ブレード・ストレンジャー・アンド・レッドブラック   作:pugcode

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5話

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 全身が痛む。打撲どころか骨折もしている。血は足りているが思考にモヤがかかっている様な気がした。

 だがそれよりも自分の置かれている状況の方が問題だった。

 

「何処だよ此処……って秘密基地《アジト》か?」

 

 暗く冷たい地下。ここは帝都地下に存在するーーーにして、帝都八忍の秘密基地《アジト》。そこで田仲忍者は雑に包帯を巻かれた状態で寝かされていた。

 雑とは言っても必要な処置は完璧にできている。まともに動けるのはしばらく先になりそうだが。

 

(あれ? なんか既視感が……)

 

  痛みに耐えながら上体を起こして思考を巡らせる。

 まずは状況を整理しよう。

 

 オレは闘っていた。

 誰と?

 ニンジャと。

 デッドブレードとか言う見覚えのある男と闘っていた。

 恩人助けるためにホムレス・ヴィレッヂに急いで帰って、アイツと闘った。 

 じゃあこの傷は?

 ニンジャが放つ居合で切り裂かれたもの。特に右腕の傷は深い。

 それ以上に酷いのは手足の骨折だ。

 そうだ。思い出した。

 デッドブレード、こっちの世界で言えば魔津田黒雨。

 アイツと戦い暗刃かましても歯が立たず。しかし刀を折って一矢報いた。

 それから赤黒い影が現れて――。

 

「おう、良く寝たか寝坊助」

 

「ッ!!!」

 

 反射的に声の主の方向を見ようとするが激痛でよろけてしまう。

 

「ん? 元気は良いが身体はまだか? 鍛え方がなっとらんのう忍者《シーノ》」

 

 頭にリボンを付けた見知らぬ小柄な女性。しかしその瞳には見覚えがある。

 十字の入った奇妙な瞳。帝都八忍を束ねる存在。なんでもできる、なんにでもなれる特異体質”全姿全能”を持つ最強の忍者。神賽惨蔵その人だ。

 

 だとすると、ここは。この世界は。

 

「長! オレはどんだけ寝てた!?」

 

 時間感覚が無い。

 オレは”救い無き医師団”の赤毛の医者と戦い、”忍殺番長”にブッ飛ばされ、見知らぬ世界で療養し、ニンジャになった極道と闘った。

 おそらく数週間は経過している。

 それだけ経っているのだとしたら、極道との戦いは一体どうなったんだ?

 オレが寝ている間に一体どんな激闘が─────。

 

「1日。ん~骨が折れたぞ。瓦礫掘り返しくたばってたお前を連れ出すのは。ボロボロのバッキッバキ、普通だったら再起不能よ」

 

 1日。たったの1日?

 自分の実感とは大きく異なる時間経過に拍子抜けして口をあんぐりとさせる忍者(シノハ)。

 そのリアクションに怪訝な表情をしながらも長は喋り続ける。

 

 あのニンジャとの激闘は、生死の狭間で見た夢だったのだろうか。

 あそこは現実とは異なるサイバーパンクのような世界。異世界転移したなら話は分かるが、そんなことは非現実的(ありえない)。やけにリアリティがあったように思えた。

 しかし今自分がいる場所を思えば、やはり夢だったのだろう。

 

「だが治した。儂にかかればこんなもんよ。まぁ、ちと、左虎に比べれば荒いかもしれんがのう」

 

 背の低い女性の姿でわざとらしく自慢げな様子を演じる長。

 夢を回想しながらぼんやりと聞いていたが、若干イラっとくるものがある。

 しかしいつもの悪ノリかと思える発言の裏には、何か暗いものを感じた。

 

「まぁまずは来い。そして皆の前で話せ。お前が何に遭遇(あ)ったのか、何と死合(たたか)ったのかを」

 

 背を向けて皆の元へと向かう長。

 病み上がりにスパルタな仕打ちだが、これしき忍者にとっては大したことは無い。 

 あの激闘は己の胸の内にしまっておき、ボロボロの身体で無理矢理立ち上がろうとしたその時。ふとポケットの違和感に気付く。

 怪訝に思いながら手を突っ込むと、そこには「ザゼン」の文字が入ったお守りが入っていた。

 

