バースデー
ウィーズリーとの最初の出会いから約1年経った4月1日。この日は双子の誕生日だ。エイプリルフールでもあるので、お互い考えておいたジョークを言い合い、その後、ヴェルは満を持して二人にプレゼントを渡してお祝いした。
「二人とも、ハッピーバースデー」
「バッジだ!ありがとう」
「ありがとう、ヴェル。大事に使うよ」
プレゼントは、クィディッチ選手がユニフォームや練習バッグによくつけているオリジナルバッジだ。二人はグリフィンドールチームの選手なので、マクゴナガルに話をしたところ、一緒に作ってくれた。
「こんなにたくさん、よく集めたね」
「手作りよ。マクゴナガル先生も手伝ってくれたの。そしたら作りすぎちゃった」
作ったバッジは大小色々な形で10個ほどあった。あの柄も良い、この形も良いと二人で手を出しているうちに、たくさんできてしまったのだ。
その出来栄えはマクゴナガルが変身術を施したのもあって、ダイアゴン横町の雑貨屋で売られている、ホグワーツ生にも人気の魔法バッジに見劣りしない。きっと生徒たちの目に留まるだろう。
「すげえ」
「普段おれたちを貧乏いじりしてくる奴らに目にもの見せてやれるぜ」
「それにこれだけあればユニフォームだけじゃなくて帽子とかトランクにもつけられるな」
「使い切れなかったらロンとジニーにもあげて」
「そうだね、ジニー喜びそうだ」
「ロンはいいだろ。もったいない」
持って帰ったらきっとパパとママびっくりするぜ、と言い合いながら双子は目をキラキラさせていた。ヴェルは二人が気に入ってくれてとても嬉しく思った。
「じゃあ、プレゼントのお礼に一曲だな」
「だね。何がいい?ヴェル」
「えっ」
ヴェルは、双子がお礼に歌ってあげると言い出したので戸惑った。二人の個性的な歌は嫌いじゃないのだが、今歌われるのはなんだか恥ずかしかった。
実は、ヴェルの誕生日には先生たちや双子も祝ってくれるのだが、そのお礼として(定評があるので)ちょっとした歌を歌うと、特にダンブルドアやフリットウィック、そして双子を中心に喜んでくれるのだ。
彼らは面白半分にそれをオマージュしようとしているのだろう。それがヴェルにはくすぐったかった。
「いや、いいわ」
「遠慮しなくていいぜ」
「ええ……」
二人はヴェルの言葉を無視し、立ち上がった。そして双子お気に入りの、お芝居風な陽気な歌を歌い出した。
(はあ……)
せっかく双子なのでハモりたいのだろうが、まったく合っていない。しかし、本人たちはどこ吹く風で自信満々だ。そこがとても良い。
ヴェルも聞いてるうちに楽しくなってきた。双子といるといつもこうだ。
そして、女性パートが来たところで、ヴェルにさあ、と振ってくる。一節だけ歌ってあげて、締めくくった。
「フー!」
「さすが!ホグワーツの歌姫ぜ」
「入学したらフリットウィックの合唱隊に入団できまりだな」
「おれたちは断られたけど」
声を出したのはほんの少しだけだったのに、褒められてヴェルは照れくさくなった。二人も素敵よ、といった言葉を返して、三人は笑い合った。
「ヴェルの誕生日は7月末だったよな」
フレッドが思い出したように言った。
「夏休み中だから、前は年度明けに祝ったけど、今度はヴェルも入学するんだし、休みに入る前に祝いたいな」
「そうだね。そうしよう」
ヴェルの誕生日は7月26日だ。フレッドとジョージが言ったように、夏休み中にある。なので当日祝ってくれるのは、ホグワーツにいる先生たちをはじめとした住人たちだけになる。帰省してしまう彼らとは家との手紙もまだやり取りできないので、学校で会ったときに祝ってくれたのだ。
「いよいよ待ちに待ったヴェルの入学か~」
「早く秋にならないかな~」
双子も、もちろんヴェルも、入学を心待ちにしていた。晴れて堂々と学友になれるときを。
「入学準備はどうるすんだい?スネイプと買い物に行くのかい」
ジョージが聞いた。
