ハリエット・ポッターの不思議な冒険 作:新参なめ子
「ハティ」
「なあに、ウッド」
ウッドに肩を抱かれスリザリンチームから遠ざけられたハティは無邪気にウッドの顔を仰ぎ、目を丸くした。彼はマーカス・フリントという悪名高いスリザリンのレギュラーをハティが試合から離脱させたというのに、実に苦々しい顔をしていた。
「さっきのことは水に流す」
「さっきのことって、なに」
「フリントをわざと箒から叩き落したことだ。俺が気付かないとでも思ったか? この数か月、お前のプレーを一番近くで見てきたのは俺だぜ? ハリエット・ポッターがデビュー戦如きで箒のコントロールを失う訳がない」
ハティははっと息を呑んだ。
――気付かれていた。事故を装ってフリントにラフプレーを仕掛けたことを。
それは一種の復讐であった。ハティを排除すべくスリザリン寮総出でハティに呪いを仕掛け、果てには階段からハティを突き落とそうとしたスリザリンの誰かに対する報復であったのだ。今回のグリフィンドール対スリザリン戦には確実にハティを陥れた犯人が観客席あるいはスリザリンチームに参加しているはず。その人物に、そして暴力で恫喝したフリントに対する警告のつもりだったのだ。
そのことにウッドや他のチームメイトが気付くかもしれないことを想定しなかったわけではない。しかし、実際にウッドに指摘されハティはじんわりと箒を握る手に冷や汗が滲むのを感じた。
たちまち表情を凍り付かせたハティを見下ろし、ウッドは嘆息した。
「お前の、スリザリンの連中をぶちのめしてやりたいという気持ちはわかる。散々な目に遭わされたからな。だけどな、その箒をお前に贈った人に、お前は胸の張れるプレーが出来たと言えるか?」
ひゅっと風がハティのジェットブラックの髪を揺らした。
ハティは観客席を仰ぎ、居並ぶ教授の中に眼鏡をかけた老婦人を探した。そして視線が合う前に、俯いた。唇がわなないて、声が出ない。ウッドの質問に、答えられなかった。
「わたし……」
「わかってるよ、俺だって悔しいし、あいつらが許せない。ケイティの前任者はあいつらのラフプレーのせいで箒に乗れなくなったからな。だけどな、だからこそ正々堂々とあいつらをノックアウトすべきだと俺は思うんだ。俺たちは卑怯な手を使わなくても、優勝できる。なぜなら、俺たちが優れたプレイヤーでありチームだからだ。ハティ、俺はそれを証明したい。だから、協力してくれるか?」
不意にハティの頭をウッドの大きく節くれだった手が撫ぜた。
ハティは顔を歪めた。自分は今、ウッドの誇りを大きく傷つけたに違いない。とハティは思った。正々堂々と戦うことを誓った選手を、卑怯者に貶めてしまったのだ。それを自覚し、ハティは無性に叫び声をあげたくなった。
「……わたしのこと、まだ信じられるの?」
ハティは恐々と顔を上げた。すると、ウッドはにっこりと太陽のように快活な笑みを浮かべて頷いた。
「勿論だ! お前は長い間、スリザリンに屈することなく抗ってきた。俺はお前のこと、一年生なのに大した奴だって感心してたんだぜ。お前ほどグリフィンドールらしい一年生はいない。だから、俺はお前を信じる」
ハティは困ったように視線を落とす。
「わたし、ウッドが考えているほど正しいことができる人間じゃないよ。本当は卑怯な人間なの。でも、ウッドが信じるなら、わたしもう卑怯なことはしない。マクゴナガル教授にも、恥ずかしく思われるようなプレーはしない」
「うん、約束だ」
ウッドはそれ以上口にしなかったが、頭上から満足そうな忍び笑いが聞こえてくるのがわかった。わしゃわしゃと、まるで大型犬を撫でまわすように髪をかき混ぜられ、ハティはうめき声をあげながらも小さく笑った。
1
大歓声が寒空いっぱに広がる。
試合が再開して早々にグリフィンドールが先制点を獲得し、グリフィンドールを中心に、そしてハッフルパフとレイヴンクローにも生徒たちの歓声が広がる。反対にスリザリンからは嘆息が広がり、そして野次が飛んだ。
