カイドウに支配されるこの国から逃げてのんびり旅がしたい。
そしてひょんなことに、ウオウオの実幻獣種モデル青龍を手に入れてしまった。
なら、旅に出よう!
無理? 知ってた。
でも絶対外の世界に旅立ってやるからな!
追記:一話で完結しました。
チュンチュンという雀の鳴き声が聞こえて起きたとき、目の前の天井は和室を想像させる造りでできていた。
「……知らない天井だ」
人生生きて十六年、この台詞を言うときがくるとは思ってもみなかった。
こうなったきっかけは自分でも馬鹿らしいと思う。
俺は普通のアパートに父と母と三人で暮らすどこにでもいる普通の高校生だった。
久々の三連休、父と母が旅行に出かけ一人ウキウキしていた俺は、当然自堕落に過ごした。
出された宿題もせず、授業の予習復習もせず、ひたすら趣味であり生きる意味でもある二次小説の執筆に時間を費やした。
三日三晩、食事も取らず、睡眠も取らず、ひたすら夢中になって書いた。
満足するまで書き終えてネットにアップした瞬間、達成感と同時に疲労感がどっと襲ってきて、俺はベットに倒れるように寝た。
そして気がついた時には転生していた。
寝て起きたらアパートの子供部屋から和風建築に部屋が替えられ、
着ている服はもこもこパジャマではなく和服に代わり、
寝具はベットから布団に変わっている。
あと身体も変わっていた。身長百六十五センチ体重ギリギリ五十キロのガリガリ弱々な体が、手はムチムチ、顔のでかい子供体型へと様変わりしていた。名探偵コナンごっこができるぞと浮かれてみるが、俺は馬鹿なので「身体は子供、頭脳は大人」は残念ではあるが無理だろう。
この世界はいまやweb小説史上、量産型テンプレと化した中世ヨーロッパ風ファンタジー世界とは違い、THE・和の国といった感じで新鮮味がある。人間、新鮮なものを求める心は誰にでもあるため、俺としてはうれしい。
「さてと、とりあえず散策するか」
部屋を出て少し歩くと、二人の男が何やら話していた。
「どこへ行かれるおつもりですか、おでん様」
「ゲッ、錦えもん!」
「まさか白髭のところへ行かれるつもりではありませんな?」
「ぐっ……」
「はぁ、あれほど注意したというのに、あなた様という人は……」
……錦えもん?おでん?白髭?
「……なるほど……そうか」
ここワンピースの世界だ。
さらに言えば、ここは和ノ国だ。おでんの死後、カイドウに二十年以上搾取される国だ。
泣いていいか?
俺の今世での名前はショーゴというらしい。
この身体の持ち主の記憶をたどると。孤児だったところを、城を抜け出したおでんに偶然拾われたようだ。以降、おでんの義理の兄弟として生きている。
そして今はこの世界がカイドウに支配される和ノ国だと知って半ば絶望中。
おでんが旅立ってしまうと、おでんの居ない和の国はカイドウの侵攻を止めることができず、俺の第二の人生はお先真っ暗。
じゃあおでんを止めれば良いじゃんとなるかもだが、おでんを和ノ国に残すと海賊王ゴールド・ロジャーがラフテルにたどり着けなくなり、大航海時代が訪れることもなく、原作ルフィと仲間達の冒険譚が無くなってしまう。
そして俺は非力で世間知らずな十歳前後のガキ。カイドウが侵攻云々、オロチが国を乗っ取る云々、誰に話しても誰も信じてはもらえないだろう。
この世界で俺はただの非力なガキだ。刀の扱い方も教わっておらず、覇気も習得できていない、かといって悪魔の実の能力も無い。
完全に詰みだ。和ノ国の夜明けはルフィが来るまでやって来くることはない。
でも、だからといって俺の未来が潰されるのは嫌だ。
なので来るべき白髭の出航日に、こっそりと船に乗り込むことにした。
和ノ国を救おうとは思わないのかって?思わないな。せっかくワンピ世界に生まれたのに何が悲しくて植民地民生活を過ごさないと行けないのか。
旅がしたい。これに尽きる。
別にガチガチな戦闘がしたいんじゃない、現代日本のようなのんびり世界旅感覚を味わいたいだけだ。
