日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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季節外れですみません。



聖夜

 

――十二月のクイーンズ。

 

「これくらい買っておけば足りるかな。」

 

僕――ピーター・パーカーは、ショッピングカートの中を覗き込みながら呟いた。

 

炭酸飲料やジュース、スナック菓子、メイ叔母さんに頼まれた料理用の食材。それからジーンが絶対に食べたがるだろうと思って入れたチョコレートやクッキーもいくつか。

 

今日は夜から、家でクリスマス会をする予定になっている。

 

僕とメイ叔母さん、それから今一緒に暮らしているサラとジーン。そこへクロオさんと真魚さんも呼ぶことになり、それなりに賑やかな会にはなりそうだったけれど、身内に近い人たちだけで過ごす、少し大きめのホームパーティーくらいの認識だ。

 

「ピーター?」

 

聞き覚えのある声に振り返ると、買い物かごを持ったネッドが立っていた。

 

「やっぱりピーターだ。こんなところで何してるの?」

 

「見ての通り買い物。今日、家でクリスマス会やるから、その準備。」

 

「へえ、いいね。結構買ってるけど、そんなに人来るの?」

 

「今のところは六人かな。僕とメイ叔母さん、それから一緒に住んでる二人と、知り合いが二人。」

 

「一緒に住んでる二人?」

 

ネッドが少し気になったように聞いてきたけれど、僕はそこを詳しく説明する前に、ふと思い出して聞き返した。

 

「そういえば、ネッドは今日何か予定あるの?」

 

「家族で集まる予定だったんだけど、それ明日に変わったんだ。だから今日は特に何もない。」

 

「じゃあ来る?」

 

「え?」

 

「うちのクリスマス会。別に一人増えても大丈夫だと思うし、メイ叔母さんもネッドなら歓迎してくれるよ。」

 

ネッドは少し驚いた後、すぐに笑った。

 

「行く。むしろ行かせてください。」

 

「じゃあ決まり。飲み物、もう少し多めに買おうかな。」

 

「手伝うよ。どうせなら僕も何か持っていくし。」

 

そんな流れで、ネッドの参加も決まった。

 

その時点では、僕もまだ、このクリスマス会がさらに大きくなるとは思っていなかった。

 

ーーーーー

 

買い物を終えて店を出たところで、僕のスマートフォンが鳴った。画面を見ると、スタークさんからだった。

 

「はい、スタークさん。」

 

『ピーター。今日、家で何かやるらしいな。』

 

「……何で知ってるんです?」

 

『クロオから聞いた。クリスマス会だろ。』

 

「ああ、はい。夜からやりますけど。」

 

『何時からだ?』

 

僕は少し嫌な予感を覚えた。

 

「来るつもりですか?」

 

『その聞き方は何だ。私が行ったら困るのか?』

 

「困らないですけど、普通に来ると思ってなかっただけです。」

 

『なら問題ない。ペッパーも連れて行く。』

 

少し離れたところから、ペッパーさんの声も聞こえてくる。

 

『ピーター、迷惑だったら本当に断っていいのよ。トニーが勝手に行く気になってるだけだから。』

 

「いや、迷惑じゃないです。来てくれるなら普通に嬉しいです。」

 

『聞いたか?』

 

「スタークさんに言ったんじゃないです。」

 

『細かいことを言うな。じゃあ後でな。』

 

一方的に通話が切れると、隣を歩いていたネッドが、妙な顔で僕を見ていた。

 

「誰?」

 

「スタークさん。」

 

「スタークさん?」

 

「トニー・スターク。」

 

一瞬だけ間が空いた後、ネッドは吹き出した。

 

「はいはい。」

 

「何?」

 

「いや、何でもない。ピーターってそういう冗談言うんだなと思って。」

 

「冗談じゃないよ。」

 

「分かった分かった。で、そのトニー・スタークさんは今日のクリスマス会にも来るの?」

 

「うん。ペッパーさんも一緒に。」

 

「すごいね。じゃあキャプテン・アメリカも来る?」

 

