全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
お昼ちょっと前。獣人街の門前に引きずっていくと、既に俺達以外は集合していた。
「姉さん! 一体全体何を考えてるんだ!」
バカ姉の頭に落ちる弟のゲンコツ。
「痛い! アーザックがぶったニャ! 姉に手を上げるとはちょーよーのじょにももとる行為ニャ!」
長幼の序。儒教の言葉で年下は年上に従えと言う意味である。
日本から伝わったにしろよくそんなこと知ってたな、このアーパーザル女が。
「オーケー、なら母さんにこの一件全部伝えて判断して貰おうか」
「弟様、愚かな姉をお許し下さいだニャ! 母ちゃんだけは勘弁!」
ノータイムで土下座するダメ猫である。
その場にいる人間は揃って頭痛をこらえるような顔。
いつものことらしく、門番二人組だけが苦笑していた。
「いやあ、娘のためにわざわざすいません」
「本当にありがとうございます。粗茶ですがどうぞ」
いえいえ、頂きます。
湯飲みで出された香草茶をすすり、ほうと一息。
茶葉は安物だが、淹れ方がうまいな。
今俺達は時代劇の長屋に似た、集合住宅の一室にいた。
入口に土間と台所があって、靴を脱いで上がる板間があって、その奥に寝室らしい板間がもう一つ。
いやこれ畳がないだけで本当に時代劇の長屋だな!?
「獣人に転生したオリジナル冒険者族の大工が伝えた様式だそうですよ。
獣人はきれい好きですから、靴を脱いで上がるこの形が性にあったんでしょう」
教えてくれたのは小太りでおっとりした顔立ち、娘と同じ髪のインコ獣人のお父さん。
「この人はねえ、芸人一座の出で、今は芝居小屋で脚本を書いてるんですよ。
その芝居にアタシが感動しちゃって、楽屋に押しかけたのがなれそめでして」
堂々とのろけるのはワイルドで年齢不詳美人な猫獣人のお母さん。
ちなみに有力者の娘で、結婚する時はかなりの騒動になったらしいがそれはさておく。
「それで、ティルをこの家でかくまうって話ですか?」
「いや、それはコスタ先生のところにお願いするって話だったでしょ。
あの人お酒飲まないから、どうせこのバカ娘が酒飲みたがって抜け出したのよ」
「ひっ!?」
じろり、と睨まれて硬直するダメ猫である。
お母さんはお見通しらしい。
ちなみにコスタ先生というのはアーザックの直接の上司で、自警団の幹部の猿獣人。
学者肌の人で普段は寺子屋の教師もやってて、姉弟の恩師でもあるそうな。
まあ今日は事情のご説明と言うことで。場合によってはお二人に火の粉が飛んで来かねないので伝えておく必要もあるかと。
そのへんはどうだ、アーザック?
ティルはそのコスタ氏のところで檻にでも入れておくとして、おやじさんとおふくろさんの安全も考えないといけないと思うが。
「そうだな・・・母さんの実家、じいちゃんのとこに頼むのはどうだ? さすがにこう言う状況なら受け入れてくれるんじゃねえか」
「それしかないかしらねえ。気が重いけど」
溜息をつくお母さん。
「僕の方がよっぽど気が重いよ。お義母さんはともかく、お義父さんは挨拶に行くと今でも睨んでくるし」
大変やなあ・・・。
「そう言えばカエラ様もロビン様のご実家であるガニア工房にまだご挨拶に行ってなかったかと思うのですが」
いやあ、忙しいからなあ。
手紙は出しておいたからそれで勘弁して貰おう。
「カエラちゃんって時々クズだよね」
「ですねー」
ええい、うるさい。
手早く荷物をまとめてご両親は実家に避難していった。
念のために実家の前まで同行してから、今度はアーパーネコ娘を連れてコスタ氏の家に。
ちなみにお父さんは「お前の顔など見たくもないが、孫たちが玄関先まで来てたならどうして連れてこない!」と怒られたらしい。複雑な祖父心である。
「おお、ティルくん! 無事だったか! 心配したぞ!」
声をかけるとすぐに扉が開き、学者風のダンディな男性が現れた。
確かにちょっと猿っぽいが、それが気にならないくらい理知的な風貌だ。
「す、すいませんニャ・・・」
さすがに後ろめたいのか、アル猫が縮こまる。
「それじゃあ先生、後はお願いします。
姉さん、今度先生の家を飛び出すようなら・・・わかってるな?」
「わ、分かってるニャ! だからかーちゃんだけは勘弁ニャ!」
「よし」
ブルブルッ、と猫がやるように体を震わせるティル。
まあ懲りてくれたならいいが・・・
「あ、でも今度来た時『ネバーランド』の密造酒買って来てくれないかニャ?
