百一
宇宙暦七九六年六月十八日、午後八時三十分。
イゼルローン回廊、同盟側中間地帯。旗艦《ヒューベリオン》、艦橋。
ヤン・ウェンリー少将は、指揮席で観測図を見ていた。
駐留艦隊主力は、要塞への帰還機動に入っていた。要塞外縁に到達するまでは、まだ数時間ある。その数時間のうちに、《エクリプス》は要塞の管制圏に入り、エッシェンバッハとして自らを名乗ることになる。
「別働隊所属の電子戦艦、配置完了の報告です」
グリーンヒル中尉が、通信端末から振り返った。
「妨害は」
「先ほど発信を開始しました。要塞とゼークト艦隊主力の通信経路上で、断続的な妨害波を出しています」
ヤンは頷いた。
「妨害は、どこまで切れている」
「三割から四割程度は、依然として通ってしまっています。帝国軍側の対電子戦防御が機能しており、これ以上の遮断は困難との報告です」
「結構」
ムライ参謀長が、観測図の向こう側からヤンを見た。
「閣下、よろしいのですか。要塞側にも三、四割は通っている計算になりますが」
「構わない」
ヤンは、紅茶のカップを手に取った。まだ温かかった。
「完全に切れていれば、それはそれで助かったかもしれない。けれど、完全に切れれば、要塞側は異常事態として全面警戒に入る。断続的な不調に留まっていれば、『宙域の電磁環境のせいか、ゼークト艦隊の機器の問題か』という範囲で処理してくれる。——切れないなら切れないで、その方がむしろ、こちらの偽装の物語と噛み合う」
ムライは、短く頷いた。
「《エクリプス》の状況は」
「既に船団から分離しました。現在、単独で要塞方向へ進んでいます。艦首の『エッシェンバッハ』の塗装も、先ほど完了の報告が入っています」
「結構」
ヤンは、紅茶を一口飲んだ。
観測図の上では、《エクリプス》——いや、もうすぐエッシェンバッハと呼ばれる艦——が、要塞方向へ向かう単独の印として表示されていた。ここから先、あの艦の動きはヤンの指揮系統の外で進む。要塞の正門へ向かう通信員も、帝国軍の制服を着た二十四名も、ヤンの手元から離れた場所で動き始めていた。
「ここから先は、シェーンコップ大佐の領分だね」
ヤンは、誰に言うともなく呟いた。指揮席の紅茶のカップを、一度だけ置き直した。
グリーンヒル中尉は何も言わずに、別の通信端末へ戻った。ムライ参謀長は観測図に視線を戻した。艦橋には、それ以上の言葉はなかった。
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百二
同日、午後十時三十分。
イゼルローン要塞、司令部執務室。
トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将は、机の上に広げられた通信記録を見ていた。
ゼークト艦隊主力との定期通信が、先ほどから不安定だった。三十分前の定時報告は届いた。ただし一部の数値が欠けていた。十五分前の確認通信は、半分も届かなかった。今しがたの再送要求への応答は、まだ来ていない。
扉がノックされた。
「入れ」
副官が、データパッドを手に入室した。
「管制室からの追加報告です。ゼークト艦隊主力との通信は、依然として不安定です。艦隊側の機器故障か、宙域の電磁環境の問題か、現時点では特定できていません」
「艦隊側は、こちらの再送要求を受け取っているのか」
「受け取っている形跡はあります。ただし、応答が届く前に何度か途切れています」
シュトックハウゼンは、指先で机の縁を一度だけ叩いた。
ゼークトが何をしている、と、シュトックハウゼンは内心で呟いた。哨戒を薄くして出撃し、帰還中に通信すら満足に回せないとは。あの男は、自分の艦隊を自分の私物のように動かす割には、こういうところが粗い。
しかし、苛立ちを口に出す相手ではなかった。副官への指示だけに限定する。