「スティーブさんは来ないと思う。」

 

「そこまで設定作ってるの?」

 

ネッドは完全に僕がふざけていると思っている。

 

「本当なんだけど。」

 

「はいはい。」

 

「絶対信じてないよね。」

 

「だって信じる要素がないよ。普通の高校生のクリスマス会にトニー・スタークが来るわけないだろ。」

 

「普通の高校生かどうかは置いといて、本当に来るんだけどな。」

 

「その言い方、余計怪しいよ。」

 

結局、ネッドは最後まで信じなかった。まあ、無理もないと思う。僕だって数年前の自分に同じことを言われたら、多分信じない。

 

ーーーーー

 

「着いたよ。」

 

僕が足を止めると、ネッドは隣で無言になっていた。目の前には、僕たちが今暮らしている高層マンションが建っている。

 

「……ピーター、ここ?」

 

「うん。」

 

「この建物の中に住んでるって意味?」

 

「そうだけど。」

 

ネッドは建物を見上げ、それから僕を見る。

 

「前の家から随分変わったね。」

 

「色々あって。」

 

「その一言で済ませていい変化じゃないだろ。僕、てっきり少し広いアパートに引っ越したくらいだと思ってた。」

 

「僕も最初はそういう予定だったんだけどね。」

 

「だったんだけどね、でこうなる?」

 

中へ入り、エレベーターで上へ向かう間も、ネッドは落ち着かない様子で周囲を見回していた。

 

「エレベーターからもう僕の家より高そうなんだけど。」

 

「それはさすがに言い過ぎじゃない?」

 

「本気で言ってる。」

 

やがて部屋へ着き、扉を開ける。

 

「ただいま。」

 

「おかえりなさい。」

 

リビングからメイ叔母さんの声が聞こえ、その少し後にサラが顔を出した。

 

「ピーター、おかえり。」

 

さらに奥からジーンも走ってくる。

 

「おかえり! お菓子買った?」

 

「買ったよ。ちゃんとあるから安心して。」

 

「やった。」

 

僕は横にいるネッドを振り返る。

 

「紹介するね。こっちがサラで、こっちがジーン。二人とも今、一緒に暮らしてる。」

 

「よろしく。」

 

「よろしく!」

 

ネッドは少し驚いたように二人を見た後、すぐに頭を下げた。

 

「ネッド・リーズです。ピーターの友達です。よろしく。」

 

そこへメイ叔母さんもキッチンから出てくる。

 

「ネッド、いらっしゃい。久しぶりね。」

 

「あ、はい。お邪魔します。」

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。今日は楽しんでいって。」

 

「ありがとうございます。」

 

ネッドはそう答えてから、僕の方へ少しだけ顔を寄せた。

 

「ピーター。色々あったって、色々ありすぎじゃない?」

 

「そこは否定しない。」

 

「あとでちゃんと説明して。」

 

「できる範囲でね。」

 

ネッドは何か言いたそうだったけれど、それ以上は追及しなかった。ただ、まだこの程度なら驚きの範囲だったらしい。

 

本番は、その少し後だった。

 

ーーーーー

 

ピンポーン。

 

玄関のチャイムが鳴る。

 

「あ、来た。」

 

僕が立ち上がると、ソファに座っていたネッドが何気なく聞いてきた。

 

「誰?」

 

「スタークさん。」

 

「……まだそのネタ続けるの?」

 

「だから本当だって。」

 

「はいはい。」

 

ネッドは完全に笑っている。僕はそのまま玄関へ向かい、扉を開けると、

 

「メリークリスマス。」

 

そこに立っていたのは、スタークさん。その隣にペッパーさん。そして少し後ろには、両手に大量の荷物を抱えたハッピーさんがいた。

 

「こんばんは、ピーター。」

 

「こんばんは、ペッパーさん。スタークさん、その量、何ですか?」

 

「クリスマスだぞ。少ないより多い方がいい。」

 

「限度があるでしょう。」

 

「言ったんだけど聞かなかったのよ。」

 