それまではヒョウ五郎親分に流桜を教わったり、今日みたいにお菊の姉様とお散歩という名目上、和ノ国中を歩いて悪魔の実がないか探してたりしている。
白髭に受け入れてもらうには、最低限の戦闘能力が必要だと考えているからだ。
ふと、菊姉が疑問を口にした。
「ショーゴ様は草木が好きなのですか?」
「……?なんでそう思ったの?」
「道中、面白いものを探すというより、何かを見つけたがる様な目をしていらっしゃるので」
「……」
「お困りであるのしたら、私に話してみてくださいませんか?」
白髭の元で働きたいから悪魔の実が欲しいって、言えるだろうか。
言えるわけがない。こんなに俺のことを信用してくれる美人なお姉さんの悲しむ顔を見たい男がいるはずないじゃないか。
「前に白髭と話す機会があって、その時に悪魔の実っていう、海に嫌われる代わりに強力な力を得ることができる果実があることを教えてもらったんだ。面白そうだったから、探していたんだけど、見つからなくて」
「強力な力、とは?」
「ものによっては火を噴いたり、重いものを持ち上げたり、空を飛んだりできるらしい」
「そんなことまで!?」
「将来、白髭みたいに良いやつらばかりが和ノ国に来るとは限らない。いつか、和ノ国を支配しようとする悪いやつが来るかもしれない。だから悪魔の実を集めて、対抗できるように備えようと思ったんだ」
「なるほど、さすがショーゴさま」
……ごめん、菊姉。
俺は白髭の船に乗るよ。
「菊姉は悪魔の実に心当たりある?」
さすがにゴロゴロやヤミヤミ、ゴムゴム(ニカ)レベルの悪魔の実は見つからないだろう。そこそこ役に立ちそうな実さえ手に入れば、ひとまずいいことにしておこう。
「……そういえば」
「なにかあった?」
「ショーゴ様がおでん様に拾われる数年前、国を出ていた和の国の侍が帰ってきて、その時に一つ、奇妙な果実を持ち込んだという記録があったはずです。
なんでも"ゴッドバレー"なる島から持ち出したものらしく————————————」
「…………え?」
ゴッドバレー?いまゴッドバレーって行ったのか?
作中でゴッドバレーにあった悪魔の実として言及されているものは二つ。
バーソロミュー・くまのニキュニキュの実。
そして————カイドウのウオウオの実幻獣種モデル青龍。
え、ウオウオの実があるの?和ノ国に?
もしかしたら違うかもしれない。多分ごく僅かの可能性でしかない。
それでも、可能性が少しでもあるのなら……。
「あの、ショーゴ様?」
「どこにあるの?」
「え、はい?」
「その悪魔の実はどこにあるの?」
「こ、この先の村にその侍がいます。悪魔の実も、おそらくそこにあるかと」
「よし、行くぞ」
気を引き締める。もしウオウオの実だったら船を浮かせて移動し放題だ!
侍は俺と同じ転生者だった。名前はコジロウ。
『俺的に、カイドウは好きなキャラなんだけど、それで自分の国が支配されるのは違うよね。カイドウを直接倒すのは面倒だし無理そうだったから、とりあえずウオウオの実を回収して嫌がらせしてきてやった(グットマーク)』
ビッグマムからウオウオの実を奪ったカイドウがそれを口にする瞬間奪い取り、そのまま追撃するカイドウを煽りながら逃走し、和ノ国に持ち込んだ。そのとき和服を着ていたから、いずれ和の国に攻め込んで来るだろうと。
煽るなよ。何余計なことをしてくれたんだ。どうすんだよ、ウオウオの実が手に入らなくて覇気を鍛えまくったカイドウがいたら、ますます支配から解放されにくくなるじゃないか。
『悪い悪い、ウオウオの実は譲るんで許してっ!!』
ふざけた口調で言うな。
まあ、ウオウオの実はありがたいので素直にもらっておいた。
それから俺は白髭出航までの間、ヒョウ五郎親分に戦闘技術を学んだり、ウオウオの実を使いこなせるように特訓していた。
「……」
「りゅ、龍だ、龍がいるぞ!!」
「青い龍、だと!?」
「ああ龍よ、どうかその怒りを静めたまへ」
訓練の途中、ウオウオの実の能力で龍になった俺に騒ぐ住民達。
ウオウオの実は規模も威力も高い技が多く、特訓場所の確保が難しかった。
