――インターネットに仮想空間を作ろう。
あの日私たちが過ごした電子の海を。
今私がいるこの世界は、もしかしたら彩葉と過ごしたあの世界とは違うかもしれないけれど。
この世界にツクヨミは無い。この世界にヤチヨはいない。だから、もしかすると彩葉もいないかもしれない。
それでも、私はここにいるよって、あの歌を歌い続けていれば、もしかしたらまた会えるかもしれないから。
八千年経っても消えない、私の中を流れる大切なメロディ。
ワールドを作る。ツクヨミがないなら、私が作ろう。眠ることのない夜みたいな。あの花火大会みたいな夜を、終わらないパーティーみたいにしよう。
バグ取りをしながら、アバターを作る。彩葉がすぐ見つけてくれる様に、あの日と同じ姿で歌を歌おう。世界中どこにいても見つけてくれるように。
『金髪、ギャルいかぐや姫』。初めて一緒にツクヨミに潜った日、私を見て彩葉はそう言って笑った。
またあの笑顔が見たいから。
アバターを作り、クルリとその場で一回りする。ウサギの耳が揺れ、金色の髪が遅れてなびいたあとで、急に恥ずかしくなってきた。
私はもうあの頃の私じゃないのに。もうあんなに強くない。もうあんなに輝いてもいない。8000歳を超えた……おばあちゃんだ。
そもそもツクヨミがないのなら、この世界の彩葉は私を知らないでしょ。
自嘲気味に笑い、アバターを作り直す。私はもうキラキラのかぐや姫じゃない。……かぐやでもない。
――ふと、思い出した。それは、8000年の中で出会ったお伽話の一つ。
全くもって意味のわからないラストの超バッドエンド。初めて知った日はウミウシの身体をよじって猛抗議をしたっけ。
なんで助けてもらったお礼があの仕打ちなの?
宴から戻ったら誰もいなくなってたってひどくない!?
で、お土産開けたら一気におじいちゃんて意味不明すぎるでしょ!?せめて説明してよ!
でも、今なら少しだけわかる。玉手箱は乙姫様の優しさだったのかも。誰もいなくなって寂しい思いをするなら、一緒に歳をとって死ねるようにって。
玉手箱を開けた乙姫様。髪は白く。竜宮城っぽい感じ。そんなイメージでアバターを作ってみてその姿に驚いた。
「……あぁ、馬鹿だったなぁ。なんで今まで気が付かなかったんだろ」
まだ涙は実装していないけれど、不思議と目の奥が熱くなった。
「私が、ヤチヨだったんだ」
それに気がつくと、胸の奥が震えて、奮えた。
もう迷わない。確信しかない。私はまた彩葉に会えるんだ。出会った日は覚えていない。けど、別れの日はハッキリと覚えている。2030年9月12日。
その日が近づくいつか、私はまた彩葉に会えるんだ。
かぐやと彩葉ではないけれど、――ヤチヨと彩葉として。
最初からあのかわいいアバターだったのかな?彩葉の学校の制服をスキンに入れたら選んでくれるかな?幼稚園のスモック……は、さすがに選ばないか。
彩葉がヤチヨに向けていたあの視線が自分に向けられると思うと少し気恥ずかしくて、むずかゆい。
いつか彩葉と訪れる『金髪のギャルいかぐや姫』を見つけた時、私はどんな気持ちになるんだろう?嬉しいかな?それとも嫉妬しちゃうのかな?
早く来てね。早く私を見つけてね。私も絶対に、彩葉を見つけるから。
私は歌を歌う。気づいて欲しいけど、気づかれたくない優柔不断な想いを隠して、少し形を変えた変わらない大切なメロディを。
私に気が付かなかったとしても、この歌が少しでもあなたの足元を照らせるように、この歌を歌うよ。
子守唄のように、優しいメロディを。
――その歌が役目を終えた日のことを、私はきっと何千年経っても忘れない。
終