ペッパーさんが苦笑する。その後ろでハッピーさんが疲れた顔をしていた。

 

「俺は途中まで運転手のつもりだったんだが、気付いたら荷物持ち兼参加者になってた。」

 

「あ、そうだったんですね。」

 

「何だその反応。」

 

「いや、ハッピーさんが来るって聞いてなかったので。」

 

「俺も来るつもりなかったよ。」

 

そんなやり取りをしながら三人を中へ通す。そしてリビングへ戻ると、ネッドが固まっていた。

 

さっきまでソファに座っていたのに、いつの間にか立ち上がり、目はスタークさんに固定されていた。

 

「ピーター。」

 

スススッと僕に近づいてきて、ものすごく小さな声で、

 

「……本物?」

 

「だから言ったでしょ。」

 

「本当にトニー・スターク?」

 

「うん。」

 

ネッドが僕を見る。その顔には、明らかに「何で先にもっと強く言わなかった」という感情が浮かんでいる。

 

「僕、信じてなかった。……もっと真剣に言ってよ。」

 

「言ったよ。本当だって何回も。」

 

「もっとこう、僕の肩掴んで『ネッド、本当に来るから心の準備して』くらい言ってよ。」

 

「そこまで必要?」

 

「必要だよ!」

 

思わず声が大きくなり、スタークさんがこちらを見る。

 

「ピーター、その友達がリーズか?」

 

ネッドの背筋が一瞬で伸びた。

 

「はい。ネッドです。」

 

「ネ、ネッド・リーズです。初めまして!」

 

スタークさんは少しだけネッドを見てから頷いた。

 

「そうか。ピーターから話は聞いてる。」

 

「僕の話を!? ど、どんな話ですか?」

 

「科学が好きで、ピーターとよく馬鹿なことをやってる友達。」

 

「ピーター!」

 

「僕そんな言い方してないですよ!」

 

「要約だ。」

 

「悪意ある要約ですよ!」

 

スタークさんは楽しそうに笑い、そのまま部屋の奥へ入っていった。ネッドはしばらく動かなかった。

 

「……ピーター。トニー・スタークが僕の名前知ってた。」

 

「そうだね。」

 

「僕の人生、今日がピークかもしれない。」

 

「早すぎるよ。」

 

「いや、もう十分だよ。」

 

それから数秒して、ネッドが僕の肩を無言で一発殴った。

 

「痛っ。何で?」

 

「何となく。」

 

「理不尽だろ。」

 

「高級マンションに住んでて、トニー・スタークが普通に遊びに来る友達には、それくらいしても許されると思う。」

 

「許されないよ。」

 

その程度で済んだので、まだ良かったと思うことにした。

 

ーーーーー

 

その後、クロオさんと真魚さんも到着し、クリスマス会は予定よりかなり大人数になった。

 

メイ叔母さんの料理に、真魚さんが持ってきたもの、さらにスタークさんが大量に持ち込んだ料理まで加わり、テーブルの上はかなり豪華になっていた。

 

ジーンは早速甘いものに手を伸ばし、

 

「ジーン、それ何個目?」

 

とサラに聞かれて、

 

「二個目。」

 

「四個目でしょ。」

 

「……三個目。」

 

「間を取らなくていいから。」

 

なんてやり取りをしている。その横ではクロオさんと真魚さんが笑い、メイ叔母さんとペッパーさんも料理の話をしながら楽しそうにしていた。そして、

 

「なるほど。君、こっち系か。」

 

気付けばスタークさんとネッドが、テーブルの端で話し込んでいた。

 

「はい。機械とかコンピューターとか、そういうのは昔から好きで。」

 

「ピーターとは学校で何を作ってる?」

 

「最近はそこまで大きいものは作ってないですけど、前は小型ドローンの制御とか、センサー周りとか色々試してました。」

 

「へえ。」

 

僕も興味が湧いて二人の横へ座る。

 

「何の話してるんです?」

 

「君の友達が、思ってたより使えそうだって話。」

 

