黄金樹から出禁くらったので、フォドラで生きていきます。 作:エクストラ・バージニアオイル
このままだと確定でBADルートゆえ、軌道修正です。
夕暮れ空が広がるガルグ=マク大修道院の中。
機嫌よく歩く少女が一人。特徴的な桃色髪のツインテールを揺らすヒルダだ。
市場で買ったのであろうお洒落な小物やアクセサリーを眺めながら帰路へついていた。
「可愛いの買えてよかった〜♪今度のお休みは兄さんから貰ったお洋服と合わせてみようかな〜。.....アレってクロードくん?」
大修道院の学生寮へ戻ろうとしていたヒルダがふと見つけたのは自身が所属する金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の級長であるクロードの姿。
周囲の視線を切るように夕暮れで出来た影や、茂みの近くを通りながら人知れずどこかへ向かっているみたいだ。
「また悪巧みかな?面倒ごとは嫌だけど...ちょ〜っと気になっちゃうし、何してるか見たら帰ろっかな!」
いつもより機嫌がいい分、心の余裕があったヒルダはクロードの跡をつける事にした。
向かう先は大修道院の2階。教団関係者の司祭や騎士らの出入りが少なくなる黄昏時、薄闇に紛れた彼らの侵入を咎める者はいない。
そう、彼らの向かう先に誰が居たとしても。
───────── 一方その頃、謁見の間にて。
「レア様、どうしてメリクを捕まえたのですか。」
「ベレス。あの者には教団の敵対者、よからぬ教義を持った組織のもとで生まれた可能性があるのです。私も信じたくはありませんが...ひとまず疑いを晴らさなくては解放する事もままならないのです。」
「......。」
メリクが教団の騎士たちによって大修道院の3階へと幽閉されてから、はや1刻。事の詳細を聞くためにやって来たベレスは一切の情報を開示してくれないレアと向かい合っていた。
口を開けば「敵対者」や「よからぬ教義を持った組織」やら。
少し前まで彼の入学を期待してくれていた人物の言葉とは思えなかった。
だが、彼女にも立場があるのだろう。教団の関係者らに彼の身の潔白を証明しない限りは解放できないという事だけは理解できたベレス。
「これはほとぼりが冷めるまで待つほかあるまい。おぬしも心配するのは分かるが、ここは一度あの阿呆が何をしでかしたか情報を集めた方が賢明じゃ。」
姿こそ見えないが、ベレスの脳裏に響く声。
ソティスにも言われた以上今は引き下がる他なさそうだ。
「.......失礼します。」
「ベレス、私たちも最善を尽くします。彼には私が決して手を出させないと約束致します。彼の帰りを信じて職務に邁進してください。」
「...,..どうか、お願いします。」
恭しく一礼したのち、ベレスは謁見の間を退室して行った。
それを見届けたのか入れ違いでセテスが険しい表情のまま入ってくる。
彼の周囲には4人のセイロス騎士も控えている所を見ると、威厳ある表情をしなくてはならないのも当然であろう。
「大司教、指示通りに彼を3階の一室へ通しました。この後の対処について伺いたく存じます。」
凛とした態度でレアからの指示を仰ぐセテス。
「ありがとうございますセテス。彼の見張りをしている騎士が何人ほどか、報告してくれますか。」
柔らかな笑みを浮かべ労いの言葉を掛けるレアは警備の状況について尋ねる。
これに対し、セテスは軽く頷いて横にいる騎士へ「報告を。」と促した。
「恐れながら、報告致します!大修道院3階へ通じる階段に5人の騎士を配置しております!これに加え、2階を13人の騎士で巡回。1階の階段前は8人の騎士で厳重に通行を規制しております!」
「報告ご苦労様です。では私とセテスがあの者の処遇を司祭らと教義するまで、監視を一任いたします。よろしいですね。」
