日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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ストックを使い切りました。



悪夢

 

先にG4が動いた。狭い路地に金属音が響いた次の瞬間、その外見からは想像できない速度で、こちらへ向かって突っ込んでくる。

 

「速っ!」

 

背部のブースターが一気に噴射され、G4の身体が加速する。僕は反射的に右腕を突き出し、ウェブシューターを作動させる。

 

連続して射出されたウェブがG4へ向かって飛んでいく。クロオさんじゃあるまいし、相手の性能が分からない以上、無理に殴り合うのは愚策。だから、まずは拘束して動きを封じるためのウェブを放つ。しかし、

 

「え?」

 

G4の背部ブースターが強く輝き、次の瞬間、その身体が真横に跳ぶ。一発目のウェブが外れた。

 

さらにもう一度ブースターが噴射され、二発目、三発目もG4の身体すれすれを通過していく。

 

「嘘でしょ!?」

 

速さを保ちながら、この狭い路地を、あれだけ細かく制御して飛ばれるのは厄介だ。G4が地面を蹴り、同時にブースターを噴射。

 

「っ!」

 

今度は、僕が真横に跳び、壁に張り付く。直後、さっきまで僕がいた場所をG4の拳が通過する。風圧だけで路地に置かれていたゴミ箱が吹き飛び、壁にぶつかって大きな音を立てた。

 

……普通に食らったら痛いやつだ。

 

「だったら!」

 

壁を蹴り、向かい側の壁へ飛び移り、さらにそこを蹴って上へ。狭い路地の壁を交互に蹴りながら、一気に駆け上がっていく。

 

「……何なの、あれ。」

 

下からミシェルの声が聞こえたけど、今は説明している場合じゃない。僕は壁を駆け上がりながらG4を見ると、G4も僕を追うように上昇を始めた。背部と脚部のブースターから炎が噴き出し、その身体が路地の中を上へ向かって加速してくる。

 

「そこだ。」

 

僕は壁に張り付いたまま、両腕をG4へ向けた。身体じゃなく背中のブースターを狙う。ウェブシューターから放たれた白いウェブがG4の背部に直撃する。

 

「よし!」

 

G4が急激に身体を捻り、ブースターの噴射でウェブを焼き切ろうとしているが、

 

「残念。」

 

僕はもう一発撃ち込む。

 

「そのウェブ、最近作ったやつで熱に強いんだ。」

 

ウェブを連射し、次々と背部のブースター周辺へ絡みつけていく。

 

「火事現場用に作ったんだけど、まさかジェットブースター相手に使うことになるとは思わなかったよ!」

 

高温環境でも簡単に強度が落ちないように改良した耐熱ウェブ。正直、使う機会が少ない方がいい装備だったけど、こんな形で使うことになるとは思わなかった!

 

さらに一発。ウェブが噴射口を塞ぐ。

 

「もう一つ!」

 

反対側も!G4の背部ブースター、その両方が白いウェブで覆われ、ブースターの噴射が乱れる。G4の身体が大きく傾き、そのまま壁へ激突した。

 

それでもG4は姿勢を立て直そうとするけれど、推進力を失った状態ではどうにもならず、そのまま落下。

 

「ミシェル、離れて!」

 

「もう離れてる!」

 

下を見ると、ミシェルはちゃんと路地の奥へ移動していた。G4が地面に落下し、両足で地面を踏み抜くように着地し、片膝をつく。

 

姿勢は完全に崩れている。

 

「チャンス!」

 

僕は両腕を突き出し、ウェブを連射していく。腕、胴体、脚。白いウェブがG4の全身へ次々と絡みつき、その身体を左右の建物へ固定していく。

 

G4も腕を動かそうとするが、金属音が鳴るだけで動かない。

 

「……よし。」

 

G4の両腕、両脚は固定され、背部ブースターも塞いでいる。少なくとも、普通の力では簡単に抜け出せないはずだ。今のうちに通信を入れようと動いた瞬間、

 

「ピーター?」

 

ミシェルの声が聞こえるのと同時に、G4の頭部だけがわずかにこちらへ向いた。……中に人がいるのか?昨日の資料では、G4は装着型の強化スーツだったはずだ。だったら、この中に誰か――

 

「――っ!?」

 

全身の毛が逆立ち、スパイダーセンスが猛烈な勢いで鳴り響く。

 

「ミシェル!」

 

僕は後ろへ跳び、ウェブでミシェルの身体を引き寄せ、抱き上げる。地面を蹴り、ウェブを上に伸ばす。

 

「ちょ、ピーター!?」

 

ウェブが建物の屋上付近へ張り付いた瞬間、強く引き、一気に高度を稼ぐ。僕とミシェルの身体が一気に上へ引っ張られた、その直後。

 

見えない何かが爆発した。空気、いや空間が歪んでいく。G4を中心として、何か目に見えない力が球状に広がり、路地に張り巡らせていたウェブが、一斉に引き千切られた。

 

ウェブ以外にも、ゴミ箱がひしゃげ、路地の壁に亀裂が走った。

 

僕はミシェルを抱えたまま身体を丸め、彼女を庇う。見えない力が下から突き上げてくるけど、急いで距離を取ったおかげで直撃は避けられた。そのまま建物の屋上へ着地する。

 

「……何、今の。」

 

ミシェルを下ろし、僕はすぐに屋上の端へ向かい、下を覗き込むと、さっきまで全身を覆っていたウェブをほとんど吹き飛ばし、G4が自由になっていた。

 

それだけでなく、G4の周囲に小さな瓦礫や金属片が重力を無視するように浮かんでいる。

 

「……あれは。」

 

昨日の資料で確認した内容を思い出す。深海理沙、超能力者の研究、そして誘拐、もしくは人身売買された子供たち。

 

「……あれはサイコキネシス?」

 

アイアンマン・アーマーを破壊できるほどの出力を持つG4が超能力まで使うのか?