「スタークさん、言い方。」

 

ネッドは気にしていないどころか、むしろ嬉しそうだった。

 

「スタークさん、この前公開されてた人工筋肉繊維の資料、見ました。」

 

「どこまで読んだ?」

 

「一般公開分は全部。ただ、あの構造だと長時間動かした時の熱処理がかなり厳しくないですか?」

 

スタークさんの眉が少し上がった。

 

「そこに気付いたか。」

 

「やっぱり問題あるんですか?」

 

「問題というほどじゃない。解決方法はいくつかある。ただ、君ならどうする?」

 

ネッドは少し考えた後、タブレットを借りて簡単な図を描き始めた。

 

「僕なら、冷却を一系統にまとめないで分散させます。効率は少し落ちると思うんですけど、一ヶ所壊れて全部駄目になるよりは――」

 

「ああ、それなら。」

 

僕も横から画面を覗き込む。

 

「ここに補助経路を足した方がよくない? 通常時は閉じておいて、温度が一定以上になった時だけ開くようにすれば。」

 

「でもそれだと制御が複雑になるよ。」

 

「制御はこっちでまとめればいい。」

 

「待て待て。」

 

スタークさんが僕たちの間に入る。

 

「二人とも発想が高校生じゃない。」

 

「褒めてます?」

 

「半分な。」

 

それからは、完全に科学の話になった。材料、電源、冷却、ドローン制御、小型化、人工知能。僕とネッドが意見を出し、スタークさんがそれを容赦なく切ったり、逆に面白がって話を広げたりする。

 

ネッドも最初の緊張が嘘のように喋っていた。少し離れたところで、ペッパーさんがその様子を見て笑っている。

 

「トニー、完全に楽しんでるわね。」

 

メイ叔母さんもこちらを見て、

 

「ピーターもああいう話になると止まらないから。」

 

「似た者同士なのよ。」

 

「本人たちは否定しそう。」

 

「絶対するわ。」

 

二人で笑っていた。一方、ハッピーは少し離れた席に座っていた。

 

今回、ハッピーはあくまでスタークさんとペッパーさんについて来ただけで、僕ともそこまで親しいわけではないし、クロオさんや真魚さん、サラやジーンともほとんど面識がない。だから少し居場所に困っているようだった。

 

「ハッピーさん。」

 

メイ叔母さんが声をかける。

 

「コーヒー飲みます?」

 

「あ、お願いします。」

 

「ブラック?」

 

「砂糖一つで。」

 

「分かりました。」

 

メイ叔母さんがキッチンへ向かう。ハッピーは少しだけその背中を目で追い、横にいたペッパーさんに気付かれると、何となく気まずそうに視線を逸らした。

 

「何だよ。」

 

「何も言ってないわよ。」

 

「その顔が何か言ってる。」

 

「気のせいじゃない?」

 

「絶対違うだろ。」

 

そんな穏やかな時間が続いていた、その時だった。遠くから、複数のサイレンが聞こえてきた。

 

「……。」

 

僕は会話を止め、クロオさんもほぼ同時に窓の外へ視線を向けた。スタークさんも少し遅れて反応する。

 

「何かあったな。」

 

スマートフォンで速報を確認すると、ニューヨーク市内で複数台の車両事故が発生し、その混乱に乗じて武装集団が現金輸送車を襲撃。警察との銃撃戦になり、周辺には一般市民も取り残されているらしい。

 

僕は立ち上がった。

 

「近いんですね。ちょっと行ってきます。」

 

「なら僕も手伝うよ。」

 

やった、クウガと一緒だ! スタークさんも立ち上がろうとしたけど、

 

「駄目よ。」

 

ペッパーさんに即座に止められた。

 

「お酒飲んだでしょう。」

 

「ワインを一杯だけだ。」

 

「一杯でも駄目。」

 

「アーマーだぞ。」

 

「関係ないわ。」

 

「私はアイアンマンだ。」

 

「知ってるわ。」

 

「緊急事態なんだが。」

 

