日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

89 / 110
接続

 

――ニューヨーク、ピーターのラボ。

 

普段ならピーターやネッドが作業をしている机の上には、工具や電子部品、作りかけの装置がそのまま残されている。壁際にはピーターが自作した機材が並び、開きっぱなしになったノートには、本人にしか理解できないような数式や設計図がびっしりと書き込まれていた。

 

いつもならピーター本人がここにいて、何かを弄りながら喋っている。だが、今はその姿がない。

 

代わりに大型モニターが展開され、僕――十文字黒雄と、日本から合流した真魚、そしてサラが集まっていた。

 

モニターにはトニーさんとフューリーが映っており、さらに別回線では、日本にいる一条さんと小沢さんにも通信が繋がっている。

 

下の階では、床に座り込んだまま目を閉じて動かないジーンの傍に、メイさんとハッピー、それに流石に家には帰せなかったミシェルが付き添ってくれている。

 

ジーンは突然ピーターの名前を叫んだ直後から、一切の反応を返さなくなっていた。意識の全てを別の場所へ向けているかのように、完全なトランス状態に入ってしまっている。

 

額からは大量の汗が流れ、時折、身体が小さく震える。そして何より、鼻から流れた血が口元まで伝っていた。メイさんが何度もそれを拭っているが、しばらくすると、また新しい血が流れてくる。

 

それでもジーンは動かなかった。

 

「……。」

 

今すぐ何とかしてやりたいが、下手に干渉していい状態なのかすら分からない。そんな中、

 

『黒雄。』

 

通信越しに、一条さんが口を開いた。

 

「はい。」

 

『さっき小沢さんたちと資料を確認していたんだが、おそらく、黒雄と真魚さんが協力した状態のサイコメトリーでもピーター君を発見できなかった原因が分かった。』

 

その言葉に、全員の視線が一条さんへ集まる。

 

「本当ですか?」

 

隣にいた真魚が、すぐに身を乗り出した。

 

『ああ。まだ断定はできないが、かなり可能性は高いと思う。小沢さん。』

 

『ええ。』

 

画面が切り替わり、一条さんに代わって小沢さんが前へ出てくる。小沢さんの後ろには大量の資料が表示されていた。どれも日本語で書かれた古い研究資料のように見えた。

 

『深海理沙がまだ自衛隊に所属していた頃、超能力者への対応手段として、いくつもの技術が研究されていました。』

 

「対応手段?」

 

真魚が首を傾げる。

 

『そう。特に深海が重要視していたのが、テレパスやサイコメトリーといった精神系の能力よ。』

 

小沢さんが資料を切り替えると、画面上に、一つの装置の設計図が表示される。

 

『ある特殊素材と機構を利用したヘルメットを身に付けることで、精神感応能力を妨害する特殊なフィールドを発生させ、身に付けた者を外的精神攻撃から守ってくれる。簡単に言えば、テレパスやサイコメトリーに対するジャミング装置ね。』

 

「……なるほど。」

 

……それってX-MENでマグニートーが被ってるヘルメットと同じものなんじゃ?もし、それが完成していたのなら、僕が力を貸した真魚のサイコメトリーですらピーターの居場所が見つからなかったことにも説明がつく。

 

『そして問題はここから。』

 

小沢さんの表情が険しくなる。

 

『当時提出されていた計画案の中に、この技術を利用した研究施設そのものを建設する案がありました。』

 

フューリーの眉が僅かに動いた。

 

『施設全体を精神感応能力から遮断する、能力者研究専用施設。結局、自衛隊では正式採用されなかった計画ですが……。』

 

『深海がヒドラに移った後、その計画ごと持ち出した。そしてヒドラが実際に施設を建設した。』

 

フューリーが低い声で言った。

 

『その可能性が高いと思われます。』

 

フューリーは腕を組んだまま、画面に表示された設計図を見る。

 

『だから真魚の力でも届かない、というわけか。』

 

『そう考えるのが自然でしょうね。』

 

『……厄介だな。』

 

小沢さんの答えに、フューリーが小さく呟いた後、視線を別方向へ向ける。

 

『サラ。ジーンの状態は?』

 

突然名前を呼ばれ、サラが顔を上げる。

 

「……分かりません。」

 

