暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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肝試しの時間

殺せんせー主体のもと始まった暗殺肝試しだが、洞窟の入り口に立つ磯貝と片岡の指示に従って渚達が入って行くのを見届けていると、

 

「次、月乃と速水ペア!順番だぞ〜!」

 

「あいよ。」

 

磯貝に呼ばれたので軽く返事をしつつ腰掛けていた岩から立ち上がり、速水と一緒に入り口まで歩いて行く。

 

「楽しみだね、見る限り中結構暗そうだけどどう?」

 

「さぁ、どうだろうな。ホラー系はあんま見た事ないからよくわかんねぇや、速水はどうなんだよ。」

 

「私?……どうだろ、平気だとは思うけど殺せんせーのスピードで驚かせに来られたらヤバいかもね。」

 

「そうか…」

 

1本の懐中電灯だけを持って目の前に広がる暗闇の1部だけを照らしながら、足を取られぬようにゆっくりと2人肩を並べて進む。

夏だというのに洞窟内は妙に冷えており、少しばかり腕が震えてしまう。

 

「真っ暗だと結構雰囲気あるね、ひんやりしてるのもいい味出してるかも。」

 

「足元気をつけろよ?そこそこ凸凹してるから躓いて転ぼうものなら膝ズタズタになるぞ。」

 

「………ふ〜ん、ふ〜〜〜ん。」

 

「………」

 

何気なくした忠告に何かが大変気に入らなかったのか、速水は足を止めジト目で見つめてくる。

その視線に気づいたが何を言ってどうすれば良いのか全くわからず悩み、悩み抜いた末に、

 

『危ないから俺の手しっかり握っとけ。』

 

なんて言う勇気なんてないので、

 

「ん……」

 

と、顔を速水に見せないようにそっぽ向きながら空いている左手を差し出した。

速水は不器用ながらも差し出された手を少し見つめたあと、指と指を互い違いに絡め合わせる恋人繋ぎで手を重ね合わせ身を寄せる。

 

「ま、甘めに50点あげる。」

 

「………そりゃどうも。」

 

半身から伝わってくる自分のものではない体温の心地良さを噛み締めつつ、速水諸共倒れ込まないように歩幅を合わせながらゆっくりと進んで行くと、

 

ペン…ペンペン……ペン…

 

三線の音が響き始めたかと思うと、青白い人魂のようなものと共に何やら王族っぽい格好をした殺せんせーが空に現れた。

 

「うおっ」

 

「わっ」

 

思いの外雰囲気のある登場に、手にかかる力がほんの少し強くなったのを感じる。

 

「ここは血塗られた悲劇の洞窟、琉球…かつての沖縄で戦いに敗れた王族達が非業の死を遂げた場所です。」

 

「………本当?」

 

「どうだろうな、無くはないと思うが流石に世界観の為の作り話じゃないか?」

 

「決して2人離れぬよう、1人になれば彷徨える魂に取り殺されます。」

 

そう言い残すと殺せんせーがスゥッと暗闇に来ていく、進めということなのだろう。

『決して2人離れぬよう』……殺せんせーの狙いがある程度透けて見えるが、洞窟の雰囲気も相まってか妙に背筋が粟立つ。

 

「意外と本格的だな…ここまでしっかりシナリオとか雰囲気作り上げてくるとは思わなかった。」

 

「ね、衣装だとか三線だとか小道具も凝ってるみたいだし期待して良いかも。」

 

「ここは血塗られた悲劇の洞窟…」

 

「お化け屋敷よろしく後続のペアに同じ語りしてるのが聞こえるところはシュールだけどな……」

 

歩くことしばらく、外界からの風が洞窟に吹き抜け化け物の唸り声のような音をあげる中、目の前には道を封じるように大きな木戸が建てられていた。

木戸に近寄ると再び空に王族衣装の殺せんせーが現れ語り始める。

 

「落ちのびた者の中には夫婦もいました。ですが追手が迫り…椅子の上から寄り添いながら自殺しました。」

 

「……殺されるくらいなら2人でってことか。」

 

「そして、その椅子がこれです。」

 