 

「冗談でしょ……。」

 

さすがに聞いてない。G4がゆっくりと顔を上げる。

 

「……まずいな。ミシェル。僕が奴を引き付けるから、そのうちに逃げ――」

 

スパイダーセンスが下ではなく、別方向から警報を鳴らし始めた。G4は下にいるのに、今度は何だ?

 

ドンッ!!っと、屋上の端に、重いものが着地する音が響いた。

 

「え?」

 

振り向くと、G4がいた。さっきまで戦っていた一体じゃない。外見はほとんど同じだけど、背部のブースターにも装甲にも、ウェブが付着していた跡がない。つまり、

 

「……二体目!?」

 

新たに現れたG4がゆっくりと右腕を持ち上げ、掌を僕たちに向ける。

 

「ミシェル、下が――」

 

炎が噴き出した!?火炎放射器の噴射口なんて見えなかった。ただ、本当に何もない空間から突然炎が生まれ、襲いかかってくる。

 

「ちょっと!?」

 

再度ミシェルの身体を抱え、その場から跳ぶ。直後、さっきまで僕たちが立っていた場所を炎が通過し、屋上の床を真っ赤に焼いた。

 

「熱っ!」

 

ウェブを射出し、身体を振るように移動する。もう一度ウェブを撃って進行方向を変え、二発目の炎の射線から外れる。

 

……今の炎、どう考えてもG4の武装じゃない。

 

「火炎放射器……じゃないよね?」

 

「私に聞かないで!」

 

だよね、ゴメン!

 

ゾワッ!!

 

抱えていたミシェルを、直感的に安全だと感じた場所に向かって突き飛ばす。

 

「きゃっ!?」

 

「ごめ――、がっ!?」

 

その直後に、上から押し潰された。膝が屋上へ叩きつけられ、両手を床につき、何とか身体を支える。

 

「な……に、これ……!」

 

上から巨大な鉄の塊でも押し付けられているような圧力が、全身に掛かっている。それでも何とか顔を上げる。

 

「サイコキネシスの次は……パイロキネシス。と思ったら……またサイコキネシスか……!」

 

さっきの炎を出したG4とは別方向。路地にいたはずの一体目のG4が、屋上まで上がってきている。その右手が、僕へ向けられていた。

 

「やっぱり……お前か……!」

 

見えない力がさらに強くなり、屋上に亀裂が走った。

 

「ぐっ……!」

 

耐えろ。物理的な圧力がなんだ。アルティメットになったクロオさんの気配の方がよっぽど強かった!

 

「え?」

 

サイコキネシスに抵抗している僕の視界の端に、もう一体。三体目のG4がいた。……いや。いた、はずだった。

 

次の瞬間にはその姿が消え、今は目の前にいる。しかも、拳を振り上げた姿勢で。

 

「テレポーターまでいるのかよ!?」

 

拳が振り下ろされる。でも、同時に僕を押さえ付けていた圧力が消えた。テレポートしてきたG4を巻き込まないように、サイコキネシスを解除したのか?理由は何でもいい。動けるなら避けろ、僕!

 

「危なっ!」

 

両手で地面を押し、一気に身体を横へ投げ出す。G4の拳が屋上へ突き刺さり、コンクリートが砕け、大きく陥没する。

 

「うわ……!」

 

あれをまともに食らったら、さすがに笑えない。転がりながら立ち上がり、そのままミシェルのところまで走る。

 

「ミシェル!」

 

返事がない。でも、さっき突き飛ばした場所に、ミシェルは立っている。ちゃんと立っている。でも……動かない?

 

「ミシェル?」

 

返事がない。

 

「ミシェル、どうしたの?」

 

嫌な予感しかしない。この状況で完全に無反応。まるで――

 

『止まりなさい、スパイダーマン。』

 

声が響き、反射的に振り返る。さらにもう一体、四体目のG4が現れた。ただし、そいつは攻撃してくるのではなく、屋上の少し離れた場所に立ったまま、こちらを見つめてきていた。

 

『――いえ。』

 

G4から、女性の声が聞こえてきた。

 

『ピーター・パーカー、と呼ぶべきかしら?』

 

僕の名前を知っている。……この声、G4の中にいる人間が喋っている感じじゃない。スピーカー越しなのは間違いないけど、装着者がヘルメットの中から話しているのとも少し違う。

 

どこか別の場所から通信を繋いで、G4のスピーカーを通して話している。だったら、

 

「……深海さんですか?」

 

『………あら。』

 

少し楽しそうな声が返ってきた。

 

『知っていたのね。』

 

「昨日、あなたのことを聞きました。」

 

『そう。十文字黒雄か、一条薫あたりかしら。それなら話が早いわ。』

 