「通信不調の原因を特定しろ。艦隊側の問題か、環境要因か。どちらであっても、こちらから打てる手があるなら打て」
「承知いたしました」
「他に」
副官は、データパッドの画面を一度だけ下へスクロールさせた。
「観測網の外縁に、小規模な艦影を確認しました。帝国軍艦の識別信号を発しています」
シュトックハウゼンの指先が、机の縁で止まった。
「艦影の規模は」
「駆逐艦一隻と推定されます。単独航行です」
「単独で、か」
「はい。接近軌道から判断して、要塞方向への進出を意図しているように見えます」
シュトックハウゼンは、机の上の通信記録から視線を上げた。ゼークト艦隊との通信が不調になった時間帯と、艦影が観測された時間帯が、重なっていた。
「艦隊主力との通信が満足に回らない中で、艦隊所属の艦が一隻、単独で要塞に近づいている。——戦闘で切り離されて、合流できないまま、要塞に退避しようとしているのか」
「その可能性が、現時点では最も妥当と思われます」
シュトックハウゼンは、椅子の背にもたれた。天井を一度だけ見上げ、それから視線を戻した。
「痛い目に遭って戻ってくるがいい」
声は低かった。独り言として、執務室の空気の中に落ちた。ゼークトに向けられた言葉だった。ゼークト艦隊が哨戒を薄くして出撃し、その結果として一隻の駆逐艦が落伍する——それ自体は、ゼークトの判断の粗さの帰結であって、駆逐艦の乗員に責任があるわけではない。駆逐艦の乗員は、艦隊司令官の判断に従っただけだ。
シュトックハウゼンは、独り言を漏らしたこと自体を、短く意識した。執務室には、自分と副官しかいなかった。副官は耳が堅い。それ以上の配慮は不要だった。
「接近中の艦と交信を試みろ。要塞管制として対応する」
「承知いたしました」
副官が退室した後、シュトックハウゼンは観測図を机の上に引き寄せた。駆逐艦一隻の印が、要塞に向かって、ゆっくりと進んでいた。
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百三
同日、深夜二時四十分。
鹵獲帝国軍駆逐艦エッシェンバッハ、艦橋。
ワルター・フォン・シェーンコップ大佐は、艦長席で前方スクリーンを見ていた。
要塞の管制圏に進入してから、一時間が経過していた。艦首に塗り直された「エッシェンバッハ」の名は、外部観測からも確認できる状態にある。艦体の外装には、機関部付近を中心に損傷跡が刻まれている。マルタン大佐の部署が組み立てた筋書きと矛盾しない傷だった。
通信員が、耳のレシーバーを押さえた。
「要塞管制から呼びかけです。——『帝国軍艦、識別信号を明示せよ』」
シェーンコップは、指先で艦長席の肘掛けを一度だけ叩いた。
「返信しろ」
シェーンコップは、事前に用意された応答文を通信員に口授した。
「『帝国軍駆逐艦エッシェンバッハ、所属は駐留艦隊第七分艦隊、戦闘で損傷。主力艦隊との通信不能により、要塞への退避を要請する』」
通信員が、指示どおりに発信した。帝国式の無線手順に従った応答だった。マルタン大佐の部署は、帝国軍の通信規程を細部まで押さえていた。
艦橋には、数秒の沈黙が落ちた。
「管制から追加の呼びかけです。——『被害状況、戦闘の経過、乗員の人数と状態を報告せよ』」
来たか、とシェーンコップは内心で受け止めた。質問の順序は、事前に想定した通りだった。
「続けろ」
シェーンコップは、二つ目の応答文を口授した。
「『機関部および反重力制御部に重大な損傷を負い、爆発の危険があったため、艦長判断により乗員の大半を救命ポッドで脱出させた。救命ポッドは艦隊の別艦に収容されたはずだが、現時点で確認は取れていない。艦を要塞まで持ち込むため、最小限の人員として二十四名が艦に残留している。戦闘の経過は、哨戒任務中に回廊内で同盟軍の小規模部隊と遭遇、交戦の後、艦隊主力との合流に失敗、単独で撤退中に今に至る』」