殺せんせーが指を指した先、2人してそちらに顔を向け暗闇の中にある椅子がどのようなおどろおどろしい物なのかと冷や汗を浮かべながら目を凝らすと、

 

「「………」」

 

絶句した。

木製なのはわかる、だが背もたれはピンク色に染められハートの模様が散りばめられており、肘掛けやフレームもハート型にされているのだ。

 

「スゥー……あの………殺せんせーさぁ………」

 

「琉球伝統のカップルベンチです、ここで2人で1分座ると呪いの扉が開きます。」

 

「んな伝統あってたまるか!!追われてる2人がカップルベンチで亡くなってるの中々にシュールだろ!?」

 

「えぇー?そんなこと言われても……」

 

「期待した俺がバカだったわ!この下世話教師がよぉ!!」

 

「ギャッ眩しい!?ダメですよ月乃君、人にライトを向けては!!」

 

「どうせアンタなら再生するだろーが!!」

 

結局はホラーもへったくれもない殺せんせーの企みに気づいた白利は、ライトを殺せんせーの顔に向けながら口論を開始する。

…が、速水は特に顔色を変えることなく握ったままの手を引っ張って白利を無理矢理ベンチに腰を下ろさせた。

 

「あ……あの……速水さん?」

 

「ごねてても仕方ないでしょ?やらないと開かないんだし月乃も割り切って。」

 

「むしろ速水がサッパリしすぎなんじゃ…?」

 

「そう?」

 

(俺が意識すぎなのか…?)なんて考えながら深く腰をかけ直すと

 

「ほらほら、もっと会話を弾ませて!!」

 

と外野から野次が飛んでくるので黙らせようと視線を向けるが、握られた手にかかる力に意識を持ってかれてしまう。

 

「速水…?」

 

「本当…良かった、生きててくれて。」

 

「ん………ごめんな、心配かけて。」

 

「………」

 

肩をくっつけながら、速水は白利の手の甲を空いた手で優しく重ね合わせ、輪郭をなぞるように指を這わせて存在を確かめるように握った手に力を入れる。

あまりの近さから薄い朱色の髪がふわりと鼻にかかり、甘い香りに鼻腔をくすぐられ頬が少し熱くなってしまう。

 

「怖かった、銃で撃たれて脇腹から血が止まらなくて…それでも南雲と闘いに行って月乃の悲鳴が響いて…薬を打ち込まれて血を吐いて全身血塗れで…」

 

「……よく生きてたな俺。」

 

「潜入の時もそう、ウイルスに感染してるのに誰にも言わずに着いてきて倒れかけて。そのくせ、それでも大丈夫って気丈に振る舞ってさらに無茶を重ねる。見てるこっちの身にもなって。」

 

「……う、それは………サーセン…」

 

速水からのお小言と共に手の甲をグリグリと指圧されたり、爪が食い込んでしまうほど手が握り込まれるがそれほどまでに自分のことを思ってくれていることはわかる。

 

「月乃はさ、自分を許せるようになった?」

 

『自分を許す』それは前に不登校になった際、速水との話し合いにて見つけ出した1つの道。

夏休みや暗殺旅行前のロヴロとの会話にて色々と考えたが遂ぞ答えは出すことはできなかったが、今なら少しだけ見出すことができるだろう。

 

「そう…だな、うん、少しだけ…自分を許してみても良いのかもとは思えるようになった。」

 

「…本当?」

 

「あぁ、やるべき事もやり遂げて少し重荷を下ろしても良いのかなってな。そう…今なら思える。」

 

「そっか…うん、そうなんだ。」

 

握られた手からゆっくりと力が抜けていく、白利の言葉に安心し無意識に強張っていた心が平穏を取り戻してるのだろう。

まるで我が事のように心配してくれる速水、だが白利は彼女のその思いに報いる方法は知らない、だから…

 

「なぁ、速水。暗殺旅行が終わったら俺は防衛省の病院に入院したり、速水の予定もあったりするだろうが……もし良かったら夏休みの終わりにある祭りに行かないか?」

 

「…ふふっ、そんなに前置きしないで『夏祭り行かないか?』で良いのに。」

 