深海理沙、やっぱりそうだ。昨日の資料にあった人物。超能力を持つ子供たちを集め、G4を使っている可能性がある女。

 

「ミシェルに何をしたんですか?」

 

『私は何もしていないわ。』

 

「……何も?」

 

『ええ。私はね。この子に、止まりなさい、と指示を出して、とはお願いしたわ。』

 

「この子……?」

 

その言い方に引っ掛かった直後、四体目のG4が、ゆっくりと手を動かすと、ミシェルが動いた。

 

「……え?」

 

ゆっくりと、ミシェルが僕を振り返った。

 

「ミシェル?」

 

目が虚ろだ。僕を見ているのに、僕を認識しているように見えない。

 

「まさか……。」

 

G4が腰へ手を伸ばし、装備されていたナイフを引き抜き、ミシェルへ差し出した。

 

「おい!」

 

ミシェルの手が伸びるのを見て、反射的にウェブシューターを放つ。ミシェルが握る直前にナイフを奪い取り、そのまま屋上の反対側へ投げ飛ばす。

 

目の前の空間が揺らいだ。さっきまで離れた場所にいたテレポートを使うG4が、一瞬で僕の目の前へ現れる。

 

「だから速いって!」

 

繰り出された拳を、上体を反らして回避。鼻先すれすれを金属の拳が通過する。そのまま床へ手をつき、腕の力だけで身体を跳ね上げる。その勢いのまま蹴り飛ば――

 

ゴオッ!!

 

――す前にパイロキネシスによる炎が迫ったので、無理矢理方向転換する。

 

「熱っ!」

 

さらに、今度は横から見えない力が僕の身体を吹き飛ばそうとする。身体を捻り、ウェブを射出。屋上の設備へウェブを張り付け、引っ張ることで強引に軌道を変える。

 

サイコキネシスが僕の身体すれすれを通過し、その先にあった給水設備が大きくひしゃげた。

 

「冗談じゃない!」

 

そのままミシェルのところへ走り、

 

「ミシェル!」

 

腰に腕を回し、抱き上げる。

 

「ちょっと我慢して!」

 

返事はない。やっぱり意識がおかしい。でも、呼吸はしている。なら、とにかくここから離す!

 

炎が迫り、サイコキネシスが建物の壁を抉る。空中へ飛び上がった瞬間、テレポーターG4が正面に現れる。

 

「そこに来ると思った!」

 

身体を振り子のように振り、G4の頭上を越える。三体から同時に攻撃されたけど、何とか全部避け切った。そのまま隣の建物の屋上へ着地する。

 

「ミシェル、聞こえる!?」

 

目は開いているけど、反応がなく、虚ろなままだ。

 

「くそ……どうすれば――」

 

ゾワッ!!

 

今までのスパイダーセンスの警告とは違う。炎でも、サイコキネシスでも、テレポーターでもない。攻撃が飛んでくる気配がないのに、……頭が痛い。

 

「……なに……これ……。」

 

視界が揺れた。頭の中へ、何かが入ってくる。自分のものじゃない何か。考えがぼやける。身体から力が抜ける。

 

止まれ。動くな。

 

そんな言葉が、自分の意思とは関係なく頭の中に浮かんでくる。

 

視線を上げると、攻撃していなかった四体目のG4がこちらへ手を向けていた。ミシェルが突然動かなくなったのは、

 

「……テレパスか!」

 

サイコキネシス、パイロキネシス、テレポート。そしてテレパシー。四体とも、それぞれ違う超能力を使ってる。しかも、四体目のコイツは、

 

「人を……操れるのか……!」

 

頭の奥へ何かが入り込んでくる。身体を動かすな、抵抗するな、言うことを聞け。そんな意思が押し付けられる。

 

「ぐっ……!」

 

膝が揺れる。まずい、力でどうにかできる攻撃じゃない。だったら――

 

「……嫌だね。」

 

奥歯を噛み締め、身体に力を入れる。理屈なんて分からない。精神攻撃への対処法なんて、スタークさんには教えてもらっていない。でも、クロオさんから、こういう時にどうすれば良いか、ザックリだけれど、言われている。

 

自分の意識を強く保ち、気合いを入れる。守りたいものを思い出せ!

 

ここで僕まで操られたら終わりだ。ミシェルを守れない。メイ叔母さんも、サラも、ジーンも。みんなのところへ、こいつらを行かせることになる。そんなのは、

 

「――絶対に嫌だ!」

 

頭の中で何かが弾け、視界が一気に鮮明になる。押し付けられていた他人の意思が、頭の中から吹き飛ぶ。四体目のG4が、わずかに身体を揺らした。

 

僕は荒く息を吐きながら、ミシェルを抱え直す。

 

「……危なかった。」

 

額から汗が流れる。でも、意識ははっきりしているし、身体も動く。

 

「サイコキネシスに、パイロキネシスに、テレポート。」

 

そして、四体目を見る。

 

「テレパス……超能力者の見本市か何か!?」

 

さすがにこれは、聞いていたより、ずっとまずい。僕はミシェルを抱えたまま、四体のG4を順番に見る。

 

サイコキネシス、パイロキネシス、テレポート、そしてテレパシー。

 

単純にG4が四体いるだけでも厄介なのに、それぞれが別の超能力を使ってくる。しかも、どれも戦闘で使われると面倒なんて言葉では済まない能力ばかりだ。一人で全部相手をするのはキツ過ぎる。

 

一人で逃げるだけなら何とかなるかもしれない。でも、今はミシェルがいる。

 

「……そうだ。」

 

僕は片手でミシェルを支えながら、もう片方の手を耳元へ持っていく。こういう時こそ、一人で抱え込むな。クロオさんにも、スタークさんにも散々言われてきたことだ。僕一人でどうにかする必要なんてない。

 

「スタークさん、聞こえますか?」

 

しかし、返事がない。

 

「……スタークさん?」

 

もう一度呼びかけるけれど、何も聞こえない。通信機が壊れた?