「はっ!!謹んで拝命致します!!」
一連の報告を終え、新たに警備の任を受けた騎士たちは敬礼をすると足早に持ち場へと向かった。
それを確認するとセテスはレアの側へと近づき耳打ちする。
「レア...彼は英雄の遺産を『綺麗だ。』と...。」
「ッ!?.......なんという事を...!!」
レアが強い激情からか、激しく腕を震わせる。
セテスも唇を噛み締め、もはや何も言うまいと目を閉じた。
「ベレスには、何と謝れば良いか分かりませんが...私が手を下さねばならないようですね。セテス、司祭らをここへ。」
「.......承知した。」
「残念でなりません、メリク........。」
大きな決意を固めたレアの顔は涼しげだった。
不気味なほどに、感情の起伏を排したその表情からは彼女がこれから何をするかなど想像もつかない。
もはや殺意に支配されているなどとは、この場へ集まれられた一介の司祭らでは見抜くことは不可能だった。
そんな彼らの到着を知らせるノックの音が謁見の間に響く。
「どうぞ、入りなさい。」
「失礼致します大司教様。」
ぞろぞろと同じような顔ぶれの老人共が一礼し、レアの前へと並ぶ。
ある者は己を少しでも良く見せようと下卑た笑みを。
ある者は大司教への信頼を体現する仏頂面で、大司教の言葉を待つ。
「では。始めましょう、ガルグ=マク大修道院士官学校の生徒メリクの処遇を決する会議を。」
──────── 一方、その頃。
大修道院の3階。大司教レアの私室と豪華なテラスのみがある階の一角。
周囲の石壁に溶け込むようにひっそりと取り付けられた扉があった。
子供1人がようやっと通れそうな小さな扉、その先には今一人の男が閉じ込められていた。
「てじょう、じゃま。」
自前の筋力99に任せて引きちぎる事も容易であろうに、大人しく捕まっているメリクがいた。
こうなった経緯も正しく理解していない彼は不意に脱走して彼らと敵対するわけにもいかない為、いつ来るかも分からない牢屋番を待っているという訳だ。
「.......だれかいる。」
手持ち無沙汰に祝福でも作っておこうとしたメリクだったが、何かが近づく気配を外に感じ取る。
刺客であれば両手足を拘束された状態で相手をするのは困難と判断したか、素早く手錠を引きちぎり、巨大な『ガンメンの盾』と長槍『パイク』を装備した。
「......。」
息を潜め、神経を研ぎ澄ます。
扉が開くと同時に返り討ちに出来るように捧闘の盾、大山羊、大盾のタリスマンも装備する。
気配の主は....どうやら2人、だが殺気が無い。
「....?」
怪訝に思ったメリクはそっと扉をノックしてみる。
コツ、コツ。と石で出来ているらしい扉が硬質な音を鳴らす。
すると、外にいる2人は足音を立てない程度の速度でこちらに寄ってきた。
「....メリク....そこにいるのか....?」
「....クロード?」
気配の主はクロードだった、のだが。何故ここにいるのかという疑問が浮かぶ。
「ちょっと....クロードくん....。アタシ、もう帰っていい....!?」
「ヒルダもいる?」
あからさまに嫌そうな声をあげるのはヒルダ。
どうやらこの2人がここまで来ているようだ。
「ここまで来たら戻れないだろ....メリク、扉は開けられそうか?」
「はなれてて。」
メリクを閉じ込める重厚な小さい扉にはドアノブすら付いていない。
中から開ける事が考慮されていないのだろう、完全な密室になっている。
さして逡巡する事なく懐から紅色の瓶を数本引き抜いて中身を一気に煽り、扉と壁の隙間へ吹きかける。
すると、屈強な騎士の力でもびくともしない真っ平な石壁と扉が、少し溶けた。そこへ、すかさず腕を突き入れて体重を後ろにかけると。
ズズッ...ズズズズ...。
「あいたよ。」
「えぇ...?」「よし、気づかれない内にとっとと入ろうぜ。」
