日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
ジェイソン・ストライカーが、モニタールームにて怪しく笑っていた時、モニターの向こう側で、ベッドに横たわるピーターが苦しそうに身体を震わせていた。
額には大量の汗が滲み、呼吸は浅く、心拍数も先ほどから上昇を続けている。だが、それでもピーターは目を覚ますことができない。ジェイソンによって、強制的に夢の中へ閉じ込められているからであり、その表情を見れば、それが決して楽しい夢ではないことだけは明らかだった。
「……っ!」
突然、ピーターの身体が大きく跳ねた。
「う……あ……!」
意識を失ったまま、両腕が激しく振り回され、脚がベッドを蹴りつける。先ほどまで苦しそうに震えていただけだった身体が、まるで何かに耐えきれなくなったかのように暴れ始めた。
その光景を見て、深海は眉を僅かに動かす。
「怪我をされても面倒ね。一旦拘束しなさい。」
「はい。」
研究員が端末を操作すると、ピーターの両手首に装着されていた黒い拘束具が作動する。さらに、足首に取り付けられていた同型の装置も起動し、強力な磁力が発生し、ピーターの両手首と両足首が金属製のベッドへ叩きつけられるように固定された。
超人兵士であっても、到底振りほどくことのできない拘束装置であり、ピーターの身体能力を考慮し、通常より遥かに強力な出力へ調整されている……はずだったが、
「……う、うう……!」
ギギギギギッ――!と、鈍い金属音が部屋に響いた。
「……え?」
研究員が思わず声を漏らす。固定されているはずのピーターの腕が、動いていた。拘束具は外れておらず、磁力も正常に作動している。それなのにピーターは、それを力任せに引きずるようにして身体を捻り、ベッドの上で激しく暴れ続けている。
「出力を上げなさい!」
「すでに最大です!」
「なんですって?」
深海が僅かに眉を寄せた次の瞬間、ピーターの脚が跳ね上がり、ベッドの一部が大きく歪んだ。
「うあああああっ!」
意識のないまま叫び声を上げ、ピーターが身体を転がす。拘束装置によって両手両足の動きを制限されていたにもかかわらず、強引に拘束を粉砕し、ベッドから転げ落ち、そのまま床の上をのたうち回る。
肩が床にぶつかり、そのまま激しく転がった背中が壁へ叩きつけられ、白い何かがピーターの手首から飛び出した。それは天井へ命中し、瞬時に張り付く。
「……?」
深海が目を細めた。続けて、今度は左右の手首から同時に白い糸が飛び出す。壁や天井、床、備え付けられた医療機器などに、次々と白い糸が付着していく。ピーターが腕を振り回すたびに、その手首から蜘蛛の糸が射出され、瞬く間に部屋中へ張り巡らされていった。
「装備を没収しろと指示したはずです! 何をやっているの!?」
深海の怒号が飛ぶと、研究員たちが一斉に身体を強張らせた。
「い、いえ! 没収しています!」
一人の研究員が慌てて記録を確認する。
「ウェブシューターを含め、ピーター・パーカーが装着していた装備はすべて回収済みです! 現在、彼の手首には何も装備されていません!」
「そんなはず――」
深海はモニターへ視線を戻す。明らかにピーターの手首から直接、蜘蛛の糸が飛び出している。
「現に糸が……。」
そこで、深海の言葉が止まった。何かに気づいたように目を見開く。
「……まさか。」
だが、その答えを確かめる前に、
「ああああああああああああっ!!」
ピーターが大きく咆哮しながら身体を反らし、まるで身体の奥底から何かを吐き出そうとするように叫び続け、……そして、突然、動きが止まる。
「……。」
モニタールームに静寂が訪れる。誰もが画面を凝視する中、ピーターの両手首から先ほどまでとは比較にならない量の糸が一気に噴き出した。
「なっ……!」
白い糸が周囲へ広がり、それが次々と重なっていく。一本一本が絡み合い、ピーター自身の身体を包み込み、わずか十数秒でピーターの姿は見えなくなった。代わりに、巨大な白い塊が出現した。
