と本人の役を食って自分が前に出るという性質が噛み合っていたからだ。
そこを崩すということは、ルナ自身の今後にも関わってくることだろう。
「もちろん、本番で勝手にやれば問題になる。五木監督が自然とルナに可能性を見出してくれればいい」
「演技の練習って名目で伊本さんも巻き込んで、休憩中に寸劇をやりまくるってところからしら?」
「さすが朝香。察しがいいな」
ルナの女優としての新たな一面。
それが想像以上に、役と合致していた場合、五木監督なら絶対に使う。
撮影中の事故にも関わらず、滝に飛び込んだ俺の映像を使うと決めた人だ。
「俺の事故映像だけじゃない。五木監督は、溺れた俺を助けるルナの映像も使う気満々だ。まともな人間ならそんなこと絶対にしない」
「言われてみれば……」
傑作を撮るためなら、人の道をも外れる狂気。
昨今のコンプラ社会で丸くなったとはいえ、あの人の本質は変わっていない。
「決まりね。RINEで伊本さんにも共有して、さっそく次の現場からやってきましょ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あんたらに加えて伊本さんレベルの演技についてけるわけないじゃん!」
決定の方向で話が進みそうだったが、当のルナが意を唱えた。
「何言ってんだ。演技が下手なんてとんでもない話じゃないか。お前、毎日四六時中〝斎藤ルナ〟を演じてたんだからな」
「そりゃまあ、アイドルですから」
あっさりと言った。
隠す気がないのか、それとも隠す必要がないと思っているのか。
「その演技力があれば、斎藤ルナじゃない沙悟浄だって演じられるだろ」
「バカ言わないで」
あからさまな挑発の言葉に、ルナの声が硬くなった。
「演じられるのは斎藤ルナだけ。私に多彩な役を演じる才能はない」
悔しそうに、歯を噛む。
「だから、そういう感情を使う演技は苦手なんだ」
まるで、やってみた上でそう言っている言い方だ。
前から思っていたが、ルナはやけに芝居に関する専門用語を自然に使う。
「ルナ。お前、昔は子役やってただろ」
「えっ、翼? 今更、何言ってるの」
俺の言葉に驚いたように反応したのは朝香のほうだった。
「何って、今までのやり取りからルナは子役からの演技経験者だって――」
「そうじゃなくて。ルナも同じ劇団クロッカス出身じゃない」
「は?」
「相変わらず、朝香のこと以外眼中になし。ムカつくなぁ」
その一言で、記憶が刺激される。
三白眼とソバカス。
運動神経抜群で、俺と同様にテクニカル・アクティングを得意としていた人物の姿が頭に思い浮かぶ。
「もしかして、お前――鳴か!?」
「思い出すのが、遅いっての」
かつて、俺と同期で飛び抜けた演技力を持っていたライバル、