「うん。今月中にはダイアゴン横町に買いに行くみたい」
「今月?早くないか?」
「いや、早すぎだよ」
魔法族の教育熱心な家庭は、初年度の入学準備ともなれば手紙が来る夏休み前から準備を始めるところも多い。だが、さすがに4月に必需品を揃えようとする新入生は流石にいないだろう。
「でも、先生が付き添いだとどうしても目立つし、
夏の時期には、マグル生まれの子たちの面倒も見ないといけなくなるから忙しくなるし、
今の時期に行くのが一番良いって」
それに、手紙を貰う前でも必要な学用品はダンブルドアから直接聞ける上、初年度は特に毎年大体同じ内容なので問題ない。入学が近くなって変更が出てもその点だけ新たに調達すればいいわけだ。
「そっか。たしかに今の時期ならダイアゴン横町もすいてるからな」
「快適そうだね。僕たちの3年生の学用品もダンブルドアから先に教えてくれないかな」
「おいジョージ、どうせおれたちチャールズとパーシーのお下がりだよ」
「ああ、そうだった」
フレッドとジョージも、上の兄たちのお下がりが優先席に回ってくることを、毎年のことながら思い出した。
「お下がりと言ったらロンだぜ。我が家の在庫からして、ローブはビルのお古、杖はチャーリーのやつ、ペットだって、パーシーが万が一に監督生になったらお下がりのねずみだぜ。きっと」
「同情はしないけどな」
ちょっとは同情してあげればいいのに、とヴェルは思った。
流石に大家族の末っ子ともなれば避けられない運命なのだろうが、ヴェルもロンには気の毒に思わないではない。しかし、それだけ兄弟がいるというのが羨ましくも思えるのだった。
他愛無い話をしていると、ふとジョージが言った。
「そういえば、あのハリー・ポッターも今度の秋じゃなかったか?入学」
ヴェルはその言葉に、ちょっと眉が上がった。
「ああ、そうだ。そうなると、来年度はヴェルに、ロンに、ハリーも同級生だね」
「ハリーって、生き残った男の子、よね?」
ヴェルは先生や他の生徒が話している内容から、ハリー・ポッターという男の子が魔法界で超有名であることを何となく察していた。だが、念のため双子に確認してみた。
「そうさ。『例のあの人』を倒した英雄さ」
「なかなか面白くなりそうじゃないか?『魔法界の英雄』と『魔法のかからない、ノウルの魔女』が一緒にホグワーツにいるんだぜ」
双子は今からわくわくを抑えられないと言った様子だった。他の生徒の様子を見ても、(ヴェルのことは知らないにしても)ハリー・ポッターが入学してくることに、そわそわしているのがわかる。みんな彼に期待しているのだろう。
「どんな子なのかしら。いい子だといいな」
「さあね」
「まあ、こんだけ有名なら、十中八九さぞ自信満々の天狗かもね」
「それか逆に、プレッシャーでへにゃへにゃかもしれないぜ」
双子は冗談混じりに言ったが、きっと彼と友達になるのが楽しみなんだろう。ヴェルもハリーと会えるのが、ロンと会えるのと同じくらいに楽しみではあった。
ただ……
(ハリー・ポッター……。今度ちゃんと先生に聞いておかないと)
自分だけ詳しいことを知らないまま入学になってしまう、とヴェルは思った。あまりにも周りが彼の話題を常識中の常識のように喋っているので、ちゃんと聞く機会を今まで逃していたのだ。
ダンブルドアに近日中にちゃんと話をしよう。ヴェルは心の中で思った。
・・・
やがて月日は過ぎていき、目の前の夏を乗り越えればヴェルの入学となる学期末。
フレッドとジョージは約束通り、ヴェルの誕生日より前にプレゼントと手紙を渡して祝ってくれた。
「僕らの家はお金がないからね」
「こんなものしか用意できないけど」
双子がくれたのは杖を収納するホルダーケースだった。
「用意した杖、ちょいとばかし厄介なんだろ?」
「むき出しでしまっておくのが怖いんなら」
「これに入れときゃ大丈夫さ」
「ありがとう。フレッド、ジョージ。
