―――――――通形ミリオside―――――――
死穢八斎會による奇襲に、ナイトアイ事務所の面々は否応なく対処を迫られていた。
戦力が少ないヒーロー側では、自身の身を守るので手一杯になってしまう。明確な標的がこちらであることが幸いであった。
僕は組員の攻撃を個性『透過』によりすり抜け、お返しとばかりにがら空きの胴に回し蹴りを叩き込む。
その衝撃に吹き飛んだ男は、事務所の壊れかけの壁を巻き込んで外に転がり出る。これでしばらく、戦闘不能だろう。
警戒したように距離をとって囲む男たちに視線を流し、僕は地中に潜った。
地中において『透過』を解除すると、物体同士が干渉して体が大地の外へと瞬間的に弾かれる。それを利用したのが、ワープ紛いの瞬間移動だ。
突如として背後に出現した僕は、ヴィラン達は驚愕の顔を向ける。
だが即座に構えようとするのは、いかにも荒事に慣れているの証拠だろう。
そんな強者に躊躇わず、僕は無頓着に拳を走らせた。その拳が敵の防御をすり抜けて、顎だけを打つ。そのスピードとシンプルさが故に、防ぎようのない『透過』の技術は瞬く間に数人を戦闘不能にしたのである。
横で、何かが砕ける破壊音を轟いた。
視界の端で、先輩のサイドキック達が敵と戦っている。
近場にいた他のヒーローたちも、もうすぐ駆けつけてくるだろう。
もう少しの辛抱だった。
…………二人は無事にエリちゃんと逃げられているだろうか。
後輩を思う、そんなちょっとした気のゆるみに、敵方の剛拳が浴びせられる。
拳が風を切る音がまるで速射砲のように響く、凄まじいまでの連打の奔流。透過させる前に、数発いいのを食らってしまう。
く、強いなッ……まるでさっき倒したヤツみたいだ。
そして、相対した巨漢のペストマスクを見定めて、僕は瞠目してしまう。
なぜなら、コイツはさっき戦闘不能にしたはずヴィランだったからだ。
――――ど、どうなってるんだ?
そして気が付けば、倒したと思っていた者達がまるで何事も無かったように起き上がっているのである。
敵を倒しても減らない……おそらくは敵方の個性に由来するものだろう。
突き付けられたその不利な事実に、僕は歯噛みしたのだった。
―――――――通形ミリオsideここまで―――――――
―――――――緑谷出久side―――――――
人の少ない道を選びながら僕たちは走る。
エリちゃんを背に負ぶった僕の後ろを、八木さんが警戒しながらついて来ていた。
路地を抜けようとする僕たちを、佇立する人影が待ち受けていた。
僅かな血臭とともに佇む痩躯、男は狂相を歪めてこちらを獰猛な視線で捉える。その纏った深紅の首巻が、風が無いにもかかわらず不穏に揺れていた。
……え、ちょっと待ってよ……あれって!?
そう、見間違えるはずもない。
巷を騒がしているプロヒーロー襲撃犯、ヒーロー殺しのステインだった。
その鋭利な眼光からエリちゃんと僕を守るように、八木さんが前に出た。
「行って、ここは私に任せなさい」
「で、でも!? 相手はあのヒーロー殺しなんだよ!!」
堂々と歩む彼女の背に、募る焦りが僕を叫ばせる。
いかに八木さんは強いとはいえ、相手は百戦錬磨の手練れ。プロヒーローが何人もやられているのだ。それを知らない八木さんではないだろう。
とてもじゃないけど、彼女を一人になんかできなかった。
八木さんを見捨てられないと思ってしまったんだ……だからやるしかない!
「落ち着きなさい。今守るべき、あなたがお節介を焼くべき相手は誰なの?」
八木さんの冷静さ言葉に、エリちゃんを下ろそうとしていた僕は動きを止めた。
確かにそうだった。今守るべきはエリちゃんなのだ。
「まあ私に任せない」
こちらを安心させるように薄く笑む八木さんに、僕は唇を噛む。
〝絶対無事でねッ!〟と願いを込めた言葉だけを残して、僕は踵を返した。
「……イトさん」
「大丈夫だよ。八木さんはすっごく強いから」
背中で不安そうに呟くエリちゃんに、僕は震える声で頷いた。きっとその言葉はただ虚勢に聞こえてしまっただろう。
僕自身だって不安でしょうがないのだ。
何か彼女のためにできることがあればいいんだけど……
いや……待て、ある!
スマホを片手で操作し、共有ラインで位置情報だけクラスの皆に送信した。
もし誰か近くにいるなら、どうか八木さんを助けて欲しい。
―――――――緑谷出久sideここまで―――――――
―――――――轟焦凍side―――――――
避難誘導を担当していた俺は、ほっと一息ついた。
これで周辺の住民はあらかた避難させられただろう。
エンデヴァー事務所は、ヒーロー事務所襲撃の緊急案件に駆り出されたのである。父さん達はヴィランの制圧に向かい、職場体験生の俺とトガは避難誘導を手伝っていたのだった。
「イトちゃんたち、大丈夫でしょうか……」
呟いたトガに、俺も頷く。
クラスメイトの八木と緑谷、二人の職場体験先であるナイトアイ事務所、そこがヴィランのターゲットになったのである。
八木も緑谷も実力がある奴らだ。だから大丈夫だと思いたい……でもそれは、単なる願望なのかも知れなかった。
何か出来ることはないかと、ジリジリとした焦りを感じていたところに、急に緑谷から位置情報のラインが飛んでくる。
「え、これって!」
「……このタイミングッ!」
そして、俺とトガは二人で目を見合わせたのであった。
―――――――轟焦凍sideここまで―――――――