鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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おまけ編 ― 静かな男は酔うと少し面倒くさい

 

 

 

夜の居酒屋は、

妙に落ち着かなかった。

 

提灯の灯り。

 

焼き魚の匂い。

 

酒の香り。

 

笑い声。

 

鬼が消えてから、

こういう“普通の夜”が増えた。

 

昔なら。

 

夜は、

警戒する時間だった。

 

今は違う。

 

酒を飲みながら、

くだらない話をしている。

 

それだけの事が、

未だに少し不思議だった。

 

 

「っかぁー!!

やっぱ酒はこれだなァ!」

 

実弥が、

豪快に杯を置く。

 

宇髄が、

笑いながら酒を注いだ。

 

「派手に飲んでんなぁ不死川」

 

「今日は飲む日だろ」

 

「まぁな」

 

その横。

 

義勇が、

静かに湯呑を持っている。

 

真壁も、

同じように座っていた。

 

炭治郎だけが、

少し緊張している。

 

「なんかこの集まり、

圧すごくないですか……?」

 

「今さらだろ」

 

宇髄が笑う。

 

「お前、

無惨との戦いより緊張してねぇか?」

 

「してませんよ!?」

 

少しして。

 

料理が運ばれてくる。

 

焼き魚。

 

刺身。

 

だし巻き。

 

煮物。

 

鮭。

 

湯気が立つ。

 

真壁が、

静かに箸を取った。

 

「……美味いですね」

 

炭治郎が、

少し目を瞬かせる。

 

「あれ、真壁さん今日結構喋りますね」

 

真壁は、

少しだけ首を傾げた。

 

「そうでしょうか」

 

「そうだろ」

 

実弥が即答する。

 

「普段ならもっと黙ってる」

 

宇髄が、

にやりと笑った。

 

「……あー」

 

「なるほどな」

 

炭治郎が、

宇髄を見る。

 

「何です?」

 

「いや別に?」

 

絶対、

何か気づいている顔だった。

 

 

酒が進む。

 

真壁は、

顔色が全く変わらない。

 

姿勢も崩れない。

 

声も静か。

 

だが。

 

少しずつ、

会話へ入ってくる回数が増えていた。

 

「最近どうよ堅」

 

「温泉宿の手伝いを少し」

 

実弥が少しつつく。

 

「ジジイみてぇな生活してんな」

 

「囲碁を教わっています」

 

「ハハッ!!

お前本当に若ぇのか?」

 

「楽しいですよ」

 

炭治郎が不思議に思う。

(あれ……

今日なんかすごい自然に喋るな……)

 

 

義勇が、

静かに魚を食べている。

 

宇髄が、

面白そうに聞いた。

 

「お前ら、

普段何話してんだ?」

 

「魚」

「魚」

 

「終わってんな会話」

 

炭治郎が、

吹き出しそうになる。

 

「でも成立してるんですよね……」

 

義勇が、

真顔で頷いた。

 

「成立している」

 

実弥が、

呆れた顔になる。

 

「お前ら、

よくそれで間が持つな」

 

真壁が、

静かに酒を飲む。

 

「義勇さんは、

聞くのが上手いので」

 

義勇が、

少しだけ真壁を見る。

 

「お前も喋り過ぎない」

 

宇髄がつっこむ。

 

「なんだこの静かな相思相愛」

 

「違う」

 

「違います」

 

ぴたり。

 

重なる。

 

炭治郎が、

とうとう吹き出した。

 

 

さらに酒。

 

宇髄が、

完全に面白がり始める。

 

「堅、

もう一杯いっとけ」

 

 

「頂きます」

 

「宇髄、てめえ絶対遊んでんだろ」

 

「派手に面白ぇからな」

 

真壁は、

相変わらず静かだった。

 

だが。

 

ここから、

少しずつ危険になる。

 

 

真壁が、

ぽつりと言った。

 

「不死川さんは、

本当はかなり面倒見がいいです」

 

 

「ァ?」

 

「えっ」

 

「怪我人を見ると、

歩幅が少し遅くなります」

 

「あと、

炊き出しで子供へ先に配っていました」

 

「見てんじゃねェ」

 

宇髄、

腹を抱えて笑う。

 

「ハハハ!!

