「えいっ!!」
掛け声と共に振り下ろされるハンマー。
金の鎧を着てある華奢な少女が振り回すにはでかすぎる獲物だ。
賊の20や30くらいなら1人で相手にできる過剰戦力、袁家の2枚看板と言われる顔良は相手を行動不能にしていく。
一刀はその際の抜けを叩く、と言っても30人中2〜3人といったところだ。
4人行動で洛陽を出て近くの村が襲撃に出くわし応戦の結果撃退を果たす。
「と…投降するぜ、俺たちの負けだ。」
武器を捨て手を上げる盗賊を拘束していく。
一刀は拘束した盗賊たちを前に問いかける。
「お前たちの首魁の名は?」
盗賊たちはお互いに顔を見合わせる、そしてお互いに頷く。
「俺たちは黄色の頭巾の大きな賊があると聞いて合流しただけだ、詳細は知らねぇよ。」
一刀は黄巾の乱について考える。
張角、張宝、張梁の3人が軸ということ。
張角の言【蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。】といったセリフが有名なこと。
三国志の始まりの乱と言えど知っていることは少なかった。
「張角と言う名に聞き覚えは?」
「さあな。」
盗賊たちは顔を横に向け目を瞑る、その様子に知っているが話す気はない意志を感じる。
一刀は張角が乱を起こすという事実と目の前の賊の様子に乖離を覚える。
「桂花、顔良、田豊聞いてくれ、これからの乱…中心にいるのは張角、張宝、張梁の3人組の可能性がある、調べられるか?」
一刀との言葉に桂花と田豊は頷く、しかしそこに声を上げるものがいた。
「まちな、あのは人たちは関係ねぇ…俺たちが勝手にやったことだ。」
その言葉に4人は先の男を見る。
賊の集団のリーダー格の槍使いの男だ。
一刀は男へ向き直る。
「お前はリーダー…あー、まとめ役でいいのか?」
「それでいいぜ、こいつらからはアニキと呼ばれてるしな。」
「知っている事を話してくれ、内容次第では手を貸すよ。」
一刀の言葉に諦めたように話し出す。
他の賊もその様子を見守っている。
「俺たちはあの人らに指示をもらって動いてるわけじゃねぇ、あの人たちが天下を取りたいって聞いて勝手に動いちまっただけさ、他の奴らも大体はそうだと思うぜ。」
「そのために村を襲撃したのか?」
「どっちかって言うとボウズたちだな、どこかの部隊だと思ったからな…少なくともあの人たちは村を襲うなんて考えるような人たちじゃねぇよ。」
その言葉に一刀は考える。
乱を起こしたくて起こしてるわけではなく、拡大解釈の可能性が出てきたからだ、ならば生け捕りで詳しく話をしたいと思う。
その様子を見ていた軍師2人は一刀の雰囲気から看破していた。
「生け捕りで話を聞く、でいいかしら?」
「そうだね、彼らの言葉通りなら本人たちは意図せずの可能性が高い…できれば傷つけずに話を試みたいかな。」
その言葉を聞き無言で立ち上がり頭を下げるリーダー格の男。
それに倣うよう頭を下げる他の賊たち。
「俺たちについてこないか?」
「なにっ?」
その場の全員が一刀を見る。
桂花は仕方ないという表情一刀の側に立つ。
顔良と田豊は驚いた顔で見ている。
賊たちは顔を上げる。
「張角たちを無事に保護するために、もっと言えば俺も上を目指す予定でね…そのために戦力として力を貸してほしい。」
一刀はまっすぐと賊たちを見つめる。
その様子に困惑する者たちが大半といった雰囲気だ。
「俺たちのような脛に傷持ちを信頼できるのかよ、ボウズ。」
リーダー格の男の言葉に一刀は何ともないように答える。
「このご時世ならそんな奴らはいくらでもいるんじゃないかな、それにお前たちは他人のために自分の命より頭を下げることを選んだ、十分に信頼に値するんじゃないか?」
一刀の言葉にリーダー格の男は笑みを浮かべると後ろを振り返る。
他の族たちも笑って頷く。
その様子を桂花もそして顔良、田豊も魅入っていた。
周知になるほどの男性嫌いの自分すらもなぜか目を離せなくさせる存在、これこそが北郷一刀と言う人物なのだと。
横にいる顔良も田豊もそれを感じているのどろう、その目はまさに吸い込まれたように様子を見つめていた。
「いいぜ…ボウズの軍門に降るとしよう、あの人たちの無事を保証してくれよ。」
新たな兵力で人も増えた。
ならば最初にすることは自己紹介と挨拶からだろうと口を開く。
「俺は北郷だ…一応この中では代表的な立場になる、よろしくたのむよ。」
「軍師の荀彧よ、アンタたちにはしっかり働いてもらうからそのつもりで居なさい。」
「あちらの2人は客将の顔良、田豊になる…袁家の人たちだが道中力を貸してくれる。」