「……繭?」
研究員の一人が呟く。蜘蛛の糸によって作られた、巨大な繭。センサーによると、その中心にピーターがいる。そして、もう暴れてはいなかった。
「……生体反応は?」
「あります。心拍、呼吸ともに確認。ただ……数値が先ほどまでとは変化しています。」
深海は数秒、その繭を凝視した。そして、すぐさま振り返る。
「彼の肉体を再度スキャンして。最初に採取したデータと比較し直しなさい!」
「はい!」
研究員たちが一斉に動き始める。スキャン装置が起動し、繭の内部にいるピーターの全身を調べていく。筋肉、骨格、神経、内臓、血液、細胞組織。それらを捕獲直後に記録していたデータと比較し始め、
「……これは。」
研究員の一人の手が止まった。
「どうしたの?」
「ピーター・パーカーの体組織に……異常な変化が起きています。」
深海がモニターへ近づく。
「変化?」
「はい。筋組織、神経系、代謝機能……複数の部位で捕獲時の数値を圧倒的に上回る数値が検出されています。それだけではありません。手首周辺に、以前のスキャンには存在しなかった組織が形成されています。」
別の研究員がデータを拡大する。そこには、ピーターの前腕内部に新たに形成されつつある特殊な器官が表示されていた。
「これが……糸を?」
「おそらく。」
さらに別の研究員が比較データを確認する。しかし、その表情は次第に驚愕へと変わっていった。
「なんだこれは……。」
「何?」
「いくら彼が超人とはいえ、この短期間でこんな変化を……。」
研究員は信じられないものを見るように画面を見つめる。
「いや、人間以外であってもあり得ない。これほど急激な変化を起こせば、通常は細胞そのものが耐えられません。組織同士の整合性が崩れて、多臓器不全を起こしてもおかしくないはずです。それなのに……。」
データを切り替える。
「全てが適応しています。新しく形成された組織に合わせて、既存の筋肉、神経、血管まで再構築されています。まるで最初からそこに存在していた器官であるかのように……。」
研究員たちは困惑していた。しかし、深海理沙だけは反応が違った。彼女の口元が、ゆっくりと持ち上がる。
「……素晴らしいわ。」
「深海主任?」
「これは、もはや単なる肉体の変化ではない。」
深海は繭に包まれたピーターを見つめる。その瞳には、強烈な興味と、狂気が浮かんでいた。
「……進化よ。外部から新しい器官を移植したわけでも、遺伝子操作を追加で施したわけでもない。彼自身の肉体が、必要に応じて新しい機能を獲得した。」
深海はすぐに研究員たちへ向き直る。
「観測を続けなさい! 体温、脳波、細胞活動、代謝、神経伝達、すべて記録して! 繭にも手を出さないで。今、彼の身体で何が起きているのか、一秒たりともデータを取り逃さないように!」
「はい!」
研究員たちが一斉に返事をする。その様子を確認してから、深海は別の人物へ視線を向けた。
「……ジェイソン?」
先ほどまで楽しそうに笑っていたジェイソン・ストライカーは、もう笑っておらず、モニターを食い入るように見つめている。
モニターの向こう側、白い繭に包まれたピーターを。
「ジェイソン。」
二度目の呼びかけで、ようやくジェイソンが反応を返す。
「……はい?」
「彼にいったい、どんな悪夢を見せたの?」
ジェイソンは少しだけ沈黙した。そして、視線をピーターに向けたまま、ボソボソと答える。
「ストレスを与え続けるため、悪夢を……何十倍もの速度で見せ続けていました。」
「何十倍?」
「はい。夢の中の時間を、現実よりもずっと速く感じるようにしています。だから……この数時間だけで、彼は何ヶ月分もの悪夢を見たはずです。」
ジェイソンの声は淡々としていた。
「逃げても、また次の悪夢。助けても、また失敗する。目を覚ましたと思っても、それも夢。そういうのを……ずっと。」