「悪かったな…でも仕方ないだろ?入院期間がまだわからないから夏休み一杯入院してる可能性もあるし、速水の予定だってあるから聞いといて損はないだろ。」

 

「それはそうだけど……それじゃ、どうして私を夏祭りに誘ってくれたの?千葉とか杉野、渚に赤羽、女子なら茅野とか岡野とか仲良い人いるのに。」

 

速水は話を切り替え、顔を上げて意地の悪い笑みを浮かべをながらジッと目を見つめてくる。

目の飛び込んでくる綺麗な翡翠色の瞳に清廉な顔、その顔に浮かぶ年相応のいじらしい表情にどうにも心が落ち着かない。

 

「色々心配かけたし埋め合わせみたいなものと…………単純に俺が速水と行きたいからだよ……悪いか………?」

 

「ううん、大丈夫、私も誘おうと思ってたし。だって月乃と行きたいから、ね?」

 

「……そうかよ。」

 

「………」

 

「………」

 

ニギニギと、どちらからともなく無言で手の感触を感じていると、軋む音を立てながら木戸が開く。

知らぬ間に1分が立っていたようだ。

 

「開いたし、先行こっか。」

 

「………この先こんなのが待ち構えてると思うと、少し気落ちするけどな。」

 

ため息を吐きながら先に進むと、天井から吊り下げられた数多のコンニャクや『琉球名物』と添えられたツイスターゲームなどが待ち構えていたのだが…

 

「魂胆が透けて見えすぎだし、チープと言うか…なんと言うか…」

 

「ツイスターゲームなんかもはやなんの飾りのない、普通のツイスターゲームだったしね……プレーヤーも真横に置いてあったし…」

 

「なにが琉球名物だって話だよな。鷹岡のことが無かったとしても、元よりコレをやるつもりだったんだろうし……あのタコ……」

 

置かれていた仕掛けに呆れを通り越して無の表情をしながら、肝試しから殺せんせーへの愚痴にシフトしつつさらに奥に進む。

しばらくすると、日本家屋の一部分を切り抜いたような壁があり、襖には『シュッ…シュッ…』と何かを研いでいるのが音とシルエットでわかる。

 

「血が見たい…」

 

「「………!!」」

 

悍ましい声と共に、ヌラリと研ぎ澄まされた包丁が一瞬輝く。

 

「同胞を殺されたこの恨み…血を見ねばおさまらぬ…」

 

包まれる先ほどまでとは違う異質な雰囲気に心臓が早鐘を打つ。

これから何が起こるのか、思わず速水を守るように身構えると、

 

「血、もしくは…イチャイチャするカップルが見たい…どっちか見れればワシ満足。」

 

「やっすい恨み。」

 

「まぁ、そんなこったろうとは思ったよ。身構えて損した…」

 

「月乃君と速水さんのイチャイチャだと尚良い………白利と凛香って『り』で繋がるから白凛(はくりん)ってカップリング名呼びやすくて良い……良くない?」

 

「マジで一回大真面目に理事長先生に相談した方が良いかもしれない。」

 

教師としての在り方からだいぶ逸れている殺せんせーを一回理事長先生に突き出そうと大真面目に考えていると、包丁を研いでいた殺せんせーは逃げるように姿を消した。

 

「包丁研ぐ音とかで雰囲気はかなり良かったのにな、結局は吊り橋効果でカップル作るのが魂胆かよ……」

 

「……………」

 

「……速水?」

 

なぜかあのイチャイチャ懇願亡霊ゾーンを抜けてから押し黙っている速水、視線はこちらを向いているのだが返答だけがない。

 

「お〜い、速水さ〜ん?」

 

「………どうしたの、白(・)利(・)?」

 

「ん"ん"ッ!!?ゲホッゴホッ!?」

 

唐突な名前呼びに空気が変なところに入り込み激しく咳き込んでしまい、速水は慌てた様子で背を摩ってくれる。

なんとか息を整えると、口元を拭って速水に視線を向け問いかけた。

 

「ハァ…ハァ…な、なんで急に名前で呼んだんだよ…?」

 

「さっき殺せんせーが言ってたのがちょっと気になって、試しに呼んでみたけどまさかそこまで驚かれるとは。」

 