「だからこそ、飲んだ人間は行かないの。」

 

スタークさんはしばらくペッパーさんを見た後、諦めたように椅子へ座り直した。

 

「……理不尽だ。」

 

「当然ですよ。」

 

僕はクロオさんを見る。

 

「クロオさんは大丈夫ですよね?」

 

「僕は飲んでないよ。普段から飲まないし。」

 

「ですよね。じゃあ二人で行きましょうか。」

 

僕たちが現場に向かおうとしたところで、

 

「ちょっと待って。」

 

ネッドの声がした。振り返るとネッドは、明らかに混乱した顔で僕とクロオさんを見ていた。

 

「何で二人が行くの?」

 

そうだった。まだ言っていないんだった。

 

「事件だよね? 警察が銃撃戦してるんだよね? 何でピーターが普通に『行ってきます』って言って、クロオさんも当然みたいに付いていくの?」

 

「えっと。」

 

僕はクロオさんを見ると、クロオさんも少し困ったように笑っている。スタークさんが呆れた顔で、

 

「ピーター、まだ言ってなかったのか。」

 

「言うタイミングなくて。」

 

「何を?」

 

ネッドの視線が僕に刺さる。仕方ないか。

 

「ネッド。僕、スパイダーマンなんだ。」

 

「……は?」

 

「スパイダーマン。僕が。」

 

ネッドは完全に固まった。そしてゆっくりクロオさんを見て、

 

「じゃあ……クロオさんは?」

 

「クウガです。」

 

また止まった。

 

「クウガ?」

 

「はい。」

 

「アベンジャーズで一番強いとか噂されてる?」

 

クロオさんが少し困った顔をする。

 

「その辺は僕自身、あまり気にしてないから何とも。」

 

ネッドは僕を見て、クロオさんを見て、スタークさんを見る。そして頭を抱えた。

 

「今日、情報量多すぎない?」

 

「まあ、多いね。」

 

「多いね、じゃないよ。ピーターの新居に来たらすごい家で、トニー・スタークが本当に来て、今度はピーターがスパイダーマンで、クロオさんがクウガって。」

 

「ごめん。」

 

「謝られても処理できないよ。」

 

その様子を見ていたスタークさんが立ち上がる。

 

「リーズ。」

 

「はい!?」

 

「混乱するのは後にしろ。二人は現場へ行く。私はペッパーに止められた。」

 

「正しい判断よ。」

 

「聞こえてる。」

 

スタークさんは少し不満そうにしながら続けた。

 

「だから今日は、私たちが椅子の人だ。」

 

「椅子の人?」

 

「現場に出る人間を、後方から支援する役だ。」

 

ネッドの表情が変わった。

 

「つまり、ピーターとクロオさんを?」

 

「そうだ。」

 

「通信とか、監視カメラとか使って?」

 

「必要ならな。」

 

「僕も?」

 

「機械が分かるなら手伝え。」

 

「やります。」

 

僕は思わず即答したネッドを見る。

 

「さっきまで混乱してたよね?」

 

「今もしてる。でもそれとこれとは別。」

 

スタークさんが笑う。

 

「いい判断だ。」

 

「ありがとうございます。」

 

ネッドは一瞬で機嫌が良くなった。

 

「上へ行くぞ。」

 

「上?」

 

ネッドが首を傾げ、僕は少し嫌な予感を覚えながら答える。

 

「僕のラボ使うんですか?」

 

「……ラボ?」

 

「うん。上の階にある。」

 

「何で家にラボがあるの?」

 

「スタークさんが用意してくれたんだ。」

 

ネッドはゆっくりスタークさんを見る。

 

「ピーター専用の?」

 

「そうだ。」

 

ネッドが無言で僕の肩を殴った。

 

「痛っ。何で!」

 

「今日はもう一回くらい殴ってもいいと思う。」

 

「なんで!?」

 

「高級マンション、トニー・スターク、スパイダーマン、専用ラボ。何個隠してるんだよ!」

 

「別に隠してたわけじゃない!」

 