サラはそう答えるが、その声には明らかな不安が滲んでいた。

 

「ピーターの名前を叫んだ瞬間にトランス状態になって、それからずっと、その状態が続いています。今も……凄いテレパスを発し続けています。私も何度かジーンの精神に触れようとしたんですけど、全然入れませんでした。」

 

「私もです。」

 

真魚が続ける。

 

「サイコメトリーで状態を確認しようとしたんですけど、今のジーンは、力が強すぎて……下手に触ったら邪魔になりそうで。」

 

サラが頷く。

 

「私や真魚さんの力でも、今、ジーンがどういう状態なのか分かりません。ただ……ピーターの名前を叫んだ直後にこうなったので、何か手掛かりを掴んだんじゃないかと思います。」

 

ジーンはピーターを探すために、何時間もテレパスを使い続けていた。そして突然、ピーターの名前を叫んだ。おそらく何かを見つけたんだ。

 

「僕と協力した真魚の力でも無理だったのに……。本当に凄いな、ジーンは。」

 

ただし、その代償も大きかったのだろう。ジーンの状態は決して芳しいものではない。

 

『……次は僕からだ。』

 

トニーさんが口を開き、全員の視線がモニターへ戻る。そこで僕は、僅かに眉を寄せた。会議が始まってから、トニーさんはずっと深刻そうな表情をしていた。ピーターが攫われているんだから当然だけれど、何というか――自責の念に満ちた顔をしている。

 

自分の責任だ、とでも言いたげな表情だった。

 

『まず、今回の件で奴らが使っていた技術について分かったことがある。』

 

トニーさんが操作すると、画面にいくつもの映像が表示される。街中を飛び回っていた偽物のスパイダーマン。

 

『解析が終わった。結論から言えば、今回使われたホログラム技術は――スターク・インダストリーズの技術だ。』

 

「……スタークさんの会社の?」

 

真魚が驚いたように聞き返すと、トニーさんは否定せず、むしろ、苦々しそうに頷いた。

 

『正確には、ウチで開発されていた技術だ。開発者の名前はクエンティン・ベック。』

 

画面上に、一人の男の顔写真とプロフィールが表示される。

 

『ホログラム技術の専門家。少なくとも、ホログラムを扱う技術だけなら僕以上の才能を持つ天才だ。』

 

トニーさんがそう評価する時点で、その能力がどれほど高いのかは十分に分かる。そしてコイツは――

 

『僕はあの技術を、人を助けるために使えると思っていた。』

 

画面上に、ホログラムによって再現された建物や人体模型、立体映像などが次々と表示される。

 

『医療、教育、災害現場でのシミュレーション、設計、訓練、遠隔コミュニケーション。他にも使い道はいくらでもある。発展させれば、社会そのものを変えられる可能性だってあった。』

 

そこでトニーさんの表情が険しくなる。

 

『だが、ベック本人は違った。』

 

『……兵器利用か。』

 

フューリーの言葉にトニーさんが小さく肩を竦める。ただし、いつもの軽い調子はなかった。

 

『その通りだ。彼はその技術を兵器として利用することしか考えていなかった。敵を騙す。存在しない部隊を見せる。偽の標的を作る。民間人を混乱させる。現実と虚構の区別をつかなくさせる。軍事利用するなら、確かにとんでもなく便利な技術ではある。』

 

トニーさんが小さく息を吐く。

 

『だが、ウチはもう、僕のスーツ以外の兵器関係は扱ってない。何度言っても聞かなくてね。』

 

そこで、トニーさんが僕を見る。

 

『それに……。実は、彼が未来でアレコレする、とクロオから聞いていたから、監視の目はかなり光らせていた。』

 

未来の知識で、クエンティン・ベックは後にミステリオを名乗り、ピーターと敵対する。当然、そのこともトニーさんには話してあった。

 

『だから通常の社員よりも厳重に監視していた。研究データへのアクセス、社外との通信、大規模な機材の移動、不審な資金の流れ。何か怪しい動きをすれば、すぐに分かるようにしていた。』

 

トニーさんがそこで一度言葉を切る。

 

『……それが災いした。』

 

『どういうことだ?』

 

フューリーが尋ねると、トニーさんは別のデータを表示する。

 