深海は興味深そうにピーターを見る。だが、ジェイソンはそこで言葉を止めなかった。
「ですが、今――」
「何かあった?」
深海がすぐに聞き返すと、ジェイソンの口が止まる。その目は、白い繭へと向けられている。何かを確かめようとするように、あるいは――何かを警戒するように。
「ジェイソン?」
「……いえ。」
ゆっくりと首を横に振る。
「なんでもありません。」
深海は少しだけジェイソンを見つめたが、それ以上は追及しなかった。
「そう。……ピーター・パーカーにかけた洗脳は維持できそう?」
今度はジェイソンも迷わず返答した。
「そちらは問題ありません。命令への服従はもちろん、戦闘のような複雑な行動も、問題なく行わせられるはずです。」
深海は一度大きく頷いてから、研究員たちへ向き直った。
「予定を変更します。」
全員の視線が集まる。
「ピーター・パーカー用装備の設計を最初から見直すわ。」
「最初から、ですか?」
「ええ。おそらく、事前に用意していた装甲服では耐えられない。」
深海はピーターの最新データを表示する。
「全身を覆う必要もない。むしろ余計な装甲は彼自身の運動性能を殺す可能性があるわ。」
画面上に人体モデルが表示される。
「必要な部位だけを補強します。頭部、胸部、腕部、それから制御装置と通信装置。防御力よりも、ピーター・パーカー自身の戦闘能力を最大限に活用することを優先する。」
研究員の一人が理解する。
「簡易型のG4システムということですか……?」
「ええ。G4の機能を彼に合わせて再構成します。装甲服を着せるんじゃない。G4システムを補助装置として使い、ピーター・パーカー自身を兵器として完成させます。」
深海はモニタールーム全体を見渡した。
「急ぎなさい。」
その声からは、先ほどまでの興奮が消え、代わりに戻ってきたのは、冷徹な指揮官としての声だった。
「この施設がいつまで相手に隠し通せるか分からない。ピーター・パーカーがここにいることに気づけば、必ず取り戻しに来る。」
深海の脳裏に浮かんでいるのは、当然、彼の周囲にいる者たち。スパイダーマン一人を相手にするのとは訳が違う。
「明日には敵が攻めてくる。そのくらいの意識で準備しなさい!」
「はい!」
「ピーター・パーカーの観測班は二十四時間体制。装備開発班は今から設計変更。G4運用班は全機の整備と弾薬補充。能力者たちも戦闘可能な状態を維持させておきなさい!」
次々と指示が飛ぶ。研究員たちが慌ただしく動き始める中、深海は最後にモニターを見る。
白い繭の内部で眠る少年。捕まえた時には存在しなかった能力を、この数時間で、自ら作り出してしまった存在。
「……本当に面白い子ね、ピーター・パーカー。」
そう呟いてから、深海は出口へ向かうが、扉の前まで来たところで足を止める。振り返ると、ピーターを見つめ続けているジェイソンがいた。
「ジェイソン。」
「……はい。」
「あなたも休みなさい。」
ジェイソンが振り返り、深海を見る。
「本当に敵が攻めてきた場合、あなたには万全の状態でいてもらわないと困るわ。」
少しだけ声を柔らかくする。
「お願いね。」
「……分かりました。」
それを聞いて、深海は満足そうに頷き、モニタールームから出ていった。残されたジェイソンは、しばらくその扉を見つめていたが、やがて視線を戻す。モニターには、今も白い繭に包まれたピーター・パーカーが映っている。
しばらくピーターを見つめたあと、研究員たちの間を抜け、そのまま自分に割り当てられた部屋へと戻っていった。
その胸の内に何を抱えているのか、この時点では、まだ誰も知らなかった。
ーーーーー
時は少し巻き戻り、
場所を屋上から室内に移してからも、ジーンは、ゴウラムの次元を突破する力と自身の強力なテレパスを掛け合わせることで、ピーターの捜索を続けていた。
全神経を集中させた状態を、ピーターが姿を消してから何時間も続けていたが、ピーターにどれだけ呼びかけても反応は返ってこなかった。
