次からは日常系に戻るつもりです。
「じゃあ、始めるわよ。負けても文句を受け付けないから」
「当然です。ソニアさんの隣に立つものとして、そんな情けない事はしません」
今回だけは、いつもの小競り合いとはわけが違った。
通算戦績42勝42敗15引き分け。
今日ここで繰り広げられるのは、私たちの意地と執念が詰まった節目となる100戦目だ。それはつまり、忌々しい恋敵との因縁に、一旦とはいえ決着がつくのだ。
「……ふぅ」
深く息を吐き、胸の奥で暴れる心臓の音を無理やりねじ伏せる。
……先にこの泥沼の因縁を抜け出し、ソニアさんの隣に立つのは私だ。絶対に……!
ジリジリとした緊張感を振り払うように、私達は同時に叫んだ。
「行きなさい、カマスジョー!あのふざけた女を泣かせるわよ!」
「お願い、ゲンガー!あの生意気な女を絶望させてあげましょう!」
ダイブボールから勢いよく飛び出るカマスジョーと、私の影からドロリと這い出るゲンガー。
「先手必勝“アクアジェット”!!挨拶代わりにぶち抜きなさい!」
先手を打ったのはルリナの容赦ない強襲だった。指示と同時に、暴力的な速さで進むことによって生まれた水飛沫で、こちらの視界を完全に遮らてしまう。
相変わらずの脳筋戦術。だけど、腐ってもガラルの誇るメジャー級の実力者。その威力と速さはトップクラスだ。
「甘いですよ。 “かげぶんしん”でいなして!」
目にも留まらぬ速度の突進が空気を裂いてゲンガーに迫るが、コート上に数十匹のゲンガーの幻影が一瞬で広がっていく。
私はすかさず、包囲網からの反撃を命じた。
「一斉に“シャドーボール”!!」
「……チッ、小賢しい真似して。カマスジョー、落ち着いて!」
ルリナは”シャドーボール"が迫っても、焦ることなく、目を四方八方に絶え間なく動かして一匹一匹を正確に追い、冷静に本体を見抜こうとしている。
「……そこね、“ドリルライナー”で強行突破!」
カマスジョーが体を激しく回転させ、渦巻くドリルとなって、四方八方から迫るエネルギーを強引に切り裂きながら、一直線にゲンガーへ突撃する。
「──もう一度“シャドーボール”!」
「そんな苦し紛れの技が間に合うわけ──っ、速い……!?」
威力を捨てて発射速度に特化させた"シャドーボール"。
予想外の速度で放たれたエネルギーが、カマスジョーの顔面に直撃し、衝撃で小さくのけぞった。
流石のルリナも、驚きにより一瞬の硬直ができた。その隙を刈り取らせてもらいます。
「追撃で“エナジーボール”です!」
「っっ舐めんじゃないわよ! “アクアジェット”で突っ込みなさい!」
深緑のエネルギー弾がカマスジョーを捉えるのと、激しい水流がゲンガーを吹き飛ばすのは同時だった。
強烈な体当たりを喰らい、ゲンガーが苦しげな声を上げてたたらを踏む。けれど、カマスジョーは弱点の技が正面から炸裂したのだ。カマスジョーの方が明らかにダメージは深い。その証拠に、その鱗は傷がつき、煙が上がっている。
「ふふん、無茶な突撃をするからそうなるんですよ。無様ですね、ルリナ?」
「うるっさいわね、このくらい織り込み済みよ。あんたのゲンガー、接近戦が苦手なのを忘れたわけ?」
ハッと息を呑む。あいつの本当の目的は、最初からこの間合いまで近づくことだったのだ。
「しまっ、!!?」
「わざわざ距離を詰めてくれるなんて優しいのね!!それじゃありがたく、"かみついて"から"つじぎり"!」
カマスジョーの鋭い牙がゲンガーの腕に突き刺さり、剣のような尾で滑り込むようにゲンガーの身体を切り裂いていく。
「っだったら、 “ヘドロウェーブ”!早く退かないと巻き込まれますよ!!」
コート全体をドロドロの毒の波が覆い尽くし、カマスジョーを呑み込むように展開していく。
「ビビらないで!ここで決め切るのよ、耐えて“ドリルライナー”!」
濁流のようなヘドロにより激しいダメージを負いながらも、カマスジョーの攻撃はゲンガーの腹部を深く抉った。
ゲンガーがたまらず短い悲鳴を漏らす。
「負けないで! “あくのはどう”!」
「押し通る!"みずのはどう”!」