困惑するヒルダを引っ張ってクロードはメリクの独房へと飛び込む。
それと共に、二人を迎え入れた部屋の扉がゆっくりと元の位置へ戻される。
こうして誰にも気づかれず、何事もなかったかのように静けさが戻ったのであった。
「────さて。それじゃあ聞かせてくれよ、何があったのかをさ。」
「かくかくしかじか。」
「へぇ〜、セイロス騎士団のカトリーヌさんに英雄の遺産を見せてもらった時に、それが誰かの体から作った武器だって気づいて説明したら周りで聞いてたセイロス騎士の人達に囲まれて連行されたんだね。その後、セテスさんに洗いざらい吐いた時に英雄の遺産を『綺麗だ』って言ったら凄くショックを受けた表情になってそのまま音沙汰なく幽閉されているんだね〜。ふ〜ん......ん!?」
「要約ありがとうなヒルダ。」
成り行きで独房までついてきてしまったヒルダだったが、面倒見の良さが災いしたか。
知りたくもないフォドラの闇に触れてしまった。
「ねぇ!?この情報アタシたちが聞いたのってマズいでしょ!クロードくん?アタシ、何も聞いてないというかそもそもこんな場所に居ないって事にして!?」
「そう焦るなよヒルダ、もう俺たちは共犯だからな。一蓮托生ってやつだ、ははっ!」
「あーもうっ!こんな事になるなら大人しく部屋に戻ってたらよかったのにぃ〜!!」
「...ふたりとも。いまのきいて、なにがダメだったとおもう?」
突然のフォドラを揺るがしかねない情報を食らって混乱やら、いっそ清々しいまでに笑っていたヒルダとクロードだが、メリクの言葉に少し考える仕草をする。
そして示し合わせたかのように一言。
「「全部(だろ)(でしょ)。」」
「.........?」
「そもそも、武器は頑丈な鉱石とかで作るものなのはアタシでも知ってる常識だよ。それに...。」
「ああ、訓練所内で大っぴらに女神様が作ったなんて言われてる英雄の遺産を、人体から作ったいわく付きの武器なんて言っちまったのが一番ダメだろうな。」
「はざまのちでは、いきものからつくったぶき、ふつうにあったよ。」
「残念ながらこっちじゃあり得ないんだよな。」
そうだったのかと頷くメリク。
これでひとまず彼がどうして幽閉されたのかは分かった、が。
「そもそも人体から作った武器っていうのが本当なら一体どこの誰を使って作ったんだろうな。」
「あー!!聞きたくないー!....でも、ここまで来たし手伝うしかないよね...はぁ.....。......セテス様がショックを受けるって事は教団に関係が大きい可能性があるんじゃないかな?」
「というと。」
「うん、想像にはなるけど四聖人とか教団に関係がある偉〜い人から作った武器...とか?」
突拍子のないヒルダの予想。
鋼や銀など、鉱物を素材にして武器を作るフォドラで「人体を素材にした武器」なんて作ろうと思うなら、神話やお伽話に出てくる存在から作られたと言われた方が信じられる。
だが、神話やお伽話が事実などというのはそれこそナンセンス。
そしてそういった話は教団が既に説明している「英雄の遺産は天上に住む女神様が作られた武器なのだ。」という事に帰結する。
その証拠にメリクはともかく口の減らないクロードが珍しく黙りこくっている。
「ごめん、やっぱさっきのナシ...。」
「ヒルダ、その想像あながち間違いじゃないかもしれないぞ。」
「え?それって...。」
「なぁメリク。さっき狭間の地、元々いた場所では生き物から武器を作るのは普通だって言ってたよな?」
「うん、いろいろあるよ。」
「それの中にメリク、お前が変身してたような『竜』を素材にした武器ってあるのか?」
「あるよ。」
軽く答えると。さっきまで持っていた気色の悪い顔面の形をした大盾をどこかへ仕舞い、代わりに取り出したものはまさに。
