日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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魔術

 

その日も、私は車を飛ばしていた。

 

夜の道路を、高級スポーツカーが滑るように走っていく。車内では音楽が流れ、助手席には資料が置かれている。

 

ニューヨークでも指折りの神経外科医。いや、指折りという表現では足りない。少なくとも、私はそう考えている。

 

私には才能があり、その才能に胡坐をかいてきたつもりもない。誰よりも学び、誰よりも努力し、誰よりも多くの経験を積んできた。手術の技術、知識、判断力。どれを取っても並の医師とは違う。

 

他人にはできないことを、私はできる。傲慢でも思い上がりでもなく、単なる事実だ。それが私、スティーブン・ストレンジという男だ。

 

「……これは却下だな。」

 

ハンズフリーで送られてきた患者情報を確認しながら、小さく呟く。難しい症例ではあるが、私が手を出すほどではない。

 

もっと困難で、もっと価値のある手術。私にしか救えない患者。そして、私の腕をさらに世間へ知らしめることのできる症例が必要だ。

 

そんなことを考えながらカーブへ差しかかった、その時、対向車線から突然一台の車が大きく膨らんできた。

 

「っ!?」

 

反射的にハンドルを切る。タイヤが甲高い音を立て、車体が大きく揺れた。視界が激しく流れ、車が道路脇へ滑っていく。ガードレールの向こうは崖だ。

 

「くそっ!」

 

ブレーキを踏み込むが、間に合わない。車体がガードレールに激突した瞬間、

 

「……え?」

 

世界が止まった。

 

いや、本当に時間が止まったわけではない。

 

ガードレールへ衝突し、跳ね上がった車が空中で静止している。砕けたヘッドライトの破片、タイヤに弾かれて舞い上がった小石、車内に浮かぶ書類。その全てが、不自然なほどゆっくりと動いていた。

 

「……何だ、これは。」

 

理解できない。目の錯覚? 脳震盪? いや、違う。ならば、これは何だ?

 

コンコン。

 

思考を巡らせていると、運転席の窓が叩かれた。

 

「……は?」

 

私はそちらを見ると、言葉を失った。崖の下へ落ちかけた車の横に、一人の女性が立っている。黄色い衣服を纏った女性が、何事もなかったかのように車外から私を見ていた。

 

足場などないにもかかわらず、女性は平然と立っている。そして私と目が合うと、軽く手を振った。

 

「うわっ!?」

 

視界が反転し、何が起きたのか理解する暇もなく、気付けば私は、道路脇に立っていた。

 

「…………。」

 

自分の身体は無傷であり、振り返ると、私の車が停まっている。傷一つないし、ガードレールも壊れていない。事故など、最初から起きていなかったかのようだ。

 

「…………。」

 

私は医者だ。それも、人間の脳を扱う神経外科医。

 

異常事態に対する耐性は、一般人より遥かに高いと思っている。突然患者の容体が悪化した時、手術中に想定外の出血が起きた時、人間の生死が数秒の判断に懸かる状況。

 

そういったものを、何度も経験してきた。

 

だが、これは違う。医学でも、科学でも説明できない。少なくとも、私の知識では無理だ。

 

「……アナタは、何者だ。」

 

ようやく、それだけを口にすることができた。すると、いつの間にか私の正面に立っていた女性は、穏やかに答えた。

 

「私は、エンシェント・ワン。」

 

「エンシェント・ワン? ……本名か?」

 

「それは重要ですか?」

 

いや、重要ではない。今聞くべきことは、そこではない。私は自分の車を見る。次に崖を見て、もう一度エンシェント・ワンへ視線を戻し、

 

「今、何をした?」

 

「あなたを助けました。」

 

「それは分かっている。……どうやってだ。」

 

「魔術を使いました。」

 

一瞬、巫山戯るな! と叫びそうになった。だが、魔術だ。二十一世紀のニューヨークで、世界最高峰の医学を修めた私に向かって、この女性は魔術と言ったのだ。

 

だが、目の前の女性が冗談を言っているようには見えない。何より、私は否定できなかった。先ほど見たもの、そして感じたもの。あれは手品でも、錯覚でもない。

 

私は本当に死にかけ、そして、この女性に助けられた。

 

「魔術か。本気で言っているのか?」

 

「ええ。」

 

「二十一世紀に?」

 