放たれた二つの波動は空中で激しく弾け飛び、互いに相殺し合う。
「一気にトドメよ! “たきのぼり”!」
下から突き上げるような激流が、ゲンガーを激しく打ち上げた。
私は落下するゲンガーを見上げながら、距離を取るのは難しいと悟り、腹を括って接近戦に挑むことにした。
「こうなったら真っ向勝負です! “シャドークロー”!」
「上等じゃない! “つじぎり”!」
着地と同時に、爪と尾が激しく火花を散らし、肉眼では追えないほどのスピードで泥沼のインファイトへとなだれ込む。
「”シャドーパンチ"と"かみなりパンチ"!!」
ゲンガーは右手で"シャドーパンチ”、左手で"かみなりパンチ”を連続で放ち、カマスジョーを殴り抜く。
カマスジョーはバチバチと電流を浴びて苦悶の声を漏らす。
「負けるんじゃないわよ、“じごくづき”!」
一瞬の動揺を握りつぶし、尾ひれでゲンガーの横っ面を叩き返した。
「だったらこっちは “ナイトヘッド”! “どくづき”! 全部耐えて殴り返すんですよ!」
「“こおりのきば”! “じごくづき”! 手数で圧倒するのよ!」
鋭い牙と爪が互いの体を容赦なく傷つけ合い、火花と水飛沫が絶え間なく飛び散る。激しいインファイトの最中、私は不敵に笑ってみせた。
「"かみなりパンチ"っ!!」
「”アクア──なっ!?」
ゲンガーは“かみなりパンチ”を振り抜くモーションのまま、口から"エナジーボール”を吐き出した。
超近距離からの不意の一撃。深緑のエネルギーがカマスジョーの胸元で派手に爆発した。
「今度こそ沈んでください! 出力最大“シャドーボール”!」
大きなエネルギーの塊が、ふらつくカマスジョーに向けて放たれる。
「舐めるんじゃないわよ! カマスジョー、気合いで “かみくだいて”!!」
驚くべきことに、カマスジョーはその巨大な顎で、迫る巨大なエネルギー塊を文字通りバキバキと噛み砕き、再び肉薄する。
「同じ轍はふみませんよ、触れさせすらしません。“かみなり”で消し飛ばして!」
高火力の弱点技。これだけの技を目の前にすれば、脳筋ルリナだって流石に退くはずだ。
「チッ……一旦引きなさい!」
予想通り、ルリナの声に従ってカマスジョーが大きく後ろへ跳び、間合いが大きく離れた。
「今度こそ終わりです! “エナジーボール”!」
深緑のエネルギーが渦を巻きながら生成されて鋭く放たれた。自然の力を濃縮した“エナジーボール“が、カマスジョーを正面から打ち据える。
水飛沫が激しく弧を描き、カマスジョーの体が大きくしなった。
「でもっ──まだよ!“サイコファング“!!」
ルリナの叫びと共に、カマスジョーが高速で突進してゲンガーの肩口へ鋭い牙を突き立てる。
「そのまま“冷凍ビーム“!!」
カマスジョーは、間髪入れずに噛み付いた口元から鋭い冷気を放つ。零距離で浴びたゲンガーの身体が白く凍りつき苦悶の声をあげた。
「頑張って耐えてくださいっ!!……“10まんボルト”!!」」
バリバリと弾ける凄まじい雷光がカマスジョーを直撃し、たまらず大きく飛び退く。
ゲンガーの態勢を整えるためにも、私は牽制用の技を放たせる。
「ゲンガー、距離を取りますよ……!“アシッドボム“!」
「カマスジョー、無視して突っ込んで!“アクアブレイク“!」
ルリナは飛んでくる毒液を完全に無視し、一直線に突っ込んできた。
「──っ!?」
"アシッドボム"の膜を強引に貫き、カマスジョーの渾身の体当たりがゲンガーの急所に深く突き刺さる。
ゲンガーの目がぐるぐると回り、その体がゆっくりと地面へ倒れ込んでいく。
「……っ、ただでは、ただでは終わりません……っ! ゲンガー、“みちづれ”です!!」
「なっ、嘘でしょ……!?往生際の悪い……!」
倒れゆくゲンガーの体から、ドロリとした複数の手が伸び、カマスジョーの足元へと絡みついた。その手に引きずり込まれるようにして、カマスジョーもまた、バタリとコートに倒れる。
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「これも作戦です!そっちが予想して対策できない二流なのが悪いんでしょうが!」