酒があれば絶対外に出たりはしないニャ!」
「この馬鹿姉があっ!」
次の瞬間、アホな姉は弟のカラテチョップを脳天に食らって大地に沈んだのであった。
いいか、ジューニャ? アレが明日のお前の姿だぞ。
「わ、私あそこまでひどくありませんから!」
お前は何でもよく知ってるが、自分についてだけは無知だな。
「ないない、なんだよ」
「まあこの手の奴は飲ませないのが一番だ」
「正直何でそこまでしてお酒を飲むのか分かりません・・・」
「よろしければ鏡をお貸ししましょうか、ジューニャ様?」
「いりませんよぅ!」
集中砲火を食らったジューニャが涙目で抗議したが、誰も聞いていなかった。
その後、俺達は連絡役にヒョウを置いて自警団の本部に向かっていた。
しかしアーザック、あの先生はけっこう強いしヒョウも腕利きだが、ティルは俺達と一緒に連れてこなくて良かったのか?
「先生以外にも俺の同僚が詰めてくれてるし、まあ大丈夫だろう。
いけ好かないヤローではあるがね」
そう言いつつも口元が緩んでる辺り、仲良く喧嘩しな的間柄と見た。口には出さないが。
まあ獣人街なら端から端までヒョウとレイの「双子の加護」が有効だからそこは大丈夫だろう。
時速180km、秒速50mで走れる俺達からすれば、ごちゃごちゃした町並みを駆け抜けるとしても、自警団本部からコスタ先生の家まで一分かからない。
よほどのことがない限り間に合うはずだ。
「ん」
アーザックが足を止めた。
視線の先には、殺気立った若者達の一団。それがそれぞれ十数人ほどのグループに分かれてにらみ合っている。
良く見れば片方は猫科の動物の耳を持っていて、もう片方は首筋に鳥の羽毛が見える。
「くそ、またか。ちょっと待っててくれ」
忌々しそうに溜息をつき、アーザックが割って入った。
「おら、道の真ん中で何やってんだ! 迷惑だ、さっさと解散しろ!」
両手を広げて追い払おうとするが、彼の顔を見た途端に双方が猛反発した。
「うるせえな裏切者!」
「混ざりものは黙ってろ!」
ピクッ。
「俺が何者だとかそういうのはどうでもいいんだよ! お前らだけなら怪我しようと死のうと知ったこっちゃねえが、この前も巻き添えで怪我人出しただろうが!
獣人の仲間に迷惑かけて悪いと思わねえのか!」
はっ、と猫側のリーダーらしい奴が鼻で笑った。
「仲間ぁ? 俺達の仲間は猫の氏族だけさ。犬コロや鳥頭どもなんぞどうでもいいね!
そう言う訳だからてめえは黙ってろよ、ニワトリネコ!」
「ははっ、ニワトリネコとはいいあだ名だな! そこんとこだけは同意してやるよ、猫ども!
おら、混ざりものは家に帰って淫売の姉ちゃんのスカートにでも隠れてな!
てめえにはそれがお似合いだ!」
「あいつ体だけはいいからな! 金に困ったら買ってやるよ! いくらだ、ああん!」
びきり、とアーザックのこめかみに血管が浮くのが見えた。
「そうかよ・・・お前らどうあっても痛い目に会いてえらしいな・・・あ?」
そこで後ろからアーザックの肩を叩いたのは俺。
なあ、事情は分からないが自警団のお前が手を出すのはまずいだろ。
ここは任せておけ。
「いやしかし、これは獣人街の話で・・・」
友達侮辱されて黙ってたらそいつは男じゃない。もちろんサムライでもない。
いいからちょっとみんなのところまで下がってて貰えるか。
「・・・わかった」
大人しく下がるアーザックを確認して、俺は両集団の中心に立ち、両者を見渡す。
いかにも暇と力を持てあました馬鹿な若者って感じだな。
「人間風情が何しゃしゃり出てきてんだ」
「怪我しないうちにとっとと・・・」
相手の口上を無視し、にっこり笑うと俺は右足を高く上げた。
「あん・・・?」
ガイア・インパクトォ!
地面から吹き出したパワーゲ○ザーによって、理由なき反抗していたチンピラどもは全員空高く吹っ飛んだ。
ティル・アーザック姉弟の母親は、ヒロアカの爆轟のかーちゃんのイメージで一つ。旦那さんは黄泉のツガイの波久礼ヒカル先生。
>理由なき反抗
ジェームズ・ディーン主演の青春映画。
行き場のない怒りを抱えた若者たちの物語。