セブルス・スネイプの養女に魔法はかからない   作:秋峰霧女

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入学前 短編④ 入学準備1 ダイアゴン横町

 

 次の秋には入学をひかえた年。ヴェルは夏になる前に、ホグワーツに居ながらも、形だけはと入学許可証をダンブルドアから受け取った。ホグワーツの紋章で封がなされた、羊皮紙の手紙だ。今年入学する生徒で手紙を受け取ったのは、ヴェルが一番最初の生徒である。

 

 そして入学に必要なものを揃えるため、ダイアゴン横町にスネイプと買い物に出かけた。夏休みの繁忙期を避けるため、また、知り合いに出会うのをなるべく避けるため、一番早い時期に出かけた。

 

 ダイアゴン横町は、ヴェルにとって思い出深い場所だ。スネイプに出会ったあの日、最初に訪れた魔法界でもある。あれから、今日訪れるのは5年ぶり、というわけではない。ホグワーツで暮らしている間も、ハグリッドなどのお使いに付き添ったりと、よくお出かけに連れてきてくれていたのだった。

 

 でも、

「先生と来るのは久しぶりね。ダイアゴン横町」

 

 それを言っても、スネイプはヴェルの方をちらと見ただけで、店の間を縫うようにスタスタと石畳を歩いた。

 

「あまり長居はしないからな」

 

 ヴェルは頷いた。

 スネイプも別の用があるので、ヴェルの学用品購入の片手間に店を色々巡るとのことだった。

 

 夏休みシーズンの賑わいほどではないにしろ、ダイアゴン横町はこの日も多くの人が行き交っていた。

 立ち並ぶ個性豊かな店先を通り過ぎ、まず二人はグリンゴッツ魔法銀行に向かった。

 そこには亡き両親の遺産が収められている。だがヴェルはここに立ち入るのは初めてだった。

 

 観音開きの扉を開けて白い石段を上り、2番目の扉を前にする。銀色の扉で、そこにはなにやら訓示が刻まれていた。それを読む間もなく、スネイプが扉の中に入る。ヴェルも続くと、広々とした大理石のホールに出た。

 

 厳正な空気が漂うエントランスに、小鬼がずらりと並んで、それぞれ帳簿や天秤を使って執務をしている。

 

 二人はカウンターに近づき、スネイプが小鬼に声をかけた。

 

「ヴェル・ゼノンの金庫から金を出しに来たのだが」

 

 言いながら、袖から革の包みを取り出し、小鬼の前に差し出す。

 

 小鬼はその中から鍵を取り出して、慎重に調べた。

 

「管理者様、ダンブルドア様の代行依頼書はありますか?」

 

「今日は金庫の持ち主本人を連れてきている」

 

「どちらに?」

 

 スネイプが隣に立つヴェルに目線を落とした。それに小鬼も、カウンターの天板に身を乗り出して地面を見下した。

 そしてようやくヴェルを発見した。

 カウンターはヴェルの背より高く、ヴェルも小鬼も、互いをほとんど見れていなかったのだ。

 

「ヴェル・ゼノンご本人様ですね。承知いたしました」

 

 目が合った小鬼ににんまりと微笑まれて、ヴェルはなんだか恥ずかしくなった。

 

「ご案内しましょう」

 

 カウンターの小鬼が案内係の小鬼を呼んで、それに従ってスネイプとヴェルはホールから外に続く無数の扉の一つに向かった。扉を開けると、線路が敷かれた通路があり、案内係が吹いた口笛で、空のトロッコがやってきた。三人はそれに乗りこんだ。

 

 くねくね曲がる迷路をトロッコは減速することなく走り、右に左にぐわんぐわん揺さぶられるので、ヴェルはスネイプにしがみつくほかなかった。

 

 途中、ドラゴンや地下の湖、巨大な鍾乳石を見かけたような気もしたが、あっという間に現れては消えて、とうとう一つの小さな扉の前でトロッコは止まった。

 

 小鬼が扉を開ける。霧のような煙が吹き出してきて、それが消えると中が見えるようになった。

 

「すごい……」

 

 ヴェルは感嘆した。

 

 中には、魔法界の通貨である金貨や銀貨が山積みになっていた。そしてその脇には、高価そうな調度品や装飾品、衣装などがある。きっと両親の残りの遺品だろう。それらはどれも、とても良い状態で遺されていた。