「何言ってるのよ、相打ちに持ち込むしか精一杯だったくせに!」
見苦しく言い争いながらも、私たちは同時に次なるボールを構える。
「出番です、バチュル! 」
「盛大に暴れるわよ、ラプラス!」
現れたのはラプラスとバチュル。あまりにも不釣り合いなサイズ差に、もし観客がいたなら騒然となっていたことだろう。
「ほら、あなたの大好きな小細工ですよ!どう対処しますか!? “エレキネット”!」
バチュルの放った電撃の網が上空から降り注ぐ。ラプラスの頭から足元までを糸が絡めとり、そこに電流が駆け巡る。
「そんなもの、力ずくで引き裂きなさい! “ドリルライナー”!」
だが、ラプラスは角で一閃して“エレキネット“を強引に断ち切っていく。とはいえ、すべてを切り離すことは出来ず、その動きは確実に鈍っている。
「何かされる前に“ハイパーボイス”で吹き飛ばしなさい!」
鼓膜を震わせる咆哮が、私の可愛いバチュルの小さな体を容赦なく弾き飛ばす。
「バチュル、受け身最優先で “ギガドレイン”!」
宙を舞うバチュルと視線を合わせると、あの子は即座に緑の光を伸ばしてラプラスの体力を吸い取ってくれた。バチュルの体力も回復し、ラプラスは僅かだがダメージを喰らい素早さも落ちている。そんな不利な状況なのに、ルリナの自信満々な表情が癪に触る。
「遠距離戦なら私のラプラスの独壇場よ。逃げ切れるかしら? “こおりのつぶて”と“げんしのちから”!」
ルリナの指示一つで、無数の氷の礫と巨大な岩石が、バチュルへ一斉に降り注いだ。
「そんな大振りの攻撃、当たるわけがありません!」
バチュルは、その小柄さを活かしてコートを縦横無尽に素早く跳ね回り、追撃を完璧に躱し続ける。
避ける。掠る。避ける。逃げる。掠る。なんとか直撃は避けたが、バチュルはそれなりのダメージをおっている。
「っ!!右と下からきます! “きりさいて”!」
バチュルの死角から飛んでくる対応できない攻撃の際は、私が指示して"きりさく"攻撃で切り裂いて次の動きに移行させた。
迫る岩石の一部を鋭い爪で真っ二つに破壊し、強引に包囲網に穴を開けてみせるバチュルが頼もしい。
「ふーん、やるじゃない。ま、追加するから無駄なんだけど。もう一回"こおりのつぶて”と“げんしのちから”!」
ルリナが声を張るたび、破壊したはずの弾幕が倍以上に増えて上空に補充され、予想以上の数に私の胸に焦りが走るが、同時に、ようやくこの状況を打破することができそうで安堵している。
「きりがないわね。いつまでいたちごっこを続ける気?」
「……いたちごっこ?いいえ、これを待っていたんですよ!」
ルリナに策を気付かれないようにはったりをかましながら、補充のために氷塊が生成したその一瞬の隙、私はバチュルと完璧に意図を共有した。
「 “いとをはく”!」
放たれた糸が “こおりのつぶて”にガッチリと巻き付く。
「……しまっ、これはっ!?」
ルリナの驚き顔が最高に気持ちいい。
迫る氷の推進力を逆に利用し、バチュルは一気にラプラスの懐へと距離を詰めることに成功した。
「そのまま加速して、 “ワイルドボルト”!!」
バチュルが全身に激しい電流を纏い、ラプラスの胸元へ特攻をかける。
「ッッ “リフレクター”!」
バチュルがプラズマを纏ってラプラスに突撃するも、ラプラスは即座にバリアを展開して受け止める。けれど完璧には防ぎきれず、漏れ出た電撃にその巨体を震わせていた。
「っ……調子に乗らないで!ラプラス!“ふぶき“!!」
ラプラスが吠えると、コート全体を真っ白な猛吹雪が襲い、あっという間に冷気の嵐がバチュルを呑み込んだ。氷の結晶がバチュルの体にみるみる絡みついていく。
「踏ん張ってバチュル! 」
バチュルは脚を砂に深く突き立て、牙を剥き出しにしながら、凍てつく寒波に必死で耐え忍ぶ。
だが、耐えきったものの、バチュルの体には氷の結晶がびっしりと絡みつき、その動きを完全に凍りつかせてしまった。
「あらら、凍っちゃった。これで終わりね」
勝ち誇るルリナを見上げ、私はギリッ、と奥歯を噛み締める。