通信員が発信した。艦橋の他の乗員は、誰も動かなかった。動かない方が、艦橋の空気を制御できる。
ブルームハルト中佐が、シェーンコップの背後に立っていた。敬礼の姿勢ではなく、副官として傍らに控える姿勢だった。その呼吸の深さが、一度、短くなった。シェーンコップはそれを横目で確認したが、特に何も言わなかった。歴戦の中佐がこの種の局面で息を詰めるのは、彼の慎重さの表れだった。
沈黙が、長かった。
通信員のレシーバーから、かすかに音が漏れた。通信員は一度だけシェーンコップの顔を見てから、耳を傾け直した。
「管制からの応答です。『了解。所属登録を照合中。しばらく待て』」
「結構」
シェーンコップは、それだけ言った。
照合は、数分で終わるはずだった。マルタン大佐の部署が、駐留艦隊の編成記録に矛盾しない艦番号を整備している。第七分艦隊の所属艦リストにエッシェンバッハの名が照合可能な形で入っているかどうか——これは、同盟軍情報部が拿捕以来蓄積してきた帝国軍の内部資料と、潜入作戦のための事前工作の両方に依存する問題だった。シェーンコップの指示できる範囲の外だった。
指示の外にあるものについて、考えても仕方がない。シェーンコップは、艦長席の肘掛けから指を離し、前方スクリーンを見た。要塞の外壁が、スクリーンの遠くに映っていた。まだ遠い。しかし、近づいていた。
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同日、深夜二時五十五分。
イゼルローン要塞、司令部執務室。
副官が、データパッドを手に入室した。
「管制からの中間報告です。接近中の駆逐艦、艦名はエッシェンバッハ。駐留艦隊第七分艦隊所属として登録があります。艦番号、認証コードとも、艦隊の編成記録と矛盾はありません」
シュトックハウゼンは、机の上の観測図に視線を落としたまま、短く尋ねた。
「被害の申告は」
「機関部と反重力制御部の損傷により、乗員の大半を救命ポッドで脱出させ、二十四名だけが艦に残留しているとのことです。救命ポッドの行方は、通信不良で確認不能」
「二十四名か」
シュトックハウゼンの指先が、机の縁を叩いた。
駆逐艦の乗員定数は百名を超える。そのうち二十四名しか残っていないというのは、通常の運用からは離れた数字だった。しかし、機関部が爆発の危険にあるという前提なら、艦長が乗員の大半を救命ポッドで脱出させる判断は、帝国軍の駆逐艦運用規程に照らして適正だった。規程上は認められた判断だ。
ただし——と、シュトックハウゼンは思った。規程上適正な判断ができる艦長が、その艦隊にいた。そして、その艦隊の司令官は、哨戒を薄くして出撃した結果、通信すら満足に回せない状態を作った。艦長の判断の質と、司令官の判断の質は、全く別のところにあった。
「ゼークトの愚か者が」
シュトックハウゼンは、低く呟いた。副官は、データパッドの画面を見たまま、聞こえないふりをした。
「味方を放っておいて、何をしている」
呟きは、そこで切れた。これ以上の言葉は口にしない、と、シュトックハウゼンは自分に言い聞かせた。呟きの後、机の縁を叩いていた指が、静かに戻された。
駆逐艦の乗員二十四名は、艦隊司令官の判断に従った結果、今、要塞の正門の前にいる。彼らは味方だ。味方の負傷艦を、通信不調を理由に外で待たせるのは、要塞司令官のすることではない。
「入港を許可する」
シュトックハウゼンは、短く指示した。
「第三ドックを割り当てろ。艦の技術的評価と乗員の身元確認は、通常の手順で進めろ。医療処置が必要な者がいれば、医務室へ。艦長と上級士官は、被害報告のためにブリーフィングルームへ呼び出せ」
「承知いたしました」
副官が退室した。