 

「スタークさん、緊急事態です。聞こえていたら応答してください。」

 

無音。

 

「……なんで?」

 

『連絡を取ろうとしても無駄よ。』

 

深海理沙の声が聞こえ、僕は顔を上げる。四体目――テレパシーを使うG4が、こちらを見ていた。

 

『あなた、というより……あなたの世話をしている男には敵が多いのよ。』

 

「……スタークさんのこと?」

 

『ええ。トニー・スターク。世界を何度も救った英雄で、スターク・インダストリーズの社長。そして、世界中に敵を作ってきた男。』

 

その言葉に、嫌な予感がする。

 

『だから協力者を募ったら、色んな人材が集まったわ。』

 

「……協力者?」

 

『ええ。彼もその一人。』

 

彼?その言葉の意味を考えるより先に、スパイダーセンスが鳴った。

 

「っ!」

 

ミシェルを抱えたまま、反射的に地面を蹴る。すると、巨大な何かが、さっきまで僕が立っていた場所を薙ぎ払った。

 

「うわっ!?」

 

空中で身体を捻りながら振り返る。最初に見えたのは、翼だった。ただし、本物の鳥の翼じゃない。金属で作られた、巨大な翼。左右に大きく広げられた機械の翼が屋上の設備を薙ぎ払い、コンクリート片と金属片をまとめて吹き飛ばしていく。

 

「何だよ、あれ!?」

 

巨大な鉄の翼を背負った男が、屋上へ降り立つ。着地と同時に翼が大きく広がり、機械音が響いた。

 

「……また増えたよ。」

 

四体のG4だけでも面倒なのに。そこに今度は、巨大な機械の翼を持った奴まで追加された。

 

「ちょっと待ってよ……。」

 

さすがに多い。一対一なら何とかする自信はある。G4だって、一体目は超能力を使われるまでは拘束できた。相手の能力が分かっていれば、戦い方だって考えられる。でも、五人同時、しかも僕はミシェルを守りながら戦わなきゃいけない。……無理でしょ。

 

『通信できないでしょう?』

 

深海さんの声が、僕の思考を遮る。

 

『ジャミングもさせてもらっているわ。』

 

「……ジャミング。」

 

それで通信が繋がらず、スタークさんに連絡できない。だったら、どうする?ミシェルを抱えたまま、こいつらを振り切れるか?

 

いや、テレポートを使うG4がいる。普通に逃げても先回りされる。だったら、まずテレポーターを倒す。

 

でも、その間にサイコキネシスとパイロキネシスが来る。テレパスも無視できない。さっきは気合いでどうにかなったけど、ミシェルは簡単に操られていた。なら、ミシェルだけでも先に逃がして――

 

『これ以上は暴れないことね。』

 

「……何?」

 

『そうじゃないと――』

 

深海さんの声が、少しだけ低くなる。

 

『あなたの大事な叔母さんと親友が、死んでしまうかもしれないわよ?』

 

「…………は?」

 

何を言われたのか分からなかった。叔母さん、親友、その二つの言葉が頭の中で繋がった瞬間、心臓が大きく跳ねる。

 

「……何を言ってるんですか?」

 

『見せてあげて。』

 

深海さんがそう言うと、テレパシーを使うG4が腰の辺りへ手を伸ばす。取り出したのは、小型のモニターだった。画面が点灯する。

 

息が止まった。

 

「……メイ叔母さん?」

 

画面の中に、メイ叔母さんがいた。椅子に座らされ、両腕を後ろへ回されて、自力では動けない状態にされている。そして、その隣には、

 

「……ネッド。」

 

ネッドも同じように、椅子へ拘束されていた。

 

「なんで……。」

 

頭の中が真っ白になる。いつ?どうやって?メイ叔母さんには厳重な護衛がついたはずだ。ネッドだって今日は僕たちと別れて、そのまま家に帰ったはずなのに。いつ捕まえた?いや、それよりも――

 

「二人に何をした!?」

 

思わず声を荒らげる。

 

『今のところは何もしていないわ。』

 

「今のところ……?」

 

『ええ。』

 

深海さんの声は落ち着いていた。

 

『あなたが大人しくついてくるのなら、今は危害を加えないわ。』

 

「……。」

 

拳を握る。罠だ。そんなことは分かってる。僕を連れていくために、メイ叔母さんとネッドを捕まえた。ここで僕がついていったからって、本当に二人を解放する保証なんてどこにもない。それでも、僕が抵抗したら?こいつらと戦ったら?もし、そのせいで二人が――

 

「……分かった。」

 

ゆっくりと息を吐き、僕はミシェルを地面へ下ろした。まだ目は虚ろなままだ。そんなミシェルの前に立ってから、僕はゆっくりと両手を上げる。

 

「分かった。ついていく。」

 