「ハッ、この程度で勝った気ですか!? “ほうでん”して溶かしてください!」
バチュルの体表の毛が一気に逆立つと、バリバリバリ、と爆発的な電気が体内から一気に吹き出し、その衝撃で表面の氷を木っ端微塵に砕け散った。
「なっ、電気の衝撃で氷を割った……!?」
「驚いている暇はありませんよ! “きりさく”! 続けて “エレキボール”!」
氷から解き放たれたバチュルがラプラスの顔面を切り裂き、そのまま"エレキボール"を叩き込む。
バチュルは耐久がそんなに高くない。だからこそ、反撃の隙を与えるわけにはいかない――私は間髪入れずに、次の指示を叫んだ。
「もう少しの辛抱です……!“ねばねばネット”!」
「まだ粘るの?ほんとに往生際の悪い! “みずのはどう”!」
ラプラスの放った"みずのはどう"が、"ねばねばネット"の隙間をすり抜けてバチュルに直撃して体が激しく揺れる。
バチュルの全身から放たれた粘着質な糸がフィールド一面に広がっていく。ラプラスの足元をしっかり縛りつけ、自由をさらに奪うと、バチュルはその隙を逃さずにすばやく間合いを詰める。
ラプラスの動きが目に見えて鈍る。この絶好のチャンスを逃さないとばかりに、バチュルは本能で察知して頭上へと跳び跳ねた。
「これで決めます!“シザークロス“!!」
「動けないならその場で迎撃するまでよ! “うたかたのアリア”!」
バチュルが跳ね上がり、ラプラスの頭上から鋭い斬撃を浴びせる。しかし、強力な反撃として放たれた巨大な水のバルーンがバチュルの周りで爆ぜた。激しい水飛沫でバチュルは致命的なダメージを喰らうが、それでも尚、私を悲しませない為か、意地で耐えてくれている。
「 “10まんボルト”!!」
落下しながら、バチュルは私の声に応えるように最後のエネルギーをすべて電撃に変え、ラプラスへ突き立てた。
凄まじい電流が雷のようにラプラスの巨体を縦に貫く。
バチュルが力尽きて地面に落ちるとほぼ同時に、ラプラスもまた、どさりと音を立ててコートに倒れ伏した。
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コートに張り詰めた緊張の糸が、限界まで引き絞られる。
じりじりと照りつける太陽の下、私の額を伝った一滴の汗が、乾いた地面に落ちて染みを作ったその瞬間、私たちは同時に最後のボールを投げ放った。
「この子であんたのプライドごと粉砕してあげる! カジリガメ!!」
「ここまで来たら、勝つしかないんです!! ヘルガー!!」
巨躯を誇るカジリガメが地響きを立てて現れ、私の前には漆黒のヘルガーが鋭い牙を剥いて着地する。
2度の相打ち。一歩も引くわけにはいかない最終局面。私はキーストーンに指を添え、ルリナを真っ向から見据えて叫んだ。
「苦しむ暇なく終わらせます! 無念を糧に燃え上がれ!!──メガシンカ!!」
ヘルガーの角に付けていたメガストーンが光り輝き、眩い進化の光がヘルガーを包み込む。その肉体をより屈強に、より禍々しく、目の前の敵を倒す為の圧倒的な存在と変貌させていく。
「フィールド全体を海に変えましょう!!──キョダイマックス!!!」
対するルリナも吠え、カジリガメを巨大なボールへと戻して天高く突き上げる。引き裂かれた雲の隙間から現れたのは、見上げるほどの巨体を誇る、キョダイマックスしたカジリガメだ。
「全部!押し流しなさい! “ダイストリーム”!」
ルリナの号令とともに、天から青い奔流を収束した水柱が、メガヘルガーを押し潰さんと落ちてくる。
「ヘルガー!距離を詰めながら”マッドショット"!」
メガヘルガーは迫る激流の隙間を果敢に縫いながら、 “マッドショット” を放って目眩ましを掛け、一気に懐へと飛び込んだ。一瞬、水の奔流が掠ったが、メガヘルガーはものともせずに疾走し続ける。
「そのまま喰らいついて! “かみなりのキバ”!」
バチバチと激しい電撃を纏った牙が、カジリガメの強固な皮膚に深く突き刺さる。
「甘い! 叩き落としなさい!」
だが、ルリナは眉一つ動かさない。カジリガメが巨体を震わせ、丸太のような尾を横に一閃した。
