この世界はとても変わっている。
特殊能力が大半の人間に備わっていて、個性と呼ばれるほどに浸透している。
そのせいか時折個性を使って犯罪が行なわれてしまう。そのような人々がヴィランと呼ばれ、それを倒す人々がヒーローと呼ばれる。
僕の頭じゃ考えられないような世界だ。
なのに何の因果か、この世界に生まれ落ちた。
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side 針目
僕の名前は
僕には2人分の記憶がある。
1つは名前も分からない子の、四歳までの記憶。もうひとつは、針目縫としての十数年分の記憶。その主である針目縫という子は、見た目こそ僕と似てるけど性格は最悪の一言。無邪気そうに見えて快楽主義的で、
『遊びは全力で!じゃなきゃ人生楽しくないよ!』
……らしい。そんなノリで人をいたぶったり殺したりすることを楽しむような人格破綻者。
この世界基準で言ってしまえば凶悪なヴィランだ。
まだまだ未熟な僕の頭では、荷が重くてとても抱え切れるものじゃなかった。それでも僕が狂わずにいられたのは多分、
僕が主人格として表に出た事で、もう一人の子を守った……と言えば聞こえは良いけど、実の所乗っ取ったと言ってしまった方が正しい。あの子の人格はとうに消えてしまっている。
それでもあの子が両親の元で幸せに暮らしている記憶が脳裏に焼き付いていて、とても複雑な気分だ。
―――そして今僕は、そんな幸せ一色だった記憶からはかけ離れた何処かに身を置いていた。
今から遡って3か月前
僕の頭に突然、熱と激痛、それと共にに存在しないはずの記憶がなだれ込んだ。
「縫、その体捨てろ」
「ハァーッ……ハァーッ……!!何……今の……!?頭、熱い……痛い……!?」
僕はコンクリートの小さな部屋に頭を抱えながら横たわっていた。何が起こったのかわからず、ただただ痛みだけが僕の思考を支配していた。
多分、情報量で脳がパンクしていた。これ以前の記憶とのギャップが大きすぎて受け止めるのに必死だったんだ。
しばらくすると痛みは穏やかになってきた。まだ熱の怠さは残るけど、周囲の確認くらいはできる。
……暗くて、狭くて、冷たくて、体を覆う服は麻袋のように着心地が悪くて……とにかく不快な空間だと認識するのにはそう時間はかからなかった。
僕は……死んだ。自分で身体を捨てて、原初生命戦維と一体化して、神羅纐纈に取り込まれて……ああ、気持ちよかったなぁ。
そのあとは流子ちゃんと戦って……
「……負けちゃって、神羅纐纈は鮮血に吸収されたんだ……よね」
そのあとの記憶は……よくわからない。曖昧というかぼやけていたというか……でも、これだけは言える。
「羅暁様……死んじゃったんだ」
鮮血に吸収された後の神羅纐纈を通して、微かに見ることができた光景が脳裏によぎる。
『……流子、これで終わりではないぞ?生命戦維は宇宙に広がり続けている、またこの星にやって来る……必ずな』
羅暁様はその言葉を最期に、自分の心臓を握りつぶして死んだ。
死んだんだ……
「
そう悲し気につぶやくと、僕は小さくうずくまった。
それが雨ゆえの寒さからか、
僕の目元からは一滴の涙……のようなものが垂れていた。
そこから数分、心を落ち着かせた縫は改めて自分と置かれた状況を確認し始めた。
「小さい……4、5歳くらい?」
まず、若返っていた。死ぬ前の正確な年齢は自分にも分かっていなかったけど、どう見積もっても10年程若返っているようなとても幼い身体だった。流子ちゃんとの戦いで失った手も、羅暁様に与えられた義手ではなく自身の、グランクチュリエとしての腕になっていて纏一身との戦いで失った左眼まで戻っていた。
それに関しては良かった。けど生身で神衣を着た流子ちゃんと平気で渡り合った小柄ながらも力強い体は、枝のように細く、何かの拍子で折れてしまいそうなほどに見窄らしくなり果てていた。
だがそのような事も、僕にとっては些細な事。鍛えてしまえばどうにでもなるはず。
一番大きな問題は―――
