適性運命論者の「アイドルのすゝめ」   作:物見遊本

12 / 12
ホスピタリティ・マインド 〜あるいはロジックの要件〜

「私の適性運命論。概要についてはもう話したよね?」

 

「ええ。人間一人一人の適性を正しく評価した上で最適な働きを追求すれば、最大効率の成果が得られる。……以前の有村はあなたの理論で言うと成功しないアイドルに分類される、と」

 

優希はお喋りが大好きだが、自分の考えを理解して的確な言葉が返ってくる類の会話は尚のこと好きだ。満足そうな表情で優希は応える。

 

「お、そこそこ長く喋ったんだけど適性に要約してくれるじゃん。ぶっちゃけ麻央の急成長に関しては君の働きこそが評価されるべきだと思ってるんだよ、私は」

 

「それは」と反論しようとする気勢を優希は片手で制す。

 

「まぁまぁ。彼女にその土壌があってこそ、ここまで上り詰めたってことは分かってるよん。それはそれとして、私は有村麻央よりも君にこそ興味があったんだ。気づいてたでしょ?」

 

「ええ、矢鱈と私を推し測ろうとする言葉が多いような気はしていました。今回、仕事を持ちかけていただいたことが有村に期待してのものであるとはどうにも思えませんでしたが……」

 

プロデューサーとしては屈辱であっただろう事実を飲み込んでの判断。感情よりも理性を働かせた故の選択を優希は評価する。

 

「『Fluorite』は素晴らしかったよ。ただ、あのステージを実現した運命論(メカニズム)こそが私には何より価値あるものだと思ってたんだけどね」

 

「メカニズムですか」

 

優希はどれほどの超常に魅せられようと、その観測に知恵を伴うことを忘れてはいけないとおもっている。

星々(アイドル)をプロデュースする側に立つ者として、どれほど奇跡の上に成り立っているかのようなステージであろうと、観測・言語化・再現する努力を怠らない。

 

「『Fluorite』は麻央の持つ本来の魅力を活用したからこそ生まれた成果物だった。つまり、天凛(センス)を活かした生存戦略。実際、歌劇で魅せるカッコ良いアイドルという幻想から一度離れるよう指示したのは、彼女の本来の適性を活かしたかったからじゃない?」

 

「あくまで、有村が自分らしいアイドルの形を見つけることが本来の目的です。彼女の理想を諦めさせたい訳ではありません」

 

幻想、という言葉に目敏く反応し、理想と訂正する鋭敏さに優希は同意する。以前の優希ならば、受け入れることのできなかった考え。

アイドルという世界を見渡したことで、新しく芽生えた理論があればこそ、今の麻央を適性一致(みたされた)生命と定義できる。

 

「今の麻央は、その理想に近づいてるんじゃないかと思えるよ。少女としての魅力、中性的な声を活かしたカッコ良さという魅力、この2つで自分を新しく表現できるようになっている。……なんでだと思う?」

 

「それは、有村自身の成長もあるでしょうが……ファンの方たちに受け入れられ始めたこともあるのだと思います。有村は今回、自分の世界観だけでなく、ファンの方が自分に何を期待しているかを受け入れる余裕を持っていました」

 

プロデューサーの分析は概ね正しい。麻央が実践したこの手法をもっと一般化すれば、有用な理論にすることができる。

 

「それこそが麻央が新たに獲得したアイドルの方向性。論理(ロジック)という戦い方だよ。合理性という武器で価値の創出を行える。先天的に備わっている資質を活かすことだけを志向していた私にはなかったフレームワークだ」

 

「合理性、ですか」

 

「そう。合理的というのは、『ルールを作る力』、『ルールに沿って遂行する力』とも言い換えられる。これを杓子定規と捉える人もいるけど、本質は全く違う。合理性に真に必要な能力は客観性だよ」

 

合理性。これほど独自解釈が難しい概念も稀だろう。『ルールの遂行』においては、一定のマニュアルに従って組み立てるパズルの様な面白さがある。

一方で、『ルールを作る』際には未知の概念を取り入れて最適な課題定義を探究し続けなければいけない。

 

合理性を履き違えて自滅するビジネスマンは、『型に嵌めなければいけない部分』と『型破りが求められる部分』を見極められていないことが多い。

 

「有村麻央が表現する"可愛いさ"と"カッコ良さ"の融合は、新しい概念を生み出した革新だろうね。だからこそ、私たちプロデューサーはこの奇跡をどうすればもう一度起こせるのか考えなければいけない。麻央が成功した要因が、ファンとの意思疎通であったのは明らか。これを更に踏み込んで解釈するなら、他者を思い遣る心(ホスピタリティ・マインド)が鍵ってことになる」