「ちょいと詰めてくれや」
「ハグリッド!」
ロニー、ハーミスは慌てて席を詰めてハグリッドが隣に座れるように広く場所を開けた。
一段上に座っていたヒューとアクラムが不思議そうにハグリッドを見下ろし、小首を傾げた。
「ハグリッドもクィディッチの試合みにくるんだな」
ヒューの呟きにハグリッドは振り返り「勿論だ」と言った。
「ハティが出ちょる、見逃すわけにはいかんだろ? 俺も小屋から見とったんだが、やっぱりここの方がよく見えるな。スニッチはまだ出てこんか?」
ハグリッドは首から下げた大きな双眼鏡を持ち上げた。
「まだだよ。それどころか、ハティが箒から落ちたんだよね。フリントがクッションになったからハティは無事だったみたいだけどね」
「俺が見た感じ、まだスニッチは出てない。箒から落ちたのが序盤で幸いしたな」
ロニーの言葉を引き継ぎ、アクラムが双眼鏡を覗きながら呟く。
「あいつ、大丈夫かな」
眉宇を顰め、ヒューは空に目を凝らした。
「大丈夫だ。少なくとも今はトラブルに巻き込まれんように上をぐるぐるしてるみてえだな。あの子は十分上手くやっとるよ」
ハグリッドは自信満々の請け負ったが、ヒューは表情を曇らせたままだった。
隣りのアクラムから双眼鏡をひったくり覗き込むと、そこにはちょうど向かってきたブラッジャーを華麗に避けるハティが映っていた。
「スリザリンの奴ら……卑怯な手を使いやがって!」
ヒューが吐き捨てる。
すかさず双子の一人がブラッジャーを追いかけてすかさずスリザリンのルシアン・ボールへと叩き落し、そのままするするとしたへと降りていきブラッジャーでの応酬を始めた。
ひとまずブラッジャーが遠ざかったことに胸を撫でおろしたヒューは双眼鏡をアクラムに返し、唸った。
「魔法族のスポーツって、野蛮すぎねえ?」
「同感だよ。あんなに硬くて大きなボールを空中で人に叩きつけるなんて、下手をすればハティがフリントみたいに箒から落ちちゃうよ」
ハーミスも溜息をつく。
二人とも、そういった競技なのだとわかっていても意図的に怪我を負わせるようなルールがまかり通っていることに釈然としないのだ。ブラッジャーは攻撃力があるし、何より選手の高度や飛行するスピードを考えると不安が尽きない。
生きた心地がせず表情を曇らせる少年二人を見て、アクラムは軽快に笑い飛ばした。
「大丈夫さ、俺たち魔法族は骨が折れても一晩で治るし」
眼下ではフィルやプリシラが杖先から花火を噴き出しながら拙い踊りを繰り広げている。
本当かよ、とヒューが苦し気に顔を歪めた時ロニーが「あっ」と声をあげた。
「ハティが動き出した! スニッチじゃない!?」
「――あれは、スニッチか?」
次いでリー・ジョーダンの実況が響き渡った。
リーが気付くよりも早くハティは黄金の光の軌跡を追いかけ一気に地上への急降下を始めていた。
耳朶をびゅうびゅうと風を切る音が響く。先ほどまであれ程まで聞こえていたピッチの歓声、フィルたちの声援も搔き消え、興奮で心臓が早鐘を打っている。
ふと背後に気配を感じて振り返るとスリザリンのシーカー、テレンス・ヒッグズがぴったりと張り付いていた。彼もスニッチを発見したのだ。目の前を小さな黄金の球体が羽を震わせ鳥のように飛んでいく。
テレンス・ヒッグズよりもリードしたハティが急いでそれに手を伸ばした瞬間、強い衝撃に襲われハティの体は箒ごとなぎ倒された。ヒッグズが舌打ちをし、グリフィンドールの観客席から怒号があがる。
「きたねえぞ、スリザリンども!」
「ふざんけんなよクソ野郎! フリントと同じように医務室送りにされてえのか!?」
「今のはレッドカードで退場だろぉ!?」
「ハーミス、これはサッカーじゃないからね」
寮生の誰かが叫ぶ。