「そりゃあ、急に今まで苗字呼びだったのが名前に変わったら驚くだろ……」

 

「そういうもの?」

 

「考えてみろ?俺がり…速水をなんの脈絡もなく名前呼びするんだぞ?」

 

「………ん?」

 

白利が何かを言い淀んだのを速水は聞き逃さず、勢い良くグリンと顔を向けると微笑みながら顔を覗き込んでくる。

 

「今、なんて言おうとしたの?」

 

「……なんにも。」

 

「『り…』って言おうとして速水って言い直したよね。その先、何言おうとしたの?」

 

「だからなんでもねぇって、ほら行くぞ。」

 

答えを濁すように顔をそっぽ向けると、速水を急かすように握った手を引っ張り先を行く。

速水は多少体勢を崩したがすぐさま持ち直し、強引に引っ張る白利の背中を見つめて、

 

(それでも、手は離さないんだ。)

 

手から伝わる体温を噛みしめるのだった。

 

 

 

「綺麗……」

 

「だな、月の光が丁度あそこの隙間から入ってきてるみたいだ。……で、今度の茶番の舞台はここみたいだな。」

 

洞窟を形成する岩の隙間から月光が降り注ぐ幻想的な場所に出たが、その幻想的な雰囲気に似合わない物が天井からぶら下がっている。

人間の頭蓋骨が白利の身長ほどの高さに吊り下げられており、ケタケタと笑うように下顎を振るわせ骨がぶつかり合う音が響く。

 

「立てこもり飢えた我々は…1本の骨を奪い合って、喰らうまで落ちぶれた…お前達にも同じことをしてもらうぞ…」

 

言い終わると同時に、2人の前に紐に括り付けられた細長い棒状の物が降ってくる。

そして物の正体を認めた後、『まさか本当に人骨か』とほんの一瞬でも思ってしまった自分を殴りたくなった。

なぜなら…

 

「さぁ、両端から喰っていけ。」

 

「「………」」

 

吊り下げられていた物の正体は皆大好きポッキーであり、ポッキーを縛っている紐には男女がポッキーの両端からそれぞれ食べ進めている絵が貼り付けられていたのだ。

        すなわち、ポッキーゲームである。

 

「……ったく、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるぞ殺せんせー。本当にやる奴がいると思ってんのか?」

 

恐らく殺せんせーがいるであろう方向に声を投げかけながら、紐を解いてポッキーを取る。

 

「にゅやッ!?そんな殺生な!?」

 

「速水、食うか?」

 

「ん。」

 

殺せんせーの嘆きをスルーしつつ速水にポッキーを差し出すと、躊躇いなく口に咥え込む。

もうやる事もないだろうと足を踏み出そうとした時、手が引っ張られ後ろにツンのめり振り返ると、

 

「おぉっと…!?……どうした速水、なにが…」

 

「ん。」

 

ポッキーを咥え、持ち手のクッキー側を白利に突き出す速水の姿があった。

 

「ん?」

 

「ん。」

 

「いや『ん』じゃなくてポッキー(それ)食うか手に持って喋れよ。」

 

「………」

 

額に青筋を浮かべた速水は白利のライトを持つ手を取ると、向かい合って白利の口元にポッキーのクッキー側を突きつける。

白利とてわかる、もしこのクッキー側を咥えようものならそれはポッキーゲームであると。

 

「あの…いや…速水さん!?」

 

「ん。」

 

「本当に何か言ってもらっても良いですかね!?ってか力強ッ!?」

 

変わらずポッキーを咥えて突きつけてくるだけの速水に痺れを切らし抜け出そうとするが、両の手を掴む力が思いの外強く抜け出すことができない。

解放されるには……ポッキーゲームをするしかないだろうか?

