深淵の門—銀河英雄伝説異聞   作:でてこ@子(dc1394)

28 / 28
第二十八話「帰還」

百四十四

宇宙暦七九六年七月十三日 ハイネセン・首都の大通り

 

 地上車の窓の外で、街は沸いていた。

 

 ヤンは後部座席に座り、窓の外を流れていく光景を黙って見ていた。運転は、当番の兵が務めている。統合作戦本部から官舎までの、短い道のりだった。

 

 大通りには、人が出ていた。建物の壁面に設置された大型のスクリーンに、ニュースが流れている。イゼルローン要塞の遠景。トゥールハンマー無力化の図解。帰還した艦隊を讃える言葉。

 

 スクリーンの下に、人々が集まっていた。

 

 信号で車が停まったとき、ヤンの耳に、その声が届いた。

 

 「ヤン・ザ・マジシャン!」

 

 誰かが叫んでいた。若い男の声だった。それに、別の声が続いた。

 

 「魔術師ヤンだ! 要塞の主砲を、味方を一人も死なせずに沈黙させた!」

 

 「アスターテでも、艦隊を救った男だ!」

 

 人々は笑っていた。昼間から酒場の前で乾杯している者たちがいた。子供が、親の肩の上で小さな旗を振っていた。

 

 スクリーンの中で、ニュースキャスターが明るい声で告げていた。トゥールハンマー無力化は、同盟の輝かしい勝利である、と。長く帝国に押され続けてきた戦線で、ついに同盟が、決定的な一手を打った、と。

 

 ヤンは、窓の外のその光景を、表情を変えずに見ていた。

 

 車内には、ヤン・ウェンリーという当人がいた。だが、窓の外の人々は、そのことを知らなかった。彼らは、スクリーンの中の偶像に向かって歓声を上げていた。

 

 信号が変わり、車が動き出した。歓声は、後方へ遠ざかっていった。

 

 ヤンは、座席に背を預けた。

 

 彼の中にあったのは、喜びではなかった。

 

---

 

百四十五

 

宇宙暦七九六年七月十三日 ハイネセン・官舎へ向かう車内

 

 車は大通りを抜け、官舎街へ向かう道に入った。歓声は、もう聞こえなかった。

 

 ヤンは、窓の外を見ながら考えていた。

 

 市民が熱狂するのは、自然なことだった。アスターテの敗北以来、同盟は明るい報せに飢えていた。トゥールハンマー無力化という言葉は、長く重かった空気に、はじめて開いた窓のように聞こえたのだろう。

 

 だが、ヤンには、その熱狂が別のものにも見えていた。

 

 市民の歓声は、政治家にとって力になる。力になれば、使われる。トリューニヒトはすでに記者会見で、今回の作戦を政府の成果として語っていた。市民が次の勝利を望めば、政治家はそれに応える。政治家が応えれば、軍に命令が降りてくる。

 

 ——次は駐留艦隊を叩けば、軍事バランスは一気に均衡する。

 

 シトレが伝えた、強硬派の声。まだ、紙になっていない声。だが、市民がこれだけ熱狂すれば、その声は、容易に紙になる。

 

 そして、その作戦を実行する指揮官として、最も期待されるのは、車の後部座席に座るこの自分だった。

 

 ヤンは、窓ガラスに映る自分の顔を、見るともなく見ていた。

 

 彼らは善意で「魔術師ヤン」を讃えている。その善意が、別の場所で、別の誰かの命を動かす力になる。彼らは、それを知らない。

 

 車は、官舎街の静かな通りに入った。

 

 大通りの喧騒が嘘のように、そこは午後の光の中で静まり返っていた。街路樹の影が、舗道に落ちていた。

 

 ヤンは、ふと息を吐いた。

 

 熱狂の只中にいるよりも、この静けさの方が、彼には馴染みがあった。歴史の本を開き、紅茶を淹れ、誰にも急かされずに考える時間。彼が本来望んでいたのは、そういう時間だった。

 

 車が、官舎の前で停まった。

 

 「お疲れさまでした、提督」

 

 運転の兵が言った。

 

 「ありがとう。助かったよ」

 

 ヤンは、車を降りた。

 

---

 

百四十六

 

宇宙暦七九六年七月十三日 ハイネセン・ヤンの官舎

 

 玄関の扉を開けると、廊下の奥から足音が聞こえてきた。

 

 「ヤン提督」

 

 ユリアンだった。

 

 彼は小走りに近づいてきて、ヤンの前で立ち止まった。十四歳の少年の表情には、はっきりとした安堵があった。

 