ハティは必死に箒にしがみつき、くるりと空中で箒を回転させながら何とか体勢を立て直した。マムダ・フーチがビーターのデリックに厳重注意を与える声を聞きながら、ハティは「レッドカードで退場させなさいよ」と舌打ちをする。自分はフリント同様、地上に叩き落されそうになっていたのだとその時なって理解する。
フリントが地上に叩き落されたことへの報復だろうか、デリックには躊躇が欠片もなかった。本気でハティを潰しにかかっていた。
――ウッドはスリザリンがこういう奴らだとわかっていて、正々堂々と勝ちたいんだ。
それはきっと彼の競技への忠誠なのだろう。
じんわりと汗を滲ませる掌をユニフォームにこすり付け、宙へ目を凝らす。あの黄金の輝きはどこにいったのか、と目を凝らしていたハティは再度黒い塊が迫っていることにも気付かなかった。視界の隅に赤い色が飛び込んで、ハティが振り向いたその瞬間。
「お前もフリントみたいに地面とキスさせてやるぜ! おら!」
「ジョージ!!」
ハティに叩きつけられようとしていたブラッジャーは再びデリックめがけて打ち返される。
「お嬢さん、俺はフレッドだ!」
たくみに箒を操って振り向いたフレッドは快活に笑って、サムズアップした。
「ブラッジャーは任せろ! 俺がいくらでも打ち返してやるから、ハティはスニッチに集中しろ!」
「わかった、任せて!」
ハティは口早に叫んで箒をくるりと旋回させた。その時だった。箒の柄を握る手からぶるぶると震える振動に、ハティの顔からは血の気がひいていった。
3
フレッドが請け負った通りブラッジャーはスリザリンチームのビーターと絶え間ない応酬を続け、グリフィンドールのチェイサーは順調に点を稼いでいた。試合は滞りなく進んでいるように思われた。ハティの異変をのぞいて。
「ねえ、あれっておかしくないかな? さっきとは全然違う。箒ってあんなに激しく動くものなのかい?」
観客席からハティを仰いでいたハーミスは彼女の箒が暴れ馬のごとく主人を振り落とそうと激しく動いていることに気付き、眉宇を顰めた。
「さっき箒から落ちた時とは全然違う。あの時はまるで箒から力が抜けたみたいにするする落ちていったのに、あれじゃあまるで箒が勝手にハティを振り落とそうとしてるみたい」
「わざと変に動かしてスリザリンの油断を誘っているとか?」
ロニーの観察に対し、アクラムがのんびりと答える。すると隣にいたヒューはアクラムから双眼鏡をひったくり、急いで二つのガラスを覗き込んだ。宙にあるハティをフォーカスして目を凝らし、じわじわとヒューの顔は険しく歪んでいった。
「違う! わざとじゃない! 箒がイカレたんだ!」
「ニンバス二〇〇〇に限ってそんなこと起こる筈がないよ! まだ買ったばっかりなんだよ!?」
ロニーが悲鳴交じりに叫ぶや否や、ヒューは怒号した。「じゃあ、何なんだよ!」
ヒューは勿論、その場にいる誰にも何が原因なのか皆目見当もつかなかった。しかし不意にハグリッドは双眼鏡を覗きこみながらはらはらとした様子で呟いた。
「それか箒に悪さをされたかだな。だけんど、協力な闇の魔法以外箒に悪さはできん筈だが……」
「それだ!」
ハグリッドの呟きを聞くやいなや、ハーミスはハグリッドから双眼鏡を奪い辺りを見渡した。
「スネイプだ! スネイプがハティの箒に闇の魔法をかけてるんだよ!」
ハティは制御の失った箒に必死にしがみ付き、悲鳴をあげた。あんなにハティに忠実に空を滑空していたニンバスが今となってはまるで暴れ馬のように上下左右あらゆる方向に振動し、主人を振り落とそうとしていた。
必死に箒にしがみつきながら、ハティは段々と激しくなるその動きに歯を食いしばった。頭の中をシャッフルされているようだった。箒がぐるぐると旋回を始め、焦燥感と恐怖から柄を握る手に汗が滲んで滑りそうになる。
――あと三分ももたないかもしれない。フリントを地面に叩き落した報いなの!?