お前そんな事してたのか!!」

 

「うるせェ!!」

 

真壁は、

本当に普通の顔だった。

 

そこが怖い。

 

 

炭治郎が、

少し困った顔になる。

 

(なんでこんな冷静なのに

情報だけ漏れてくんだろ……)

 

 

義勇が、

静かに茶を飲む。

 

安全圏。

 

――ではなかった。

 

真壁の視線が、

次に向く。

 

「義勇さんは、

鮭大根の話になると少し早口になります」

 

「……そうか?」

 

炭治郎が即答する

 

「なってます」

 

 

「……」

 

少しだけショックを受けている。

 

実弥が、

笑いを堪えている。

 

「ダメだ!!

今日の堅面白過ぎる!!」

 

「事実しか言っていません」

 

「それが怖ぇんだよ!!」

 

 

さらに。

 

「宇髄さんは、

奥さん達の話をする時だけ

少し声が柔らかいです」

 

「……お前よく見てんな」

 

「見ています」

 

即答。

 

(怖い怖い怖い)

 

「観察眼が戦闘用のままなんだよコイツ」

 

義勇が、

静かに頷く。

 

「分かる」

 

 

料理が追加される。

 

団子。

 

甘味。

 

その瞬間。

 

実弥と真壁の視線が、

同時に向いた。

 

炭治郎、

見逃さない。

 

(あっ)

 

実弥が、

自然を装って手を伸ばす。

 

真壁も、

静かに手を伸ばす。

 

ぴたり。

 

止まる。

 

沈黙。

 

宇髄が、

肩を震わせ始める。

 

「お前ら、

甘味好きなの派手にバレてるぞ」

 

「違ェ」

 

「別に」

 

また同時。

 

炭治郎、

限界だった。

 

「ふっ……!」

 

義勇まで、

少し口元が緩んでいる。

 

実弥が、

顔をしかめる。

 

「笑うなァ!!」

 

真壁が、

静かに団子を見る。

 

「粒あんですね」

 

実弥が、

少し止まる。

 

「……お前もか」

 

「ええ」

 

一拍。

 

そして。

 

二人が、

無言で頷き合う。

 

宇髄が思わず叫ぶ

 

「なんだこの空間!!」

 

 

店の障子が、

静かに開く。

 

夜風。

 

そこに立っていたのは、

小夜だった。

 

落ち着いた着物姿。

 

静かな目。

 

「……お迎えに来ました」

 

その瞬間。

 

真壁の空気が、

少し変わる。

 

柔らかい。

 

「ああ、小夜さん」

 

声も、

少しだけ違う。

 

全員が察する

(あっ……)

 

宇髄が、

とうとう吹き出す。

 

「お前それ反則だろ!!」

 

実弥が、

呆れた顔をする。

 

「酔うとそっち出んのかよ……」

 

義勇が、

真顔で言った。

 

「分かりやすい」

 

「義勇さんが言います!?」

 

 

小夜が、

真壁の前へ来る。

 

「飲み過ぎましたか?」

 

真壁は、

少し考えた。

 

「……少し」

 

「少しじゃねぇ」

 

実弥が即答する。

 

宇髄が、

まだ笑っている。

 

「いやぁ、

今日は派手に面白かったわ」

 

小夜は、

静かに真壁を見る。

 

そして。

 

小さく息を吐いた。

 

「帰ったら、

お水飲んでください」

 

「分かりました」

 

妙に素直。

 

炭治郎が、

目を丸くする。

 

(真壁さん、

小夜さん相手だとすごく素直だ……)

 

 

店を出る。

 

夜風。

 

静かな帰り道。

 

真壁が、

少しだけ空を見る。

 

「……楽しかったですね」

 

小夜が、

隣を歩く。

 

「そうですか」

 

「ええ」

 

少し間。

 

そして小夜が、

小さく言った。

 

「皆さん、

驚いていましたよ」

 

真壁は、

少しだけ首を傾げた。

 

「何故でしょう」

 

「……分かってないんですね」

 

夜風が、

静かに吹き抜けていく。

 

鬼のいない夜。

 

笑い声だけが、

まだ少し耳に残っていた。

 

 

おまけ編 ― 静かな男は酔うと少し面倒くさい 終

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