 「ただいま」

 

 ヤンは言った。

 

 ユリアンは、ヤンの軍服を見た。それから、顔を見た。彼が確かめていたのは、階級章ではなかった。ヤンが無事に帰ってきたかどうかだった。

 

 「お帰りなさい」

 

 ユリアンは言った。

 

 ヤンは軍帽を脱ぎ、上着のボタンを外した。長い任務だった。準備、出撃、撤退、報告、辞令。その間、彼はずっと艦隊司令官であり、同盟軍の将官であり、いつの間にか街の中では「魔術師ヤン」だった。

 

 だが、この玄関で、彼はただ帰ってきた人だった。

 

 廊下の奥から、鍋の匂いが、かすかに漂ってきた。ヤンの留守の間、ユリアンが官舎の家事を引き受けていたのだろう。

 

 「夕食は」

 

 ヤンが聞いた。

 

 「もうすぐできます。今日は、煮込みです」

 

 ユリアンは、台所の方を指して言った。

 

 ヤンは、上着を玄関脇の椅子の背にかけた。

 

 「街は、すごい騒ぎだったよ」

 

 靴を脱ぎながら、彼はぽつりと言った。

 

 「ニュースで見ました」

 

 ユリアンは答えた。

 

 「『魔術師ヤン』って、みんな言っていました。要塞の主砲を沈黙させた、すごい提督だって」

 

 ヤンは、靴を脱ぐ手を一瞬だけ止めた。

 

 ユリアンの声には、誇らしさがあった。自分が暮らしている家の人が、街中で讃えられている。十四歳の少年にとって、それは素直に嬉しいことなのだろう。

 

 ヤンは顔を上げて、ユリアンを見た。

 

 この少年に、何を言えばいいだろう。トゥールハンマー無力化の裏に、誰にも知られない一人の死があったこと。歓声が次の作戦を呼ぶかもしれないこと。その作戦で、今度はもっと多くの人間が死ぬかもしれないこと。

 

 それらのことを、ヤンは言わなかった。

 

 「すごい、かどうかはね」

 

 ヤンは、少し笑って言った。

 

 「たくさんの人が、それぞれの仕事をきちんとやってくれた。僕は、その人たちの上に座っていただけだよ」

 

 ユリアンは、その答えに少し不満そうな顔をした。

 

 「でも、提督が指揮したから、勝てたんでしょう」

 

 「指揮官は、勝った時は讃えられて、負けた時は責められる。それだけのことさ。今回は、たまたま讃えられる側だった」

 

 ヤンは居間に入り、ソファに腰を下ろした。ユリアンが後をついてきた。

 

 居間の窓からは、官舎街の静かな通りが見えた。大通りの歓声は、ここまでは届かない。

 

 長く張り詰めていたものが、その瞬間、少しだけ緩んだ。

 

 「提督」

 

 ユリアンの声がした。

 

 「紅茶を淹れますか。夕食の前に」

 

 ヤンは、しばらく答えなかった。それから、静かに言った。

 

 「ああ。頼むよ」

 

 ユリアンが台所へ向かった。

 

 ヤンは、ソファに座ったまま、窓の外の静けさを見ていた。やがて、湯を沸かす音が聞こえてきた。その、ありふれた生活の音を、ヤンは聞いていた。

 

 街では、人々が「魔術師ヤン」を讃えている。だが、今この瞬間、彼はその偶像から最も遠い場所にいた。十四歳の少年が淹れる紅茶を待つ、一人の帰宅した人間だった。

 

 ユリアンが戻ってきた。手には、湯気の立つカップがあった。

 

 「どうぞ」

 

 ヤンは、そのカップを受け取った。

 

 「ありがとう」

 

 紅茶は、温かかった。

 

---

 

百四十七

 

宇宙暦七九六年七月十四日 ハイネセン・捕虜収容施設

 

 ゼーフェルトは、収容棟の個室の窓辺に立っていた。

 

 窓の外には、ハイネセンの街の一角が見えた。捕虜収容施設は首都の中心から離れていたが、それでも街のざわめきの端は、ここまで届いていた。

 

 帝国軍首都哨戒部隊指揮官、ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼーフェルト大佐。五十代半ばの叩き上げの軍人は、オーディン近傍で哨戒任務に就いていたあの日、突然出現した暗黒の構造体に呑まれ、気がつけばハイネセン近傍にいた。同盟首都防衛艦隊に包囲され、彼は降伏した。

 

 それから、四か月近くになる。

 

 窓の外の街は、数日前から様子が違っていた。

 