国家間すら容易く越える自分のテレパシーが、まるで巨大な壁に遮られているかのように届かない。それでも、ジーンは諦めず、ただひたすら、ピーターを探し続けた。
そして深夜、それを、ジーンは見逃さなかった。
「っ!!」
世界のどこかで、何かが弾けた。ほんの一瞬のものであり、普通のテレパスであれば気づくことすらできないであろう、極めて短い反応。
しかし、何時間もピーターだけを探し続け、その精神の波長を必死に求め続けていたジーンには分かった。
強烈な脳波、それも、今まで感じたことがないほど巨大な精神反応。
「ピーター!!」
掴んだ、絶対に離さない! ジーンは全力で、その一瞬だけ現れたピーターの精神へと自分の意識を伸ばした。
――よし! ピーターの意識を捕まえた。あとは、この繋がりを辿って位置を、
「――え?」
そこで、何かがおかしいことにジーンは気づいた。位置が分からないことではなく、ピーターの意識が、あまりにも――
「……ピーター?」
返事がない。それどころか、
「なに……これ……。」
ジーンの顔から血の気が引いた。
今まで何度もピーターの精神に触れたことがある。明るくて、騒がしくて、色々なことを考えていて、科学や学校やヒーロー活動、メイやネッド、クロオたちのことが次から次へと浮かんできて、ピーターの精神は、いつも忙しかった。
だが、これは違う。あまりにも違いすぎる。
「ピーター!!」
位置の特定を中断する。そんなことをしている場合ではなかった。ジーンは繋がったばかりの精神経路へ、ありったけの力を流し込み、自分の意識をピーターの元へと送り込んだ。
ーーーーー
ジーンの精神体が、ピーター・パーカーの精神世界へ降り立つ。
「……。」
ピーターの心が壊れて――いや、まだ完全には壊れてはいない。だが、あと少し、本当にあと少し何かが加われば、二度と元には戻らない。そう感じてしまうほど、ピーターの精神世界は崩壊しかけていた。
「……何をされたの……。」
ジーンは声を震わせながら、周囲を見る。ピーターの精神がある。いや、ピーターの精神だったものが、そこら中に転がされている。
恐怖、絶望、罪悪感、後悔、自責。何度も誰かを失った記憶、何度も助けられなかった記憶、何度も間に合わなかった記憶。
それらが無秩序に混ざり合い、ピーターの精神を内側から削り続けている。しかも、そのどれが本物の記憶で、どれが作られた悪夢なのか、もはや本人には判別すらできなくなっていた。
「ピーター!」
ジーンが精神世界の奥へと進む。崩れ落ちる精神と記憶の間を抜け、悪夢を振り払いながら、ピーター自身を探す。
「どこ!? ピーター! 返事して!」
返事がない中、それでも進み、そしてようやく――見つけた。精神世界の最も深い場所。崩壊しかけた心の奥底に、小さな光が残っていた。
「……ピーター。」
それを見た瞬間、ジーンには分かった。これだ。これがピーターだ。記憶でも、能力でも、恐怖でも、苦しみでも、悪夢でもない。ピーター・パーカーという人間を、ピーター・パーカーたらしめている最も根本的な部分。
精神の核。それだけが、まだ壊れていない。だが――
「っ……!」
周囲から押し寄せてくる悪夢が、その小さな核まで飲み込もうとしている。ジーンは迷わず飛び込み、両腕を広げ、その小さな光を胸の中へ抱き込んだ。
「大丈夫!」
力を解放する。
「大丈夫だから!」
今のジーンに、ピーターの精神世界全体を救う余裕なんてない。ピーターの記憶を整理する余裕も、悪夢を消し去る力もない。できることは、ただ一つ。
ピーターの核、これだけは守る。何があっても壊させない。
「絶対に……絶対に守るから……!」
ーーーーー
現実世界。床に座り込んでいたジーンの身体が震え始める。
額から汗が流れ落ち、鼻からは、一筋の血が流れた。
「ジーン!?」