「魔術は時代によって消えるものではありません。」

 

「……なるほど。」

 

普段なら一笑に付している。だが、目の前で証拠を見せられ、自分自身が体験してしまった。否定する方が非科学的だ。

 

エンシェント・ワンは、そんな私を見ながら静かに続けた。

 

「スティーブン・ストレンジ。あなたには才能があります。」

 

「私を知っているのか? 光栄だな。……そして、医者としての才能なら自信があるよ。」

 

そう返すと、エンシェント・ワンは僅かに笑った。

 

「医者としてだけではありません。魔術師としてもです。」

 

「何?」

 

エンシェント・ワンが右手を上げると、空中に橙色の光が走った。複雑な幾何学模様が何重にも重なり、一枚の鏡のようなものへと変わっていく。

 

「何だ、それは。」

 

「あなたの未来の一つをお見せします。」

 

光の向こうに映像が浮かんだ。そして、私は息を呑んだ。そこにいたのは、私だった。

 

赤いマントに青い衣服。胸元には奇妙な装飾品を身につけ、両手に魔術陣を展開しながら空中を飛んでいる。その向こうには、巨大な異形の存在。

 

場所そのものも普通ではない。建物が折れ曲がり、空と地面が逆転し、現実そのものが歪んでいる。そんな狂った世界の中で、未来の私は、動じることもなく、魔術を操り、堂々と異形の存在と対峙している。

 

「…………。」

 

目を逸らせなかった。理屈ではなく、直感で分かる。あれは私だ。

 

映像なのか、幻覚なのか、そんなことは分からない。それでも、誰かが作った偽物ではなく、自分が辿り得る未来の一つなのだと理解してしまった。

 

「これは……。」

 

「あなたが選び得る未来です。」

 

「私が、自分自身でこの未来を選ぶと?」

 

「あくまで可能性の一つです。」

 

エンシェント・ワンが手を下ろすと、映像が消えた。

 

「…………。」

 

魔術。荒唐無稽だ。それなのに、

 

「……面白い。」

 

思わず、そう呟いていた。しかし、

 

「だが、必要ないな。」

 

そう言い切った。

 

「そうですか。」

 

あまりにあっさり返されたのは予想外であり、私の方が眉を動かしてしまう。

 

「驚かないのか? 私が断ったことに。」

 

「あなたには選ぶ権利がありますので。」

 

エンシェント・ワンは穏やかに答える。

 

「私は、あなたに可能性があると伝えただけです。」

 

その言葉を鼻で笑う。

 

「可能性? 確かに興味深い。信じられない光景も見た。君が私を助けたことにも感謝している。」

 

「ええ。」

 

「だが、私は医者だ。」

 

自分の手を見る。私の手はこれまで何人もの患者を救い、不可能と言われた手術を成功させてきた手だ。

 

「私にはキャリアがある。名声がある。患者もいる。研究もある。これから先、さらに上へ行ける。」

 

エンシェント・ワンは黙って聞いている。

 

「それを捨てて、なぜわざわざ怪物だの異次元だの、そんな危険な世界へ飛び込む必要がどこにある?」

 

「ありませんよ。」

 

「……何?」

 

「必要はありません。」

 

あっさりと言われた。

 

「望まないのであれば。」

 

「…………。」

 

「では。」

 

そう言って、エンシェント・ワンは踵を返した。

 

「待て。」

 

思わず呼び止めていた。すると、エンシェント・ワンは振り返る。

 

「何でしょう?」

 

「……帰るのか?」

 

「ええ。」

 

「それだけか?」

 

「他に何か?」

 

眉間に皺が寄る。何だ、この女。私を死の直前から救い、わざわざ未来まで見せた。魔術師としての才能があると言った。それなのに、断った瞬間、帰ろうとしている。

 

「君は、私を勧誘しに来たんだろう?」

 

「そのつもりでした。」

 

「なら、もう少し何かあるだろう。」

 

「例えば?」

 

「説得だ。私が必要なんじゃないのか?」

 

「必要ですよ。」

 

「なら――」

 

「ですが。」

 

エンシェント・ワンが私の言葉を遮った。

 

「あなた一人にこだわらなければならない状況ではありません。」

 

何を言っている?