たまにお供え物や生け贄で荒ぶる龍を沈めようとする村も出始めた。
やはりウオウオの実は扱いが難しい。
結局、白髭の出航前に習得できたのは流桜と青龍モードの飛行技術だけだった。だけて言うには強力な能力ばかりだが、戦闘経験を積んでない分、足手まといのガキには変わりない。この世界って本当に難しい。
出航日当日。夜に出ることを知っていた俺は、枕元に置き手紙の伝言を残して外に出ようと寝室の扉を開けた。
その瞬間だった。
「どこへ行かれるのですか、ショーゴ様?」
菊姉が笑顔で待ち伏せていた。もちろん、目は笑っていない。
「やだなぁ、便所に決まってるでしょ?」
「そうですか。それは良いことです。つい先ほど、おでん様も厠に行かれたきり、姿をお隠しに成られたと、錦えもんから知らせが入りました。なので、ショーゴ様も姿を消されるのではないかと心配しておりました」
「へ、へーそうなんだぁ」
「つきましては、ショーゴ様の厠に、私も同行させていただきます」
「え、なんで?一人でも用は足せるよ?」
「同行させていただきます」
「いや————」
「同行させていただきます」
「……」
「さあ行きましょう、ショーゴ様……ショーゴ様?そちらに厠はありませんよ。なぜ青龍のお姿になられるですか……お待ちください! 錦えもん!! ショーゴ様が逃げました!!」
すまないが、このタイミングを逃すわけには行かない。四の五の言ってはいられる暇はない。逃げるが勝ち。龍になるが勝ちだ。
「逃げるんだよォォォーーーーーッ」
俺はすぐさま白髭の元に急いだ。しかし白髭のクジラ船は見えず、すでに出航済みだった。すぐさま追うが、それでも見えず。去る者追えず。
結局、俺は和ノ国にお留守番することが決定した。
ちくしょうめぇーーーーー!!!
その後。
菊姉にしっかり絞られた俺の日々は、青龍訓練や戦闘訓練、見聞色と覇王色の覇気の取得を目指したり、将軍になるための勉強だったり、コジロウをこき使ったりで大忙し。
ついでに諜報に命じて、オロチとかいう厄ネタが見つかったので、「ホロブレス!」して消し炭にしてやった。
我が国の諜報が優秀でよかった。
その日以降、住民は俺の青龍を受け入れるようになった。
まあ、訓練がはかどるからいいんだけど、どこか某爆裂娘のような扱いを受けてる感が否めない。
気のせいだと思いたい。青龍は神様だ。間違っても「こいつはこういう子なんよぉ」ってお婆ちゃんからの温かい視線を浴びていい珍獣ではない。
そしておでんのことだが、俺はおでんが帰ってきたら将軍の役目云々を丸投げして、今度こそ旅に出ると決めている。
今日も錦えもんに浜辺を監視するよう、命じてある。
逃がさねえよ、おでん。先に楽しんだんだ。
次は俺が旅をするんだ。帰ってくるのを楽しみにしているぜ。
とある瓦版(本)より。
【龍神の子】
光月ショーゴ。
その少年の日常は、戦いの連続だった。
型破りで、怖い物知らず。
その強さの影には、知られざる『少年の流儀』があった。
『まあ、勉強も訓練も周りに流されるようにやってきただけなので、流儀とか言われても……』
取材初日、少年の臣下、お菊は彼のことをこう評した。
「あの方は誰よりも国を守ろうとする、優しいお心を持っておられます。自身を鍛えるだけでなく、自ら国外から来るであろう外敵に備えて悪魔の実を集めさせたり、臣下に訓練を施していらしておられます。私たちは、死ぬまであの方を支える所存です」
家臣からの信頼の厚い、次期将軍候補筆頭。
その少年の出自は、両親を火事でなくした貧しい孤児。
それが今や国外逃亡した光月おでんさまに拾われ、将軍家の養子となり、いまや将軍のお膝元『花の都』のみならず、国中から愛される存在へと成長した。
少年の強さの秘密とは何なのか、あのお方に聞くことにした。
現将軍、光月スキヤキ。いずれ出家して刀鍛冶になるのだとにこやかに語るこの男は、少年は超人だと言う。
「あいつは……良くも悪くも成長段階。嫌なことも流れに身を任せて、結局乗り越える吸収力がある。勉強も、訓練も、あいつからすれば赤子が歩いたり飯を食べたりできるようになるのと大差ない」
