とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第98話 田中朝香としての一面

 肝心の俺の演技問題も解決しなければいけないこともあり、俺たちは仕事がないときは積極的に集まることにした。

 もちろん、三人でしょっちゅうカラオケに集まるわけにもいかず、場所の確保には苦労した。

 放課後、校門を出たところで声をかけられた。

 

「やっほー」

 

 振り返ると、キャップとマスクで顔の大半を隠した人間が立っていた。

 

「その声はル――鳴か」

 

 咄嗟に昔の芸名で名前を呼ぶ。

 こんなところに炎上中の人気アイドルがいるとわかれば大騒ぎだ。

 

「正解ー」

 

 ルナはマスクの上から目だけで笑う。

 

「遅いわよ。翼」

 

 気づくと、朝香が少し離れた場所に立っていた。

 腕を組んで、どこか面倒そうな顔をしている。

 

「今日の特訓場所だけど、私の家ってのはどう?」

「ナイトプロの稽古場じゃダメなのか」

「いや、他事務所のタレントが出入りしたらそれこそスキャンダルの元じゃーん」

「すまん、迂闊だった」

 

 どうにもナイトプロは事務所感がないから、その辺の意識が薄くなっちゃうんだよなぁ。

 あのビルが騎志社長の自宅でもあるのもいけないと思うけど。

 

「とりま、亀戸までいこっかー」

 

 それから、俺たちは亀戸にあるルナの家まで向かった。

 

「まさか、はじめて遊びに行ったのがアイドルの家になるとはな……」

 

 昔から稽古ばっかりだったこともあり、友人らしい友人はまるでいなかった。

 だから、誰かの家に遊びに行くという経験を俺はしたことがなかった。

 

「つ、翼がはじめて家に上がったのがルナの家……み゛」

「ほーら、早く上がってー」

 

 ルナの家は亀戸にあるタワーマンションだった。

 さすがは人気アイドルグループのセンター。

 稼いでる人間は、住んでいる場所もいいのだろう。

 

 リビングに通されると、ラフな格好をした高身長の男性がいた。

 

「ただいまー、お父さん。今日、朝香ともう一人友達連れてきたからー」

「おかえり。配信は夜からだから気にせず騒いでいいぞ」

 

 どうやら、ルナの父親だったようだ。

 ……男の俺がいても大丈夫なのだろうか。

 

「はじめまして、元劇団クロッカス所属の凪野翼です。今は伽須翼という名前で俳優をしています」

「おお! 翼君じゃん!」

 

 ルナのお父さんは俺を見た瞬間、興奮したように駆け寄ってきた。

 

「いやぁ、またドラマで演技が見れるなんてテンション上がるよなぁ! 応援してるから頑張ってくれよ!」

「えっ、あ、はい……」

 

 想像以上に受け入れられていたことで、対応に困ってしまう。

 助けを求めるように朝香へと視線を向けると、朝香は苦笑しながら告げる。

 

隆盛(りゅうせい)さんは翼のファンなの。まったく、娘と親友の娘を差し置いて酷い話だと思わない?」

「あっ、悪ぃ朝香ちゃん……」

 

 拗ねたような朝香の言い回しに、ルナのお父さん――隆盛さんはバツの悪そうな表情を浮かべた。

 

「そうだ、奏太と由紀は元気にしてるか?」

「両親には同じマンションで月一で会ってるのに、確認する必要あります?」

「パパは都合が悪くなると、すぐに雑な話題転換するよねー」

「す、すまん……」

 

 身長百八十センチを超えるガタイのいい男性が、女子高生二人に詰められて小さくなっていく。

 

「ちょっと、隆盛君。あんまり娘の人間関係に干渉しないの」

 

 すると、キッチンの奥からソバカスと三白眼が特徴的な小柄な女性がやってきた。

 おそらく、ルナの母親だろう。

 すっぴんのときのルナにそっくりだ。

 

「いや、俺はただ娘のダチに挨拶をだな……」

「それが過干渉っていうの。ほら、配信部屋に帰った帰った」

「ちょ、今日の配信は夜から――」

「みんなごゆっくりー」

 

 有無を言わさず隆盛さんは奥の部屋へと押し込まれていった。

 

「ふふっ、藍梨さんは相変わらずね」

 

 その様子を見て、朝香は自然な笑みを零していた。

 ルナと関わるようになってからというもの、朝香の新鮮な表情ばっかり見ている気がする。

 これが俺の知らない〝田中朝香〟としての一面か……。

 

「それじゃ、私の部屋いこっかー」

「ルナの部屋に入るのも久しぶりね」

「お互い忙しいからねー」

 

 そこには、役者としての関わりしかない俺には入れない絆のようなものが感じられた。

 

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