 

「あなたには、素晴らしい才能があります。」

 

エンシェント・ワンは続ける。

 

「正しく学び、努力を続ければ、いずれ世界最高峰の魔術師となる可能性がある。」

 

「……それはさっき聞いた。」

 

「ええ。」

 

「なら、なぜ。」

 

「他にもいるからです。あなた以外にも、素晴らしい才能を持つ者たちが。」

 

「…………。」

 

何故だろうな。妙に、引っかかった。

 

「つまり何だ。……私は候補者の一人でしかない、と?」

 

「ええ。」

 

即答だった。……何故だ。何故、こんなにも腹が立つ。

 

「そして、」

 

エンシェント・ワンは少し考えてから続けた。

 

「他の候補者たちは、あなた以上の可能性を秘めているかもしれません。」

 

……私以上だと?

 

「可能性の話です。」

 

「誰だ。その、私以上の可能性を持つというのは?」

 

「それを聞いてどうするのです?」

 

「興味だ。」

 

それ以外に理由などない。……ないはずだ。

 

「そうですか。」

 

エンシェント・ワンは微笑んだ。

 

「でしたら、自分で確かめると良いでしょう。……どうしますか、スティーブン。あなたが言う、輝かしい医者としての生活へ戻るか。」

 

エンシェント・ワンの声は穏やかだった。

 

「それとも、未知の世界へ足を踏み入れ、新たなことを学ぶか。」

 

「…………。」

 

「医学では触れることのできない領域。空間、精神、時間、」

 

私の目が僅かに動く。

 

「魂。そして、次元。」

 

「……次元だと?」

 

思わず口を挟んでしまう。

 

「ええ。」

 

「別の次元が存在するのか?」

 

「しますよ。」

 

「観測できるのか?」

 

「できます。」

 

「移動は?」

 

「可能です。」

 

「人体への影響は?」

 

「それも、魔術を学べば分かります。」

 

エンシェント・ワンが笑った。……食いついた。そう思っているのだろう。それが何となく分かり、少し不機嫌になる。

 

「どうします?」

 

再び問われる。私はしばらく考え、

 

「……明日。」

 

「はい?」

 

「明日、迎えに来てくれ。」

 

エンシェント・ワンが瞬きをした。そして、

 

「お断りします。」

 

「何?」

 

「カマー・タージまでは、自力で来なさい。」

 

「……どこにある。」

 

「ネパールのカトマンズです。」

 

「……自力で行くのか?」

 

「はい。」

 

「君なら一瞬で移動できるんじゃないのか?」

 

「できますよ。」

 

「なら――」

 

「ですが。」

 

エンシェント・ワンが微笑む。

 

「学びたいのは、あなたでしょう?」

 

「…………。」

 

「自分から扉を叩く程度のことはしてください。……では、お待ちしています。」

 

エンシェント・ワンが手を振る。橙色の火花が空中に散り、円を描くと、その向こうに、見知らぬ建物が現れた。彼女が去る前に、私は口を開く。

 

「一つだけ。私は本当に、世界最高峰まで行けるんだな?」

 

エンシェント・ワンは少しだけ考え、

 

「可能性はあります。」

 

「可能性か。」

 

「未来とは、そういうものです。」

 

「……そうか。」

 

「ですが。」

 

エンシェント・ワンが僅かに笑う。

 

「あなたなら、可能性という言葉を嫌うでしょうね。」

 

「当然だ。」

 

彼女はポータルへ足を踏み入れながら、

 

「なら、証明してください。」

 

その言葉を最後に、ポータルが閉じた。

 

夜の道路に私だけが残された。しばらく、その場に立ち尽くす。そして、

 

「……私以上の可能性、か。」

 

口に出してみる。不思議だった。腹が立つが、それ以上に、

 

「面白い。」

 

先ほどまでとは明らかに違う感情が、胸の奥から湧き上がっていた。

 

ーーーーー

 

数日後。ネパール、カトマンズ。

 

「……ここか?」

 

私は、一枚の紙と目の前の建物を交互に見た。聞き込み、地図、現地の案内。それらを頼りに、ようやく辿り着いた場所。

 

カマー・タージ。

 

「…………。」

 

もう一度、建物を見る。どう見ても、世界最高峰の魔術師を育てる施設には見えない。

 

「もっとこう……。」

 

巨大な寺院、秘密結社めいた地下施設。少なくとも、そのくらいは想像していた。しかし実際には、

 

「地味だな。」

 