視界に涙が滲む。芝生の上で潰れたトマトのようにぴくりともせずに搬送されていったフリントを思い出すと、嘔気が込み上げてきた。落ちれば一巻の終わりである。最悪、首の骨を折って死んでしまうかもしれない。死にたくない、死にたくない、死んでたまるか。なんでこんなことになってるの。
ハティが我が身を嘆いていると、突然箒の動きが鈍くなった。ハティは瞠目し急いで体勢を整えた。周囲を見渡し無意識にスニッチを探す。そして次に地上を見下ろし、一旦安全の為に地面に降りてしまおうか。とハティの中で自己保身の考えが頭をよぎった。しかしその時、ウッドとの約束が耳もとで聞こえた気がした。
――そうだ、約束。ウッドとの約束を守らないと。
はっと気を引き締めた瞬間、再び息を吹き返したように箒が上下に動き出した。ハティは今度こそ宙に放り出された。全ての動きが緩慢に映る中、ハティは咄嗟に箒の柄を片手に掴んだ。相変わらず箒が急浮上や急降下を繰り返していたが、ハティは必死にもう片方の手で何とか柄をつかみ取った。
そうこうしているうちに箒の動きがぴたりと止まった。ハティは恐る恐る箒を仰ぎ、慌てて箒を降下させて跨った。
「なんだったの、今の!」
箒の暴走について怪訝には思ったが、考えている暇はなかった。素早くピッチを一蹴し、すぐにヒッグズを発見しハティは箒を急加速させた。ヒッグズが向かう先はただ一つ、黄金のスニッチであった。
「とりあえずスニッチ!」
黄金色に輝くそれを視界に認めるとハティはすぐさまヒッグズの尻にぴったりとくっつけ、並走するべくスピードをあげた。最初にスニッチを発見した時と、奇しくも反対の構図である。ヒッグズはそんなハティを煩わしそうに一瞥し、すぐに舌打ちをして前を向いたがスピードが上がることはなかった。これが彼の出せるスピードの限界なのだろう。
スニッチは二人を弄ぶように、唐突に軌道を変えたと思うと垂直に空へと舞いあがった。ヒッグズはスニッチの咄嗟の動きに対応できずそのまま前方へ疾走し、まるで見えない壁にぶつかったように急停止をし悪態をついた。一方のハティは冷静であった。そのままスピードを緩めることなく柄を上へと向けてスニッチを追い、箒を上昇させる。徐々にスニッチとハティの距離は縮まりつつあった。
その後を急いでヒッグズが追いかけ、隣に並んだヒッグズが時折肩を接触させる。しかし、ビーターと異なりハティを箒から突き落とす余裕もないのか妨害はなかった。むしろ、ヒッグズもハティもスニッチを捕まえようと必死であった。
ハティは一層スピードを出すべくぎりぎりまで箒の柄に体を倒した。風の抵抗を減らしたことで箒はぐんぐんと空へと舞いあがりヒッグズよりもハティをスニッチに近づけたが、手を伸ばした矢先に再びスニッチは軌道を変えた。今度はまっすぐに地上に向かって降下を始めたのだ。
これではハティよりもヒッグズの方が有利だった。スピードを出していたハティはヒッグズよりも方向の転換に苦労し、ヒッグズに遅れる形で急降下を始めた。観客席では二人のシーカーの接戦に悲鳴と怒号が飛び交っている。
かなりの高さまで舞い上がっていたため、地上までの距離はかなり遠かった。スニッチが地上に逃れるつもりならば急がなければならなかった。ヒッグズと並走していても意味はない。彼の方がリーチが長い分、ハティがヒッグズを追い抜かなければスニッチに手は届かない。
「ハティーー!」
「テレンス! いけー!」
両チームメイトからの応援の声が一瞬聞こえた気がしていたが、びゅうびゅうという風を切る音にそれもすぐにかき消されていく。
――もっと、もっと早く降りなきゃ!