『賢明ね。』

 

「でも。」

 

テレパスのG4を睨む。

 

「彼女は解放して。」

 

『……彼女?』

 

「ミシェル。」

 

僕は背後にいる彼女を示す。

 

「この件には何の関係もない。僕の正体だって、たまたま今日知っただけだ。あなたたちが狙ってるのは僕なんでしょ?」

 

少しの沈黙。やがて、

 

『……いいわ。』

 

深海さんはあっさり答えた。

 

『解放して。』

 

テレパスのG4が、ゆっくりとミシェルへ向けていた手を下ろす。

 

「……っ!」

 

ミシェルの身体が大きく揺れた。

 

「ミシェル!」

 

慌てて身体を支える。

 

「……え?」

 

ミシェルが何度か瞬きをする。虚ろだった瞳に、少しずつ光が戻ってくる。

 

「……ピーター?」

 

「うん。」

 

「私……何して……。」

 

周囲を見回し、四体のG4と巨大な翼を持つ男を見た瞬間、ミシェルの表情が固まる。

 

「何これ……どうなってるの?」

 

「ミシェル、聞いて。」

 

「待って。私、さっきまで……あいつに何かされて……それに、ピーター、あんた――」

 

「メイ叔母さんとネッドが捕まった。」

 

「……え?」

 

ミシェルの言葉が止まる。

 

「メイ叔母さんとネッドが、こいつらに捕まってる。……だから僕は、こいつらについていく。」

 

ミシェルが僕を見る。

 

「は?ちょっと待って。何言ってるの?」

 

「大丈夫。」

 

「どこが!?」

 

いや、大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。僕だって、これからどこへ連れていかれるのか分からない。でも、

 

「今は、それしかない。」

 

「でも……。」

 

ミシェルが周囲を見るが、明らかに狼狽えている。当然だ。ついさっきまで普通に学校から帰っていただけなのに、突然僕がスパイダーマンだと知って、謎のパワードスーツに襲われて、空を飛ばされて、炎を撃たれて、操られて、今度は人質まで出てきた。

 

「じゃあ……私はどうすればいいの?」

 

その問いに、すぐには答えられない。スタークさんに連絡してほしい。警察にも、クロオさんにも。

 

この周辺から離れれば通信できるようになるかもしれないけど、それを今ここで口に出したら――

 

『連れてきなさい。』

 

深海さんの声が響いた。テレポートを使うG4が、一歩前へ出る。空間がわずかに揺らぐが、

 

「深海さん、待って!」

 

僕は咄嗟に手を前へ出すと、G4が止まる。

 

『……何かしら?』

 

「先にミシェルをここから逃がして。」

 

『あなた、自分の立場が分かっているの?』

 

「分かってる。」

 

両手は上げたまま。抵抗する意思がないことを見せながら、それでも深海さんへ言う。

 

「僕は逃げない。抵抗もしない。あなたたちについていく。だから、その前に彼女をこの場から逃がして。」

 

『……。』

 

「彼女がここにいる必要はないでしょ?」

 

数秒の沈黙。

 

『いいでしょう。』

 

「……ありがとう。」

 

『勘違いしないことね。あなたが大人しくしている限り、こちらも余計なことはしない。それだけよ。』

 

屋上へ続く扉の方へ、テレパスのG4が視線を向ける。

 

「ミシェル。」

 

「……ピーター。」

 

「行って、お願いだから。」

 

ミシェルが黙り、僕を見る。それから周囲にいるG4たちを見る。

 

「……本当に、行くの?こいつらと?」

 

「うん。」

 

何かを言おうとして、ミシェルは口を閉じる。そして、

 

「……分かった。」

 

小さく答え、ゆっくりと後ろへ下がっていく。それでも何度も僕を見る。

 

「ピーター。……死なないで。」

 

一瞬、言葉に詰まる。

 

「……大丈夫。こう見えて、結構頑丈だから。」

 

ミシェルは、そのまま屋上から建物内へ続く扉まで歩き、扉を開ける。最後にもう一度だけ振り返り、僕と目を合わせ、扉の向こうへ消えた。

 

………よし。少なくとも、ミシェルは逃がせた。あとは、

 

『約束は守ったわ。今度はあなたの番よ。』

 

「……分かってます。」

 

テレポートを使うG4が僕の前まで歩いてくる。さすがに怖い。どこへ連れていかれる?メイ叔母さんとネッドは本当に無事なのか?どうやって逃げる?スタークさんたちは僕が消えたことに気付いてくれる?

 

色んな考えが頭の中を駆け巡るけれど、今は動けない。メイ叔母さんとネッドが人質になっている以上、下手なことはできない。G4が僕の肩へ手を置くと、目の前の景色が揺らいだ。

 

屋上が歪む。

 

G4たちの姿も、巨大な鉄の翼を持つ男の姿も、周囲の建物も、一瞬で輪郭を失っていく。そして、僕の身体は、屋上から消え、

 

気が付けば、暗い部屋の中にいた。

 

ーーーーー

 

「……ここ、どこ?」

 

さっきまでいたニューヨークの屋上から移動しているのは確かだ。

 

周囲を見回すと、窓は一つもなく、外の景色は確認できない。壁も床も無機質で、どこかの研究施設か、それとも地下なのか。それすら分からない。そして、部屋の四隅にはG4が一体ずつ立っていた。