サラが肩を掴むが、ジーンは反応を返さない。全ての力をピーターを守るために使っているジーンは、一種のトランス状態に陥っていた。
ーーーーー
ピーターがいる場所そのものが異常なのか、何らかの装置によって精神干渉が妨害されているのか、あるいは別の能力者がピーターの精神へ強力な力を加えているのか、その理由はジーンには分からなかった。
ただ一つ分かっていたのは、今の状況では、ジーンが持つ力を限界まで振り絞って、ようやくピーターの心へ僅かな力を送り届けられているということ。
少しでも気を抜けば届かなくなる。
「お願い……!」
ジーンは歯を食いしばる。
「消えないで……ピーター……!」
精神世界で、ジーンはピーターの核を強く抱きしめていた。小さな光を自分の胸へ押し当て、周囲から押し寄せてくる悪夢から必死に庇い続ける。
すると、変化が起きた。
「……?」
悪夢が、止まったのだ。つい先ほどまで濁流のように押し寄せていた恐怖も、絶望も、悲鳴も、全てが唐突に静まり返る。
ジーンが顔を上げると、誰かがいる。
「っ!」
ジーンは反射的にピーターをさらに強く抱きしめる。少し離れた場所に、いつの間にか人影が立っていた。
顔は見えず、男なのか、女なのか、年齢も分からない。ただ、人の形をした何かが佇んでいた。
「……誰?」
ジーンが睨みつける。返事はなく、じっとこちらを見ていた。
ジーンと、ジーンが抱きしめているピーターを、興味深そうに眺めている。
「ピーターに何をしたの?」
返事はなく、人影は動かなかった。ピーターの精神世界に奇妙な静寂が続いたかと思えば、人影がゆっくりと片手を上げた。
「っ!」
ジーンは身構える。ピーターを胸に抱いたまま、自分の精神力を防壁として展開する。
だが、攻撃は来なかった。人影が力を向けたのは、ジーンではなく、ピーターだった。正確には、ジーンが守っている核以外の、ピーターの精神全体に。
「そんな……!」
ジーンが反応するより早く、ピーターの精神世界そのものへ何かが浸透していく。砕け散りかけていた記憶、感情、思考、本能、意識。それらが次々と、その存在の力に染め上げられていく。
「やめて!!」
ジーンが叫ぶが、止められない。今のジーンには、ピーターの核を守るだけで精一杯だった。守る範囲を広げれば、この核すら奪われる可能性があった。
「……っ!」
悔しさに顔を歪めながら、ジーンはピーターを抱きしめる腕にさらに力を込める。そして、数秒後にはピーターの精神の大部分が、その何者かの支配下へ置かれていた。
「……。」
人影が、改めて、こちらを見てくる。ジーンも睨み返す。絶対に渡さない。言葉にしなくても、その意思だけは伝わるほど強く睨み、ピーターの核を抱きしめる。
すると、その存在はジーンを排除しようとも、ピーターの核を奪おうともせず、もう一度だけ、ジーンと、その腕の中にあるピーターの核を一瞥し、消えた。
「……え?」
気配そのものが遠ざかっていく。追いかけることもできない。今のジーンには、そんな余裕などなかった。
「……ピーター。」
腕の中の小さな光、ピーター・パーカーの核を見る。
奪われても、壊れてもいない。
「……よかった。」
ジーンの険しかった表情が、ほんの少しだけ緩む。
「大丈夫。」
小さな子供をあやすように、優しく撫でる。
「大丈夫だから。」
返事はないが、それでも撫で続ける。
「私がいるから。」
何度も、何度も。まるで世界で一番大切な宝物を扱うように。愛しいものを守るように。胸元へ抱き寄せ、決して離さない。
「大丈夫。」
ジーンは囁き続ける。
「大丈夫だから、ピーター。」
ジーン自身は気づいていなかった。
ピーターの核を抱きしめる彼女の精神体。その身体の周囲から、赤みを帯びた微かな光が漏れ始めていることに。
ゆらり、ゆらりと。まるで炎のように揺らめく力。未だ、本人ですら認識できないほど微かなもの。それでも確かに存在するエネルギーが、火の粉のようにジーンの周囲を舞っていた。