「何それ、竜の頭ぁ!?」
「ははは......本当になんでもアリだな狭間の地ってのは。」
「ひ、だせるよ。」
「こんな狭い部屋で出したらアタシたちも死んじゃうんですけど!」
“接がれた飛竜”を見せたメリクだったが、火を出すのは流石に自重して懐へと仕舞い直した。
そしてこの武器によっておおよそ何か理解したのであろうクロードがさらに質問を投げかける。
「じゃあ他に、武器自体が生きてるってケースはあるのか?」
「うん。(冒涜の聖剣)」
「うげぇぇっ!?気持ち悪い...!」
「次は、生物の体の一部を使った武器。」
「これ。(指輪指、血鬼の腕、アステールの薄羽)」
「きもちわるっ!!あっ...でもこの剣?ちょっと綺麗かも。」
「それふったら、ほしがでるよ。」
「星?どういう原理...?」
という具合にクロードに言われるまま、様々な生物由来の武器を見せていくメリク。
それらを全て見たクロードは...。
「うん、なるほどな。だいたい理解できた。」
「そうなの?アタシはキワモノ武器ばっかり見せられて正直もう頭パンクしちゃいそうなんだけど...。」
「なにがわかったの。」
「ああ、メリク。お前がカトリーヌさんの武器を見た時に『誰の体で作ったか』って聞いた事、はじめは何のことだかさっぱりだったが...見せてもらった武器と、カトリーヌさんの雷霆を思い出した時に、一つの仮説が浮かんできたんだ。」
そう言うと、クロードはポケットから一枚の羊皮紙を取り出す。
そこには一枚の絵が描かれていた。
「真っ白な、竜の絵?これがどうかしたの?」
「少し前に書庫でメリクが見せてくれた竜の姿に関係する本がないか探してた時にたまたまな。そんでもってコレはイグナーツに頼んで模写してもらった一枚だ。」
「もしゃ、って。」
「本の一部を紙とかに書き写す事だよ。でも何でわざわざそんな事を...。」
「そこが理由なんだ、これが描かれてた元の本はセテス様に取り上げられちまった。かなりの剣幕でな。そこから導き出される答え...メリクが見せた竜の姿、英雄の遺産は誰かの体から作られてる事、教団の秘密、逸話だけが残る四聖人...。」
「きょうだんに、りゅうになれるひとがいて、そのひとをつかって、ぶきをつくった?」
「ご名答。ただの人間の体から武器を作るより、竜に変身できる英傑を素材にした方が遥かに強いだろ。女神様が作ったってより、そんな凄い人達が亡くなった後の体で英雄の遺産を作ったって可能性を俺は考えるね。」
これにはヒルダとメリクも納得の表情。
この筋書きならば英雄の遺産を「誰かの体で作った武器」呼ばわりされるのは御法度。
かつての教団に関わる偉人が姿を変えて今も我々を守ってくれていると敬意を払うことが自然だ。
そしてそれは教団の暗黙の了解であるのかもしれないという可能性を考慮すれば、ただの仮説が現実味を帯びてくる。
「つまりメリクくんが連行されたのも...。」
「この秘密を守るため、そして万が一にでも英雄の遺産が人の体から作られたなんて罰当たりな想像をさせないため、だろうな。」
「なら、そのひみつをないしょにする、っていったらゆるしてもらえる?」
「うん、きっとそうだよ!アタシたちもついて行ってあげればきっと分かってもらえるよ!ね、クロードくん?」
「.......流石に全員まとめて口封じをするって訳にもいかないだろうしな。よし、そうと決まれば早く行こう。こうしている間にメリクを始末する決定をされたら手遅れだからな。」
「口封じ....アタシ、やっぱり先に寮へ戻っててもいいかな?」
石造りの独房でこれまでの状況を整理し、大司教の下へ向かおうと決めた3人。
だが、メリクだけは何かが引っ掛かっているのか。
少し首を傾げながら彼らに問いかける。
「クロード、ヒルダ。ふたりはなんで、おれのこと、たすけてくれるの。」
