あれ、同じことしようとしてる娘がいる……?
──ラブライブ。
二次元道楽を嗜む身であれば一度は耳にするであろうこの固有名詞が、
「せっかく二次元の世界に来たんだから、そりゃメインコンテンツ行くっしょー!」
寝て目が覚めれば新たな世界に生まれ直していた、というこれまたフィクショナルな出来事に巻き込まれた元、もとい現女子高生の
原作となったのであろう作品は名前しか聞いたことがなかったが、それでもいち創作内のメインイベントに触れずにいられるほど彼女は無欲ではなかった。
現在通う高校『音ノ木坂学院』への入学から一年間、水面下でメンバーの確保やダンストレーニングなど用意を進めていた彼女だったが、組み立てていた目算は超級のアクシデントによって半ば崩壊することになる。
「は、廃校? はい、ええ?」
ある日、掲示板一面に張り出されたプリントを前に、唖然呆然とする織笠。
彼女の視線の先では、現新入生の卒業年度を最後に当学園が廃校となることが示唆されていた。
「ちょっと、どうするの!? これじゃ、アイドル部の設立どころじゃ──」
そう真っ先に声を荒げたのは、織笠にとって中学以来の友人であり、メンバーの
聞いてるの、と肩に手を掛ける彼女だったが、当の織笠は返事よりも先に側方へ倒れた。
「なっ、ちょ、ねえってば!」
より焦りを滲ませた香川が織笠を引き起こさんとしていると、もうふたり落ち着きならないメンバーたちがいた。
「いや、こりゃあマズいっすね……」
まずいつぞやの織笠のごとく唖然としているのが
「はわわわっ、織笠さんが、はわっ──!」
阿鼻叫喚の様相を呈する織笠たちを見て慌てふためいていたのは、一行の中で唯一の最上級生である
「私の、ラブライブが……あはは……」
突如目の前に立ち塞がった困難を前に、織笠はうわごとのように口走る他なかった。
衝撃の知らせから数日、生徒会室へ向かう織笠ら四人──もとい、五人の姿があった。
「ねえ主枝。急かしたのは私だけどさ、ほんとに通るの?」
「大丈夫大丈夫、人数なら揃ってるんだから」
声を潜めて詰め寄る香川に対し、織笠はそう返した。手にしているのは『新規部活動申請書』と書かれたプリントで、すでに部活名と規定の人数分の署名が入っている状態だ。
新たな部活の設立にあたって必要な最低人数は五人であるのだが、今朝その問題が解決されたために、一刻も早く提出しようと動き出していたのだ。
「いやー、ヒーローは最後にやってくる、って本当だったんだねぇ」
そう笑みを浮かべた織笠は、
「そ、その、本当にいいんですか……?」
「ああ、任せとけ! 五人揃うのを待ってたんだろ? だったらアタシの出番だ!」
件の人物へ向け、おずおずと問いかけている手塚の声も聞こえる。
そこへ勇ましく返しているのが、今朝この集まりに加わった新入生・
「……でもあの子、何か勘違いしてるみたいっすけど」
隣から怪訝そうに洩らす板倉へ、織笠は肩を竦めるしかなかった。
そもそも月村は、自分たちの目的を聞かずに「入りたい」の一点張りでグループへの加入を志願してきていた。ボーイッシュな物言いからして、アイドルを志してやってきたとは考えづらかったが、いまは人数を何より欲していた織笠自身が言いくるめてしまったのだ。
「まあ、設立さえできれば、あとはどうされようが平気だし……」
最悪この場限りの数合わせでもよし、と言外に示唆する織笠に香川がため息を吐いたところで、一行は生徒会室の扉の前に立った。
「すぅ〜〜……すぅ〜〜……」
「吸った分どこ行ってんのよ、ほらノックして」
緊張ゆえか、誤った深呼吸をしたところを香川に小突かれた織笠は、意を決すると数回扉を叩きそのまま入室した。
「失礼します……おや?」
彼女の視界に現れたのは、目的の生徒会長・副会長と、そのふたりと机越しに向かい合う三人の生徒たちだった。
「──廃校をなんとか阻止したくて! スクールアイドルって、いますごい人気があるんですよ!」
真っ先に織笠の耳へ入ってきたのは、三人グループの筆頭格の生徒の声だった。訴えかけるような声色から、生徒会長に何らかの打診をしている最中なのだろうと思えた。よく見れば、卓上にあるのは自分が持っている申請書とまったく同じプリントで──。
「え。す、スクールアイドル?」
だがそれ以前に、自分がやろうとしていたことが赤の他人の口から飛び出ているという状況に、口をあんぐりと開ける織笠。その声を聞いたのだろう、三人グループが一斉に織笠の方へ振り向くと、やがてその手にあるプリントへ視線が集まり──。
「あなたも、スクールアイドル部を?」
「え、ええ。もしかして、そっちも……」
問いかけに呆然と返すしかない織笠は、ここにきて筆頭格の生徒とようやく顔を突き合わせる。学院指定のリボンの配色からして、同学年であることは間違いない。であるのに面識がない人物だと思ったのは、クラスが別だったからだろう。
だがそんなことはいま重要ではなかった。目的を同じとする、予想もしていなかった対抗馬が現れたのだから。
「えええええええっっっ!?」
ふたりして驚く叫び声が、学院中に響き渡った。
続き?未来の自分に訊いてください。
描いてみたいシーンはあるものの、モチベーションは宙に浮いて帰ってこない。