 

 この5年の成長のうちに、自分の素性や両親のことを少しずつ知らされていたヴェルは、父がマグルで起業家として財をなしたことを知っていた。しかし、その財産が自分のものなどとは実感がまるでなかったし、その額がいくらかなど考えてもみなかった。

 

 金庫の中の光景を見て初めて、その存在を思い知った。

 

 余談だが、ヴェルの父がトップに就いていた企業グループは、彼の突然の死によって後継者の決定に揉めたり、内輪で横領が起きたりして不祥事が相次ぎ、競合に飲み込まれてしまった。実質の取り潰しだ。そんなわけで、本来ヴェルのものになるはずの資産からはだいぶ余所者に取られて減ってしまったわけだが、両親がかけていた死亡保険だけでも、生涯のうちで「頑張らないと」使い切れないくらいの額がヴェルの懐に入ってきたのであった。

 ちなみに、当時マグル界にあったそれらの資産は、ダンブルドアの裏工作によって魔法界のレートに換算の上、グリンゴッツに収められていた。

 

 

 ヴェルは収められている品々をじっくり見ていたかったが、先を急ぐスネイプの視線を感じたので、必要なお金だけ回収し、金庫をあとにした。

 

 もう一度猛烈なトロッコに乗り、ホールに戻った時、出口に向かいかけたスネイプはふと立ち止まって、最初のカウンターの小鬼に話しかけた。

 何かを確認しているようだったが、すごく小声だったため、ヴェルには聞こえなかった。

 

 用件が済むと、スネイプは何事もなかったかのように、ヴェルの手を牽いてグリンゴッツを出た。

 

 

 そのあとは、教科書や実習道具を揃えに行った。

 と言っても、教科書は既にほとんどヴェルの手元には揃っていた。ホグワーツでの暮らしで、入学以降の予習をするようになり、先生たちから貰っていたからだ。進んで予習をしようとしたわけではないが、魔法で溢れかえっているホグワーツに身を置いていれば嫌でも知識が流れ込んでくるものだ。必然といえばそうである。

 ただ、今年から新しく使うようになった教科書や、改変になった教科書は買い足す必要があった。それらをフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に行って購入した。この店もヴェルのお気に入りの店で、ついつい長居してしまう。

 今回は、スネイプも最近出版された学術本を少し見ると言っていたので、自分の会計が済んでからの時間差に、いくつか面白い本を立ち読みすることができた。しかし、結局スネイプの用事がとっくに済んだことに気が付かず、催促されることになった。

 

 実習道具はというと、学校の予備のをヴェルに回せなくもないが、なにしろ古いので、全て新しいものを購入することにしていた。

 錫製の大鍋に、クリスタル製の薬瓶、望遠鏡と、真鍮秤。どれも色々な種類があり、品質も松竹梅と違いがあるようだったが、そんなに比べたことがなかったヴェルにはよくわからなかった。それを見越してか、スネイプが妥当なのをぱっぱと見繕ってきては、事前にヴェルに見せて、色など不服がないか確認して購入した。

 

 この時点で荷物はかなり多くなっていたが、すべて拡張機能のあるカバンの中へぶち込んだ。

 

 

 次に薬問屋に入った。すると、スネイプはヴェルが予想していた通りのことを言った。

 

「長くなるから、先に制服の新調をして来い。お前が必要なものは揃えておいてやる」

 

 薬問屋はスネイプの行きつけの店だ。魔法薬の材料を購入するだけでなく、こちらが入手した稀少な素材や調合した新薬を売ったり、学術界隈の情報も交換する。つまりはスネイプの取引先でもあった。今回もそれの用事がいくつかあり、時間がかかるだろうとのことだった。

 

「うん。マダムマルキンの店ね」

 

 ヴェルはそう言ってスネイプと別れ、洋装店に向かった。

 

 マダムマルキン洋装店に入るのは前に一度だけあった。マクゴナガルが前回のクリスマスプレゼントに、ここで服を買ってくれたのだった。成長途中のヴェルでも多少長く着れるよう、ケープを選んでくれた。首周り、袖口、裾にファーをあしらったベルベットのケープだ。

 

 そんなことを思い出しながら店の中に入ると、マダム・マルキンが愛想よく挨拶して、迎えてくれた。相変わらずの藤色ずくめの服を着ている。

 

「いらっしゃいませ。

 あら、お嬢さん、もしや、この前のクリスマスにもいらっしゃいませんでした?あの時のケープ、とてもよくお似合いでしたわ」

 

 マダムがヴェルのことを覚えていることに、少しドキッとした。たしかに、マクゴナガル先生と一緒に来たら覚えているはずだ。

 

「はい。お気に入り、です。

 今日は、ホグワーツの制服を買いに来ました」

 

 ヴェルは何でもないように装って、慌てて本題を言った。

 

「あら、そうなの!入学ね!