 

さっき僕を襲った四体だ。

 

テレポートを使うG4だけじゃなく、全員がここへ移動してきたらしい。

 

逃げ道を探すが、扉は一つ。換気口らしきものは見えるけど、僕が入れる大きさじゃない。それに、部屋の中央には一脚の椅子が置かれていた。

 

……どう考えても、僕のために用意された椅子だ。

 

『椅子に座りなさい。』

 

突然、部屋の中に声が響いた。

 

「……深海さん。」

 

天井付近を見ると、小型のスピーカーが設置されている。どうやら、ここでも本人が姿を見せるつもりはないらしい。

 

『聞こえているでしょう?座りなさい。』

 

ものすごく嫌だ。あの椅子に座ったら、絶対にろくなことにならない。でも、メイ叔母さんとネッドが捕まっている。

 

「……分かりましたよ。」

 

僕は両手を上げたまま、ゆっくりと椅子へ近づき、そのまま腰を下ろす。すると、椅子の肘掛けと脚部から金属製の拘束具が飛び出し、僕の両手首と両足首を一気に固定した。

 

「ちょっと!」

 

反射的に腕へ力を込める。普通の手錠くらいなら壊せる。僕の力なら、この程度の金属――

 

「……え?」

 

壊れない。さらに力を込め、肘掛けごと引き千切るつもりで腕を持ち上げるが、びくともしない。

 

「何だよ、これ……!」

 

『あなたの身体能力については、ある程度調べさせてもらったわ。』

 

深海さんの声が響く。

 

『当然、普通の拘束具を使うわけがないでしょう?』

 

完全に準備されていた。僕をここへ連れてきて、僕を拘束することも。最初から全部。だったら――

 

「大人しく来たんだ!」

 

僕はスピーカーを睨み付ける。

 

「約束通り、二人を離せ!」

 

返事はない。

 

「それに、僕や二人を捕まえたってジーンは手に入らないぞ!」

 

『ふふっ。』

 

笑い声が響いた。

 

「……何がおかしいんですか?」

 

『あなた、一つ勘違いしているわ。』

 

「勘違い?」

 

『その前に聞きたいのだけれど……あなた、私のことはどこまで知っているの?』

 

昨日見た資料を思い出す。

 

「日本の自衛隊でG4を運用して、超能力者をG4のシステムに使うために誘拐なんかもしてたヤバい人。その後、ヒドラにスカウトされた。……で、合ってますか?」

 

数秒の沈黙。

 

『………大体合っているわ。』

 

「じゃあ――」

 

『私はね、G4を最強にしたいの。』

 

僕の言葉を遮るように、深海さんが話し始める。

 

『装甲服としてのG4は、これから研究が続けばいくらでも強くなる。装甲も、出力も、反応速度も、武装も、技術の発展と共に進化させることができる。……でも、それだけでは駄目なのよ。』

 

声の調子が変わった。

 

『どれだけG4を強化しても、それだけでは十文字黒雄には届かない。』

 

「……クロオさん?」

 

『ええ。クウガには届かない。』

 

部屋の四隅に立っているG4を見る。これだけ強いG4を四体揃えて、それでもクロオさんには届かない。僕も、それについては否定しない。

 

『だから、私は考えたの。』

 

深海さんの声が、妙に楽しそうになる。

 

『最高のG4を完成させるためには、最高のパーツが必要なんだって。』

 

「……パーツ。」

 

その言葉で、真っ先に思い浮かんだのは一人だった。

 

「ジーンを……。」

 

思わず拘束具を握り締める。

 

「ジーンをパーツ扱いするつもりか!?」

 

『ふふふっ。』

 

また笑った。

 

「何がおかしい!」

 

『確かに超能力者は良いパーツよ。』

 

あまりにも平然とした答えだった。

 

『ジーン・グレイ。あれほど強大な力を秘めた超能力者は滅多にいないでしょうね。それに、サラ・グレイも手に入るのなら当然欲しいわ。』

 

「ふざけるな!」

 

『でもね。』

 

深海さんは僕の言葉なんて気にも留めず、続ける。

 

『私が望んだ最高のパーツは、別にあるの。』

 

「……え?」

 

『そのパーツは、身体能力だけでも非常に優れている。』

 

何の話だ?

 

『筋力、敏捷性、反射速度、耐久力。どれも人間の限界を遥かに超えている。リミッターを外したG1にすら耐えられるだけの身体を持っている。』

 

嫌な予感がした。今度はスパイダーセンスじゃない。ただ、深海さんの話を聞いているうちに、背筋が冷たくなっていく。

 

『それだけではないわ。そのパーツには――』

 

やめろ、聞きたくない。

 

『未来予知に匹敵するほどの、危機察知能力まで備わっている。』

 

頭が真っ白になった。身体能力、耐久力、そして危機察知能力。全部、僕の――

 

『分かったかしら?』

 

スピーカーから楽しそうな声が響く。

 

『私が求めた最高のパーツは、あなたよ。ピーター・パーカー。』

 

「僕……?」

 

ジーンでも、サラでもない。最初から――

 

「僕が……目的?」

 

『ええ。』

 

背後で金属音がした。振り返ることはできないけれど、G4が近づいてきている。

 

「何を――」

 