普通の建物だった。私は扉を叩くと、少ししてから見覚えのある女性が現れた。

 

「いらっしゃい。……来ましたね。」

 

エンシェント・ワンだった。私は胸を張りながら、

 

「私は一度決めたことはやる。」

 

「そうですか。」

 

「……もっと歓迎されると思ったんだが。」

 

「私自ら出迎えているのです。十分歓迎していますよ。」

 

「そうは見えない。」

 

エンシェント・ワンは微笑む。

 

「では。……歓迎します、スティーブン・ストレンジ。」

 

「……どうも。」

 

私は中へ案内された。そして、そこで初めて、魔術というものを本当の意味で知った。

 

ーーーーー

 

最初は苦戦した。

 

「もう一度。」

 

「やっている!」

 

出ない。魔術陣が出ない。指を動かし、精神を集中する。教えられた術式を頭の中で組み立てる。理解している。理屈は理解している。それなのに、何も起きない。

 

「何故だ!」

 

「考えすぎです。」

 

「考えずにどうやって理解する!」

 

「理解と制御は別です。」

 

「曖昧すぎる!」

 

「魔術ですから。」

 

「説明になっていない!」

 

何度も失敗した。何度も苛立った。何度もやり直した。だが、自分には向いていないのではないか、などとは一度も思わなかった。

 

できないなら、理由がある。理由があるなら、解明すればいい。解明したなら、修正する。

 

それだけだ。

 

「もう一度だ。」

 

「今日は休んでは?」

 

「必要ない。」

 

「六時間は続けていますよ?」

 

「だから何だ?」

 

そして、一度コツを掴んでからは早かった。術式、魔力操作、空間認識、精神集中、アストラル体、ミラー次元、ポータル。

 

一つ学ぶたび、次の疑問が生まれる。一つ理解するたび、さらに深い理論へ進みたくなる。知らないことがあるなら、知りたい。

 

単純な話だ。

 

「この術式は、なぜ三重構造なんだ?」

 

「安定性のためです。」

 

「二重でも維持できる。」

 

「できますが、負荷が増えます。」

 

「なら四重なら?」

 

「冗長になります。」

 

「境界は?」

 

「自分で確かめてください。」

 

「分かった。」

 

ならば、確かめる。そして数週間が経ち、私は凄まじい勢いで魔術を吸収していった。元々、記憶力には自信があった。医学を修める過程で身につけた学習能力もある。外科医として、指先をミリ単位どころか、それ以下の精度で制御する訓練も積んできた。

 

何より、私は知らないことを知らないまま放置できない。

 

魔術。最初は荒唐無稽だと思った世界が、今では面白くて仕方がない。知らない理論、知らない法則、知らない世界。まだ、こんなにも知らないことがあった。その事実そのものが、私を夢中にさせていた。

 

そしてある日。

 

私は修練場で、十個近い魔術陣を同時に展開していた。それぞれ異なる術式だ。

 

同時に空間認識を維持し、別の場所へ繋がるポータルを形成する。

 

……いける。術式同士の干渉もない。魔力の配分も問題ない。ポータルも安定している。私は全てを確認してから、術式を解除した。

 

「できた。」

 

自然と口元が上がる。一ヶ月、たった一ヶ月だ。

 

私は周囲を見る。モルドやウォン、他の修行僧たちに問いかける。

 

「どうだ?」

 

「おお。」

 

「凄いな。」

 

「早い早い。」

 

ぱちぱちぱち。拍手された。

 

いや、待て。私は眉を寄せる。

 

「……それだけか?」

 

モルドが首を傾げた。

 

「何がだ?」

 

「私は今、九つの術式を同時に展開した。」

 

「そうだな。」

 

「しかも、一ヶ月で。普通ではないだろう?」

 

「普通ではないな。」

 

「なら、もう少し驚いても良いんじゃないか?」

 

自慢するつもりはない。いや、多少はある。だが、それを差し引いてもおかしい。普通ならもっと驚くだろう。一ヶ月だぞ? 私はここへ来るまで魔術の存在すら知らなかった。それが今や、九つの術式を同時展開しながらポータルまで維持できる。

 

他の修行僧たちと比較して、明らかに異常な成長速度のはずだ。しかしモルドは、何故か少し遠い目をした。

 

「ストレンジ。」

 

「何だ。」

 

「お前が来る前にな。……一冊の魔術書を数時間で理解したかと思えば、その本に記録された歴代の魔術師の経験まで吸収して、覚えた術式を自分の超能力と組み合わせ、修練場の障壁を吹き飛ばした者がいる。魔術を学び始めて数日でだ。」

 

「……何?」

 

待て。今、何と言った? 一冊の魔術書を数時間。それはまだ良い。だが、歴代の魔術師の経験を吸収? 障壁を吹き飛ばした? しかも数日で、だと?