一刀の名乗りに桂花も続き、顔良、田豊の紹介もいれる。
2人を見てもう一度こちらを向くリーダー格の男がため息を吐きつつ口を開く。
「まさか正規の仲間が1人とは思わなかったぜ、ここから上を目指すとはなかなか豪胆な性格だな…まぁいい俺の命をボウズ…いや大将に預けるぜ、俺は周倉…好きに呼んでくれ。」
リーダー格の男の名は周倉。
先の戦闘で唯一顔良とある程度戦えていた実力者。
三国志において周倉とは…黄巾賊の出ながら後に将として蜀で戦い続けた猛者である、関羽に惚れ込みその右腕として戦い続けた名将の1人だ。
これはまさかの拾い物である、一刀の三国志の知識においてすごく詳しいと言うわけではないが主要な人物に関連してるなら流石に耳にしたことがある。
周倉はその典型であると言えるだろう、関羽と言う三国志の中でもトップクラス実力者の側近として有名になっている人物。
軽い話し合いのあと桂花と田豊が口を開く。
それぞれ軍師だけありこういう状況からの動き出しが早い。
「周倉のような賊、そしてこの乱に乗って騒ぎを起こしてる賊と2種類いる可能性もあるわね、なら急ぎ張角たちの場所を突き止めないとまずいわね。」
「乱の規模から後者の方多いと思われます、加えて裏で騒ぎを大きくしている者も視野に入れて動くべきかと、他の軍の介入を考えるとなると罪を被せられる可能性もあります。」
2人の言葉に一刀は考える、つまりはこの乱に乗じている賊やそれを扇動している者たちが張角たちを身代わりにする可能性が高いということ。
「すぐに動こう、悠長にしている時間はなさそうだ。」
一刀の言葉に周倉は振り返ると声を上げる。
「野郎ども俺たちの歌姫を助けに行くぞ、気合を入れろ。」
周倉の言葉を聞いた賊たちは「おう。」と掛け声を上げる。
盗賊とは思えないほどの統率だなと一刀は苦笑しつつ、桂花たちに声をかける。
「桂花、田豊は作戦を頼めるか、張角たちの安全を優先で。」
一刀の指示を聞くと桂花は動き出す、顔良を手招きすると田豊の方を向くと担当分けをする。
「田豊は作戦をお願いできるかしら?私の方は部隊まとめて分けておくわ。」
そう言って顔良を連れて周倉の下へ向かう。
一刀は田豊と共に作戦担当となった。
「北郷さん、作戦の方向性は斥候を複数部隊放ち捜索する策になります、荀彧さんが先の人数を部隊化してくれるので捜索部隊を複数と我々の本部隊、単純な策ですが仲間になったばかりの彼らにも分かりやすく実行しやすさも含めて下手に難しい策よりも成功率は高いと思われます…質問などはございますか?」
田豊は部隊の練度も考えてシンプルな作戦提案する。
一刀は理由の納得性からも良しとする、確かに周倉たちは多少連携を取れるだろうなら連絡などスムーズに行えると考えた。
「分かりやすいしいい策じゃないかな、その線で進めようか。」
一刀の笑顔の肯定に田豊は顔を伏せる。
たしかに単純な策だ、だがそれすらもほぼ袁家では実行されなかったのだ、それを素直に褒めら採用してもらえる。
そんな当たり前の軍師の喜びを田豊は噛みしめる、思わず目頭が熱くなるがそれは作戦完了してからにしようと堪える。
「どうかしたかい?」
急に顔を伏せたものだから心配そうに声をかける。
田豊は改めて顔を上げるとそこには笑顔があった。
「いえ、ではさっそく行動に移しましょう。」
一刀が田豊の策を聞いている最中、桂花は顔良を連れて周倉たちの前に立つ。
「まずは部隊を分けるわ、連携の取りやすい3人ずつ分かれなさい。」
そう言うと周倉を含めて30人ほどの部隊は10の数に分けられる、あとは策を聞きそれに応じて人数調整を行うだけだがそのまま桂花は話し出した。
「最初に言っておくわ、私は男が嫌いなのだからあんたたちと仲良くするような人間じゃないわ。」
「荀彧さんっ!?」
顔良はその様子を驚きながら口を開く、これからともに行動しようと一刀が引き入れたのになぜ不和を生みかねない発言だ。
周倉たちも戸惑いと疑念を隠せずに荀彧を見る。
「元々男を嫌う私が先日アンタたちと同じ黄色の頭巾をした連中に襲われたわ、アイツに…北郷という男に助けられて未遂だったとはいえ恐怖と嫌悪感もある…でもね、私は軍師よ。」
一呼吸区切り一瞬後方の一刀を見て、もう一度前を向く。
男嫌いの荀彧が男に襲われた、本来であれば即首を刎ねてもおかしくはないほどの人物。
いの一番に言葉にしてもおかしくないはずが一刀の仲間にする発言にも顔色さえ変えなかった。
