第32話「優しさの裏側」
朝。
――化猫の宿。
静かな食堂。
「いただきます!」
元気よく手を合わせるのは
ウェンディ・マーベル
「元気ねぇ」
微笑む
ミラジェーン・ストラウス
ヨゾラも席につく。
「……」
周囲を見渡す。
やはり――違和感。
笑っている人たち。
でも、どこか“遠い”。
「……ヨゾラさん?」
ウェンディが覗き込む。
「どうしました?」
「……いや」
首を振る。
「なんでもない」
「ほんとですか?」
「……ああ」
短く答える。
「冷める前に食べましょう?」
ミラジェーンが空気を和らげる。
「はい!」
ウェンディが笑う。
その笑顔は――
まっすぐで、無垢だった。
■食後
廊下。
ヨゾラとミラジェーンが並んで歩く。
「……確信に近づいたな」
ヨゾラが低く言う。
「ええ」
ミラジェーンも頷く。
「昨日より、はっきりした」
「……人じゃない」
「ええ」
静かに肯定する。
「“存在しているようで、していない”」
「……」
「でも」
ミラジェーンが少しだけ目を細める。
「悪意は感じない」
「……ああ」
ヨゾラも同意する。
「むしろ――」
少しだけ言葉を選ぶ。
「守ってる」
「……そうね」
ミラジェーンが頷く。
「ウェンディを」
その名前。
空気が、少しだけ重くなる。
「……あいつは気づいてない」
ヨゾラが言う。
「ええ」
「完全に“普通のギルド”だと思ってる」
「……」
少しの沈黙。
「……どうする?」
ヨゾラが聞く。
ミラジェーンは、少しだけ考える。
そして――
「言わない方がいい」
はっきりと言う。
「……理由は?」
「壊れるからよ」
静かに答える。
「……」
「この場所も」
周囲を見渡す。
「ウェンディの心も」
その言葉。
重い。
「……」
ヨゾラは、少しだけ目を閉じる。
「……嘘になる」
ぽつりと呟く。
「ええ」
ミラジェーンは否定しない。
「でも」
優しく言う。
「優しい嘘もあるわ」
「……」
「守るための嘘」
ヨゾラの目が、わずかに揺れる。
「……嫌いじゃない」
小さく言う。
「でも得意じゃない」
「知ってる」
ミラジェーンがくすっと笑う。
「顔に出るもの」
「……そうか」
少しだけ苦笑する。
「じゃあ」
ミラジェーンが続ける。
「私がフォローするわ」
「……頼む」
素直に言う。
その時。
「ヨゾラさん!」
元気な声。
振り向くと――
ウェンディが走ってくる。
「一緒に外、行きませんか!?」
「……外?」
「はい!」
にこっと笑う。
「この辺り、景色すごく綺麗なんです!」
「……」
ヨゾラは、少しだけミラジェーンを見る。
ミラジェーンが小さく頷く。
(今は――そのままでいい)
その合図。
「……ああ」
ヨゾラが答える。
「行く」
「ほんとですか!?」
ぱっと顔が明るくなる。
「やったぁ!」
その笑顔。
あまりにも無垢で。
「……」
ヨゾラは、ほんの少しだけ目を伏せる。
(……守る)
心の中で呟く。
この笑顔を。
壊さないために。
「じゃあ行きましょう!」
ウェンディが手を引く。
「……ああ」
ヨゾラは、その手を振り払わない。
その後ろで――
ミラジェーンが静かに見守る。
「……優しい世界ね」
小さく呟く。
「だからこそ――」
その先は、言わない。
風が吹く。
優しくて、どこか切ない風。
真実は、まだ――隠されたまま。
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