「今度全部話してくれよ!」

 

「できる範囲で!」

 

「それ絶対まだ何かある言い方だろ!」

 

「リーズ、早く来い。ピーターもクロオを待たせるなよ。」

 

スタークさんの急かす声が飛んでくる。

 

「行きます!」

 

ネッドの切り替えが早い。僕はため息を吐き、クロオさんと顔を見合わせた。

 

「じゃあ僕たちは現場ですね。」

 

「うん。行こうか。」

 

部屋を出て行こうとする僕たちの背中へ、スタークさんの声が響く。

 

「ピーター、通信繋げたら勝手に切るなよ!」

 

「余計なところまで見ないでくださいよ!」

 

「善処する。」

 

「信用できない!」

 

さらにネッドまで、

 

「ピーター、僕もサポートするから!」

 

「それはいいけど、興奮して喋りすぎないでよ!」

 

「大丈夫!」

 

「その返事が一番不安だよ!」

 

リビングでは、ペッパーさんが階段を見上げながら深いため息を吐いた。

 

「男って、本当にこういうの好きよね。」

 

メイ叔母さんが笑う。

 

「楽しそうだからいいんじゃない?」

 

「まあ、それはそうなんだけど。」

 

真魚さんも苦笑し、サラは、

 

「ピーターも十分そっち側ですよね。」

 

と呟く。ジーンだけは、

 

「私もラボ行きたい。」

 

と立ち上がろうとして、

 

「ジーン。」

 

サラに止められていた。そして少し離れた場所では、ハッピーが一人、やや居場所を持て余したようにコーヒーカップを手にしていた。

 

スタークさんはネッドを連れてラボへ行き、僕とクロオさんは現場へ向かう。ペッパーさんはメイ叔母さんと話し、真魚さんとサラは片付けを始めている。完全に取り残された形だ。

 

「ハッピーさん。」

 

メイ叔母さんが振り返った。

 

「コーヒー、おかわりします?」

 

ハッピーは少しだけ姿勢を正した。

 

「お願いします。」

 

「砂糖一つでしたよね?」

 

メイ叔母さんがカップを受け取り、キッチンへ向かう。ハッピーは何となくその背中を目で追った。すると隣から、

 

「ハッピー。」

 

ペッパーさんの声。

 

「何だ。」

 

「別に。」

 

「だったら呼ぶな。」

 

「そうね。」

 

妙に含みのある笑顔。

 

「……何だよ、その顔。」

 

「何でもないわよ。」

 

「絶対何かあるだろ。」

 

上の階からは、

 

「スタークさん、これ触っていいですか!?」

 

「聞く前に触るな!」

 

「もう触りました!」

 

「リーズ!」

 

という声が響く。その騒ぎを聞きながら、ペッパーさんはもう一度ため息を吐いた。

 

「本当に、男どもは。」

 

クリスマスの夜。静かで穏やかなホームパーティーになるはずだったのに、気付けばいつも通りの賑やかな夜になっていた。

 

ーーーーー

 

現金輸送車を襲った武装集団は、逃走に使っていた車両を事故で失い、近くのレストランへ立て籠もっていた。

 

店内には逃げ遅れた一般客と従業員。外にはニューヨーク市警が展開していたが、犯人たちが持っていた武器が問題だった。

 

「下がれ! 下がれ!」

 

警官の怒声と同時に、青白い光が道路を走る。次の瞬間、パトカーの一台が吹き飛ばされた。

 

通常の銃器ではなく、ニューヨーク決戦の後に闇市場へ流れたチタウリ由来の兵器。それだけではなく、ウルトロン事件の残骸を無理矢理加工したらしいエネルギー兵器まで混ざっている。火力だけなら、もはや街の強盗が持っていていい代物ではなかった。

 

「警察が近付けない!」

 

「応援はまだか!」

 

そんな声が飛び交う中、レストランの正面に張られた警戒線の上を、赤と青の影が一気に飛び越えた。

 

「はい、そこまで!」

 

スパイダーマン登場!