 

「なるほど、根本的な話をするならばそうかもしれませんね。観客が求めている有村麻央に近づこうとする行為。自分以外の世界観を認め尊重することこそが、彼女の飛躍に繋がったということですか……何か?」

 

突然喉の奥を鳴らすように笑う優希に、プロデューサーは怪訝な顔を向ける。少々不気味だったと内省しながら優希は応える。

 

「今の麻央を見ていると、佑芽にそっくりだなって思うんだよね」

 

「花海佑芽さん、ですか。それはまた、何故?」

 

「自分以外の世界観を認める……なんて言ってるけど、そういう手合いは大抵自分の世界観を貶めちゃうんだよね。でも、本当の意味で論理的(ロジック)な人間は、自分の価値も相手の価値も平等に扱える。佑芽は自己主張が強いようで、その実他人の魅力や強みを認めている。麻央を見ていると、形は違えど自他を平等に見ている部分が似通ってるように見えるな」

 

「……貴方は、アイドルが好きなんですね」

 

プロデューサーからの言葉は唐突だったものの、優希は笑って返す。

 

「でしょ?もっと知りたいんだ、アイドル。そのために新しいイベントを考えてるんだ。今度、麻央共々招待させてよ」

 

優希の新しい提案は、極月と初星を巻き込んだ一大イベントに発展するのだが、その話は次の機会に。

 







次回:『No1』と『No3』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS転生者が初星学園でアイドルになる話(作者:ピンノ)(原作:学園アイドルマスター)

初星学園に通う、やや卑屈で少しだけ捻くれたTS転生者がプロデューサーにプロデュースされてアイドルになる話です。▼アイドル視点ですが、原作の親愛度コミュをベースに話が進んでいきます。▼※原作でぼかされている部分などで、設定の捏造などがあります。もしかしたら、私がただ知らないだけの部分も、ぼかされているんだと解釈して捏造設定をねじ込んでしまっている可能性がありま…


総合評価:2040/評価:8.72/連載:32話/更新日時:2026年04月08日(水) 18:00 小説情報

諦めたPと篠澤広(作者:ラ メ ル テ オ ン)(原作:学園アイドルマスター)

上手くいかない事を求めてるアイドルと人生上手くいってない事ばかりのプロデューサーが送るシリアス多めなコメディ。夢を諦めかけていたプロデューサー科2年生の主人公が篠澤広に出会って変わっていく…みたいな話です。▼話のベースが初星コミュと篠澤広の親愛度コミュを混ぜて改変した感じなのでネタバレ注意!▼曇ってるのは大体主人公▼先日は軽率な行いに及び不快な思いをさせてし…


総合評価:860/評価:8.09/連載:52話/更新日時:2026年05月21日(木) 18:12 小説情報

余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます(作者:はつぼし たろう)(原作:アイドルマスター)

ついこの間余命一年を宣告されたプロデューサーくんが、アイドル引退したいらしい賀陽燐羽さんの終活を全力でプロデュースしてから死ぬ話です。▼※賀陽燐羽さんの育成ストーリー的なやつです▼※学園アイドルマスターのストーリーの一部ネタバレを含みます▼※よくわかんないことが多いので作者の妄想で補完してたりします


総合評価:6348/評価:8.92/連載:16話/更新日時:2026年06月07日(日) 17:08 小説情報

この狩猟生活に祝福を!(作者:how-kyou)(原作:この素晴らしい世界に祝福を!)

このすば×モンハン2ndG。このすばらしい世界に祝福を!のカズマさんの転生先がモンスターハンター2ndGのポッケ村だったら?と妄想して書いてます。ストーリーも2ndG準拠ですが、進行上同シリーズ別作品の要素が出てくると思います。多少キャラ変(カズマさんに男気プラス)。pixivにも出してます。


総合評価:656/評価:8.75/連載:18話/更新日時:2026年05月30日(土) 20:40 小説情報

【完結】 僕のくせにボクの邪魔しないでよ!(作者:破れ綴じ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

『完全に無意識で人の手袋の匂い嗅いでたんだけど……待ってよ、あれが僕なの?』▼ 魂を分裂させてTS転生した元勇者シエルが『剣士エスクリ』と『聖剣エペ』になって旅をして、超ドタイプな次世代の青年に脳を焼かれるお話です。特に深い意味はありませんが、転生した自分は複数いるし、全員自分なので好みのタイプも同じです。▼ 全10章100話完結です。


総合評価:1076/評価:8.82/完結:105話/更新日時:2026年06月07日(日) 21:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>