シュトックハウゼンは、観測図の上に指先を置いた。駆逐艦一隻の印が、第三ドックへ向かって、ゆっくりと進路を変えていった。その動きの向こう側で、ゼークト艦隊主力はまだ要塞周辺の哨戒線を埋め戻せていない。通信も回復していない。いつもの要塞とは違う、歪んだ夜だった。
しかし、この歪みを作っているのは、帝国側の組織の問題だった——自分はそう整理していた。
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百四
同日、午前四時十五分。
イゼルローン要塞、第三ドック。
エッシェンバッハの接舷は、静かに完了した。
要塞側からは、入港管理官一名と、その補助員数名が乗艦してきた。医療班は、ドックの外で待機している。技術部門の評価担当の乗艦は、艦の状態の一次確認と乗員の身元照合が済んでからの段取りだった。現時点ではまだ呼び出されていない。
「帝国軍駆逐艦エッシェンバッハ、艦長代理、ハインリッヒ・ブランデル少佐」
シェーンコップは、そう名乗った。偽造IDカードに記された名前だった。マルタン大佐の部署が用意した設定では、ハインリッヒ・ブランデルは駐留艦隊第七分艦隊所属の少佐で、戦闘中に艦長が重傷を負ったため、副長として艦を指揮して退避中、ということになっていた。
入港管理官は、シェーンコップの胸のIDを確認し、頷いた。
「艦長代理閣下、お疲れ様です。まずは艦の状態の一次確認を行います。次に乗員の身元照合、負傷者の医療処置、そして艦長代理閣下と上級士官の被害報告となります」
「承知した」
シェーンコップの声は、帝国軍の少佐としての抑制された調子に自然に収まっていた。ローゼンリッター連隊長として培った声の使い分けは、帝国貴族出身者としての出自に支えられていた。言葉の選び方、敬語の距離感、帝国軍式の語尾の扱い——これらは意識せずに出てくる。生まれてからの十数年間を過ごした言語の層が、亡命者となった後も、底の方に残っていた。
乗員の身元照合は、一人ずつ進められた。二十四名全員の偽造IDが、次々に要塞側の端末に差し込まれ、照合された。マルタン大佐の部署が用意した身元データは、駐留艦隊の乗員登録データベースと矛盾しないよう、精巧に組み上げられていた。照合を通過するたびに、入港管理官の補助員が記録にチェックを入れていく。二十四名全員の照合に、十五分ほどかかった。照合途中で詰まった者はいなかった。
負傷者——偽装のために軽傷を負った隊員数名——については、医療班が艦内で簡易確認を行った。いずれも搬送を要するものではない、と処理された。医務室に送られる者は出なかった。
シェーンコップとブルームハルト中佐は、被害報告のため、第三ドック付近のブリーフィングルームへ呼び出された。
ブリーフィングルームには、要塞側の情報参謀が二名と、記録係一名がいた。シュトックハウゼン自身は来なかった。当然だった。要塞司令官が駆逐艦一隻の被害報告を直接聞きに来ることは、通常の手順には含まれない。
情報参謀の質問は、マルタン大佐の部署が想定した順序で進んだ。艦隊の配置、交戦の経緯、被害の詳細、乗員脱出の判断、救命ポッドの方向、通信途絶の状況——全て、シェーンコップは事前に暗記した回答を、淀みなく述べた。ブルームハルト中佐は、シェーンコップが答えるのに合わせて、副長としての確認の頷きだけを返した。副長には、細かい質問に答えるための事前情報を、あえて与えていなかった。知らない部下が口を開かないことで、矛盾が生じる余地を減らす設計だった。
ブリーフィングは、三十分足らずで終わった。
「艦長代理閣下、ご協力に感謝します。艦の整備が完了するまで、乗員は艦内でお待ちください。技術部門の当番中佐が、まもなく反重力制御系統の状態確認のために乗艦します。制御系統の中央評価が済むまでは、艦内に留まっていただくのが手順です」
「承知した」