『監視されていることを、ベックは最初から分かっていたらしい。』

 

画面上に、大量の通信記録が表示される。

 

『そして、監視されていることを逆に利用された。スーツに送られてきたダミー情報は、監視システムを通じて逆ハックされていた。そして、残された偽のログ、偽装されたアクセス記録。今回、ピーターの捜索を遅らせた情報のいくつかも含めて、全部ベックによる細工だったことが判明した。』

 

僕は思わず画面を見る。トニーさんが警戒していたからこそ、相手はその警戒を逆手に取った。監視されていると分かっていたから、監視している側へ意図的に偽情報を流し続けた。

 

「……つまり。」

 

サラが口を開く。

 

「ずっと、スタークさんたちに嘘の情報を見せていたんですか?」

 

トニーさんが答える。

 

『僕は奴を監視しているつもりだった。だが実際には、奴が僕たちに何を見せるかを選んでいた。』

 

その声には、明らかな自嘲が混じっていた。トニーさんがもう一度画面を操作する。クエンティン・ベックの顔写真が中央に大きく表示され、

 

『そして――クエンティン・ベック本人は、昨日から行方不明だ。』

 

ーーーーー

 

監視していたはずの相手に、その監視そのものを利用され、ピーターの捜索を妨害された。しかも、その本人はすでに姿を消している。

 

トニーさんがずっと険しい顔をしていた理由は、これだったのか。そう思っていると、

 

『……だが、進展がなかったわけじゃない。』

 

フューリーが口を開いた。

 

「何か分かったんですか?」

 

『ああ。』

 

フューリーが小沢さんの表示していた資料へ視線を向ける。

 

『真魚のサイコメトリーから逃れる方法が存在する。それが分かった時点で、探し方を変えた。』

 

「探し方?」

 

『能力で人間そのものを探せないなら、その能力を防ぐための仕組みを探せばいい。施設一つを丸ごと覆うほどの設備なら、何もないところから突然生えてくるわけじゃない。特殊素材、電力設備、建設資材、技術者、輸送ルート。どれだけ隠そうが、必ずどこかに痕跡が残る。』

 

フューリーが画面を操作する。

 

『ナターシャを中心にウィドウたち、それに、今も俺と繋がっている元S.H.I.E.L.D.の連中にも協力してもらった。』

 

……相変わらず仕事が早い。

 

『短時間で追える範囲ではあるが、怪しい資材の流れ、深海脱走後に建設された施設、ヒドラと接点を持つ可能性がある人物。それらを洗った。』

 

画面に企業名や施設名、資金の流れらしきものが次々と表示される。

 

そして、一つの名前が中央に表示された。

 

『その結果、ある組織が浮かび上がった。』

 

フューリーの目つきが鋭くなる。

 

『ダメージ・コントロール局だ。』

 

その名前を聞いた瞬間、トニーさんの表情がさらに曇った。

 

ダメージ・コントロール局は、ニューヨーク決戦以降、宇宙人の兵器、超人、特殊なエネルギー、地球外物質、そういったものが一般社会へ流出するのを防ぎ、戦闘によって破壊された地域の復旧や、危険物の回収、管理を行うために設立された組織である。

 

そして、その設立に大きく関わったのがトニーさんだ。

 

『僕が政府と協力して作った組織だ。』

 

トニーさんが自分から口を開いた。

 

『ニューヨークであれだけのことが起きた。チタウリの兵器一つでも民間に流れれば、何人死ぬか分からない。だから回収と管理を専門にする組織が必要だった。』

 

一度、目を伏せる。

 

『その組織が、深海に協力している可能性がある。』

 

「……乗っ取られている可能性も?」

 

僕が聞くと、

 

『ある。』

 

答えたのはフューリーだった。

 

『組織全体か、一部の人間だけかはまだ分からん。自発的に協力しているのか、ヒドラの残党が内部に潜り込んでいるのかも不明だ。だが、少なくとも資材の流れの一部に不自然な点がある。』

 

『……僕が作るのに協力した組織だ。』

 

トニーさんが低い声で呟く。

 

