十文字の御旗のもとに   作:るいぼすてぃー

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分水嶺となる旅立ち

 

翌日、朝食後に荀彧は荀緄と蔡春を呼びためた。

2人も何かあったのかと目を見合わせる。

荀彧は立ち上がると一刀の隣へ座る。

 

「母様、私はこちらの北郷一刀の旅に同行しようと思います。」

 

そう言って荀彧は頭を下げる、一刀も倣って頭を下げる。

荀緄は少し意外な顔をしたがすぐに真剣な表情になる。

 

「桂花ちゃん、いったいどういうことかしら?袁家から帰って来てからは曹操様の軍に行き名を轟かせるって言ってなかったかしら?」

 

荀彧は下げていた頭を上げる。

しかし説明をしようとする荀彧を一刀が遮る。

 

「一刀?」

 

流石これは自分がきちんと言葉にすべきことだろうと一刀は話し始める。

 

「荀緄さん、俺はこれから旅に出ていずれは旗揚げをしようと思います。」

 

荀緄は訝しんだ顔で一刀を見る。

急に旗揚げするといわれても納得できないのは当然だ。

 

「今の俺には何もない、ですので当然…桂花を連れて行くことを不安に思われると思います、しかし俺も男です…俺のために覚悟決めてくれた桂花の期待を応えるためにも、荀緄さん…俺は天を目指します。」

 

そう言い切った、一刀を前に荀緄も蔡春も驚きの表情をし、そして二人ともやがて笑顔になる。

荀緄は娘のためにここまで言ってくれる一刀に対して、そして男嫌いの娘が自分から選んだ男に対してこんなに嬉しいことはないとこみ上げる。

 

「わかりました、桂花ちゃんをよろしくお願いします。」

 

そして荀緄は頭を下げ、解散となる。

 

 

数日経ち、ついに旅立ちの朝である。

一刀は朝食を終えると以前書いた手紙を荀緄と蔡春に渡す。

警備隊へも先日、最後の訓練時に警備隊長に渡している。

身支度を整え、部屋を綺麗に片すとお世話になったと部屋に頭を下げる。

 

この世界に来て2ヶ月、いい人に会えたことに感謝しながら外に出ると荀彧たちは既にいた。

 

「思ったより様になっているじゃない。」

 

一刀の腰に携えたものを見ながら荀彧は満足そうな顔をする。

一刀はこの世界には似つかわしくない、しかしこれこそが北郷一刀なのだという聖フランチェスカの制服を身に纏う。

その腰には荀彧が真名を名乗り同時に渡した箱の中身、剣を携えていた。

 

店で見つけた際に選んだ剣。

それは大陸の剣ではなかった。

反りがあり、片側のみの刃…そう【太刀】と呼ばれるものである。

なぜ日本刀があったのかはわからない。

たまたまかもしれないし運命かもしれないそれを荀彧から一刀へ渡り今腰に下げている。

 

荀彧はこれを見た時頑丈そうというのと一刀の話からそういう剣があるのは聞いていたのでもしかすれば故郷の剣かもと思い選んだものだった。

結果としてそれは一刀にとって喜ばしい結果になった。

 

一刀もまさかここで故郷に存在する日本刀を見るとは思わなかった。

 

この世界には時代的に存在しないはずの刀と呼ばれる剣。

銘を【袖ノ雪】

未来の日本、鎌倉時代に作られたとされる刀。

一刀自身も彫ってある名を見て驚いた。

 

同時にやはりここは普通の三国志の世界ではないんだなと再認識した。

 

 

 

「荀緄さん、蔡春さん…長い間お世話になりました。」

 

玄関にて最後の挨拶を交わす。

 

「こちらこそ、楽しかったです、今後の活躍を期待していますね…桂花ちゃんのことをよろしくお願いします。」

 

「北郷様はお世話しがいか゚あり私も充実でした、お元気で。」

 

2人の挨拶を貰い頭を下げる。

同時に荀彧が一歩踏み出す。

 

「母様、蔡春、行ってまいります。」

 