シェーンコップは、それだけ言った。
ブリーフィングルームを出た後、シェーンコップとブルームハルトは、要塞内の通路を戻った。通路は、深夜の静けさの中にあった。要塞の人工照明は、夜モードで抑えられていた。
艦に戻る途中、ブルームハルトが横目でシェーンコップを見た。ほんの一瞬だった。何か言いたげな目だった。しかし、口には出さなかった。シェーンコップも、何も言わなかった。
第三ドックに戻り、エッシェンバッハの艦長室に入った。艦長室は、駆逐艦の艦長室として標準的な広さの、質素な一室だった。机が一つ、椅子が二脚、奥にベッド。それだけだった。
ブルームハルトが、扉の前で立ち止まった。
「大佐。——技術中佐が乗艦するまで、部下の配置の確認を」
「任せる」
ブルームハルトは敬礼し、艦長室を出ていった。扉が閉まった。
シェーンコップは、一人になった艦長室で、机の奥の椅子に座った。椅子は、帝国軍の標準的な艦長室の椅子だった。背もたれの角度も、座面の硬さも、十数年ぶりの感覚だった。
技術中佐が乗艦するまでに、あと何分かかるか。シェーンコップはそれを計算しなかった。ここまで来れば、待つこともまた作戦の一部だった。
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百五
同日、午前五時二十分。
鹵獲帝国軍駆逐艦エッシェンバッハ、艦長室。
扉がノックされた。
「入れ」
シェーンコップは、机の向こう側から声を出した。声は、ハインリッヒ・ブランデル少佐のものだった。
扉が開いた。入ってきたのは、帝国軍の技術部門の制服を着た中佐と、同じく技術部門の下士官一名だった。
「要塞技術部門、反重力制御担当。カール・シュナイダー中佐です」
中佐は、帝国軍式の敬礼をした。シェーンコップは、机の向こうで、少佐としての答礼を返した。
「ハインリッヒ・ブランデル少佐。艦長代理を務めています」
シェーンコップの視線が、シュナイダーの顔、階級章、名前の記された胸章を、順に確認した。四十代後半の男だった。顔つきは地味で、目立つところのない、どこの部署にもいそうな技術士官だった。
シュナイダーも、シェーンコップの顔と胸のIDを見た。視線の動きは短く、事務的だった。
「少佐閣下、お疲れのところ恐縮です。反重力制御系統の被害評価のため、機関部および艦橋の制御系の確認を実施いたします」
「承知した」
シェーンコップは、机の上に両手を置いた。
シュナイダーは、同行下士官の方を向いた。
「君は、機関部の被害箇所を先に見ておけ。外部損傷の目視確認と、一次記録の作成だ。中央制御系統の評価は、艦長立会いのもとで確認する。そちらの記録が済んだら、機関部の奥の方も確認しておくように」
「はい、中佐殿」
下士官は敬礼し、艦長室を出ていった。扉が閉まった。
艦長室には、シェーンコップとシュナイダーの二人だけになった。
短い沈黙が落ちた。
シュナイダーは、机の上にデータパッドを置いた。置いた動作は、職務的な確認作業を始める準備として、自然に見えた。
「——最近、補給の回りが悪いですな」
シュナイダーは、データパッドの画面を操作しながら、世間話のような調子で口を開いた。
シェーンコップは、机の向こう側から、同じ調子で返した。
「前線では、もっと悪いと聞いています」
シュナイダーの指が、データパッドの画面の上で一度だけ止まった。
短い視線が、別の意味を帯びて重なった。
シュナイダーが、ほんのわずかに頷いた。シェーンコップも、同じ幅で頷き返した。
部屋の外では、要塞の人工照明が、夜モードから朝モードへ切り替わる時刻が近づいていた。艦長室の小さな舷窓から、切り替わり始めた光の薄い端が、机の端に差し込んでいた。
シェーンコップは、机の上の両手を、ほんの少しだけ緩めた。
ここから先は、別の話だった。