 遠くの建物の壁面に、大型のスクリーンが見えた。そこに、繰り返し同じ映像が流れている。要塞らしき球体の遠景。艦隊。そして、祝賀の言葉。音声はここまで届かないが、街を行く人々の足取りや、広場に集まる人だかりから、何かの戦勝に沸いていることは分かった。

 

 ゼーフェルトは、その光景を黙って見ていた。

 

 昼の食事を運んできた看守の一人が、簡単な帝国語で教えてくれた。同盟軍が、帝国の要塞の主砲を、味方を一人も死なせずに沈黙させた。指揮したのは、「魔術師ヤン」と呼ばれる提督だ、と。

 

 ゼーフェルトは、何も答えなかった。

 

 以前の彼であれば、街の様子について問い返していたかもしれない。だが、今の彼は問わなかった。

 

 四か月前、捕虜になった最初の夜、彼は看守に向かって一言だけ漏らしたことがあった。「戦争はやりにくくなるかもしれんな」——それだけの、独り言のようなものだった。

 

 だが、その一言は、看守の口から施設の外へ流れ、同盟の報道に変形して、彼のもとへ戻ってきた。「帝国軍の高級将校が、ワームホールによって戦争が困難になったと認めた」。彼が言ったのは、そんなことではなかった。

 

 弾丸は、発射されれば戻ってこない。言葉も、同じだった。

 

 あの一件以来、ゼーフェルトは、言葉を発することに慎重になっていた。問えば、その問いさえ、いつか何かに変形して独り歩きするかもしれない。だから彼は、問わなかった。看守が告げたことを、黙って受け止めるだけだった。

 

 彼は、窓辺に立ったまま、街の熱狂を見ていた。

 

 帝国の要塞の主砲が、一年、沈黙する。それが何を意味するか、軍人である彼にはすぐに分かった。イゼルローン回廊の帝国側の防衛が、一段、薄くなる。同盟にとっては、戦勝と呼ぶに値する成果だった。

 

 だが、ゼーフェルトの心を占めたのは、戦況の分析ではなかった。

 

 窓の外で熱狂する人々。彼らは、敵だった。帝国にとっては討つべき叛徒だった。少なくとも、彼が帝国で受けてきた教育では、そうだった。

 

 だが、この四か月、彼が収容施設の窓から見てきたのは、叛徒の群れではなかった。朝、仕事に向かう人々。夕方、家族のもとへ帰る人々。子供を連れた親。オーディンの街と何も変わらない、人々の生活だった。

 

 その人々が今、戦勝に沸いている。彼らにとって、トゥールハンマー無力化は、長い戦争の中の明るい報せだった。彼らはその報せを、家族と、隣人と、喜び合っている。

 

 オーディンの街も、アスターテの勝報のときは、こうして沸いていた。

 

 勝った側の街は沸く。負けた側の街には、別の報せが届く。そして、その勝ち負けは入れ替わる。今日、ハイネセンが沸いているように、いつかオーディンが沸く日も来る。あるいは、その逆も。

 

 それを帝国に戻って、同僚に説明できるだろうか、とゼーフェルトは思った。

 

 できないだろう。

 

 「敵の街の人々も、我々と同じだった」。そんな言葉は、祖国の同僚には伝わらない。伝えようとすれば、軟弱な、あるいは敵に毒された言葉として受け取られるだけだ。

 

 それに、伝わらないだけではない。語れば、その言葉もまた、独り歩きを始める。あの独り言が同盟の報道に変形して流れたように、彼の言葉は、彼の意図を離れて、誰かに都合よく読み替えられる。

 

 だから、語るまい、とゼーフェルトは思った。

 

 彼が見たもの——敵の街の、ありふれた生活——は、彼の中にだけ留める。言葉にすれば歪む。ならば、沈黙の中に置いておくしかない。

 

 ゼーフェルトは、窓辺から離れた。

 

 簡素な寝台に腰を下ろすと、窓の外の熱狂は壁に遮られて、もう見えなかった。だが、街のかすかなざわめきは、まだ、どこかから聞こえてくるようだった。

 

 彼は、その音を聞きながら目を閉じた。

 

 戦争は続く。今日の勝報も、いつか別の勝報に上書きされる。その繰り返しの中で、自分が見たものは、誰にも語られないまま、彼一人の沈黙の中に留まり続けるのだろう。

 

 ゼーフェルトは、長い間、そのまま動かなかった。

 

---

 

百四十八

 

宇宙暦七九六年七月十四日 ハイネセン・ヤンの官舎

 