短い挨拶で頭を下げる。

しかし決意に溢れた真っ直ぐな瞳をしている。

 

「頑張ってね桂花ちゃん…それと…孫の報告も期待してるわね。」

 

そう言って蔡春と二人で微笑ましい顔で見ている

 

「母様っ…」

 

思わず声を大きくしたがそれ以上は何も言わずに終える。

そして2人は歩き出す、向かう先は洛陽である。

仲間集めと情報収集が主である。

 

いろいろと人も物も入り用だが優先すべきは前衛だろう。

桂花は完全な文官に加えて一刀も兵連をこなしたとはいえ武将とは程遠い。

せいぜいちょっとした隊長ぐらいが関の山だろう。

 

であれば明確な武将、できれば有名なフリーの人物がいればと考えるのが真っ当である。

 

「桂花、駄目で元々ではあるんだけど仲間に引き入れたい武将とかはいるかな? フリーの人物がいれば積極的に声をかけるべきかと思うんだけど」

 

「ふりぃってなに?…よく分からないけど優秀な人物ならいくらかいるはずよ。」

 

一刀は気をつけていた言葉に少し申し訳なさそうにする。

 

「すまない、フリーっていうのは異世界の言葉で自由とか誰のものでもないとかを指すときに使う言葉でね。」

 

カタカナ表記の言葉は通じないとなんとか言わないように気をつけていたが、ついゆるんで出てしまった。

 

「別にいいわよ、というか気を使わずに使いなさいよ…私は新しい知識は取り入れたいもの、天の御遣いの語録ってのも気になるわよ。」

 

桂花は知識に貪欲だ、それは軍師や文官をやってるからというのも大きなものだろう。

確かに自分が知ってる言葉や知識が広まれば生活が良くなったり、料理だって美味しいものが増えていくかもしれない。

 

「わかったよ、俺の知識で良ければいつでも聞いてくれ。」

 

桂花に…荀彧ほどの者に知識を求められるのが嬉しかったのか一刀はテンションをあげる。

 

「話を戻すわよ、所属のない個人…できれば有名な人物ね、むしろそれ自体は一刀の知識に誰か候補は居るかしら?まだ無名の所属していない、今後活躍する人材にあてはまりそうな名前はないの?」

 

確かにと思いながら一刀は考える。

時間軸のズレや出来事、人物性の差異などはあるだろうがネームドクラスは基本いるのだ、当たらない手はない。

 

「そういう人物は結構居るはずだね」

 

「なら該当する名前が近くにいないか探りましょ、ここ洛陽なら人物の出入りも激しいし多少は交渉出来るかもしれないわね。」

 

話もトントン拍子に決まった。

時間もちょうど昼時に差し掛かっているので聞き込みも合わせて昼食を取ろうと小料理屋に入る。

適当に注文し食事をしていると近くの席から話し声が聞こえる。

 

「今回もだめだったー。」

 

「そんなことないよ、いい作戦だと私は思ったよ。」

 

なんとなしに耳に入ってきた言葉からどうにも幸の薄そうな雰囲気を感じる。

聞こえた言葉に桂花も振り返る。

そして少し呆れた顔をしながら立ち上がるとその席に向かっていく。

なんとなしに俺も席を立ちついていく。

 

「相変わらず振り回されて苦労してそうね。」

 

二人組に声かける桂花、砕けた口調から以前からの知り合いなのだろう。

1人はベージュ色の長髪で眼鏡をかけた子、雰囲気から文官だろうか?

