2年にして部長となった大野ツクヨはミチルから受け継いだチャンネルを大きく成長させた。
ツクヨにとって望まない方向に。
もし『不忍ノ道』で判明したツクヨのモデルの才能を、ミチルが発揮させてあげたいと考えたらというif短編小説です。
あにまんに書いたものを加筆修正しました。
https://bbs.animanch.com/board/6552962/
少女忍法帖ツクヨっち
チャンネル登録者××万人
冷房の付いた教室の中、画面に出ている数字をツクヨは1人眺めていた。
直近の動画の再生回数はどれも数万回。誰から見ても好調と評する数字が並ぶなかで、10個に1つくらい3桁程度の動画が見られた。
3桁動画のタイトルは全て『〇〇の術、挑戦してみた!』である。
一年前。ミチル部長がいた頃はどうだったか確認するために画面をスクロールしていると、廊下からコツコツといくつか足音が聞こえてくる。
「「こんにちはツクヨ
「あっこんにちは…」
戸を開けると同時に挨拶してきた2人の生徒に対して、ツクヨは挨拶を返す。
彼女たちは今年入ってきた後輩だ。
「何見てるんですか?」
「わ、私たちの動画チャンネルだよ…。この前の動画もいっぱい再生されているなって…。」
「当然ですよ!なんてったってモデル経験のある部長のファッションVlogですからね!」
動画が伸びた事実か、はたまた『モデル』という単語に反応してか、後輩の言葉にツクヨは愛想笑いで返す。
千鳥ミチルが卒業してからはや4か月。忍術研究部の部長を任されたツクヨはイズナと新たに入った後輩2人を抱えてチャンネル運営を継続。
チャンネル登録者・平均動画再生数ともに、ミチルが部長だった頃とはけた違いに成長していた。
ツクヨはなぜこのようになったのか思い返す。
事の発端はミチル部長がいた頃に遡る。
今にして思えば、ツクヨのモデルの才能を活かす場を作ろうとしてのことだったのだろう。ネタ切れという部長の言葉を信じて、しぶしぶ出演したツクヨのメイク動画が跳ね、その後もコメントに求められて時々おしゃれ系の動画を出すようになっていったのだ。もっともその頃は撮影内容は部長が決めていたので動画本数は抑えられていたのだが…。
忍術とおしゃれの立場が事実上入れ替わってしまったのは新入部員が来てからだろう。
そして今に至る。
「私たちもツクヨ部長のメイク動画を見て、この部に入りましたからね。やっぱりこういう路線が今は伸びるんですよ。」
「イズナ先輩はまだ来てないんですか?」
「えっと…飲み物買ってくるってさっき出ていったんだけどね…。」
コンコンッ
背後から窓をたたく音が聞こえる。
振り返ると音の正体はちょうど話に挙がっていた久田イズナであった。
窓をノックしてジェスチャーを繰り返しているのを見て、窓を開けてあげる。
「……いやぁ、ありがとうございますツクヨ殿!2人も来てましたか!」
「イズナ先輩スゴ!マジで忍者みたいですよ!」
「普通に入ってきてくださいよ先輩…。」
「み、みんな揃ったし…!動画撮影の予定を決め…ましょう…!」
全員揃ったことを確認し、ツクヨは話を次に進めようとする。今やツクヨには、部長としてこの部活を引っ張らなければならないという自負があった。
部長の言葉を受けて皆それぞれテーブルを囲むように座る。
「それでは…、来月にやりたいことがある人、いますか…?」
「ハイ!」
「イズナちゃん、どうぞ…。」
「夏ですし、忍法・キラキラファイアーの術を使った動画はどうでしょうか!?」
「あっ…いいですね…!」
忍法・キラキラファイアーの術。先代、千鳥ミチルの考案した忍術。イズナとツクヨは印を結んで花火に火をつける元部長の姿を同時に思い浮かべていた。
だが、その姿を後輩たちは知らない。
「花火!いいですね~きっと映えますよ!」
「あぁ、また忍術ですか…?好きですね~イズナ先輩も。ま、
2人の評価は鈍かった。それもそのはず、2人はツクヨを目当てに動画を視聴し、入部したのだ。2人とも他人の好みにケチをつける性格でもないが、忍術にはカケラほどの興味も持ってないし、過去動画も見ていない。
2人のような視聴者層が多いことは再生回数からして明らかだった。忍術は求められていない。だから月1程度になっている。
「ハイ!ハイ!」
後輩の一人が手を挙げた。
「どうぞ…。」
「前回バズったVlogの第2弾やりましょうよ!今回は食べ歩きで!」
「おっそれいいじゃん。」
後輩が挙げたのは流行りの方向の動画だった。ツクヨはちらりとイズナの方を見る。
「え、えーと…。どうだろ…?」
「やりましょーよー、絶対伸びますって!というか私が見たいっ!」
「お前なぁ…。」
後輩たちは軽口をたたき合っている。後輩の提案は悪気のない善意からくるものだ。
別に後輩のことが嫌いではない。だからこそ、その優しさを否定できない。断れない。
「イズナちゃんはどう思う…?」
「いいと思いますよ!楽しそうです!」
結果は賛同。
イズナは忍術動画をほとんど撮っていない現状に対して、これまで何一つ不満を見せていなかった。
そしてそのことがツクヨには不安であり、密かな不満でもあった。ミチルから託されたチャンネルを、自らで塗り替えてしまっている気がしていたからだ。
「うん…。じゃ、じゃあやってみようかな…?」
こうして流されるように、話し合いは進む。
最終的に決まった来月の企画は忍術系が1本、ツクヨ関連が7本であった。
活動終了と共に帰る後輩2人を見送った後、ツクヨはイズナの方に向かう。
「ツクヨ殿?どうしたんですか」
「イズナちゃん…、私…ちゃんと部長できてるのかな…。」
ツクヨは縋りつくような思いでイズナに問いかける。
「最近あんまり忍術の撮影してないし…私ばっかり動画に出てるし…」
「…つまり、ツクヨ殿はもっと忍術の動画を増やしたいということですね!では、イズナと一緒に新しい忍術を考えましょう!」
「…うん、そうだね…。」
イズナの言っていることは正しいとツクヨも思った。忍術好きを増やすには、地道にやっていくしかないのだと。
だが、同時にそれは無謀だとも感じていた。現に一番距離の近い後輩2人にすら忍術に興味を持ってもらえてないのだから、今の視聴者層が興味を向ける訳がないと。
窓の外を見ると、いつの間にか日が傾いていた。部屋の戸締りを確認してから、2人で旧校舎を出る。
旧校舎を見るとあの頃を思い出す。3人で少ないチャンネル登録者数に一喜一憂していたあの頃を。
これでいいのだろうかと、勇気があったあの頃の自分に問いかけ、ツクヨは今日も帰路に就く。
ああ、明日から撮影だ。