 

僕が街灯からウェブを放ち、そのままレストランの外壁へ張り付く。

 

『ピーター。正面二階、窓際に一人。右手にチタウリ系のライフル。』

 

通信越しにネッドの声が聞こえた。いつも学校で聞いている声なのに、妙に真剣だ。

 

「了解。」

 

『それと裏口にも二人いる。逃走準備してるっぽいけど、』

 

「けど?」

 

『クロオさんが向かってる。』

 

「じゃあ問題ないね。」

 

『問題ないって言い切れるのすごいな。』

 

ネッドがそう言った直後、裏口から飛び出してきた二人の犯人の目の前に、金と青の戦士が静かに降り立った。

 

身軽なライジング・ドラゴンでクウガが登場だ!格好いい!

 

「なっ――」

 

「逃げるなら、こっちはやめた方がいいと思いますよ。」

 

クロオさんは穏やかに話すが、犯人の一人が反射的に武器を構え、引き金を引く。エネルギー弾が撃ち出されるが、クロオさんは避けることすらせず、長物の武器であっさりエネルギー弾をかき消した。

 

「……え?」

 

次の瞬間には武器が床に叩き落とされていた。

 

「危ないので、これは没収します。」

 

そのまま二人とも、ほとんど何もできないまま拘束された。

 

『……ピーター。』

 

「何?」

 

『クウガ、反則じゃない?』

 

「今さら?」

 

『いや、テレビで見るのと目の前で見るの違うって。』

 

その会話を聞きながら、僕は天井近くまで跳び上がり、窓際にいた犯人の武器へウェブを撃ち込む。

 

「何だ!?」

 

引っ張り、銃口が大きく逸れ、その隙にもう一発。両手を壁へ固定する。

 

「はい、一人。」

 

『左奥から来る!』

 

ネッドの声に反応し、僕は体を捻った。直後、さっきまで頭があった場所を光弾が通り抜ける。

 

「危なっ!」

 

『だから言っただろ!』

 

「助かった!」

 

『僕、今かなり役に立ってない!?』

 

「役に立ってる!」

 

『スタークさん! 聞きました!?』

 

ーーーーー

 

その頃、ラボでは。

 

「聞いてる。」

 

スタークさんは椅子に深く座り、モニターを眺めながら答えた。隣ではネッドが複数の画面を忙しく切り替えている。

 

街の監視カメラ、警察無線、建物の見取り図。必要な情報だけを拾い、ピーターとクロオへ送っている。

 

「右側の監視カメラ切り替えて。……あ、店内奥に三人。人質と一緒です。」

 

「人数は?」

 

「犯人三人。人質が八……いや九人います。」

 

「武器は?」

 

「一人が普通の銃。二人がエネルギー兵器。」

 

「なら優先順位は?」

 

ネッドが少し考える。

 

「人質に一番近い犯人から。」

 

スタークさんが僅かに笑った。

 

「正解だ。」

 

ネッドは一瞬だけ嬉しそうな顔をしたが、すぐに通信へ戻る。

 

ーーーーー

 

『ピーター。店内奥に三人。人質九人。右側の男が人質に一番近い。』

 

「了解。」

 

レストラン内部の犯人たちは完全に追い詰められていた。

 

「来るな!」

 

一人が女性客の腕を掴み、銃口を突き付ける。

 

「来たら撃つぞ!」

 

「……そういうの、一番やめた方がいいですよ。」

 

僕が天井から逆さまにぶら下がりながら言う。

 

「黙れ!」

 

犯人がこちらへ銃を向けた瞬間、

 

『今!』

 

ネッドの声に合わせ、ウェブを射出し、一発は銃へ、もう一発は女性客の服へ放ち、女性をこちらへ引き寄せるのと同時に、銃だけを犯人の手から奪い取った。

 

「わっ!」

 

「大丈夫です!」

 

女性を安全な場所へ降ろす。

 

「このガキ!」

 

別の犯人がエネルギー兵器を構えるが、撃つより先に、その背後へいつの間にか金と赤のクロオさんが現れた。

 