『僕の会社の技術を使われて、僕が作った組織まで利用されて、その結果ピーターが攫われた。なんならミシェルが見たという巨大な鉄の翼を持った敵。それもおそらくクロオから聞いていたヤツだ。ダメージ・コントロール局を動かして、宇宙人やウルトロンの技術を使った兵器を作り、売り捌いていた奴らは捕まえた筈だった。なのに、奴が出てくるってことは、ダメージ・コントロール局め、勝手に司法取引か何かをして――』

 

「トニーさん。」

 

『分かってる。』

 

僕が何か言う前に遮られた。

 

『今は落ち込んでる場合じゃない。』

 

そう言って顔を上げる。……顔は全然立ち直ってないけど。

 

『可能な限り早く、ダメージ・コントロール局へ踏み込む。』

 

フューリーが言った。

 

『すでに人員は動かしている。だが、空振りに終わる可能性もある。ダメージ・コントロール局への捜査と並行してピーターの捜索は――』

 

ピピピピッ。

 

「……。」

 

僕の端末が鳴った。

 

『……。』

 

フューリーがこちらを見る。

 

「……すみません。」

 

なんでこのタイミングで。無視しようかとも思ったけれど、画面に表示された名前を見て考えを変える。

 

「……火のエルから?」

 

『出ろ。』

 

フューリーから即座に許可が出たので、端末を操作する。

 

「もしもし?」

 

『オイ、クロオ!!』

 

「うわっ!?」

 

いきなり大音量が響いた。思わず端末を耳から離す。

 

『ウォンから話は聞いた! ピーターは見つかったのか!?』

 

「まだ見つかってないです!」

 

『なら、ネッドだ!』

 

「……はい?」

 

『ネッドはいるか!? アイツを使え!』

 

「なんでネッド?」

 

『ああ!?』

 

火のエルの声がさらに大きくなる。

 

『……って、そうか。お前知らねぇのか!』

 

「何をですか?」

 

『いいからゴウラム使ってネッドを連れてこい!』

 

「今、ゴウラムは動かせないんです。」

 

ピーターを探すために、ゴウラムはずっとジーンの力を補助している。今ここから離すわけにはいかない。

 

『だったらサラだ! サラ!』

 

「えっ!?」

 

突然名前を呼ばれたサラが肩を跳ねさせた。

 

『ポータル開いてネッドを連れてこい!』

 

「え、あ、はい。」

 

サラが反射的に返事をする。

 

「ネッドの家ですよね?」

 

『そうだ! 急げ!』

 

「分かりました。」

 

状況を完全には理解していない様子だったが、サラはスリング・リングを装着すると、そのままラボを出ていった。

 

『よし。じゃあクロオ。今何してる?』

 

「今はトニーさんたちと会議中で――」

 

『オーケー。なら俺にも映像を見せろ。』

 

「……はいはい。」

 

言われるまま端末をラボのシステムへ接続する。空中にホログラムが展開され、火のエルの姿を映し出し、あちらにもこちらが見えるように設定する。

 

『で、状況は?』

 

「えーっと……。」

 

僕は現在までに分かっていることを簡単に説明する。

 

ピーターの誘拐について。さらに、精神系能力を遮断する施設が存在する可能性。クエンティン・ベックが敵側についている可能性。ダメージ・コントロール局とヒドラ、深海との繋がりの可能性。そして、ジーンが何らかの形でピーターの精神を捕捉しているらしいこと。

 

一通り聞き終えると、火のエルは少しだけ考え込み、

 

『スターク、フューリー。』

 

二人を呼ぶ。

 

『今すぐ動かせる戦力はどんなもんだ?』

 

『なぜだ?』

 

フューリーが即座に聞き返すのと同時に、ラボの中に火花が散り、円形のポータルが開いた。

 

「連れてきました!」

 

サラが戻ってきた。そして、その後ろから、

 

「え!? 何!? 何で呼ばれたの!? ピーターは!?」

 

完全に状況を理解できていないネッドが姿を現した。火のエルがニヤリと笑う。

 

『コイツがいれば、ピーターの居場所が分からないって問題は解決するからだ。』

 

「……どういうことですか?」

 

真魚が尋ねると、火のエルがネッドを指差しながら、

 

『コイツは未来で、居場所も座標も分からない相手を思い浮かべただけで、その相手に繋がるポータルを開いてる。』

 

「「……は?」」

 