「ん?何でって、そりゃお前は面白いヤツだしな。色んな学級のヤツらと毎日訓練やら散歩やら楽しそうにしてるのは遠目でも分かる。そんな奴がちょっとした不都合で罰を受けるのは嫌ってだけさ。それに...。」
「それに。」
「お前がいたら、もしかしたら俺の夢に一歩近づくかもしれないって思ってな。」
「何それ初耳。クロードくんにも夢があったりするんだ!」
「おいおい...人の事を何だと思って...。」
「ふたりとも、しずかに。」
少し緩んだ空気になりかけたクロードとヒルダだったが、そんな彼らを制止させたメリク。
何かの気配を感じ取ったのか、二人を部屋の奥で屈むように手で催促すると、左手に『ルーサットの輝石杖』。右手に『流紋の短剣』を装備する。
先ほど酸で溶かした扉の前に立ち、自身へと魔術『見えざる姿』を付与し先ほどよりも慎重に扉を引いて耳をすませる。
「...。」
─────────キィン......ぐあぁ........。
階下から微かに響いてくる金属音と、断末魔。
足音は2つ。相当の猛者か、甲冑が地面にぶつかる音が切れ目なく続いている。
これは恐らく警備をしていたセイロス騎士達が倒されていく音なのだろう。
.....足音のうち1人、こちらに向かって駆け上がる音がしてくる。
「...。」
無言のまま、わずかに開けた扉から外へ出ると何も言わずに扉を閉める。
「ちょっと、どうしたのメリクくん!?」
「メリク、一人でいけるのか?」
「......まってて。」
微かに中から声が漏れてくるが、それも既に気にならない。
久方ぶりに肌へ伝わる強敵の予感。だが理不尽な強さなどでは無い。
せいぜい失地騎士か、貴腐騎士あたり。集中すればすぐに殺す事など造作もない程度。
が、殺気の量とでも言えば良いか。
狭間の地にいた奴ら、相手を殺すための最善手を取ってくる、ある種の機械的な手合いとは全く異なる気配。
それはまさに、そこかしこに死を振りまこうとする気配だ。
「......いいね。」
褪せ人にとって珍しく感想を口にしたくなるような、新鮮かつ心を揺さぶられるインスピレーションであった。
姿を消した状態である事も忘れ、階段のみに鋭く神経を集中させ、その瞬間を待つ。
........カツ...カツ....カツ....ガシャ。
「.....!!」
壁に掛けられた蝋燭の火がゆらめく。
その光に照らされて、殺気の塊が3階へと現れた。
「.......悦楽。」
「....。」
悪魔のような角がついた骸骨をモチーフとしている甲冑。
黒一色で染められた甲冑とは比にならない禍々しいオーラを放つ大鎌。
骸骨の兜から覗かせる紅色の双眸。
殺気を全身から放つ、漆黒の騎士。
ある者達から『死神騎士』と呼ばれる存在が、透明な状態のメリクの眼前へ現れた。
「...姿は見えぬが......感じるぞ....!」
「───ッ。」
相手を見るや否や、素早くその場から真横へローリングしたメリク。
瞬間、透明であるはずの彼が立っていた場所へ飛び込んできた死神騎士が鎌を振るっていた。
もし少しでも躊躇っていれば胴を横一文字に裂かれていただろう。
「.......一撃を避けるか、悦楽ッ...!!」
「....。」
姿の見えない自身を気配だけで看破する死神騎士にメリクは心が高鳴る。
力任せで、粗雑。速度はあるが洗練されていない。
ただ殺意のみに任せて鎌を振るう姿は愚かだと一蹴することもできるだろう。だが、それだけではない強さを感じる。
少し前にやり合ったカトリーヌも確かに強かった。しかし、勝利を貪欲に狙う彼女の剣は自身のルーツと同じような生きるための剣である。
そこに溢れるような殺意というのは無い、ただ最適化された生きるための意志がこもっただけのシンプルでありきたりな剣だ。
だがこの死神騎士はどうだ?