ハティは箒をぐんぐんと加速させた。急激にヒッグズとの距離を埋めたハティは、ついには彼と並んだ。同時にみるみるうちに視界には地面が迫っていた。これは敵シーカーにフェイントをかけるために地面に向かって飛んでいるのではない、目の前のスニッチを捕まえるために飛んでいる以上、どれほど危険であってもひくわけにはいかなかった。
不意に隣から唸り声があがる。視界には地面がいっぱいに広がっていた。ヒッグズの舌打ちが聞こえ、突如として彼の気配が消える。ヒッグズにとってはそこが限界であったのだ。
次の瞬間、ハティは全体重を後方にかけて柄を全力で引き上げた。
「ちっ!」
思わず舌打ちが漏れる。
靴底が地面を擦る。土を抉る感覚に、ハティの背筋に冷たいものが走る。ハティは柄を地面と平行にすると同時に上体を前へと倒し、膝を畳んだ。地面すれすれに箒を疾走させ、スニッチの後を追う。
もう少し、もう少しで手が届く――手を伸ばした瞬間、ハティに左足が地面を擦った。バランスを崩したハティは慌てて前方へと体を倒し、前のめりに箒から落下した。勢いよくごろごろと地面を転がり、ようやくとまったところで四つん這いになったハティは「おえっ」と呻き声をあげて地面にそれを吐き出した。
「スニッチよ! とったわ!」
誤って喉に詰まらせそうになったそれを天高く突き上げた瞬間、ハティの耳にようやく世界の音が戻ってきた。耳をつんざくような怒号や悲鳴が聞こえてきた。
「ハティ・ポッターがスニッチを獲得! 二〇対六〇でグリフィンドールの勝利!!」
リーの実況がピッチ中に響き渡り、歓声が爆発する。
ハティは手の中でもがくスニッチを握りしめながら、そのまま仰向けに芝生に倒れ込んだ。空を仰ぐと散開していたメンバーたちが喜色満面でハティの持ちへ降りてくるのが見えて、ハティは手足を動かして喜びをあらわにした。
「ウッド、わたし正々堂々とやったよ! わたしたちは強いって証明できたよ!」
グリフィンドールチームはついにスリザリンに勝利したのだ。
マクゴナガルが教員席から降りてくるのが見えて、ハティは慌てて起き上がると素早く立ち上がり上官を待つ一兵卒のように背筋を伸ばした。マクゴナガルはハティに駆け寄ると眦に涙を浮かべ、感極まったようにハティを抱きしめた。
「よくやってくれました! 見ましたか!? あなたがスニッチをとったときのセヴルスの顔ときたら!」
集まった他のメンバーにも代わる代わる抱擁を受け、肩や頭を撫でられる。口々に褒めそやされて、ハティは顔を緩ませた。そしてふとウッドがメンバーよりも遠くでハティを見守っていることに気付いた。
ウッドはメンバーの輪から外れて、しげしげとハティを眺めていた。父親の様な、誇らしそうな顔で。
「ウッド……わたしちゃんと約束守ったよ」
「うん、わかってる。立派だった……ハティ、お前は俺たちの勝利の女神だよ。お前はきっとこの先も俺たちに勝利を齎してくれる」
そう言って、ウッドは長い腕を伸ばしてアンジェリーナごとハティを抱きしめた。アンジェリーナが怪鳥のような声をあげて身をよじらせていたが、ハティはまったく嫌ではなかった。それはハティが人生の中で初めて自分の能力が人や社会に貢献できるものだと知ったからである。
その日は間違いなく人生最良の日の一つであった。