頭を掴まれた。同時に、頭の中へ何かが入り込んでくる。さっき屋上で感じたものと同じ。いや、直接触れられているからなのか、さっきより遥かに強い。

 

「ぐっ……!」

 

身体を動かすな。抵抗するな。思考を止めろ。……従え。

 

次々と自分のものではない意思が頭の中へ押し込まれてくる。

 

「嫌……だね……!」

 

奥歯を噛み締める。さっきだって耐えられた。クロオさんに教えられた通り、自分を強く持ち、守りたいものを思い出せ。メイ叔母さん、ジーン、サラ、ネッド、みんなを思い出せ。

 

「僕は……!」

 

その時、部屋の壁に設置されていた大型スクリーンが点灯した。

 

「……え?」

 

画面に映っていたのは、

 

「メイ叔母さん……。」

 

そして、

 

「ネッド……。」

 

さっき見せられた二人だった。拘束されたまま。ただし、今度は映像が大きく、二人の表情まで、はっきり見える。音声はなく、何を言っているのかも分からない。でも、

 

「……やめろ。」

 

男たちが二人へ近づき、殴った。蹴った。椅子ごと倒し、引きずり起こし、また殴った。

 

「……何、してるんだよ。」

 

メイ叔母さんが床へ倒れる。ネッドが何かを叫んでいる。聞こえない。音声がないから。でも、表情を見れば分かる。苦しんでいる。

 

「やめろ!」

 

僕は拘束具を引っ張る。

 

「やめろよ!」

 

拘束具が軋む音はするけれど壊せない。

 

「僕は大人しく来ただろ!」

 

頭を掴んでいるG4から、さらに強い力が流れ込んでくる。抵抗するな。考えるな。従え。

 

「なんで……。」

 

画面の中で、またメイ叔母さんが殴られる。

 

「なんで二人を!?」

 

深海さん、……深海の声がスピーカーから流れる。

 

『二人には、あなたの心を折るのに役立ってもらおうと思っているわ。』

 

「ふざけるな!」

 

そこから、どれくらい時間が経ったのか分からない。一分だったのか、十分だったのか、もっと長かったのか。ただ、ずっと頭の中へ他人の意思が流れ込んでくる。そして、その間ずっと、画面にはメイ叔母さんとネッドが映っていた。

 

何度も、何度も痛めつけられている。僕が抵抗するたびに、僕が頭の中から他人の意思を追い出そうとするたびに、画面の中の二人が傷ついていく。

 

「……やめろ。」

 

声が震える。

 

「お願いだ……。」

 

涙が頬を伝った。

 

「やめてくれ……。」

 

もう、さっきまでみたいに叫ぶ力も残っていない。それでも、頭の中に入ってくる意思には必死に抵抗する。僕が僕じゃなくなる。それだけは駄目だ。

 

画面の中で、一人の男が動いた。

 

「……?」

 

男の手に何かが握られている。拳銃だ。

 

「……待って。」

 

男がネッドの背後へ回る。

 

「待って。」

 

銃口が、

 

「やめろ。」

 

ネッドの後頭部へ向けられる。

 

「やめろ!」

 

身体中に力を込める。拘束具が軋む。

 

「やめろ!ネッドに何もするな!」

 

男の指が動く。

 

「やめ――」

 

銃声が響く。ネッドの身体から力が抜け、椅子ごと崩れ落ち、床に赤いものが広がっていく。

 

「……ネッド?」

 

動かない。

 

「ネッド……?」

 

返事なんて聞こえるはずがない。それでも呼ぶ。

 

「ネッド!」

 

動かない。

 

「ネッド!!」

 

喉が裂けそうな声が出た。

 

「ネッドォォォォォッ!!」

 

男がまた動く。今度は、

 

「……やめろ。」

 

メイ叔母さんに銃口が向く。

 

「お願いだから……。」

 

メイ叔母さんの頭へ。

 

「やめてくれ……。」

 

男の指が引き金へ掛かる。

 

「僕が何でもするから!言うこと聞くから!何でもするから!」

 

銃声。

 

「――――。」

 

画面の中で、メイ叔母さんの身体が崩れ落ちた。ネッドと同じように。赤い血の中へ。

 

何かが、僕の中で崩れた。

 

「……メイ……叔母さん……?」

 

守れなかった。ネッドも、メイ叔母さんも。僕のせいで、僕がスパイダーマンだから。僕が抵抗したから。

 

もう、頭の中へ入ってくる意思を押し返す力は残っていなかった。

 

抵抗するな、考えるな、従え。

 

その言葉が、ゆっくりと僕の意識を覆っていき、視界から色が消えていく。何も考えられない。何も感じたくない。もう、何も――

 

ーーーーー

 

『洗脳に成功しました。』

 

スピーカー越しに、その報告を聞く。モニターには椅子に拘束されたピーター・パーカーの姿が映っていた。

 

先ほどまであれほど激しく抵抗していた少年は、もう動かない。顔を上げ、目も開いている。しかし、その瞳には何も映っていない。

 

「そう。」

 

私は椅子へ深く腰掛けた。予定より多少時間は掛かったけれど、成功したのなら問題はない。

 

例の男の技術を利用したのも正解だった。

 

いくら強力なテレパスでも、強靭な精神を持つ相手を力ずくで支配するには負担が掛かる。

 

なら、先に心を折ればいい。単純な話だ。

 

『他の者たち同様、幸せな夢を見せておけば良いでしょうか?』

 