 

私が情報を整理している間に、今度はウォンが口を開いた。

 

「そして、エンシェント・ワンと精神を接続し、数十年分の修行内容を、こちらも数日で吸収している少女もいる。」

 

「…………。」

 

数十年分を数日で? いや、待て。どういう意味だ。何かの比喩か?

 

「さらに。」

 

ウォンが続ける。まだあるのか?

 

「十二歳で、リンゴを持ち上げる訓練をして、数百キロの石机ごと浮かせ、テレパシーの練習に失敗してネパールからアメリカまで精神通信を飛ばした子供もいる。」

 

「…………。」

 

私は黙った。十二歳。リンゴ。石机。ネパールからアメリカ。

 

「私の教え子だ。」

 

こんなに腹が立つドヤ顔も珍しい。

 

「だからまあ。」

 

モルドが肩をすくめる。

 

「お前が凄いことは分かっている。」

 

ウォンも頷いた。

 

「十分、驚いている。」

 

「ただ。」

 

近くの修行僧が苦笑する。

 

「最近、少し慣れたんだ。」

 

「……慣れた?」

 

「凄い新人に。」

 

私は、しばらく何も言えなかった。これまでの人生で、私は常に天才と呼ばれてきた。医学部でも、研修医時代でも、外科医になってからも。どこへ行っても、スティーブン・ストレンジは特別だった。

 

私が何かを成し遂げれば驚かれた。私が新しい技術を身につければ称賛された。私が誰にもできなかった手術を成功させれば、

 

やはりストレンジだ、

 

そう言われた。それが当たり前だった。だが、ここでは違うようだ。

 

一ヶ月で九つの術式を同時展開?

 

凄い。確かに凄い。だが、

 

――ああ。また凄いのが来たのか。

 

妙な感覚だ。屈辱? 少し違うな。腹が立つ? さっきのウォンのドヤ顔の方が余程腹が立った。

 

それ以上に、

 

「……面白い。」

 

思わず、小さく呟いてしまった。モルドが私を見てくる。

 

「何がだ?」

 

「いや。」

 

私は笑った。自分でも分かる。かなり楽しそうな顔をしているはずだ。医学の世界では、追いかける相手がほとんどいなくなっていた。もちろん優秀な医師はいるし、尊敬できる研究者もいる。

 

だが、自分が本気で追いつこうと思える相手。自分以上かもしれないと思える存在。そんなものには、久しく出会っていなかった。

 

それが、ここには三人もいるらしい。

 

一人は魔術書から歴代の魔術師の経験を吸収する。

 

一人はエンシェント・ワンから直々に経験を受け取っている。

 

一人は十二歳で、既に常識外れの力を持っている。

 

そういうことか。あの夜、エンシェント・ワンが言っていた言葉を思い出す。

 

――他の候補者たちは、あなた以上の可能性を秘めているかもしれません。

 

なるほど。ようやく意味が分かった。

 

「その三人、紹介してくれ。」

 

モルドが僅かに眉を上げる。

 

私は笑う。見てみたい。話してみたい。

 

何を学び、何を考え、どこまでできるのか。そして何より、本当に私以上なのか。それを確かめたい。

 

完全に研究対象を見る目になっている自覚はある。同時に、それだけではないことも分かっていた。私は、負けず嫌いなのだ。

 

相手が何歳だろうと、そんなことは関係ない。エンシェント・ワンは言っていた。私には、世界最高峰の魔術師になれる可能性がある、と。

 

そして、あの夜の最後にこう言った。

 

――証明してください。

 

「……いいだろう。」

 

モルドが首を傾げた。

 

「何がだ?」

 

「こっちの話だ。」

 

私は口元を上げた。可能性などという曖昧な言葉は、やはり好きではない。なら、証明すればいい。

 

魔術の世界でも、スティーブン・ストレンジが最高峰まで辿り着けるということを。

 

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