 

「あの……本当にやるんですか…?」

 

「ん。」

 

「………わかったよ!やれば良いんだろ!」

 

「ん。」

 

『俺って押しに弱いのかな…』と思いつつ、意を決して速水の肩に両肩を添えてポッキーを口に含む。

今までにない至近距離で見る速水の顔、吸い込まれそうなほど美しい瞳と蕩けてしまいそうな甘い匂いに思考が蝕まれていく。

 

「………」

 

「………」

 

サク…サク…とクッキーが歯に砕かれる小さな音がまるで洞窟中に響くほどの轟音に聞こえる。

そして砕かれる音が響く度に、速水との距離が少し…また少しと縮まり心臓の音が強まっていく。

 

食べ進めていくと視界から得られる情報が速水しかなくなり、五感も思考も速水色に染まり始める。

 

(速水ってこんなにまつ毛長かったのか…)

 

眼前のまつ毛の長さ、脳を蕩かす甘い匂い、時折溢れる息遣い、手に伝わる確かな熱、口内に広がるチョコの味、全身に巡る感覚全てが脳を焼き尽くす。

 

さらに迫っていく距離、意識は自ずとポッキーを咥える場所…速水の唇へと向いていく。

 

ただでさえ今も甘ったるいと言うのに、あの唇に重ねたらどうなるのだろう。

唇の甘さを、甘い香りを、柔らかな感触、彼女の熱をゼロ距離で感じてしまったら一体どうなってしまうのだろう。

 

ゆっくりと、ゆっくりと近づいていく。

白利と速水の身長差は15cm、カップルの理想とされる身長差丁度であり、互いが無理なくキスをすることができる。

 

近づいてあと3口噛み砕けば唇がくっついてしまうだろう。

それに気づいた速水はほんの少し逡巡した後、動きを止め瞳を閉じて唇を尖らせた。

 

それ即ち、受け止める覚悟ができたと言うこと。

 

「………」

 

1口、2口、噛み砕き、そして最後の1口を………

 

 

 

 

 

「フンッ!!」

 

噛み砕く前に半ばから折った。

 

(フーッ…!フーッ…!危なかったぁ…!!)

 

「…………ん。」

 

手が離れ自由になり距離を取って荒くなった息をなんとか整えようとしていると、速水は信じられないモノを見る目で白利の背を見つめていた。

 

「そこで日和る?普通。」

 

「い、いやいや日和ってないし!?こんな見え見えの罠に引っかかるのは癪だっただけで?速水だって殺せんせーの思う壺は嫌だろ!?」

 

「ちょっと月乃君!?どうしてそこで男らしさを見せないんですか!!あと1回噛み進めるだけだったでしょう!!?」

 

「うるせぇこの下世話タコ!!しっかり見てんじゃねぇよ!!こんな雰囲気に流されてなんてゴメンだね!!ほら速水行くぞ!!」

 

「………1回してるのに。」

 

速水のボヤキは耳に届かず、手を取り逃げるようにその場を去っていった。

 

 

 

「ん、風が強いな…そろそろ出口が近いかもな。」

 

「……………そうだね。」

 

「その……すまなかったから許してくれよ…」

 

「別に?怒ってるわけじゃないし。」

 

「怒ってるじゃん…」

 

肝試しも終盤だが、先ほどのポッキーゲームから速水の態度がどうにもツンケンしていて会話が弾まない。

何度か許しを乞うたが『怒ってない』と一蹴されるだけなのだ。

 

こういう時に取るべき方法がわからない白利が頭を悩ませていると、見かねた速水が口を開く。

 

「………夏祭り。」

 

「え……?」

 

「夏祭り、期待してるから。」

 

速水は多くこそ語らなかったが、その意図は流石にわかる。

いまだ繋がれた手に力を込めて、

 

「わかった。」

 

ただ一言、そう返した。

 

「……うん、よろしい。」

 

「ん、ありがとうな。」

 

「ううん、私こそごめん。外、行こうか。」

 

外に見える星空に向かって歩きながら絡め合った指を解く。

だが最後の1秒まで熱を味わうようにゆっくりと指先まで名残惜しそうに、

 

「化け物でたーーーッ!!」

 

「ひーーーッ!!目がない!!」

 

「ひーーーッ!!なんかヌルヌルに触られた!!?」

 

「ひーーーッ!!日本人形!!?」

 

「ひーーーッ!!水木しげる大先生!!?」

 

              

 

   殺せんせーの弱点

 

   案の定オカルトに弱い

              

 

「………なんだありゃ。」

 