 でも、とてもお早くにお越しになりましたのね。まだ春ですわよ」

 

 言われると思っていたので、控えめに「ご迷惑でしたか?」と言うと、マダムは、

「いえいえ、とんでもない。むしろありがたいですわ。ゆっくり採寸ができますもの」

と言って、喜んで案内してくれた。

 

 

 採寸が済んで、制服類を漏れなく購入し終えると、先ほどの薬問屋でスネイプと合流した。そちらはまだかかるかと思っていたが、意外にも早く話が終わったようで、スネイプも店を出るところだった。

 

 

 その足で、杖を買いに、オリバンダ―の店へ行った。

 

 

 店に入ると、店の奥からチリンチリンとベルが鳴った。そして、そのベルの音よりも早かったかもしれないが、反対側の奥からカタカタという音が鳴りだした。音は遠くにあり、籠っていたので何の音かはわからなかった。

 

 小さな店内には古臭い椅子が一つだけで、スネイプもヴェルも、立ったまま待った。

 

 ヴェルは音が気になりつつも、一通りあたりを見回した。細長い箱が壁一面の棚に、隙間がないほど埋め尽くされている。

 

 やがて、ベルが鳴った壁の奥から、ひとりの老人が出てきた。

 

 店内の客、スネイプとヴェルに気が付くと、老人はぱっと顔を明るくしてカウンターを超えて二人に近づいた。そのとき、彼はカタカタと音するの方に一度顔を向けたが、さして気にしていないようだった。いつものことだというように、スネイプに話しかける。

 

「これはこれはスネイプ教授。いらっしゃいませ。

 本日はこのお嬢さんの杖ですかな?」

 

「左様」

 

「ご入学ですか?随分お早くにいらっしゃいましたね」

 

 オリバンダ―はヴェルを見て微笑んだ。

 

「はじめまして、ミス。私はオリバンダーといいます」

 

 ヴェルはオリバンダーを見て、自分も名乗った。

 

「ヴェル・ゼノンです」

 

「どうぞよろしく。ミス・ゼノン。

 ──ゼノン……?」

 

 オリバンダ―は僅かに眉を動かして、ヴェルの姓を口の中で繰り返した。

 

 そのときだった。

 

 それまでカタカタ鳴っていた音が突然、バン!という大きな音に変わり、その方向にある奥の扉が暴れ出した。地下倉庫へ降りる扉だった。

 

 オリバンダーが慌てて駆け寄るも、開けてみる前に木の扉を突き抜け、何か細長いものが宙を切ってすっ飛んできた。

 

 それは剝き出しの杖だった。

 

 ひとつの杖が吹き矢のように自分の顔めがけて飛んできて、咄嗟にヴェルは目をつむり、手をかざした。

 

 貫かれる!と覚悟したところで、杖は、ヴェルの前でふわりと減速し、そのままゆっくりと右手に収まった。

 

 ヴェルはもちろん、スネイプも、オリバンダーも度肝を抜かれていた。

 

 三人とも、声も出せずに、しばらくはただ杖を見張っていた。

 

 杖は、真っ黒で、艶のない、真っ直ぐな杖だった。

 一見スネイプの杖と似ているが、装飾などは一切なく、太さも先端まで同じで、見ただけでは持ち手と先の区別がつかなかった。

 しかし、ヴェルには、どこをどう持てばいいのか、杖が語り掛けるかのごとく、分かように感じた。

 

 見た瞬間に思った。鋭利なナイフのような杖だと。見た目はただの細長い円柱の棒だというのに、光も反射しないというのに、何故か研ぎ澄まされた鋭さを杖から感じる。(つまり、備長炭みたいな杖。)

 

「トネリコの木に、ディメンターの爪、29cm……」

 

 ようやくオリバンダーが口を開いた。

 そして、その口から出た言葉はさらに衝撃だった。

 