「ふぅっ、はぁっ!!!」
「....。」
ただ快楽のみを求め、切り結ぶ事それ自体を目的とした剣。
渇望から来る、戦うためだけの剣だ。
いっそ懐かしさすら覚える、この感覚。異なる世界にいる存在もまた持つのだと、再認識させられた。
かつて....狭間の地の将軍ラダーンに仕えた赤獅子騎士たちが終わりなき戦いを繰り広げていた地下墓。
あの気に当てられて自身も昔、戦うためだけに剣を振るった事。
それを、思い出させてもらった。
だからこそ......。
「....!!ようやく、姿を見せたか。」
「......なまえ。」
「......死神。」
「........メリク。」
『見えざる姿』の時間制限まで攻撃を避けたメリク。
その間に、手持ちの武器も変更していた。
左手には『秘文字の剣』、右手には『夜と炎の剣』。
直剣二刀流、そしてこの二刀はどちらも強力な威力の戦技を持っている。
すなわちメリクは、フォドラに来て初めて、真剣な殺し合いをするための武器達を携えたのである。
「行くぞ、メリク。」
「......すぐしぬなよ。」
互いに向かい合って、武器を構える。
再び壁の蝋燭が揺らめいて、パチリと。火花を散らした。
──────────ギィィィィィィィィン!!!!!!
大鎌と直剣が交差、リーチの差が倍以上ある中で鍔迫り合い。
本来ならば、余程の実力差がない限りこのまま鎌に軍配が上がる。
故に、その“実力差”が鎌を押し返した。
「ッ!?重いっ.....!!」
「こらえてよ。」
全身のバネを活かして振り下ろした大鎌が、緩やかに死神騎士の手元へと戻っていく。
その刃と共に、死神の膝も曲がっていく。
まるで巨岩か。はたまた魔物か。
せいぜい1m程度しかない『夜と炎の剣』に恐ろしい力が込められている。これにびくともしない武器の強度も驚嘆に値するが、それ以上に。
「.....悦楽ゥ...!!!」
「.....。」
やはりこの男、メリクは強い。
途方もない強さを持った化け物だと、武器越しに痛感させられる死神騎士。
そして、このままでは兜から勢いよく真っ二つになることは明らか。
まだ、この程度で終わらせてたまるものか。奥歯をガチリと噛み合わせて反撃へ転じる。
「おおッ!!!」
「.....!」
寡黙な死神が気合いと共に、鎌を足下へ逃す。
力を込めていたメリクの体勢が前のめりに倒れ込んだ。
その鼻先に向かって、柄の根本。石突の部分による打突を放つ。
タイミングは完璧。重力に従って転倒しつつあるメリクに躱わす術はない。
カウンターの一撃が、褪せ人の頭蓋を躊躇なく貫いた。
はずだった。
「ぐうっ....!?」
「にとうりゅう、わすれたの。」
石突が届くより先に両足が崩れる。見ると、左手に持っていた直剣...というより白く光る文字が刀身を形成している武器が、足を撫でるように切っていた。いや、正確には通過していた。
そこにある筈の鎧を無視して、狙いの膝だけを斬られたのだ。
剣などの刃が体を切りつけてくる感覚とも違う、急に体の一部を寸断された激痛が一気に死神騎士へ押し寄せる。
その痛みから一瞬、メリクへの注意を逸らしてしまった死神。
「───ッ!!」
「“夜と炎の構え 夜の彗星”」
気づくとメリクが死神から2m半離れ、右手の剣を構えている。
その剣の先端へ、翡翠の光が収束して一つの光玉を形成していく。
肌でも感じられるこれは...魔力の奔流。
狙いは、死神騎士の身体の中心。心臓目掛けて光線が放たれた。
ガギャッ、ぐんっ
「.....とんだ。」
まだ痛みで動かない両足ではなく、手元の鎌を伸ばして石畳の溝へと差し込み。強引に身体を宙へ逃す事で光線から距離を取る。