G4の装着者が初めて自分の声で尋ねてくる。

 

「そうね。」

 

答えかけて、ふと、昔聞いた話を思い出した。

 

「いえ、待って。」

 

『はい?』

 

「そういえば昔、蜘蛛の成長過程について、面白い話を聞いたことがあるわ。」

 

蜘蛛は追い詰められた環境、外部から与えられる刺激などによって肉体が限界を超えた場合、変容し、進化することがある、と。

 

もちろん、人間と蜘蛛を同列に扱えるわけではないけれど――試してみる価値はある。

 

「ピーター・パーカーには、幸せな夢は必要ないわ。」

 

『では?』

 

「悪夢を見せ続けなさい。」

 

『悪夢、ですか?』

 

「ええ。」

 

モニターの中の少年を見る。これから私のG4に組み込む、最高の素材。その性能を最大限まで引き出すためなら、試せることは試しておきたい。

 

「絶え間なく悪夢を見せ続けて、精神にストレスを掛けなさい。」

 

『……分かりました。』

 

テレパスが、再びピーター・パーカーの頭へ手を置く。虚ろな瞳には何の反応もない。

 

『開始します。』

 

「お願い。」

 

ピーター・パーカーの意識が、再び深く沈んでいく。ただし、今度は眠りでも、安らぎでもない。終わることのない悪夢の中へ。

 

ーーーーー

 

「はっ……はっ……はっ……!」

 

走る。とにかく走る。肺が痛いし、脚も痛い。でも止まれない。ピーターが連れていかれた。あの変なパワードスーツに囲まれて、人質を取られて、自分から捕まりに行った。

 

「何なのよ……本当に……!」

 

ピーターが、ピーター・パーカーがスパイダーマン。普通なら、それだけで一週間くらい考え込んでもおかしくない。でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

ピーターが最後に言えなかったこと。私に何をしてほしいのか、そんなの、考えれば分かる。助けを呼ぶことだ。ピーターのマンション、あそこなら誰かいる。誰でもいい。

 

ピーターがスパイダーマンなら、あのマンションに住んでいる人間だって普通じゃないはずだ。入口が見えた。

 

「……着いた!」

 

そのまま建物へ飛び込もうとして、

 

「お待ちください。」

 

「離して!」

 

警備員に止められた。

 

「こちらは居住者および許可された方以外は――」

 

「緊急事態なの!」

 

「落ち着いてください。」

 

「落ち着いてられるわけないでしょ!」

 

腕を掴まれる。

 

「ここに住んでるピーター・パーカーが誘拐されたの!」

 

警備員の表情が変わった。

 

「ピーター・パーカーさんが?」

 

「そう!だから誰か呼んで!」

 

誰でもいい、ピーターを助けられる人間。

 

「トニー・スタークでも、ハロルド・ホーガンでもいいから呼びなさいよ!」

 

警備員が何か言おうとした瞬間だった。

 

「……え?」

 

私の腕を掴んでいた警備員の手が、勝手に離れた。離したのではなく、身体ごと後ろへ引っ張られた。

 

「な、何だ!?」

 

もう一人の警備員も同じだった。二人とも、見えない何かに押し退けられる。そして次の瞬間、

 

「ちょっ!?」

 

今度は私の身体が浮いた。

 

「何!?」

 

足が床から離れ、身体が勝手にロビーの奥へ引っ張られていく。

 

「ちょっと待って!何これ!?」

 

数メートル移動したところで、ようやく足が床についた。目の前に、二人の女の子がいる。昨日皆の前で挨拶していた赤みがかった髪の少女。もう一人は、私と同年代の金髪の少女。

 

「あなた。」

 

赤みがかった髪の少女が私を見てくる。表情がなく、能面みたいに何の感情も浮かんでいない顔で、目だけは真っ直ぐ私を見ている。

 

「昨日いた、ピーターの友達の一人だよね?ピーターがどうしたの?」

 

少女の声が低くなる。

 

「誘拐されたって、どういうこと?」

 

少し怖い。さっき警備員を見えない力で動かしたのも、この子?

 

「早く教えて。」

 

私は慌てて頷く。

 

「変な奴らに襲われたの。」

 

少女の眉がわずかに動いた。

 

「全身を機械みたいなスーツで覆った奴ら。四人……いや、四体いて、それぞれ変な力を使ってた。それに、途中から大きな鉄の翼を持った奴まで出てきて――」

 

「ピーターは?」

 

「戦ってた。でも……。」

 

人質を取られて、

 

「捕まった。」

 

少女の表情が完全に消えた。

 

「……誰に?」

 

「分からない。でも、女の声がしてた。深海って――」

 

ジーンの表情も変わる。

 

「深海……?」

 

「それにピーターの叔母さんとネッドも――」

 

「何の騒ぎだ?」

 

後ろから男の声がした。振り返ると、スーツ姿の男がロビーへ入ってくる。良かった、ハロルド・ホーガンだ。

 

「入口まで聞こえてたぞ。何があった?」

 

その隣には、

 

「どうしたの?」

 

「……え?」

 

私の思考が止まった。

 

「……メイ、叔母さん?」

 

ピーター・パーカーの叔母、メイ・パーカー本人が、何事もなかったかのように、ハッピー・ホーガンと一緒にマンションのロビーへ入ってきた。

 

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