もう1人は紺色のショートの子、見た目は華奢だがすぐ横に立てかけてあるどでかいハンマーのような武器を見るに武官だろう。

 

「荀彧さん、おひさし…ぶ…えぇ?」

 

紺色の髪の子は明らかに驚きとともに言葉が途切れる。

ベージュ色の髪の子も口をあんぐりとし驚きの表情だ。

 

「…じ、荀彧さん?…えっとそちらの男の人は?」

 

そのまま紺色の髪の子が訪ねてくる。

2人が信じられない顔とともに見ている。

確かに関係が薄くても桂花を知っている人物であれば異常事態だと思うのは当然のことだ。

それほどまでに【荀彧は男嫌い】は浸透しているのだから。

一刀もそれを理解し2人の驚きに流石だなぁと納得する。

 

「はじめまして、荀彧と共に行動している北郷といいます。」

 

しかし一刀自身は相手がどういう人物かはわからないので明確にしない程度に挨拶をする。

ちなみに苗字部分しか名乗っていないのは一刀を真名として扱おうと桂花と話し合ったためである。

誇り高い人物などには下手に名乗ると不本意に相手にも名乗らせる可能性があるため印象を悪くしないためにも一刀を真名として扱うのが無難だろうという結論である。

 

「荀彧さんが男の人と行動している、夢?」

 

ベージュ色の髪の子はもはや現実かどうかを疑っている始末だ。

 

「は、はじめまして顔良と言います、こちらは田豊…よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします。」

 

混乱しながらもなんとか挨拶を返してくれる。

紺色のショートの子が顔良、ベージュ色の眼鏡の子が田豊と自己紹介を貰い一刀は驚きながらもよろしくと頭を下げる。

 

「袁家の有名人たちに会えるとは、良ければ今後も良き付き合いを。」

 

そう言って手を出し握手の構えをする。

少し面を食らった顔をしながらも2人とも握手を返してくれた…ところで田豊が手を離さない。

一刀も疑問に思いながら声をかけようとすると田豊が真っ直ぐこちらを見ていた。

 

「有名人たちと言いましたね?斗詩…顔良の名は確かに有名ですが私の名は表に出ていないはずです、荀彧さんから名を聞いたとしても有名人とはどう言う意味でしょう?」

 

軍師とは鋭い、理に合わない点をその知識と嗅覚で見抜いてくる。

嘘は逆効果だなと一刀は素直に答える。

 

「俺自身の知識としてね、袁家の2枚看板と言われる顔良と文醜、そして先見が高く剛情だがちきんと上に進言できる優秀な軍師として田豊の名は記憶しております。」

 

一刀の言葉を聞き荀彧も顔良もそして田豊自身も驚きの顔をしている。

田豊の策は袁紹に聞き入れてもらえないことは袁家内では有名だがまさかきちんと田豊を理解したこと言われると思わなかったからだ。

 

田豊は手を離すと一歩下がり深く頭を下げる。

一刀はその行動に目を丸くする。

 

「過分な評価をしていただきありがとうございます。」

 

田豊は自身正しく理解されたことに感謝をした。

袁家では数ある策を伝えるも起用してもらえずにいた。

唯一評価してくれるのは顔良だけだったがその顔良でも自身の本質までは理解していなかった。

会って間もない相手、以前からの噂などから目をつけたとしてもなかなかここまで評価されることはない。

故に田豊は感謝を示した。

 

「俺は事実を申しただけですから、2人ほど優秀ならば分かる人ならば自分と同じ評価をすると思いますよ…所属が無ければ同行に誘いたいぐらいです。」

 

一刀の言葉に顔良も田豊も気恥ずかしそうにする。

真っ直ぐな言葉で高評価を貰う。

武に生きようが知に生きようが手放しでここまで褒められればこの上ない喜びだろう。

加えて2人は苦労はいくらでもしてきたが褒められることは少なかった人生だ。

慣れてないない言葉に恥ずかしい気持ちが大きくなる。

 

「一刀、ちょっとこっちへ…」

 

そこには若干不機嫌な顔をした桂花がいる。

有無を言わさぬ顔で少し離れたところに呼び出される。

 

「手短に聞くわ、あの2人を引き抜く気?」

 

桂花の言葉に一刀はそこまで考えたつもりは無かったこと。

しかし後の史実を考えるなら2人の未来は明るくない。

ならば引き抜く勢いで声をかけるべきだったかと考える。

しかし短い思考時間では一刀は自分では答えを出せないと思い必要事項だけを手短に言葉にする。

 