 午後、官舎の呼び鈴が鳴った。

 

 ユリアンが応対に出て、すぐに戻ってきた。

 

 「提督。グリーンヒル中尉が、いらしています」

 

 ヤンは、居間のソファから腰を上げた。玄関に出ると、グリーンヒル中尉が、書類の入った封筒を手に立っていた。

 

 「失礼します、提督。昇進に伴う事務手続きの書類を、お届けに上がりました。お休みのところ、申し訳ありません」

 

 「いや、助かるよ。わざわざ持ってきてくれたのか」

 

 「近くまで来る用事がありましたので」

 

 ヤンは封筒を受け取った。中身は、署名が必要な書類が数枚だった。官舎の区分変更、職務上の権限更新、事務局への返信。どれも、紙の上では重要なものだった。

 

 「上がっていくかい。ちょうど、ユリアンが紅茶を淹れてくれるところだ」

 

 グリーンヒル中尉は、一瞬だけ迷う様子を見せた。

 

 「では、少しだけ」

 

 彼女は居間に通された。ヤンは書類に目を通し、必要な箇所に署名をしていった。グリーンヒル中尉は、その間、居間の本棚に並んだ歴史書の背表紙を眺めていた。

 

 「提督は、本当に、歴史がお好きなんですね」

 

 「ああ。本当は、軍人より、歴史家になりたかったんだ」

 

 ヤンは、署名しながら少し笑った。

 

 「年金生活で、好きなだけ歴史の本を読んで暮らす。それが僕の夢だったんだけどね。どういうわけか、こうなってしまった」

 

 「お似合いだと思います。歴史家も」

 

 グリーンヒル中尉が言った。

 

 ヤンは署名の手を止め、彼女を見た。それから、また笑った。

 

 「君にそう言われると、本当にそうかもしれない、という気がしてくるよ」

 

 ユリアンが、紅茶を運んできた。三人分のカップが、テーブルに並べられた。ユリアンも、少し離れた椅子に腰を下ろした。

 

 しばらく、三人は紅茶を飲みながら、とりとめのない話をした。

 

 ユリアンが最近読んでいる本のこと。官舎の近くにできた店のこと。グリーンヒル中尉が、士官学校時代に苦労した科目のこと。ヤンが、講義を受けるより図書館に逃げていた学生時代の話。

 

 戦いの話も、作戦の話も、出なかった。

 

 窓の外には、官舎街の午後の光があった。街路樹の葉が、風に揺れていた。

 

 艦橋でも、執務室でも、議会でもない。ここは官舎の居間だった。副官が書類を届けに来て、ユリアンが紅茶を淹れ、とりとめのない話をする。それだけの午後だった。

 

 グリーンヒル中尉が、カップを置いた。

 

 「そろそろ、失礼します。長居してしまいました」

 

 「いや。来てくれて、よかったよ。書類も助かった」

 

 ヤンは、署名を終えた書類を封筒に戻し、彼女に渡した。

 

 グリーンヒル中尉はそれを受け取り、姿勢を正した。

 

 「では、提督。また、明後日に」

 

 「ああ。気をつけて」

 

 彼女は玄関へ向かった。ユリアンが見送りに立った。

 

 扉が閉まる音がして、官舎はまた静かになった。

 

 ヤンは、ソファに座ったまま、まだ温かい紅茶のカップを両手で包んでいた。

 

 グリーンヒル中尉が「また、明後日に」と言った。明後日には、また軍務が始まる。だが、今日の午後は、その外にあった。書類を届けに来た副官と、紅茶を飲みながら、歴史の話をした。ただ、それだけの午後だった。

 

 ヤンは、その何でもない時間を、悪くないものだと思った。

 

 ユリアンが、空いたカップを片付けに来た。

 

 「グリーンヒル中尉、お忙しそうでしたね」

 

 「そうだね」

 

 ヤンは、残りの紅茶を飲み干した。

 

 窓の外では、午後の光が、少しずつ傾き始めていた。

 

---

 

百四十九

 

宇宙暦七九六年七月十五日 ハイネセン・ヤンの官舎

 

 翌朝、ヤンは居間の窓辺に立っていた。

 

 手には、冷めかけた紅茶のカップがあった。窓の外には、官舎街の朝の光があった。通りは、まだ静かだった。

 

 ユリアンは台所で、朝食の支度をしていた。包丁の音が、規則正しく聞こえてくる。

 