二人で作ってくれたの?」
「「もちろんさ」」
普通、杖はローブや服に杖用の長いポケットがあるので、そこにしまう場合が多いが、ヴェルはそれが少々不安だったのだ。
入学準備でダイアゴン横町を訪れた際に入手したヴェルの杖は、実は少々いわくつきだった。そのため、他の生徒に触られないよう、むき出しではなく何か工夫して収納できないかと考えていたところだった。その話をそれとなく双子に話したような気がするが、その時のことを覚えていてくれたのだろう。二人でアイデアを形にしてくれたようだ。
ケースは丈夫な革製で、ベルトの伸縮で腰に付けたり、肩にかけたり、腕や足にも装着できるとのこと。そしてすごいのが、装着した状態だと、他人から見えなくなる。隠ぺい呪文が施されているようだった。出し入れができるのは、装着場所を知っている人間(つまり自分)だという。
「ベルトみたいに腰に巻いて、上からローブを着たら取り出せないと思うだろ?」
「できちゃうんだな、これが」
「すごい!完璧!天才じゃない!」
「今更かい?」
「最初から天才だよ。ぼくらは」
ヴェルは感激して二人に何度もお礼を言った。
渡してくれた仕上がり品でも、かなり色々思考錯誤した跡があるし、かけられている魔法も決して簡単な魔法ではないはずだ。いったいどれだけの時間をかけてくれたのだろう。それも含めてヴェルは心から嬉しく思った。
双子の方も、ヴェルの喜びように笑顔になっていた。
ヴェルの思った通り、完成までにそれなりに苦労はしたのだが、新しいいたずらグッズの試作にはうってつけだった。
・・・
帰省のため、もうすぐホグズミード駅に向けて出発するという間際、双子はヴェルにずっと気になっていたことを聞いた。
「ヴェルは、寮の組み分けはどうするんだい?」
「自分で選ぶようにって言われてるわ。組み分け帽子でも私の頭は覗けないから。
歓迎会では帽子を被ってみんなと同じように儀式をするって」
「やっぱりな。どこの寮にするんだ?」
「グリフィンドールだろ?」
二人はヴェルの肩に手を置いて尋ねた。だが、ヴェルは悩んでいることを正直に言った。
「うーん、考えてる。
二人もいるし楽しそうだからグリフィンドールにしちゃおっかなって思ったけど、他の寮も捨て難くて……」
二人はヴェルの言葉を受けとめた。
「そうか、まあ、ゆっくり悩めよ」
「おれたちはヴェルがどの寮になってもずっと友達さ」
「安心してホグワーツに来いよな」
ヴェルは、自分を真っ直ぐ見てそう言ってくれるフレッドとジョージを見つめ返した。
なんだかあたたかい気持ちになった。
「ありがとう。もちろん、ずっと友達よ。私たち」
三人は笑い合った。
そして、出発の時間がやってくる。
「「じゃあ、ヴェル、歓迎会で会おうな!」」
「うん!また9月にね!」
ヴェルとウィーズリーは手を振って別れた。
・・・
彼らが城を出ていってからも、ヴェルは、ホグズミード駅の方角を窓から眺めていた。
「二人とも、ありがとう……」
*
帰りのホグワーツ特急が出発した。
双子はしんみりと、列車の窓から流れる景色を眺めていた。
「なあ、ジョージ」
「ああ、フレッド」
「ヴェルはきっとスリザリンに行くだろうな」
「そうだろうな」
フレッドとジョージには、ヴェルがどの寮に行くかなんとなくわかってしまうのだった。予知、とまではいかないが、ほぼほぼ確実な予感に近かった。本当はグリフィンドールに来てほしい。彼女自身も本来グリフィンドールの素質があるはずだ。
運命を変えられないだろうか……。
そのとき、お互いの瞳に光が宿ったのに、二人は同時に気づいた。
「諦めるには早いと思わないか」
「あたぼうよ。勝負はこれからだ」
二人は拳を強く握り合った。
「「絶対ヴェルをグリフィンドールに」」
入学の歓迎会が正念場だぜ、とウィーズリーはニヤリと笑い合った。
入学前 短編② フレッドとジョージ いろいろ 完