メリクの放った光線は曲げる事や追尾は出来ないようで、窮地は脱した。
だが、跳躍の勢いから着地時、膝へ激痛が走る。まだ動きに先ほどの勢いが戻らない。
それでも強引に足を動かし、大技を放った直後の褪せ人へと肉薄する。
「貰った...!!」
「“防ぎ得ぬ刃”」
「!!!」
大きく踏み込んで、鎌を振り下ろす動作に入った死神騎士の視界に映ったのは、まばゆい閃光。
否、光る文字の羅列が伸びている。メリクが先ほど振るった『秘文字の剣』の刀身である文字達が、先ほどの数倍以上は長く伸びたのだ。
瞬間、死神の背筋に走る悪寒が彼の体を地面へ深く沈み込ませることを選択させた。
ブンッ────と、死神の頭上を伸びた刀身が通る。
( ヤツの首を狙うならば、今!!!!!!! )
まだ上段へ残したままの鎌を、振り下ろす。
「───死ねェッ!!!!!!」
「!」
赤い鮮血が石畳を染める。
メリクが纏っていた甲冑、白備えも赤く染まった。
他ならぬ、死神騎士の血によって。
「........ごぼっ。」
「.........。」
死神騎士が握る鎌は、確かにメリクの首筋へと突き刺さっている。
だが、浅い。渾身の一撃は、薄皮一枚を破いた所で止まっている。
一方の死神は、反撃で受けた『夜と炎の剣』が黒い鎧の左胸を貫いていた。
「何故.....届かぬ....。」
「”捧闘の盾のタリスマン“。こうげきをくらってないとき、しょげきだけ、かるくなる。」
「........まだ、戦い足りぬのが、口惜し...。」
ぐるりと回転させて、メリクの剣を引き抜くと死神騎士はその場へ倒れ伏してしまった。
勝敗は決した。
「......まだしぬなよ。」
「.....。」
そう語りかけながら膝を折り、祈る仕草を取る。いつの間にか手に持っていた触媒から暖かな黄金の輝きが空間全体を包み込んだ。
するとみるみる内に死神の受けた傷が塞がってゆく。
大聖堂で人々を気絶させた時にも使った回復効果の祈祷である。
これによって瀕死であった死神騎士は一命を浅くだが、呼吸をするまでには回復する事に成功した。
「......おまたせ。」
「メリクくん、心配したんだよ...って鎧真っ赤!大丈夫!?
「どうやら無事みたいだが、あんま無茶してくれるなよ?」
「うん、はやくだいしきょうのところ、いこう。」
地面にぶっ倒れている死神騎士、大司教の安否、他の騎士の状況などなど...。諸々の現状について聞きたかったクロード達だったが、ひとまず襲撃者がいる以上、喋っているよりも移動するのが先だと言葉には出さなかったがこの状況を脱するべく、静かに階段を降り始めた。
「一体、どこから入り込んだのやら...。」
「ホントだよ...あ、メリクくん。さっきチラッと見えた透明になる魔法ってアタシたちに掛けることって出来ないの?」
「それはできない、けど、アレならたぶん、いける。」
周囲の気配を探りながら階段を降りていた途中で何かを思い出したのか、メリクが懐からヴェールのようなものを3つ取り出した。
「これをかぶれば、きづかれないよ。」
「へぇ、んじゃ早速。」
「なーんだそんな良い道具があるなら教えてよ〜!」
と、3人同時に“擬態のヴェール”を装着。
その瞬間。3人が全く別の物へと変貌してしまった。
「なんだこれ!?」「なによコレ〜!?」
驚いたクロードとヒルダが見た物とは何か。そして今、大修道院に何が起きているのか。
夜の闇が空と大修道院を覆い始めていた。
とりあえず、ルートは固めました。
オリチャーで頑張ります。
書きたいことが多すぎて取捨選択と話の流れがめちゃくちゃになってる可能性があるので、生暖かい目線で見ててくださると幸いです。
ではまた次回。