「やっぱホラー苦手なんかい……勝手にパニックになってるし1番恐怖を楽しんでるの殺せんせーなんじゃ…?」

 

「………とりあえず出よっか。」

 

洞窟の後方から悲鳴が聞こえてきたと思ったら凄まじいスピードで壁に衝突しながら殺せんせーが頭上を飛び去っていく。

呆れつつ後を追うように外へ出ると、息を切らした殺せんせーは先に出口へ到着していた皆に取り囲まれていた。

 

「あ、速水っち達も終わったんだ。」

 

「うん、丁度ね。……ほぼ同時に殺せんせーが飛んで来たけど。」

 

「マージで何をしてんだか、このタコは……」

 

「さ、洗いざらい話してもらうぜ殺せんせー。」

 

流石の殺せんせーも圧に負けたのか、顔を伏せながら肝試しでの魂胆を全て吐き出した。

 

「要するに…怖がらせて吊り橋効果でカップル成立を狙ってたと。」

 

「結果を急ぎすぎなんだよ。」

 

「怖がらせる前にくっつける方に入ってるから狙いがバレバレ!!」

 

「雰囲気自体は良かったんだから余計なことしなきゃよかったのに。」

 

「んでもって自分が仕掛けた肝試しで怖がってる救えねぇな……」

 

真意を聞いた全員は囲んだまま詰め寄ると口々に声をあげ、生徒達の怒りの声に殺せんせーはプルプルと震えながら伏せていた顔をあげると、

 

「だ、だって見たかったんだもん!!手ェ繋いで照れる2人とか見てニヤニヤしたいじゃないですか!!」

 

「泣きギレ入った…」

 

「ゲスい大人だ…」

 

「月乃君も肝心なところで…『死ね!!』ニュヤッ!!?」

 

「はいはい、つきのんも落ち着いて。殺せんせー、そーいうのはそっとしときなよ。うちら位だと色恋沙汰とか突っつかれるの嫌がる子多いよ?皆が皆、ゲスイわけじゃないんだからさ。」

 

「うう……わかりました……」

 

今にも食ってかかろうとする白利を前原が羽交い締めにして嗜めつつ、中村のお説教を喰らい殺せんせーが涙する。

担任教師のなんとも情けない光景を見ていると、

 

「何よ、結局誰もいないじゃない!!怖がって歩いて損したわ!!」

 

出口の方向からビッチ先生の声が響き、全員の視線が一斉にそちらを向く。

 

「だからくっつくだけ無駄だと言ったろ、徹夜明けにはいいお荷物だ。」

 

「うるさいわね男でしょ!!美女がいたら優しくエスコートしなさいよ!!」

 

烏間先生の腕に抱きつきながら洞窟から出てくるビッチ先生、いつも通りのお小言を言ってこそいるが烏間先生を見るその瞳には違う色が宿っている。

ジッと見つめていると、こちらの視線に気付いたのか抱いていた腕を解いてそそくさと離れていく。

 

だが、その行動でE組全員の心は合致する。

 

「…なぁ、薄々思ってたけどビッチ先生って…」

 

「…うん。」

 

「まぁ、そういうことだろうな。」

 

「…どうする?」

 

「明日の朝帰るまで時間はあるし……」

 

「「「くっつけちゃいますか!?」」」

 

結局どいつもこいつもゲスかった。

 

「月乃はどうするの?」

 

「ま、イリーナ先生には散々世話になったしな。幸せになってくれるなら俺も嬉しいし、手伝うか。速水は?」

 

「私も手伝う。個人的にお世話になったことあるし、ああいう顔するビッチ先生も新鮮だし手伝っても良いかな。」

 

「そうか。ま、皆ゲスい感じはあるが、なんだかんだイリーナ先生のことが好きだからするんだろうな。」

 

「E組に来た当初のビッチ先生なら手伝おうなんてならないだろうしね。」

 

「アッハハ!懐かしいな、尖ってた頃のイリーナ先生。あの頃から変わったな、イリーナ先生も俺も。……さ、行こうぜ速水。」

 

「うん。」

 

こうして暗殺旅行最後の作戦が開始されるのだった。




ご覧いただきありがとうございました!

【月乃白利の秘密】

速水凛香とは………
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