魔術を扱う真魚とサラの口から、思わずといった様子で声が漏れた。ネッドも自分を指差す。

 

「僕?」

 

『お前だ。』

 

「いやいやいやいや!」

 

ネッドが全力で首を横に振る。

 

「僕、魔術なんて使えませんよ!?」

 

『今はな。』

 

火のエルが即答する。

 

『だが、お前には素質がある。しかもかなり大きな。』

 

サラが少し考えてから、

 

「でも、さすがにそれは無茶なんじゃ……。」

 

と口を挟む。当然だ、今のネッドは魔術師ですらない。ところが火のエルは、

 

『コイツは、その無茶ができる。』

 

言い切った。

 

『ネッドにポータルを開かせる。ピーターのところへ直接だ。』

 

「直接……。」

 

『準備が整ったらポータルを開いて突入。突入する連中には発信機を持たせる。場所が判明した瞬間、戦力を向かわせる。』

 

火のエルが腕を組む。

 

『で、どうよ!?』

 

全員が黙る。なんというか、ゴリ押しの作戦だ。

 

僕はネッドを見ると、本人は未だに「僕が魔術?」みたいな顔をしている。確かに、成功するならこれ以上ない突破方法だ。

 

どれだけ施設を隠そうが関係ない。精神感応を遮断しようが関係ない。場所を探す必要そのものがないのだから。

 

『……なら、少し待て。』

 

トニーさんが口を開いた。

 

『ちょうどこっちでも準備しているものがある。』

 

「準備?」

 

『精神支配対策を施した装備だ。スコット用のアントマンスーツと、君用の装備をハンクが大急ぎで仕上げてくれている。』

 

「ピム博士が?」

 

『スコットにも協力してもらう。本人もピーター救出なら協力は惜しまないと言ってる。』

 

トニーさんが資料を表示する。

 

『元々はダメージ・コントロール局に乗り込んで、スコットとクロオに内部からピーターを探してもらう予定だった。』

 

なるほど。ピーター以外にも誘拐された子供たちがいる。大規模な戦闘でなければ、アイアンマンよりアントマンの方が潜入には圧倒的に向いている。

 

『だが、火のエルの作戦が成功するなら、そっちの方が確実に早い。』

 

僕は画面に表示された装備を見る。

 

「もしかして、深海が残した資料から再現を?」

 

『ああ。』

 

トニーさんが頷く。

 

『小沢から送られてきたデータをハンクにも回した。原理自体は理解できたらしい。』

 

さすがというべきか。

 

『ただし問題がある。特殊な素材を使っているため、建物みたいに動かない物なら代替手段も取れるが、個人が装備できる大きさまで小型化すると一気に難しくなる。』

 

「どれくらい作れます?」

 

『今日中なら二人分が限界だ。』

 

二人。

 

『今、他に代用できる素材や技術がないか確認している最中だが、突入までに間に合うかは微妙だ。』

 

トニーさんが指を二本立てる。

 

『一つはスコット。』

 

一本折る。

 

『もう一つは君だ、クロオ。』

 

「……え?」

 

思わず自分を指差す。

 

「僕、いります?」

 

『いる。』

 

答えたのはトニーさんではなくフューリーだった。

 

『絶対にだ。』

 

「いや、でも僕、精神干渉にはそれなりに――」

 

『クロオ。先日のドルマムゥ戦の後、改めて話したはずだな。』

 

「……はい。」

 

『万が一、お前がアルティメットの状態で暴走した場合、どうすることになっている?』

 

「……アベンジャーズ、アスガルド、カマー・タージの戦力を集めて止める。」

 

『違う。全戦力を、お前一人に向ける、だ。』

 

訂正そこ?いや、大事なんだろうけど。

 

『お前が単独で暴走するだけでもそれだ。』

 

フューリーがこちらを睨む。

 

『それが敵の精神支配によって意図的に操られるとなれば、話はさらに悪い。』

 

「でも――」

 

『でもじゃない。』

 

被せられた。

 

『万が一にも、お前が敵に操られるという事態は避けなければならん。ピーターを救出するために突入して、代わりにクウガを敵に献上しました、では笑い話にもならん。』

 

「……はい。」

 

『よって、お前は必ず対策装備を身につけろ。』

 

「はい。」

 

すると、火のエルが手を叩く。

 