「生命戦維が……」
応じない。体に力を込めようにも、その細腕以上の力が出せない。特有の十字の光も、何も起こらない。僕が僕たらしめるはずの生命戦維は完全にその機能を停止していた。生命戦維が覚醒していれば、今もまだ残っている頭痛なんてへっちゃらだっただろうし、何なら頭痛すら起きていないかもしれない。
不幸中の幸いと言った所か、生命戦維が縫の体内から無くなったわけではない。完全な休眠状態になっているだけで、僕と生命戦維は融合したまま。それは感覚的にわかる。
この時から、僕は当面の目標として”生命戦維の覚醒”を先決にした。
たとえ僅かでも目覚めてしまえばそれで良い。たかだか1%だとしても、0と1では何もかもが異なる。
「……どうしよう」
しかし、目標が決まったとて、どうすれば良いか?その答えは出せない。
今の僕は、何の力もない女児に過ぎなかった。
「……僕は、何をするべきなんだろう」
僕が前世であんな大暴れできたのは羅暁様が居たからだ。
僕は、羅暁様の娘であり部下だった。神衣を着られない僕にも高次縫製師としての役割を与えてくれて、服を縫う楽しさと、僕が縫った服を羅暁様に着て頂けるという幸せを享受できた。羅暁様さえ居れば、僕は何だってできる気がしていた。
でも今この時は、本当に何の力も、人脈も無い。それどころか針も、糸すらも、何も。
今の僕に残っているのは痩せこけた身体と、未だに理解に苦しむ二つの記憶。どちらが本当の僕なのか、分からなくなってしまった。子供らしくかわいい夢を思い描いていた僕か、それとも大いなる意志に従うことに幸せを感じていた僕か……
答えはやっぱり出ない。
ただ、あの子の記憶のせいか……
前の僕がやっていた事をこの世界でもまた同じようには出来ないかもしれない。……そう考えるようになった。
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No side
「個性を与えた子供たちの様子はどうかな?」
「大半は泣きわめくだけで問題ないんじゃが、一人様子のおかしいのが居てな。夜に突然呻き始めて目を覚まし、過呼吸状態になっておった。」
「子供の名前は?」
「122番の針目縫という子供じゃ。落ち着いたかと思えば自分の体を確認し始めたり色々独り言もしておった。マイクが拾いきれなかったから何を言っていたかは分らんが」
「それだけかい?なら別におかしな話ではないだろう」
「そう思ったのはワシの感じゃ。この子供も他と変わらず泣き喚いていたのに、まるで急に自己分析を初めたように見えたのでな。奇妙じゃったから念のため今朝検査に掛けた」
「結果は?」
「……個性数値が0になっておった。つまり
「なんだって?……せっかく使えそうな個性を与えたというのに」
「しかも、元は無個性だったはず……本当に奇妙じゃ。が、可能性も感じておる。もし針目縫が個性ではない何かを持っているとしたら、それを研究するほかない」
「研究は良いがほどほどに頼むよ、脳無製造はまだまだ安定していないからね」
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あとがき
縫ちゃんすごく掴み所ないから口調など表面的な情報はまだしも、彼女だったらどんなことを思うのかとか考えるの結構難しいですね……表面上の事も表現できてるか不安ですけど。
書く上でキルラキル再履修したんですけど縫ちゃんって徹底して他者視点で描かれてまして彼女の心境とかマジでわからんです。まあもしかしたら裏表とかないガチの邪悪の化身である可能性の方が高いと思ってますが。
この話の続きはあまり期待しないでください。書く意欲はありますが話のストックとかは皆無です。この話も見切り発車気味に書きましたし、ストック溜めに入るか書けたら投稿するかも決めていません。投稿されてたら「ほ~ん投稿してたんや」くらいにとらえて頂ければ幸いです。
ではまた次回があれば……
感想・質問・誤字報告などあれば是非よろしくお願いします