「私の適性運命論。概要についてはもう話したよね?」
「ええ。人間一人一人の適性を正しく評価した上で最適な働きを追求すれば、最大効率の成果が得られる。……以前の有村はあなたの理論で言うと成功しないアイドルに分類される、と」
優希はお喋りが大好きだが、自分の考えを理解して的確な言葉が返ってくる類の会話は尚のこと好きだ。満足そうな表情で優希は応える。
「お、そこそこ長く喋ったんだけど適性に要約してくれるじゃん。ぶっちゃけ麻央の急成長に関しては君の働きこそが評価されるべきだと思ってるんだよ、私は」
「それは」と反論しようとする気勢を優希は片手で制す。
「まぁまぁ。彼女にその土壌があってこそ、ここまで上り詰めたってことは分かってるよん。それはそれとして、私は有村麻央よりも君にこそ興味があったんだ。気づいてたでしょ?」
「ええ、矢鱈と私を推し測ろうとする言葉が多いような気はしていました。今回、仕事を持ちかけていただいたことが有村に期待してのものであるとはどうにも思えませんでしたが……」
プロデューサーとしては屈辱であっただろう事実を飲み込んでの判断。感情よりも理性を働かせた故の選択を優希は評価する。
「『Fluorite』は素晴らしかったよ。ただ、あのステージを実現した
「メカニズムですか」
優希はどれほどの超常に魅せられようと、その観測に知恵を伴うことを忘れてはいけないとおもっている。
「『Fluorite』は麻央の持つ本来の魅力を活用したからこそ生まれた成果物だった。つまり、
「あくまで、有村が自分らしいアイドルの形を見つけることが本来の目的です。彼女の理想を諦めさせたい訳ではありません」
幻想、という言葉に目敏く反応し、理想と訂正する鋭敏さに優希は同意する。以前の優希ならば、受け入れることのできなかった考え。
アイドルという世界を見渡したことで、新しく芽生えた理論があればこそ、今の麻央を
「今の麻央は、その理想に近づいてるんじゃないかと思えるよ。少女としての魅力、中性的な声を活かしたカッコ良さという魅力、この2つで自分を新しく表現できるようになっている。……なんでだと思う?」
「それは、有村自身の成長もあるでしょうが……ファンの方たちに受け入れられ始めたこともあるのだと思います。有村は今回、自分の世界観だけでなく、ファンの方が自分に何を期待しているかを受け入れる余裕を持っていました」
プロデューサーの分析は概ね正しい。麻央が実践したこの手法をもっと一般化すれば、有用な理論にすることができる。
「それこそが麻央が新たに獲得したアイドルの方向性。
「合理性、ですか」
「そう。合理的というのは、『ルールを作る力』、『ルールに沿って遂行する力』とも言い換えられる。これを杓子定規と捉える人もいるけど、本質は全く違う。合理性に真に必要な能力は客観性だよ」
合理性。これほど独自解釈が難しい概念も稀だろう。『ルールの遂行』においては、一定のマニュアルに従って組み立てるパズルの様な面白さがある。
一方で、『ルールを作る』際には未知の概念を取り入れて最適な課題定義を探究し続けなければいけない。
合理性を履き違えて自滅するビジネスマンは、『型に嵌めなければいけない部分』と『型破りが求められる部分』を見極められていないことが多い。
「有村麻央が表現する"可愛いさ"と"カッコ良さ"の融合は、新しい概念を生み出した革新だろうね。だからこそ、私たちプロデューサーはこの奇跡をどうすればもう一度起こせるのか考えなければいけない。麻央が成功した要因が、ファンとの意思疎通であったのは明らか。これを更に踏み込んで解釈するなら、
「なるほど、根本的な話をするならばそうかもしれませんね。観客が求めている有村麻央に近づこうとする行為。自分以外の世界観を認め尊重することこそが、彼女の飛躍に繋がったということですか……何か?」
突然喉の奥を鳴らすように笑う優希に、プロデューサーは怪訝な顔を向ける。少々不気味だったと内省しながら優希は応える。
「今の麻央を見ていると、佑芽にそっくりだなって思うんだよね」
「花海佑芽さん、ですか。それはまた、何故?」
「自分以外の世界観を認める……なんて言ってるけど、そういう手合いは大抵自分の世界観を貶めちゃうんだよね。でも、本当の意味で
「……貴方は、アイドルが好きなんですね」
プロデューサーからの言葉は唐突だったものの、優希は笑って返す。
「でしょ?もっと知りたいんだ、アイドル。そのために新しいイベントを考えてるんだ。今度、麻央共々招待させてよ」
優希の新しい提案は、極月と初星を巻き込んだ一大イベントに発展するのだが、その話は次の機会に。
次回:『No1』と『No3』