「ディメンターだと」

 

 スネイプが鋭く聞いた。オリバンダーはゆっくり頷いた。

 

「左様です、スネイプ教授。

……ミス・ゼノン、この杖はあなたのことを待っていたようだ。

 主の、帰りを……」

 

 ヴェルは「どういうこと?」という顔をした。スネイプもそうだった。

 

「この杖は、私が作ったものではありません。いくら私とて、このような杖を作ろうなどという罪なことは思いつきもしませんからな。

 一体誰がこの芯材を手に入れたのやら、謎なのです。

 半世紀ほど前に、主なき杖を引き取ってくれと私のもとに辿り着いたのですがな、まあそのようなことはよくあることなのですが、引き取って調べたらまあ驚きです。まず、素手ではとても触れない!触れたとたんに恐ろしい悪寒がしてめまいがする……。

 トネリコは『誠実』で、主以外が持つと力を発揮しないという特性がありますし、さらに、何と怖ろしい、芯材がディメンターの爪という──生気を吸い取る闇の存在の一部であること。まさしく、真の主しかその手には負えないでしょうとも。

 だから、あなたが今、右手に持っているということは、あなたがその杖の主ということだ。間違いない。ミス・ゼノン」

 

 ヴェルもスネイプも、言葉もなくオリバンダーの話を聞いていた。

 

「──で、あるならば、おそらくはあなたの姓、ゼノン家に関わりがある杖なのでしょう。

 かの家のことについて、私は詳しくは知らないのですが、記憶が正しければ、純血一族で、その……血は途絶えていた、とか」

 

 ヴェルはオリバンダーを見て、しばらく、何と言ったらいいか考えていた。そしておずおずと答えた。

 

「……そう、みたいです。私の父が、その家の最後の出だったそうです。でもスクイブで、破門されたため縁を切っていた……と聞いています」

 

「そうですか、お父様は……」

 

「死んでいます。母も。私が小さくて、覚えていないときに」

 

「……なるほど。おいたわしや。

 お父上がスクイブであったとすると、その杖は、さらに先代のゼノン家の魔法使いの物だったのでしょう。

 末裔のあなたが手にしたことを知ったら、きっとさぞ喜んでいたでしょうな。この杖のように」

 

 オリバンダーは言葉の最後に微笑んで、杖に目をやったが、その瞳は全く笑っていなかった。動揺と、恐怖、もしかしたら畏怖の感情が滲んでいたかもしれない。

 

 ヴェルは杖を見た。

 

 まじまじと見つめて、柄から杖先へ左手を滑らせるようになぞってみると、納得した。

 

 これが、自分の杖なのだと思い知った。

 

 出会いの衝撃。相棒を得た嬉しさ。杖が放つただならぬ気配への不安。

 そして、自分の血にゆかりのある品と巡り合ったこの運命。

 

 ヴェルの今の複雑な気持ちを表現できる言葉は、きっと見つからないだろう。

 

 それでも、杖を見つめると、何故だか段々と、気持ちに整理がついてきた。

 

 スネイプとオリバンダーが見守る中、ヴェルは言った。

 

「これをいただきます」

 

 オリバンダーは笑顔で頷いた。

 

「はい。どうぞ、持ってお行きなさい」

 

「え……あの、お代は」

 

 ヴェルはオリバンダーが会計に移らないので戸惑った。

 オリバンダーは静かに言った。

 

「その杖は私が作ったものではありませんのでね。お代は結構ですよ」

 

 ヴェルはオリバンダーの厚意を理解した。だが、どうにも割り切れないような気がした。

 

「でも、預かってくれていたんですし」

 

 ヴェルが言うと、オリバンダーは少し悩んでから言い直した。

 

「では、そうですね、これまでの保管料として、少しばかりいただきましょう」

 

 ヴェルの意を汲んでくれたのだろう。オリバンダーは他の杖と同じように箱を用意して、それに収めるようヴェルに促してくれた。

 

 そして、代金を支払って、オリバンダーのお辞儀に見送られながら、ヴェルとスネイプは店をあとにした。

 

 

 店先に出ると、ヴェルはすっかり興冷めしていた。だが、まだほんの少し、ドキドキが残っているのだが。

 

 店に入る前は、どんな杖が自分に合うだろうと、杖選びを楽しみにしていたのだが、思わぬ運命を目の当たりにして、気が抜けしてしまっていた。

 