『よし!なら決まりだな。』

 

「いや、まだネッドが――」

 

全員の視線がネッドへ集まると、ネッドが固まる。そして、恐る恐る自分を指差した。

 

「えっと……。僕、本当にこれから魔法でピーターを探すんですか?」

 

『正確にはピーターの居場所にお前が導く、だ。』

 

火のエルが即答した。

 

「……今日?」

 

『今日だ。』

 

ネッドの顔が引きつる。

 

場所は分からない。相手の戦力も、施設の構造も、ピーターがどんな状態なのかも分からない。

 

それなのに、ピーター本人を目印にして直接ポータルを繋ぎ、そこから強引に突入する。普通なら作戦と呼べるかも怪しい。

 

だけど――届くかもしれない、ピーターのところへ。

 

「……やろう、ネッド。ピーターを連れ戻す。」

 

ネッドは少しだけ黙ってしまうが、さっきまでの戸惑った表情が消えていく。そして、

 

「……はい。」

 

強く頷いた。

 

ーーーーー

 

しばらくして、ようやく準備が整った。

 

突入するのは、僕、真魚、サラ、そしてスコットさんの四人。本当なら、もっと大人数で乗り込みたいところだけど、今回は相手が相手だ。

 

深海理沙と、G4を纏った超能力者たちや別の協力者たち。精神系超能力者がいることは確実であり、強力な超能力者であると同時に魔術も扱える真魚とサラが同行することになった。

 

そして僕とスコットさんには――

 

「……これ、本当に大丈夫なんですか?」

 

僕は自分の頭部に装着された装置に触れながら尋ねる。見た目はヘッドギアというより、耳の後ろから後頭部にかけて取り付ける小型の補助装置だ。……完全にマグニートーのヘルメットをイメージしてた。

 

『理論上はな。』

 

通信越しにピム博士の声が返ってくる。

 

『精神干渉を検知した場合、脳波に対して逆位相の刺激を与える。完全に遮断できる保証はないが、少なくとも何もないよりは遥かにマシだ。』

 

「理論上か……。」

 

僕の隣では、同じ装置を装着したスコットさんが何とも言えない表情をしていた。

 

「ねえ博士。ちなみにこれ、失敗したらどうなるんです?」

 

『知らん。』

 

「聞かなきゃよかった。」

 

スコットさんが遠い目をする。ピム博士が大急ぎで間に合わせてくれた、対精神支配用の装備。実戦投入は当然今回が初めてだ。不安はあるけれど、精神干渉をまともに食らうよりはマシだろう。

 

僕たち四人が先行して施設内へ突入。侵入に成功したら発信機を起動し、その位置情報を頼りにトニーさん、フューリーたちが乗り込む。一応、ダメージ・コントロール局に突入する前提で準備が行われている。

 

「……今更ですけど。」

 

僕は少しだけ手を上げると、全員の視線がこちらへ向いた。

 

「ダメージ・コントロールって、アメリカ政府肝入りの組織ですよね?」

 

『そうだな。』

 

フューリーが即答する。

 

「そこに僕たちが勝手に乗り込んで大丈夫なんですか?」

 

改めて考えると、とんでもない話だ。一応、ピーターが誘拐されている可能性は極めて高い。しかも、他にも何人もの子供たちが捕まっている可能性がある。だから救出すること自体に迷いはない。ただ、

 

「後から国連に口を出されたりしません?」

 

フューリーはそんな僕を見て、わずかに眉を上げた。

 

『それをどうにかするのは我々大人だ。』

 

珍しく大人らしいことを言っている。いや、大人なんだけど。

 

『そういうことだ。』

 

今度はトニーさんが口を開いた。

 

『君たちはピーター、それと誘拐されたと思われる子供たちの救出に集中してくれ。政治家と役人の相手まで子供にやらせるほど、俺たちも落ちぶれちゃいない。』

 

「僕はもう子供じゃないと思うんですけど。」

 

『僕らから見れば十分子供だ。』

 

……まあいいか。いよいよ突入だ。そして、そのための鍵になるのは、

 

「ネッド。」

 

「は、はい。」

 

呼ばれたネッドが緊張した様子で前へ出てくる。今回、僕たちがピーターの元に直接乗り込むのに使うのはネッドのポータルだ。

 