噛み付いたままのメガヘルガーが強烈な横薙ぎに遭い、強引に引き剥がされる。凄まじい質量が巻き起こした風圧は想像を絶し、メガヘルガーは受け身すら取れずに地面を激しく転がった。
「隙を与えず“ダイロック”!」
「 “フレアドライブ”で突っ切って!」
キョダイマックスしたカジリガメを凌ぐ巨大な岩壁。それにより巻き上がった大粒の砂嵐を物ともせずに、メガヘルガーは自らを地獄の業火へと変えて一直線に突っ込んでいく。
轟音を立てて、落下のエネルギーを孕んだ岩壁と、全てを焼き尽くさんばかりのエネルギーを纏うヘルガーが正面から衝突した。
空間が軋むような拮抗。しかし、それもほんの一瞬だった。
メガヘルガーの短い呻き声が聞こえたかと思うと、その身を包む炎がさらに激しく、狂おしいほどに燃え上がる。
私の願いに応えるように、メガヘルガーは凄まじい勢いで目の前の岩壁を強引に突き破った。
「くっ……! 防御態勢!」
ルリナの焦った声。カジリガメが咄嗟に頑強な甲羅を構えるが、炎を纏った決死の体当たりがその巨体を力ずくで後退させる。ズズズズズ、と巨躯が地面を削る音が響いた。
キョダイマックスのターンもあと一回と迫り、カジリガメ自身も、弱点技とタイプ一致の高火力技を喰らい、疲れが見え隠れしている。
同時に、直撃していないとはいえ、弱点の技に当たり、ダイマックス技と正面からぶつかって反動ダメージのあるメガヘルガーの体からも、激しい熱気が立ち上っている。
双方ともに体力の限界なのは明白だった。
……次が、最後。
言葉はなかった。ただ、互いの視線が火花を散らすように交錯した瞬間、私とルリナの間に、確固たる覚悟が共有された。
「これで終わりよ! “キョダイガンジン”!!」
「出力最大……! “オーバーヒート”!!」
カジリガメの口から全てを呑み込むよう水圧の光線が放たれ、メガヘルガーの口からは全てを溶かすほどの極太の灼熱が放たれる。
二つの破壊的なエネルギーがコートの中央で激突した。
────ドゴォォォォンッ!!!!
鼓膜を破らんばかりの轟音。激突した水と炎、そして岩が砕け散った衝撃波があたり一帯を包み込み、猛烈な白い蒸気がコート全体を覆い尽くしていく。
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向こう側のコートは白い霧により何も見えない。
「勝ったのは……私のはずです」
頭の中で自分の勝利を必死に思い描き、強く願う。けれど、その裏で、心臓を冷たく掴まれるような一抹の不安が、自身の眼で確認できるまではどうしても拭えなかった。
やがて、ゆっくりと、風が蒸気を押し流していく。
視界が晴れたコートの中央で、私たちの目に飛び込んできたのは──。
メガシンカが解け、元の姿に戻ったヘルガー。
そして、キョダイマックスから戻ったカジリガメ。
二匹は揃って地面に倒れ込み、まるで泥のようにぐっすりと眠りこけていた。
「……ま、また……引き分け……?」
ルリナが呆然とした声をあげる。通算101戦目にして、16回目の引き分け……!?
「はぁ!? 本当に、どこまで私に嫌がらせすれば気が済むわけ!?」
ルリナが信じられないといった様子で、両手で頭を抱えて叫ぶ。
「それはこっちの台詞! 往生際が悪いのはそっちでしょうが!」
お互いにハァハァと荒い息を吐きながら、最後までいつもの嫌味を言い合う。けれど、不思議と胸の奥のモヤモヤは消え去っていた。
私たちは、疲れ切った様子で寄り添うように眠っているヘルガーとカジリガメの傍らへと歩み寄る。
「……よく頑張りましたね、ヘルガー」
そっとその頭を撫でてやると、ヘルガーは気持ちよさそうに鼻を鳴らした。隣では、ルリナも愛おしそうにカジリガメの甲羅を撫でている。
熱が残るコートの上で、私はそのまま、ルリナと並んでガラルの広い空を仰ぎ見た。眩しい青空が、どこまでも広がっている。
今日はお預けにしてあげます。
だけど、次こそは、絶対に私が勝ってソニアさんの隣を勝ち取ってみせますから。だから、あと少しだけ待っていてください、ソニアさん。