 

◆◆◆

 

 

 ネオサイタマ某所。

 焼け落ち燻るホムレス・ビレッヂの中で、生き残ったホムレスたちは燃え残った資材をこれでもかとかき集めている。その表情は悲嘆というよりかは諦めの表情が強く出ていた。

 幾多のホムレスが犠牲になった中央広場にて、犠牲者たちに黙禱する二人の男が並んでいた。

 

「今回はありがとうございました。この恩は返しきれません」

 

 胡散臭い白衣の男、アザマは疲労に満ちた表情でオジギする。白衣は煙で血と煙で黒く汚れている。殺されたホムレスたちの血であり、彼が治療したホムレスの血でもあった。

 対するトレンチコートにハンチング帽の男、フジキドは無表情に頷く。

 

「これからどうする」

 

「分かりません。当分は彼らの治療に専念します。その後は、分からないです」

 

 デッドブレードなるニンジャが死んだことで、メガコーポは近いうちに異常を察知するだろう。そうなれば次なる追手が差し向けられる。さらに苛烈な刺客が差し向けられると見て間違いない。

 そしてアザマが逃げようが逃げまいが、ここのホムレス達はニンジャ殺しの下手人として徹底的に一掃される。企業のメンツを守るためにアザマの生死は最早関係ない。彼らは実際詰んでいた。

 彼らがもし助かる道があるとすれば、ニンジャスレイヤーがニンジャを狩るために用意した罠であったと吹聴するぐらい。ナンシー=サンの手を借りれば何とかなるであろうが、その後の対応が忙しくなるだろう。

 メガコーポを欺く計画を組み立てている最中、アザマは問いかける。

 

「ところで、シノハ=サンはどこですか? 助けて貰ったお礼も言えてない」

 

「……分からぬ。消えてしまった」

 

 デッドブレードを爆発四散せしめた後、振り返るとシノハの姿は煙めいて消えていた。あのような重傷を負いながらあの場から逃げる事など不可能。ましてや、一切の足跡を残す事無く消え去るカミカクシめいた消失に、流石のニンジャスレイヤーも驚きを隠せなかった。

 

 実際突然消えてしまうニンジャの前例が無い訳ではない。ピンクのニンジャ装束のニンジャ(ザ・ヴァーティゴ)や、シルバーキーがその例だ。しかし彼らは一時的に消えてしまったに過ぎず、紆余曲折を経て姿形は違えど再会することができた。

 一方のシノハはどうであろうか。彼はニンジャではない。おそるべき身体能力を持ちながらもニンジャソウルの痕跡は一切なく、かといって血痕も足跡も何一つ残されていない。もはやどうやっても追跡不能だった。

 

「そうですか。残念です。私はまだ、何も返せていないのに」

 

 アザマは寂しそうに笑う。

 居場所と命を失う危機に瀕して、救助してくれた恩人が行方不明になってしまった。

 フジキドは偶然遭遇しただけに過ぎず、この地で時間を過ごしたシノハこそが彼らにとっての最初の救世主なのだ。

 その彼が、何も言わずに消えてしまった。

 残ったのは傷ついた集落と行く宛てのないホムレスたちの群れ。

 その傷の深さを理解するフジキドは、自分に言い聞かせるように月並みな言葉を紡ぐ。

 

「しかし、彼ならどこかで生きているだろう」

 

「そうですね……そうだと、願いたいです」

 

 アザマはその手であの奇妙な貫手の形を作り、空に翳した。

 

 

【ブレード・ストレンジャー・アンド・レッドブラック】終

 




これにて完結です。
お付き合い頂きありがとうございました。

以下ちょっとした後書き。

時系列としては、忍極:5章終了前後、忍殺:3部探偵活動開始後ぐらいのイメージです。
本当は他忍者・極道の転生も書きたかったけどいい展開が思いつきませんでした。
ピストルカラテを使う暴走族神(ゾクガミ)とか、心臓抜かれてゾンビーニンジャになった左虎兄とか、ニンジャとして再会する壊左と獅門とか……。
アイディアはあれど書くには忍殺知識とニンジャ執筆力が足りない。
忍殺3部途中まで読んでるので読み終わったら書けるようになってる……かも。
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