「最後まで抵抗する感じですか?」

 

「――っ!」

 

振り返った犯人が至近距離から撃つが、クロオさんは放たれたエネルギー弾を躱さず、握りつぶした。次に、手首を掴み、武器を取り上げ、

 

「じゃあ、終わりにしましょう。」

 

クロオさんが踏み込んだと思った時には、残っていた犯人が一瞬で床に倒れた。……完全に気絶している。

 

「……僕、要らなかったんじゃないですか?」

 

「いやいや、ピーターが人質を助けてくれたから僕も動きやすかったよ。」

 

「そうですか?」

 

「うん。」

 

その時、

 

『二人とも! まだ一人いる!』

 

ネッドの声が響いた。

 

「え?」

 

『厨房! 裏の搬入口から逃げようとしてる!』

 

僕とクロオさんが同時に振り返る。犯人の一人が、厨房奥の扉から外へ飛び出していく。

 

「逃げた!」

 

『左に曲がる! その先、行き止まり!』

 

「分かった!」

 

僕がウェブで追う。しかし、犯人は途中で立ち止まり、懐から小さな装置を取り出した。ウルトロン由来と思われる機械だ。

 

『ピーター、待って! それ多分――』

 

装置が赤く光る。

 

「道連れだ!」

 

犯人が叫ぶが、雷のエルの力で加速したクロオさんが横から手を伸ばし、装置を奪う。さらに、クロオさんが装置を握りしめると、装置は装飾されたただの箱へと姿を変え、完全に機能停止した。

 

「……。」

 

犯人が唖然とし、クロオさんはその肩へ軽く手を置いた。

 

「もう諦めましょうね。」

 

電気ショックが炸裂し、犯人は失神した。……え?今のなに?

 

ーーーーー

 

その後、最後の犯人も警察へ引き渡され、結果として、人質に大きな怪我はなし。警察側にも重傷者は出ず、犯人は全員確保。違法に流通していたチタウリ、ウルトロン由来の兵器も回収された。

 

『いやぁ……。』

 

通信の向こうから、ネッドの声が聞こえてくる。

 

『僕、椅子の人としてかなり活躍したよね?』

 

僕は思わず笑った。

 

「うん。助かったよ。」

 

『でしょ!?』

 

「でも、ラボで変なところ触って壊さないでよ。」

 

『僕を何だと思ってるんだよ。』

 

そんなやり取りをしていると、クロオさんが隣で笑っていた。

 

「仲良いね。」

 

「そう見えます?」

 

「かなり。」

 

ーーーーー

 

ラボで、僕、トニー・スタークは椅子に座ったまま、モニター越しに二人の様子を見ていた。

 

警察へ犯人を引き渡すスパイダーマン。その隣に立つクウガ。そして自分の横で、興奮しながら事件の映像を確認しているネッド。

 

何も言わないが、少しだけ口元が緩んでいるのが分かる。自分が出なくても、事件は解決した。ピーターは人質を救い、状況を判断し、クロオと連携して戦った。そしてネッドは、初めての実戦支援にもかかわらず、後方から必要な情報を送り続けた。

 

「……悪くない。」

 

「え?」

 

ネッドが振り返る。

 

「何か言いました?」

 

「何も。」

 

「絶対言いましたよね。」

 

「気のせいだ。」

 

誤魔化しながら、再びモニターへ視線を戻す。若い世代の活躍。自分が前に出なくてもいい。若い連中がちゃんと動き、ちゃんと結果を出している。それを見るのも、案外悪くない。

 

「よし、リーズ。」

 

「はい。」

 

「二人が帰ってくるまでに片付けるぞ。」

 

「何をです?」

 

「クリスマス会の続きだ。」

 

ネッドが笑う。

 

「了解です。」

 

こうして、クイーンズで起きたクリスマス強盗事件は、スパイダーマンとクウガ、そして初仕事となった一人の『椅子の人』によって、あっさりと幕を閉じた。

 

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