「未来を見通す見聞色。周りを圧倒する覇王色。抜群の身体能力。流桜」
「そして何よりもあの青龍よ。空を飛び、天候を操り、強力な炎で全てを焼き尽くす、圧倒的な存在感。悪魔の実の力によるそれは、まさしく神話の龍であろうな」
予想だにしなかったことが起きた。
和ノ国にあの男がやって来た。
百獣海賊団総督、カイドウ。
金棒からくる一発の破壊力は、尋常ではない。まさに百獣の王。
そして、百獣の王との戦いで、ショーゴは人生で初めて出血した。
和の国の命運を分ける、天下の戦い。
そんなときでも、大切にしている流儀があった。
————————困ったときは、火力でゴリ押す。
戦闘中、カイドウは違和感を覚えていた。
「(違和感)……いや、いい。殺す!!」
負けるはずがない、そんな自尊心が、命運を分けた。
地面を蹴る。巨大な金棒からは雷の覇気が漏れていた。
「ウォロロロロロロ!! 雷鳴八卦!!」
グングンと百獣の王と青龍の距離は近づいていた。
今にも金棒が青龍の腹へめり込まれる。
それに抵抗するかのように青龍は火の玉を放ったが、耐え抜けるとカイドウはにらんでいた。
そのはずだった。
「(こいつ、なんで攻撃してこねえ!?)」
火の玉はいつまでもカイドウに降り注ぐことなく、同じ空間に制止していた。
カイドウは知らない、青龍の正体が転生者であることを。
「百斂」
そしてこの技はワンピースの世界に存在しない技を参考にして作られている。
————————超新星
火の玉から放たれる超高密度の火花が、誰も傷つけることがかなわなかった世界最強生物の肉をことごとく貫いた。
火花には少量ではあるが龍の血が混ざっており、いかにカイドウといえども身体が拒否反応を起こす、猛烈な毒となった。
この一撃により、カイドウは敗北が確定した。
後日、残りの海賊を始末した後、カイドウは処刑された。
変わるはずのない運命が、転生者の少年によってねじ曲げられた瞬間だった。
「えぇ、敵倒しただけで祭りとか、面倒くさい」
「そのようなことをおっしゃられては、民に示しがつきませんぞ」
戦後、カイドウに勝利したら知らないうちに祭りが行われた。
祭りの名は「龍神誕生祭」、以降毎年のように行われるそうだ。
ちなみに【龍神】とは俺に与えられた二つ名だ。
そんなたいそうな名前付けられても困る。
それはそうと、ヤマト坊ちゃんはちゃんと回収した。
「子供に罪はない!!」って必死にかばって、俺が育てるって言ったら、みんな渋々うなずいてくれた。
ヤマトは個人的に好きなキャラだから死んで欲しくなかったんだよな。生きてた良かった。
それから数年経って、ロジャー海賊団の船とともにラフテルから帰ってきたおでんを、錦えもんが鎖で引きずって連れてきてくれた。
「よ、よぉショーゴ、おおきくなったなぁ」
気まずそうに話しかけてくるおでん。
おでんの隣には美人な嫁さんと二人の子供。お楽しみだったのは知っていたが、こうやって実際に会ってみるとむかついてくる。
「いえいえいえ、俺は怒っていませんよ」
「その割には顔がこえぇ」
「本当に起こってないよ。だって、
—
———————これからはおでん様が将軍になるんだから」
「……へ?」
さて、ようやく待ちに待った出航だ。
「ヤマト、忘れ物はないか?」
「大丈夫、ちゃんと持ったよ」
「し、ショーゴ様、まさかとは思いますが……もしや国を出るおつもりですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「捕らえろぉぉーーーー!!」
「上司相手に捕らえろは無いだろ、普通」
カイドウを圧倒した龍神(笑)に和ノ国の侍連中が勝てるはずもなく、俺とヤマトはおでんと入れ替わる形でロジャーの船に乗り、和ノ国を出た。
「レイリーさん、シャボンディまでお願いします」
俺たちの旅は、ここから始まる。ウオウオの実によるワンピ世界の自由旅が始まった。
龍神(笑)とヤマト(女)の行方は、誰も知らない。