ただし、ネッドはスリング・リングを持ったまま、固まっている。

 

「ネッド?」

 

僕が声をかけるとネッドは、困った顔でこちらを見た。

 

「……どうすればいいんですか?」

 

「そこから!?」

 

思わず声が出た。

 

「いや、だって僕、ちゃんと習ったことないし!」

 

「ああ、そうだったね……。」

 

魔術の訓練だって受けずに、素質があるというだけで、ポータルを自由自在に使えるわけでは――。

 

「まずスリング・リングを装着して。」

 

サラがネッドの横へ立つ。

 

「基本から説明するわ。最初に目的地を明確にイメージして、それから――」

 

『ピーターに会いたい、って思いながら気合い入れて手を回せ。』

 

少し離れた場所から、火のエルが言った。サラが火のエルの説明を聞き、固まってしまう。

 

「……。」

 

そして、ゆっくり火のエルを見る。

 

「そんな説明で出来るわけが――」

 

「ピーターに会いたい!」

 

ネッドは叫ぶと同時に、勢いよく右腕を回す。

 

バチッ!

 

「……え?」

 

すると、ネッドの手の動きに合わせて、空中にオレンジ色の火花が散った。本当に一瞬だけだったけど、間違いなくポータルの光だった。

 

「……。」

 

真魚も目を丸くし、僕も多分、同じ顔をしている。火のエルだけが平然としていた。

 

『ほら、出来ただろう。』

 

「いや、なんで!?」

 

サラが珍しく声を上げる。

 

『もう一度だ!』

 

火のエルがネッドを指差す。

 

「は、はい!」

 

ネッドがもう一度スリング・リングを構え、大きく息を吸い――。

 

「ピーターに会いたい!」

 

腕を回した、次の瞬間。

 

バチバチバチバチッ!!と、先ほどとは比較にならないほど大量の火花が空中を走り、円を描くように光が広がった。

 

「……マジか。」

 

完全なポータルが開いた。その向こう側に見えるのは、薄暗い室内。無機質な壁。明らかに、このマンションではない。

 

サラと真魚が言葉を失い、唖然としている。僕も何と言えばいいのか分からない。ネッド本人だけが、

 

「開いた!」

 

ものすごくテンションが上がっていた。

 

「開いた! 見た!? 僕が開いたんだよね!?」

 

「ああ、そうだね……。」

 

「やった!」

 

飛び跳ねそうな勢いで喜んでいる。一方で真魚とサラ。特にサラは、自分が今までカマー・タージで受けてきた修行は何だったのか、とでも言いたげな表情をしていた。

 

……見なかったことにしよう。

 

「よし。」

 

僕は気持ちを切り替える。ポータルの向こう側、ここから先は敵地だ。火のエルはここに残り、メイさんやハッピーさん、ミシェル、そして何より、今もピーターのために力を使い続けているであろうジーンの護衛だ。

 

万が一、ここまでが陽動で、敵の本命がジーンだった場合に備える必要がある。その点、エルロードであり、タイムストーンの力を持つ火のエルは、地球上でトップクラスの護衛だ。

 

「準備は?」

 

僕が尋ねる。

 

「大丈夫。」

 

既にアギト・シャイニングフォームに変身した真魚が答える。今回、変身シーンはカットだ。

 

「いつでも。」

 

サラも続く。実は彼女の服装はエンシェント・ワンと同じものであり、彼女の中での完全武装である。

 

「オーケー。……博士の装置が爆発しないことだけ祈ってるよ。」

 

スコットさんもアントマンスーツを全身に纏っている。

 

僕も、ライジング・マイティの姿でポータルをくぐり始めようとした、その時。

 

「待って。」

 

振り返ると、ミシェルがいた。いつもの皮肉っぽい表情はなく、ただ真っ直ぐ、僕たちを見つめ、

 

「皆。」

 

一度言葉を切り、その視線が、ポータルへ向かう。その向こう側にいるはずの少年へ向けるように。

 

「ピーターをお願い。」

 

「……もちろん。」

 

僕は短く答え、ポータルの向こう側へ視線を戻す。

 

「行こう。」

 

そして僕たちは、ネッドが開いたポータルへ飛び込んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。