 ヤンは、その音を聞きながら、昨日の街の光景を思い出していた。「ヤン・ザ・マジシャン」と叫ぶ声。グラスを掲げる人々。肩車された子供の振る旗。あの熱狂は、今朝も、街のどこかで続いているのだろう。

 

 そして、その熱狂の底で、次の戦いの歯車がすでに回り始めている。

 

 市民の望みが、政治家の計算と結びつき、強硬派の声を後押しする。トゥールハンマーが沈黙しているうちに、駐留艦隊を叩く。その短い言葉が、いずれ紙になる。

 

 ヤンは、紅茶を一口飲んだ。冷めていた。

 

 彼は、自分が二つの場所の境界に立っていることを感じていた。一方には、官舎の静けさがある。ユリアンが朝食を作り、紅茶を淹れる、ありふれた生活。もう一方には、街の熱狂がある。「魔術師ヤン」を讃え、次の勝利を望む、市民の声。

 

 その二つの場所の境界に、彼は立っていた。

 

 そして、その境界は長くは保たれない。彼には、それが分かっていた。

 

 彼は、その作戦を断れるだろうか。

 

 中将に昇進し、「魔術師ヤン」と讃えられ、市民の期待を背負った自分が。

 

 ヤンは、その問いの答えを、まだ持っていなかった。

 

 「提督、朝食ができました」

 

 台所から、ユリアンの声がした。

 

 ヤンは、窓の外から目を離した。

 

 「ああ。今、行くよ」

 

 彼は、カップを窓辺に置いた。冷めた紅茶が、わずかに残っていた。

 

 ヤンは台所へ向かった。

 

 窓の外では、ハイネセンの朝が、静かに明けていた。街のどこかでは、人々がまだ「魔術師ヤン」を讃えているのだろう。だが、この官舎では、十四歳の少年が作った朝食が、テーブルの上で湯気を立てていた。

 

 ヤンは、その朝食の席に着いた。

 

 次の戦いが来るまでの、束の間の静けさの中で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

銀河英雄伝説 バーミリオンの反逆者(作者:ICHINOSE)(原作:銀河英雄伝説)

『すべての国家権力は、個人の自由と権利を擁護する一点において、はじめてその存在を認められる』自由惑星同盟最高評議会議長 ヤン・ウェンリー▼ バーミリオン星域会戦における同盟軍の勝利は、銀河の歴史を疑いなく定義づけた。いわゆる『バーミリオンの奇跡』である。▼ 宇宙暦823年。バーラト星系第四惑星ハイネセンからフェザーン星系第二惑星フェザーンに政治的中枢を移した…


総合評価:127/評価:6.67/連載:10話/更新日時:2026年04月28日(火) 12:20 小説情報

IF〜亡命者(作者:名無し名人)(原作:銀河英雄伝説)

もしもあの人物が亡命したら……というIF話です。


総合評価:288/評価:8.4/連載:7話/更新日時:2026年05月27日(水) 20:39 小説情報

その時歴史がまた動いた(作者:dwwyakata@2024)(原作:銀河英雄伝説)

原作においてラインハルトが言っていたことがあります。▼あの運命のとき。アンネローゼが後宮に納められたとき。もう少し年をとっていたら、姉を連れて帝都オーディンを脱出していたと。▼これは歴史が少しずれて、それが実際に行われたifの物語。▼同盟の人間として、ラインハルトが人類を征服する物語。▼銀河英雄伝説二次創作短編小説▼その時歴史がまた動いた(全五話。 序章~第…


総合評価:532/評価:8.59/完結:5話/更新日時:2026年01月20日(火) 19:15 小説情報

その時歴史がまた動かなかった(作者:dwwyakata@2024)(原作:銀河英雄伝説)

原作にて、ヤンが言っていることがあります。自分がいなかった時のifについてです。▼同じようにラインハルトがいないifも想定できるかと思います。▼どうも原作ファンの一部から露骨に侮られているラインハルトですが、もしも運命のいたずらで早々に命を落とした場合はどうなるのか。▼これはそういう悲劇から生じるifの物語です。▼銀河英雄伝説二次創作短編小説▼その時歴史がま…


総合評価:308/評価:8.5/完結:5話/更新日時:2026年01月24日(土) 19:15 小説情報

逃げるは敵へ(作者:ジャーマンポテトin納豆)(原作:銀河英雄伝説)

▼門閥貴族の権力争いは熾烈だ。▼それが帝国で最も由緒ある貴族である家でも逃げる事は出来ない。意思が無くとも相手がいるなら争いは起きる。▼


総合評価:730/評価:7.77/連載:27話/更新日時:2026年06月03日(水) 05:50 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>