 隣のスネイプを見ると、相変わらず無表情だが、こちらを心配するような、訝しむような目で見下している。

 

 スネイプも、まさか自分がこんないわくつきの、怪しさ満点の杖を手にするとは思ってもいなかったのだろう。がっかりさせてしまったかもしれない。

(まあ、実際には、がっかりしたのはヴェルの方ではあった。本当は、普通の、女の子らしい、エレガントな杖が欲しいと思っていたのだ。)

 

 ヴェルは肩を落とした。

 この後、うまくおねだりして、色々な店を寄り道し、お菓子やらアイスやらを買ってもらおうと計画していたのだが、そんな気も削がれてしまっていた。

 

 スネイプのことだ。杖で用事は最後だったので、きっと、さっさと帰るぞと言って取り付く島もないだろう。

 

 大人しく従って帰ろうと、ヴェルは漏れ鍋に向かう道に進みだした。

 

 そのとき、スネイプが言った。

 

「フクロウを買うのはやめたのかね?」

 

 ヴェルは、あ、となった。すっかり忘れていた。

 

 今朝ダイアゴン横町に向かう間、ヴェルがフクロウが欲しい、フクロウが欲しいと何度も言っていたのを、スネイプの方は覚えていたのだ。

 

「買う!」

 

 ヴェルはくるりとUターンをして、イーロップふくろう百貨店に向かった。

 

 

 ふくろう屋さんの店内には様々な色のフクロウがならび、バサバサと羽音を立てていた。宝石のような目がキラキラと瞬いている。

 ヴェルはその場で一周ぐるりと見まわした後、迷わず一羽のフクロウに歩み寄って即決した。

 

 選んだのは、栗色の艶やかな羽のメスのフクロウだ。

 

 

 店を出て、ヴァイオレットベリー・ソーダ・フロート(魔法界の甘酸っぱいベリーの果汁ソーダに、わたあめアイスを乗せた、若いイケイケ魔女に大当たりな飲み物)を買ってもらい、飲んでいる間に、フクロウの名前を考えた。

 

 そして、「セーラ sara」に決めた。

 

「なぜその名前にしたんだ」

 

「『小公女』から採ったのよ。前に読んだマグルの本」

 

 ヴェルはストローを咥えながらスネイプに答えた。

 

「……さっき、グリンゴッツ銀行で、私のパパとママの遺してくれたお金を見たとき、思ったの。まるで私はセーラだなって。だから、この子につけたの」

 

 ヴェルは籠の中で眠っているフクロウをみた。

 

「マグルの本から採るとはな。まったく」

 

 言うと思った。

 

「いいでしょう、別に。羽の色も、青みがかったブルネットと同じだし、ぴったりでしょ」

 

「青緑色の瞳ではないがな」

 

「そこまではいいの!先生もしっかり読んでるじゃん」

 

 オリバンダーの店での気まずさはどこへやら、そんな会話をして、スネイプとヴェルはホグワーツへの帰路についた。

 

 

 帰り道、ふとヴェルはスネイプにあることを尋ねた。

 

「ねえ、先生は、『ハリー・ポッター』って知ってる?最近よく聞くんだけど」

 

「……」

 

 スネイプはしばらく沈黙した後、「知っているが」答えた。

 

「それが、どうした?」

 

「あ、え……この前、フレッドとジョージと、その話をしたの」

 

 ヴェルはスネイプの様子が明らかに変容したのを感じ取って、歯切れが悪くなった。

 

「『もうすぐハリー・ポッターが来るよ』って。

 他の生徒も、『ハリー』とか、『例のあの人』とか言ってるのを聞くし。みんなそれが何か知っているみたいだったから、魔法界じゃ知っているのが当たり前なのかなって、思ってた。それで、私、知らなかったけど、今までなんとなくで合わせてきてたの。

 でも、ちゃんと知っておかないとなのかなって思ったから、聞いてみたんだけど……」

 

 スネイプは納得した顔を見せた。だが、話してはくれないようだった。

 そして言った。

 

「ダンブルドアの方がうまく話せるだろう」

 

「そう」

 

 ヴェルはそうする、と言って、それ以上は続けなかった。ただ、

 

「先生、今日はありがとう」

 

 と言って、別の話題を話し始めた──

 

 

 




入学準備 2 へつづく
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