「田豊はやっかまれて袁紹に投獄されその才を轟くことなく消えていく、しかし曹操が袁家に田豊がいれば負けていたかもと評したほどの策略家だ…顔良は文醜と揃って袁家の最高武将、しかしある戦にて二人揃って討ち取られてしまう…2人がこの先命を落とすのはもったいないほどさ。」

 

その言葉を聞き桂花はすぐに思案する。

2人は桂花が袁家で唯一認められる人材だ。

自分と同じく軍師として正しい力を発揮しきれない田豊、そのまま消え去るのは確かに大きな損失だろう。

顔良も実質袁家を回している状態、武将として力を発揮しきれていない、田豊や自分の策をうまく使えるだけの能力も判断力もある。

 

桂花は引き抜きを有りとして一刀が説得、もとい口説くことを考えそのために必要な情報をまとめる。

 

「一刀、為政者になるならもっと強欲に私を頼りなさい、そのために軍師は居るんだから…策は用意しそのための時間も場作りもする、しかしアンタの言葉でしか動かせないこともあるわ、その時は一刀が夢を見せ決めなさい……説得と言うよりも口説くくらいの勢いで誘いなさい。」

 

桂花の言葉に一刀は破顔しそうになる。

この荀彧文若と言う人物はいつも一刀に道を示してくれる。

この世界に来て気兼ねなく語れて、荒唐無稽な未来の話を信じてくれる。

それは精神面でもかなり助けられている、一刀は改めて桂花を真っ直ぐ見つめるとお礼を口にした。

 

「桂花、いつも本当にありがとう。」

 

「アンタはこの世で私が唯一認めた男よ、堂々としなさい。」

 

桂花は当然でしょという態度でそっぽを向くが耳が少し赤くなっていた。

 

「2人とも洛陽にはしばらくいるの?」

 

戻ると桂花は顔良たちに尋ねる。

桂花の中ではおそらく多少とどまるだろうと言う予想だ。

 

「時間はあるから真直ちゃんとちょっとのんびりかなぁ、麗羽様のもとには文ちゃんが居るし。」

 

「なら少し同行を頼んでもいいかしら?見ての通りこっちも2人で戦力としてはは心許なくてね。」

 

顔良と田豊は顔を見合わせる。

田豊はチラッと一刀を確認する。

肉付きはそこそこだが武将としてはまだまだ、荀彧は完全裏方だろうと見て取れる。

田豊も裏方ではあるが、顔良は完全な武将…しかも一線級だ、戦力としてこれほど頼りになることはない。

幸いとして急ぎもないので可能ではある。

 

「斗詩、あなたの意見は?」

 

「私は真直ちゃんに任せるよ、個人的にはありだとおもってるくらいかな。」

 

顔良は軍師である田豊に委ねる。

自分の考えや感覚的なものを言葉にし、決定権は軍師を尊重する。

しかしこれが出来るものは袁家にはこの二人を除きいないという事実、桂花はやはりこの2人は袁家を出るべきと考える。

 

田豊は軍師だ。

基本的には計算や過去の事例や様々な機微を見逃さず策を考えそれを誉れとする。

現状目の前の北郷一刀は大きくは写らない、まだ何もしていないし聞いたこともないからだ。

だが軍師としての感がこの人物は大きくなるように感じている。

そもそもあの荀彧と行動しているだけでも通常ではない、異常なのだ…それほどまでに彼女の男性嫌いは有名なのだ。

ならば見極めてみたいと、何が彼女を動かしているのか…また会ったこともない自分たちを高く評価するその本質、人間性を知りたいと惹かれている。

 

意を決する田豊、既に理解しているかのように微笑む顔良…2人は軽く頭を下げる。

 

「短い間かもしれませんが同行します。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

 

それを受け一刀も頭を下げる、桂花も続く。

期間限定とはいえここまでの人物を得られるとは思ってなかった、また桂花がくれたチャンスだ引き抜きとはいかなくても良き関係をと考える。

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ…よければ2人も言葉は話しやすいように崩してくれ。」

 

こうして以外な所で臨時の人材を得られたことに感謝しつつ4人で昼食を再開するのだった。

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