「赤の他人である私を救うようなお人好し、私の男嫌いの暴言や嫌味でさえ気にせず話しかけるほどの男…どこか人を惹きつけることを認めざるを得なかったわ、噂になるほど自他共に認める男嫌いの私が唯一認めた男…それが本郷という男よ、アイツが天を目指すならそれを見てみたいと思ってしまった、なら軍師の私はそのために知恵を使う、だからアイツの…一刀のためにアンタたちの命を私に預けなさい。」
桂花は頭を下げてそう願いを口にした。
顔良も周倉もそして他の者もその言葉と行動に心を奪われていた。
一刀の言葉だけでも顔良も周倉も何故か惹かれてはいた、しかしまだその境界は曖昧だった。
しかし桂花の言葉を聞き皆さらに一刀に惹かれていった、一体どんな景色をこの先見せてくれるのか心が躍る想いを全員が感じていた。
「頭を上げてくれよ嬢ちゃん、いや荀彧様…俺たちのようなならず者にアンタみたいな気高い人間が頭を下げるもんしゃないぜ、だから存分に指揮をたのんだ、野郎共…捕まった俺たちの2度目の生だ、あの人たちと大将たちのために存分に振るうとしようぜ。」
周倉を含めた兵の目に迷いはない、張角たちを救い一刀のために力を振るう覚悟と決意。
一刀を取り巻く人間は連鎖的に惹かれて行くかのように輪を拡大している。
この様子を近くで見ていた顔良もどこか期待が隠せない、きっと言葉通り助け出すのだろう確信を感じていた。
一刀と田豊が合流すると妙に熱い視線一刀は感じる。
しかし悪い空気などは感じなかったので今の間に打ち解けたのだろうと思うことにした。
田豊も顔良が妙に一刀に視線送っていたのを感じたがあえて気にせず作戦の説明を始める。
「では作戦を部隊を分けての捜索になります、3人1部隊のようですね、2部隊をまとめて6人体制を1部隊にします。」
「連携などが取りやすい面子で固まりなさい。」
荀彧が注釈を入れ、スムーズにことが運ぶ。
「ではそのまま3部隊を3方向に向けて張角たちを探します、見つけ次第部隊から2人は連絡係として私たちに走ってください、部隊は全部で5部隊で本郷さんと荀彧さんの方で1部隊、私と斗詩で1部隊を軸として動きます、連絡係は必ずそれぞれに1人ずつ走ってください、部隊の残り4人はその場に待機しつつ我々の到着を待つようにお願いします…細かいことは各部隊に仮代表を用意してくださいその方にお伝えするので部隊内で連絡を取ってください。」
作戦の説明を終えると一刀が一歩踏み出す。
田豊の方を向くと手を上げる。
「田豊、作戦はそのままに一部変更をしたいんだが意見をいいだろうか?」
一刀の言葉に田豊は頷く。
「桂花、顔良、田豊は1部隊で固まっていてくれ…俺の部隊は捜索に加わる、そうすれば索敵範囲も広げられて早くならないかな?」
一刀の言葉に桂花と周倉は笑う、田豊は驚きの表情だ。
通常軍師が作戦を考える場合代表者は基本的に後方だ、安全を考慮するからだ。
ましてや仲間になったとはいえほんの少し前までただの賊だったのだ、通常はそこを考慮して安全に策を出す。
しかしそのわだかまりは先の桂花の会話で一刀と田豊以外はなくなっていた。
そして一刀自身はその考慮を考えない。
結果田豊1人が驚く形となる。
「まず先に桂花、彼らのこ「もう話してあるわ、気遣いは大丈夫だからアンタの思うようにやりなさい。」…ありがとう。」
一刀は途中で思い出していた、桂花との出会いを…黄巾賊に襲われかけていたこと、男性嫌いなこと…失念し確認もせずに仲間に引き込んだ、悪い奴らじゃないと感じたのは自身の感覚だが相談もなしに進めてしまった事を謝ろうとした、だが返答は説明済み…つまりはそれを話し先に解消したという事実、自身の頭の足りなさを痛感しつつも背中を押してくれる桂花に深く感謝の気持を持つ。
「なら大将の身柄の安全は俺の部隊が受けた、他の野郎どもは先の作戦通り行動にで何かあれば連絡は軍師の嬢ちゃんたちのもとに素早く報告だ。」
周倉の言葉に皆「おう」と声を上げる。
田豊はそのやりとりにまるで昔からの仲間なのではと錯覚を起こすほど驚きを隠せないでいた。
行動を共にし始めて桂花の変わりようを感じていた。
その原因は一刀だということも感じていた。
しかし先の顔良や周倉の一刀への視線や対応で改めて実感する、この男は自分の想像すらも凌駕した人間なのだと、その未来を見てみたい…そう自分も感じていることに。
「ではそのように作戦を変更しますね、本郷さんは無理のなさらないように、何かあれば斗詩をすぐ走らせますので。」
その言葉に一刀は「了解」と答えると全員動き始める。
また1つ歴史が変わろうとしていた。